YAMAGUCHI
山口
※本レポートは株式会社WHEREが主催するトークセッション「地域経済サミットSHARE by WHERE for Student in 長門 – 次世代教育と産業創出 -」のSession1「【起業家精神】挑戦が次々に生まれるまちづくりとは?」を記事にしています。
まちづくりには人の協力が欠かせませんが、一緒に同じ方向を見ていけるような関係性をつくることは実はなかなか難しいのかもしれません。
コミュニティをどうつくるか、コミュニティ内での関係性のつくり方をどうするかは、まちづくりの成否に大いに関わってきます。
前編では、まちづくりにはしなやかさやなめらかさが必要なこと、個人の課題を許容して実現の可能性を高めることをお話いただきました。
後編では、まちづくりの価値観を共有するために必要な、人と人との関係性を保つためのノウハウを語っていただきます。
平林(モデレーター):皆さんいろいろな挑戦をしてきたなかで、失敗を許容できる・できないの線引きはどう決めていますか。高校生に伝えるときに、「失敗していいけどここだけは外しちゃいけない」というポイントはありますか。今日ご参加の教員の方、自治体の方、高校生自身に伝わると参考になりますのでお聞かせください。
田口氏(以下、敬称略):プロジェクトのメンバーや関係者には、事業の青写真をあらかじめ話します。人は想定範囲内だと思えば許容できますが、想定外だと怒りが先に出ます。リスクが予想できるなら先に関係者に伝えておけば対処法もわかる。常に微修正しています。
佐々木氏(以下、敬称略):期待値の調整を前提に、そのプロセスをやりきること。失敗した時は任せた側・任された側双方に責任がありますから。そこを胸を張って堂々と「やりました」と言えるならそれでいいと思います。 高校生であればそこまで責任を持たされることはないので、 法に触れなければ何をしてもいいです。
平林:そこは大人たちが見守りますよね?
佐々木:見守りはしますが、決めてはいけないと思うんです。
教育と探求社さんが運営している「クエストカップ」の審査員をやっていて思うことは、先生が指導した学校と、生徒に主体性を持たせてやった学校とでは発表の仕方の違いが如実に現れます。生徒に主体性があった方が面白いので、最終的に表彰される確率が高い。
関根:それには共感します。銭湯にはペルソナがなく、ターゲットはこの世の全員なのが特徴なので、アルバイトさんには「最高の自己満でやってくれ」と伝えています。誰かの笑顔を思い浮かべてつくろうと思うとわからなくなるから、自分が一番笑顔になれる企画をつくって欲しい。
こんなことを言っていますが、大学までの自分は親に喜んでもらうことが全ての意志決定軸でした。高校受験の時に勉強を頑張りたくて都立高校を志望したら、母に「都立に行きたいということは、スカートを短くしたいということだからだめ」と言われて。
平林:「都立高校=スカートが短い」ですか!すごい方程式が生まれました(笑)
関根:「都立日比谷高校以外許さない」と言われ、悔しくて毎日18時間勉強しました。
当時は自分で都立日比谷高校を選んだと思っていたんです。でも両親が選択肢を提示して自分はイエスかノーを答えていただけなのが、社会に出てわかりました。
他人軸で選択していると社会に出てからとてもしんどいのと、自分で何かを成そうとした時に責任を取るのがとても怖くなる。誰かのためにした仕事は自分の意思がないから言い訳できるけど、自分が発端のものは絶対にそういうことにはならない。私はその本人が本気だったら全部許容するし、そうではなかったら「スタンスが違うよ」と言います。
佐々木:「誰かのため」とは人に依存してる状態ですね。 ちゃんと自分でボールを持つ経験を積めていないと、社会人になった途端に舵取りができなくなる。主体的に自分で決めて、成功しても失敗しても良いと思える状態に自分を位置づけることです。
田口:1人1人が自分の思ったことを遠慮せずにやりきることでしょう。自分のなかでアウトプットの達成感がないメンバーが増えていくと、チーム全体の主体性が下がります。主体的に参加するには、その人が何をしたいかを正確に言わせて「やってごらん」と言うしかない。「自分が思い描いたものは実現していく」という自信を積み重ねていきたいですね。
田口:「なぜ山口にコミットするんですか?」と訊かれますが、たまたま山口と縁があって、山口の教育の未来を考えて自主的にやってみたら楽しかったから。山口県内の先生方に興味を持っていただけるような実績を出すことを考えています。要するにライスワークではなくライフワーク、好きでやっていることなんです。
平林:佐々木さんはどうやって地域のわくわくをつくっていますか。
佐々木:各事業・拠点ごとの構造って基本は武器だと思っていて、その武器をどう使うかは個人の役割です。構造や仕組みのなかで生きることは窮屈なこともありますが、それを活かしながらどのようにしてメンバーたち自身の創意工夫を表現していくのかがポイントです。
田口:マネジメントをする若いメンバーがリーダーシップを取るにあたって、どういう要素が求められますか。
佐々木:「傾聴・共感・提案」でしょうか。 個人の力で生き抜く不確実な時代だからメンバーが不安になる瞬間が多いので、直接のリーダーとメンバーの縦のコミュニケーションと、第3者とメンバーとのコミュニケーションという2通りの構造をつくっています。社員が全国に散らばっていて、1地域5~6人です。経験値が浅めな30歳前後の人が多いので、縦と横だけではなくて、斜めの関係性からのフォロー体制は重要です。
関根:「人と人との関係性が希薄化している」と言われますが、今はSNSがあるのでむしろ人と人とのつながりは切りたくても切れなくなっています。その代わりに消えているのがまちと人とのつながりです。
関根:私は池袋で育ちましたが、池袋というまちに思い入れが全くなかった。でも高円寺に住んでからは、高円寺のまちは自分事になりました。自分の日常の延長線上に銭湯があり、それが社会でありまちであるから「自分の生活を良くするためにはどうしたらいいか」という問いに常に変わります。
銭湯の役割は「まちと人とのつながりを取り戻すこと」なので、まちのスポットとして銭湯をつくることを通じて、自然とまちづくりを自分のこととして捉えられるようになりました。
会場の高校生からの質問:関根さんは今回長門市の銭湯にも入られたそうで、長門市の銭湯の魅力についてお聞きしたいです。
関根:昨日長門市の 「長門湯本温泉 恩湯(おんとう)」にお邪魔しました。私の人生史上、最高の湯質で感動しました。
東京のスーパー銭湯は、たぶん恩湯のような湯質を再現しようとしています。恩湯のお湯は38℃で軽くて柔らかく、肌を包んで浸透してくる。38℃だと東京では炭酸泉といって人工的なぬるいお湯で、少し冷たく感じるんです。でも長門のお湯は温かいけどのぼせません。そんなお湯がこの世に存在するとは思っていませんでした。
平林:田口さんも温泉によく入っていますけど、どうですか?
田口:温泉に入る楽しみは2つあります。1つはその空間に時間をかけて行くこと。もう1つはその地域の人と話してつながれること。そんな価値のある時間・空間って東京ではなかなかないです。
サウナも入りますが、温泉に比べるとコミュニティの幅が狭くて、コミュニティ内がフラットじゃないんです。今の時代、銭湯という場所は温泉だけではなく地域コミュニティの場所として活性化に役立つように思います。
平林:そろそろお時間が近づきましたので、一言ずついただきたいと思います。
今回は「まちでの挑戦がいかに生まれてくるか」がテーマでした。まちから挑戦を生み出していけるような環境つくりについて、それぞれのお考えを聞いて終わりにしたいと思います。
佐々木:今日という日はたった1日しかない人生の一部です。自分らしい人生を送りたいということは誰もが願っていることなので、何かに気づいたり考えたりしながら、何でもいいからはじめることが大切だと思います。
関根:小杉湯の3代目代表の平松佑介は、相手が誰であっても 、その人をただ1の人間として柔らかくお湯のように迎え入れる経営者で、そこをすごく尊敬しています。
私がスタートアップにいた時は「この人から何かを引き出さなければいけない」や「ビジネスチャンスを産まなければいけない」というような下心がありました。そしてその精神からは何も生まれない。狙いを持って人に接するよりも、ただ目の前の人と真摯に対話をすることの方が巡り巡って自分の生活が豊かになっていくことを小杉湯に教えてもらいました。
田口:「起業家精神」とは小さなことの積み重ねでしかないです。半径数メートルの人たちを良くするにはどうしたらいいかだけをやりきってコミットすることを続けていけば仲間が増えます。
高校生だったら、一歩踏み出して目の前の小さなことをする、意見を言うことの連続です。大人は高校生の声を拾い、機会の提供と後方支援をする。それが当たり前のように継承される文化のまちになってほしいと思っています。
平林:高校生の皆さんも、今はお金を使わなくてもできることがたくさんあるので、ぜひ自分がやりたいことを実現していただきたいと思います。その輪が広がって面白い文化になることを願っています。
LOCAL LETTERのプロジェクトの1つである、「域経済サミットSHARE by WHERE」。「地域経済をともに創る」を合言葉に、全国の産学官の実践者たちが一堂に会して繋がり、学び合い、共創するサミットをあなたも覗いてみませんか。
Editor's Note
まちづくりに欠かせない個人のアイデアを、組織の中でどう生かすか。組織と個人の間のバランスを取りながらプロジェクトを成功させるためには、自分のこととして捉えて足元から固めるしかない。単純だけど見逃しがちなことを語っていただきました。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子