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※本レポートは、2024年7月に東海旅客鉄道株式会社と株式会社WHERE主催で開催されたトークセッション「地域経済サミット SHERE by WHERE in 東海」のSession4「観光xまちづくり|交わることで生まれるインパクト」を記事にしています。
「観光」と「まちづくり」。
この2つは、今や地域活性化において欠かせないキーワードとなっています。
しかし、各自治体が力を入れる関係人口事業や移住促進に貢献するためには、「観光」と「まちづくり」が個々に取り組むだけでは限界があります。一見異なるように思える2つの分野をどのように連携させれば、地域に大きなインパクトを与えることができるのでしょうか。
本記事では、東海の観光とまちづくりの最前線で活躍する地域プレーヤーの生の声をお届けします。
高木氏(モデレーター / 以下、敬称略):このセッションでは、観光とまちづくりの関係性、そしてこれからの地域づくりについて議論していきたいと思います。まずは前半戦、登壇者の方々がどんな取り組みをされているのか、自己紹介をお聞きした上で、ディスカッションに入っていきたいと思います。では、藤井さんからよろしくお願いします。
藤井氏(以下、敬称略):私は2013年に初めて美濃加茂市長になりました。市長職を通じて、行政のいいところも難しいところもいろいろと見てきました。特に、規制やルール、人的コミュニケーションといった壁を打開していくことが重要だと感じています。新しい景色をみんなで共有していくことが大切だと考え、日々取り組んでいます。
藤井:私の原点は教育にあります。26歳で市議会議員になる前は、学習塾で子どもたちの教育に携わっていました。子どもたちに世界の実情や人生のあり方を伝えたいと思ったからです。
そして、より多くの人たちに向かい合いたいと思い、政治の道を選びました。政治家としても、人が生きる上でどういうものを見て学び、大人たちがどういう政策を示して次の世代に物事を伝えていくかを大事にしたいと思っています。
岡田氏(以下敬称略):私は公民連携特化型のデベロッパーとして、全国津々浦々で官民連携して古い町並みの古民家を活用する事業を展開しています。現在、全国42市町村で事業を行っており、東海地域では美濃市や犬山市で古民家を活用したホテルやオフィスの開発を手掛けています。また、名古屋市の有松地区では「まちを守る」という目的の中で、民間の立場からできることを模索しています。
岡田:大学時代はまちづくりのゼミで学び、卒業後、株式会社星野リゾートに入社しました。そこで、北海道のホテルの再生からファンドに売却するところまでを担当した後、まちづくりに戻ってきました。
古民家の活用法はホテルだけではありませんが、遠くからお客様を呼ぶことができ、周辺の産業への波及効果も出せるといったホテルのメリットを活かすため、ホテルから開発することをスタンダードにしています。
白山氏(以下敬称略):私は「にっぽんど真ん中祭り(以下、どまつり)」の事務局を務めています。この祭りは今年で26年目を迎え、8月23日から25日の3日間、名古屋市内16会場で開催されます。
元々は、1人の大学生の「地元に誰もが参加できるお祭りを作りたい」という想いから始まった祭りで、第1回は26チーム約1,500人の参加でした。今年は国内外合わせて202チーム約2万人が踊りで参加する大規模なイベントに成長しました。
白山:私たちの祭りの特徴は、ご当地の文化を踊りで表現することです。それぞれの地域の文化や歴史、新しいテイストなども加えて、チームが創意工夫して踊りと衣装、大道具を作り上げます。単なる観光イベントではなく、地域の魅力を発信し、交流を生み出す場となっています。
高木:私も少しだけ自己紹介をしようと思います。私は岐阜大学の社会システム経営学環という、他の既存学部と連携して学士号を出せる新しいタイプの学科で教鞭を執っています。この学科は、大学の教育を学内だけでなく、できるだけ地域と接しながら学生の教育の場を作るという特徴があります。
まちづくりの中でも、安心安全、防災の研究に力を入れ、20年ほど研究と実践を重ねてきました。現在は、新しい大学の設立にも携わっております。飛騨高山をキャンパスとして、全国各地で地域課題を解決しながら学生が学んでいくという新しい形の大学を目指しています。2026年4月の開学を予定しており、私は副学長として就任する予定です。
高木:では、ディスカッションに入りたいと思います。先ほど司会の方から 「各分野が縦割りで動くのではなく、どのように分野を超え連携していくか」という話もありましたが、美濃加茂市の観光についてはどうですか。
藤井:美濃加茂では昔から木曽川で川下りをやっていて、もともとは観光地でした。ただ、今の観光客数を聞かれると少し厳しい状況です。
岐阜には下呂と高山という巨大観光地があり、名古屋からそこへ向かう大量の観光客がいますが、目の前を通りすぎていきます。その方々に美濃加茂市にも足を止めていただきたいのですが、なかなか手が出せていません。チャンスを見出だそうと頑張っているところです。
名古屋では観光についてあまり聞かないのですが、その辺はどうですか。
白山:私は学生時代から、名古屋で各地域の文化を踊りで表現する「にっぽんど真ん中祭り(以下、どまつり)」に携わっています。
開催5年目のことですが、今でも覚えている、ある言葉があります。それは「名古屋に観光はいらない。産業で成り立っているのだから、祭りは名古屋まつりだけで十分。新しいものはいらない」と市の職員から言われたことでした。
「どまつり」が始まった当時は、東海3県の全市町村をキャラバン隊で回って、参加を呼びかけていました。それで一気に参加チームと観客が増えたので会場に桟敷席を設置したんですが、その使用料について折り合いがつかず、行政と何度も話し合いをしましたね。
今は市の皆さんともうまくやっていますが、観光を創るに当たり、民間と行政がそれぞれの役割を担う上で、つまずいた経験でした。
高木:岡田さんがやっていることは、まちづくりと観光をくっつけているような事業形態ですよね。この二つの関係性をどのように感じておられますか。
岡田:観光が二次産業や三次産業と違うところは、色々なものとミックスできるところです。
例えば、私が関わっている名古屋市の有松町という地域では絞り染めが有名です。これは、観光と相性がいいので、コンテンツ化した「有松絞りまつり」が行われて、観光からまちにお金が入り、二次産業の「絞り染め」を元気にできる。
岡田:先ほどの縦割りの話ですが、市役所の課と課の間には僕ら民間の想像以上に高い山があるらしいんですよね。
自分の事業では複数の課の方に関わってもらうので、そこから課を超えたコミュニケーションが生まれるといいなと思っています。
藤井:行政から協力を得るのは難しくないと思うんですよね。「こうすればこういう効果が出ますよ」ということをオープンに伝えてゴールを見せてもらえると職員も動きやすいです。
地方自治体は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」という計画を通して地方創生に取り組んでいます。ここに「観光」を載せている自治体には、企業の方から提案していくと、一緒にやろうという話になりやすいと思います。
高木:白山さん、先ほど、「どまつり」は東海地方をキャラバンで回って参加チームを集めたとおっしゃっていましたが、コロナ禍を経てどのように変化してきていますか。
白山:2020年から3年ほどは、オンラインで地域の踊りの動画を募集して、世界中に発信する方法を取っていました。
そして今は、踊りを通して一つのものに共感した人たちが実際に名古屋を訪れて、人と会って地域の文化を感じるという次のフェーズに入ったと思っています。実物を体験することで心が揺さぶられ、また体験したい、家族や友人に体験してほしい、というところにつながる体験型観光になっているのではないかと思います。
高木:まちづくりと関わる新たな面もありそうですね。
白山:そうですね。「どまつり」に来ていただいた方には、ただ踊って終わりではなく、「地域や地域の人に歓迎されている」という実感を持ってもらうことをとても大事にしています。
なので、市内にある全部で16の会場では、運営に各会場の地域の商店街や町内会の方々を巻き込んでいます。地元からのおもてなしを受けることで、「また来よう」と思ってもらいたいですね。
藤井:「どまつり」は私も何回か見に行きました。あれだけの人が動くんだと感動しました。その人の流れを、普段の観光や地域経済につなげていければいいですよね。
白山:実は「地域活性化賞」というものを設けています。例えば、先ほどの話にも出た有松のチームは、地域の小・中学校で絞り染め体験の授業を行っています。また、自治体から、PRのための観光大使に任命されたチームもありました。
それぞれのチームの地域への貢献は、長く「どまつり」を開催し続けられるかに密接に関わっていますし、まちづくりにつながっていくものもあるのではないかと思います。
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Editor's Note
行政・民間といった立場や、観光・まちづくりの分野を超えて連携することの重要性を感じました。その意味で、時代を先駆けている「SHERE by WHERE」は全国各地で開催される価値のあるものだと感じました。
Hiroka Komatsubara
小松原 啓加