NIIGATA
新潟
※こちらの記事は、Aillオンラインサロン主催の勉強会「商店街イベントに10万人集客した道の駅駅長に聞く 道の駅と地域デザイン」をレポートにしています。
道の駅の駅長は、経営、観光、農業・産業振興、防災、子育て支援、移住促進など広い分野での知見が求められ、公共施設という側面から行政や政治、大学などとの関わりも深いお仕事。
そんな道の駅の駅長として現場を担当し、『全国「道の駅」女性駅長会』の会長でもあるゲストをお招きした今回のオンライン勉強会。
前編では、ゲストが専業主婦から道の駅の専門家になるまでのお話や、イベントで10万人の集客に至った背景などについてお届けしました。
レポート後編では、成功の裏側にある苦労やこれからのまちづくりについて考えていることなどに迫ります。
石田氏(MC / 以下敬称略):マルシェイベントで10万人の集客をしたお話について伺いましたが、マルシェをやってきたなかで実際に苦労されたことはありますか?
加藤氏(以下敬称略):そうですね、市長とはかなり喧嘩しました…(笑)行政が思う方向性と実行委員会の私たちとの間で意見がぶつかり合うことがとても多くて。「実行委員会はボランティアでやっているのになぜ指導指示されなきゃいけないのか」と思うこともありました。
加藤:また、マルシェの日は商店街を通行止めにしないといけないのですが、そこに住んでいる方のご理解をいただくまで何度もお願いをしに行きました。2〜3年経ってようやく商店街の皆さんも自分の家の前に店舗を出してくれるようになりました。1回2回では乗り越えられなかったですね。
地元の人たちに「将来のこのまちをつくっていく人たちを、マルシェという機能を使ってみんなで一緒に育てましょうよ」というようなアナウンスを色々なところでしてきました。とにかく言い続けて、それが届いてきた実感がありますね。
石田:イベントは1日限定ですが、本当に大事なのはイベント以外の日常の生活であると思うので、ちゃんとそこにつながるようにという考え方はすごく大事ですよね。
地域の方からのプレッシャーはなかったですか?
加藤:それが意外となくて。地域の大御所の方々も「もう若い人たちにやってもらおうよ」という感じである程度任せてくれて、「自分が出ていかなきゃダメだな」という時はちゃんと出てきて意見をくださって。本当に素晴らしい方々ですしプレッシャーはあまりなかったように思います。
もしかするとプレッシャーがあっても気づいていなかったのかもしれませんが(笑)。
勉強会参加者:何万人という規模だと市外からもお客さんがいらっしゃるような印象がありますが、最初地元の小さなコミュニティでやったことをどのように発信して規模を広げたのか気になります。
加藤:広報については、地域の広報誌に必ずチラシを入れさせてもらい全戸配布をしました。大きいマルシェのときは小学校などにも配布のお願いに行きました。
実は子どもたちの口コミが多く、「誰々とマルシェで会ったよ」とか「誰々とマルシェに一緒に行こう」とか話題に出てくるようなんです。市外から赴任してきた小学校の先生から、月曜日に学校で「土日は何していましたか?」と聞くとほとんどの子が「三条マルシェに行った」というので、「三条マルシェってなんですか?」と事務局に電話がきたこともありました。「昨日テレビ見たみた?」という会話と同じように、子どもたちの間で三条マルシェが流行ってくれました。
「三条マルシェに出店すると売れる」という口コミも出店者に広がっていました。一時期、地元の企業より市外の企業の出店希望が多くなってしまったことがあり、実行委員でレギュレーションを決め「2割は市外、8割は市内」と決めました。
当時はSNSもほとんどなかったので、拡散するためには町中にポスターを貼る感じでした。出店する側もお客さん側も、相互に口コミで広まったことがとても大きかったですね。
石田:子どもたちからの口コミと、物が売れたということがポイントだったんですね。子どもたちがマルシェに来たくなるような何かがあったのでしょうか?
加藤:マルシェにはステージイベントも併設していて、地元の保育園児やダンスチームなどが発表の場として使ってくれていたので、そのお友達が観に来るということもありました。
実行員としても「道路を堂々と歩けること、実は楽しいよね」と伝えたくて、チョークで道路に落書きができる仕掛けやシャボン玉ゾーンをつくるということもしていました。
「子どもマルシェ」という、子どもたちが出店するイベントも一度実施したことがあります。「300円までの値段しかつけてはいけません」というルールにし、「きっとおもちゃや古着が多いのかな」なんて思っていたのですが、自分でつくったビースアクセサリーを販売していたり、占いをやったり、似顔絵を描きますという子もいたりして。子どもたちのクリエイティブが発揮されて盛り上がっていたのでとても面白かったですね。
石田:それこそ出店することでお金の勉強にもなりますよね。
「マルシェでは実際にはどんなものが売れていたのか」という質問もありますがいかがですか?
加藤:食べ物の販売が比較的多く、食べ歩き状態になっています。新潟県の燕三条は老舗の料亭さんが多いのですが、マルシェ限定で特別に1500円のお弁当を出してくださって。イベントが10時オープンで11時にはもう完売になっていました。他にも、地元のとんかつ屋さんが特別に500円でお弁当セットを販売していると、「10個ください」とたくさん買っていかれる方も多かったですね。
すごく良いなと思うのは、そのとんかつ屋さんが三条マルシェにそういった形で出店することによって、例えば「今度文化祭のバザーで売りたいんだけど仕入れられないか」みたいな話ができたりと、いつもと違うビジネスにつながっていったことです。
マルシェにカフェっぽく出店し、それがうまくいって実際にカフェをオープンさせた方もいて。通常とは違う新たな業態や新しいビジネスが生まれたり、新しいことにチャレンジしたりと良い効果だったなと感じています。
石田:道の駅の運営は民間企業とも行政ともまた違う部分があると思いますが、半公半民だからこそ良かったことや苦労されたことを教えてください。
加藤:苦労したことはお金の流れやルールが全く違うことですね。例えば公共施設で営利を目的とした活動をしてはいけないというルールがあり、芝生の公園でヨガ教室をやりたいと申し出たときも行政に断られてしまったことがありました。
「条例で決まってないからできません」ということもあります。道の駅は、条例上は9時から18時の運営と決まっているのですが、例えば夏休みに21時まで営業してビアガーデンのようなことをしたいとなったときに、市長宛に文書を提出しないといけなかったりします。行政としてのルールがなかなか民間だと理解しにくい部分もあり、間に立ってコミュニケーションの通訳を担うことが多いです。
反面、民間の力だけではできないことを、行政の仕組みを使ってできることは良いことだと思います。予算としてきちんと通れば、行政の予算を使わせてもらえます。いま私が関わっている道の駅 国上(くがみ)は産直にも力を入れているのですが、市の農政課と協力して「地域の野菜をもっとPRしていこう」と、一緒に加工品をつくって道の駅で販売するとい
うことを実現しています。民間だけだとなかなか難しい取り組みも、行政の人と組んでやれるっていうことはすごく大きなメリットだと思います。
あとは指定管理費用が補填される形が多いので、道の駅の運営費用をまちが補助をしてくれる部分もメリットではありますよね。
三条マルシェを一生懸命やってきたこともあり、行政についてはかなり詳しくなることができたと思います。今も役に立っていて嬉しいですね。
石田:参加者の方からご質問があります。加藤さんにとってどのようなことがまちづくりだと考えますか?
加藤:地域の課題の1つは「プレイヤーがいないこと」なんじゃないかと思っているんです。私はいま道の駅の駅長になっていますが、最初は駅長ではなくもう少しコンサル的に入っていました。リニューアルの応援をするために入っていたのですが、結局誰も駅長になりたがらなかったんですよね。駅長のような「メインプレイヤーになってもいいよ」という方があまりいなかったんです。
これからは、リーダーシップを取れる人をいかに育てていけるかが重要だと思っています。リーダーシップと言っても、グイグイ引っ張っていくことだけがリーダーじゃないですし、学校の学級委員も定期的に変わっていくみたいに、ポジションにつく人を増やしていきたい。リーダーシップを取る人がもっと増えていく、そのような環境にしていくことが地域の大きなテーマでもあると私は思っています。
道の駅というものを女性や子どもなど多くの人の視点を入れて、多様にやっていこうという想いではじめた『全国「道の駅」女性駅長会』を立ち上げてから、女性の駅長もすごく増えたんです。女性は割とおしゃべり好きな方が多かったり、横の連携も取りたがる傾向があったりと新しい雰囲気を感じていますし、女性駅長が増えて風通しが良くなったことも実感として感じています。
まちづくりに対しての答えにはなっていないと思いますが、地域でもっと老若男女関係なく、多様なリーダーシップを取る方が増えたら良いなと思い活動しています。
石田:今の話をサッカーで例えると、監督やコーチや観客はいるけれど、プレイヤー特にキャプテンがいないという話なんですかね。
今リーダーをやってうまくいっている人たちの特徴や共通点みたいなものはありますか?
加藤:女性駅長会のメンバーで言うと、やっぱり純粋に「地域を良くしよう」と思っている方が多いと感じます。「自分が上に立ちたい」や「出世したい」というような動機の方はいなくて、「私はここで地域が良くなることをやっていきたいんです」と言う方が多いです。
人前に出ることに対してあまり抵抗がない方も多い気がします。道の駅の駅長は、どうしても地元メディアへの露出が多くなりますからね。
勉強会参加者:これから私も道の駅をつくりたいと思っています。道の駅をリニューアルされた際に、うまくいった理由やポイントがあれば教えていただきたいです。
加藤:道の駅それぞれにミッションがあり一律にこれがポイントとは言えないのですが、お客さんや地域の人に対してどんなメッセージを伝えていくかという、ベースとなるコンセプトづくりは重要なポイントだと思います。そのコンセプトがダイレクトに伝わる店舗づくりも大切になると思います。
今いる「道の駅 国上」は「自然と遊ぶ道の駅」というテーマを軸に運営を行っています。手ぶらでバーベキューをしたりキャンプサイトをつくったりもしました。決して流行りだからやっているわけではなく、バーベキューのグッズやテントなど、使う道具は全て燕市産で揃えて、お客さんに体験してもらえるようにしています。
道の駅を立ち上げるときは、「いかに儲かるか」や「いかにお客さんをたくさん呼べるか」などが先にきてしまうこともあると思いますが、そうではなく「何のためにつくりたいのか」や「何をメッセージとして伝えていきたいのか」という設計はポイントだと思います。
石田:今日は「商店街イベントに10万人集客した道の駅駅長に聞く 道の駅と地域デザイン」として、ざっくばらんに様々なお話を聞かせていただきました。加藤さん、ありがとうございました!
加藤:ありがとうございました!
Editor's Note
明るくポジティブに赤裸々に語るゲストの加藤さん。「昔からあるものを変えていく」ことは非常に大変なことだと想像しますが、様々な壁を乗り越えて「幸せな道の駅」そして「幸せな地域」づくりへと繋がっているのだと感じます。道の駅の運営についても知ることができ、これからはドライブする時によく巡る道の駅をよく観察してみたいと思いました!
SAKI SHIMOHIRA
下平 咲貴