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※本レポートは、株式会社WHEREが主催するトークセッション『地域経済サミットSHARE by WHERE in 東海 – 結ぶ東海 -』のSession1「観光x自然資本|消費する観光から再生する観光づくりとは?」を記事にしています。
今、自然を資源として消費するのではなく、環境に配慮した観光づくりに注目が集まっています。
観光が発展すればするほど自然も再生されていく。そんな持続可能な観光を目指し、自然資源の活かし方を改めて考え直す事業者も多いのではないでしょうか。
この度、いち早く消費的な観光を脱却し、東海地方の自然をフィールドに新たな観光に挑戦する3名をお招き。秋元祥治氏をモデレーターとし、1日限りの特別メンバーによるトークセッションを実施しました。本記事では、セッションの一部をお届けします。
秋元氏(モデレーター、以下敬称略):このセッションでは、自然資源を活かした観光の在り方、あるいはこれからの未来の地域づくりについて取り扱っていきたいと思います。まずは前半戦、登壇者の方々がどんな取り組みをされているのか、自己紹介をお聞きした上で、ディスカッションに入っていきたいと思います。では、水口さんからよろしくお願いします。
水口氏(以下敬称略):私は京都市出身なのですが、大学卒業後に岐阜県の郡上(ぐじょう)市に移り住みました。それからアウトドア事業に関わって約30年になります。今は、長良川(ながらがわ)沿いでラフティングやカヌー、沢登りやグランピング施設といったアウトドア関連事業と、2018年からは美濃加茂(みのかも)市の木曽川沿いにある「リバーポートパーク美濃加茂」という公園も手掛けさせていただいています。
水口:ずっと「人と自然の再生」をテーマに活動していて、その中でやっぱり仕組み作りをしたいなと。例えばゴミ拾いをしても部分的な植林をしても、仕組みを変えていかないと自然環境はなかなか維持したり良くしたりできないもの。だから、大もとの仕組みを変えようと、今年1月に郡上市と一緒に電力会社を立ち上げました。
岡野氏(以下敬称略):僕は去年の4月末まで株式会社電通という広告会社に勤めていたのですが、 7年ぐらい前に、諸先輩方と夜の川に入った経験があって。その時の自分の身体感覚が結構衝撃的だったんです。この中に、夜の川で鮎をとったことがある方はいらっしゃいますか?ぜひ一度やってみてください。
岡野:現在は、水口さんと同じエリアで、いろいろな企業の人や海外からのインターン生に向けて、源流をフィールドとした企業研修を提供しています。
自分の身体の一部が「川になる」という体験をした人たちが、今度は一緒になって源流の森や川を守る共同研究をしてくださる。「源流で遊び、源流を守る」という仕事をしています。今、企業研修を源流の森や川でやりたいという企業が増えてきているので、 そういった企業の受け入れがメインです。
また、最近文科省の「学生を地域に送り出したい」という意向もあって、例えば武蔵野大学の学生たちや台湾からの留学生を受け入れるということもあります。
粟生(あおう)氏(以下敬称略):私は、東海地方に帰ってきて4年ほど経ちます。前職では、AIのスタートアップ企業を大学生と一緒に立ち上げ、「テクノロジーで社会課題を解決するんだ」と、時価総額1,000億円のユニコーン企業を目指してやってきました。おかげさまで株式会社エクサウィザーズは国内TOP10に入るぐらいのAIのスタートアップとして拡大しました。
粟生:その後、ふるさとの三重で何かチャレンジしたいと思い、三重県菰野町(こものちょう)でアウトドアサウナ「AOU no MORI」を始めました。
菰野町を選んだ理由は、関西から1時間弱、名古屋からも1時間弱でアクセスできる場所だったから。場所は結構狙って選びました。 結果的に関西からのお客さんが半分、名古屋・東京からのお客さんが半分で、やはりロケーションは重要だったなと思っています。
それから、森の真ん中に位置するのが良かったのもあります。都会の喧騒から離れたい方にとって、とにかく何もないところが良いのだと思います。多くの方がコロナ禍で自然を求めたり、心身の健康・幸福を大事にする「ウェルビーイング」の流れもあったり、「We need 森」じゃないですか。
秋元:ここからさらに踏み込んで、自然資本を観光資源として活かしていけるポテンシャルは一体どこにあるのか、本当に儲かるのか、そしてこの先の未来はどんなことを描いていけるのかということを聞いていきたいと思います。
まずは水口さん、アウトドア業界で20年以上やってこられていますが、実際のところラフティングのような自然体験ツアーは儲かるんですか。
水口:10年ぐらい前までは儲かっていました。多いときは年間3万人ぐらいの参加者が来ていたと思うのですが、今は1万人を切っているんじゃないかな。
だいたい参加者としては20代から30代の方が1番多かったんですね。特に郡上でやっているので、名古屋周辺や三河エリアの方がお客さんの7割ぐらいを占めていました。
でもやっぱり人口減少の問題などもあり、かつコロナもあり、じわじわと客足が遠のいている感じがあって。今アウトドアのアクティビティに関していうと、 あまり良い話は聞かないです。
一方で、インバウンドの人たちが体験したいというニーズは、じわじわと上がってきています。特にアジア系の人、サイクリングだと欧米の人たちもいるので、 今外国人に対してどうやってツアーを提供していくかを模索しているところです。
秋元氏:「We need 森」「We need 川」にもかかわらずお客さんが減ってきている。その背景には若年人口の減少があるというお話でしたが、逆にいうと、50代・60代の人口は増えていますよね。そういう意味では、激しくないアクティビティを求めるようなニーズは潜在的にあるような気もしますが、いかがでしょうか。
水口:そのニーズはあると思います。ただ、これまでずっと若い人たちが若い人たちに向けて作ってきたものを、急に年配の方を対象に、というのはなかなか難しいところがあって。 そのあたりは、自社のパーソナリティーに合わせながら少しずつ新しいものを作っていかなければと考えているところです。
秋元:岡野さんのところは、企業研修で自然体験を展開されていると先ほどお聞かせいただきました。そもそも企業研修は、研修室の中でワークショップやシミュレーションをするものだと思っていたのですが、「自然体験を研修でやりたい」という会社は多いんですか。
岡野:多いですね。私は以前、様々な企業の新規事業の伴走をしていたのですが、仮説検証も十分でない段階から、プロジェクトが頓挫する場面に度々出くわしまして。それは、本当にその個人が「心から自分の人生の時間をかけてやりたい」という想いに行きついていないまま、立場があるから何か事業を作ろうとしている時に起こると思っていたんです。
そんなときに先ほど話した夜の川の体験がありました。 夜の川でみんなで夢中になって鮎を捕ったり、焚き火を囲んで竹筒で日本酒を温めて飲んだりしている時に、 自分が人生でやりたいことは何かを勝手に話し出すという場面にたくさん出くわしたんです。「机の上でワークシートを書いていた時間は何だったんだろう」と思いました。
人間は、風土の力に頼って、自分から何か新しいものを生み出す力をもう十分持っている。
会議室に閉じ込めて新しいアイデアを無理やりひねり出そうとするのではなく、その人が今後の残りの時間や家族の時間といろいろある中で、フィールドの力を借りながら作り出したいものを作る。そういうことを感度高くやりたいという企業が今増えてきています。
岡野:だから僕たちは、自分が本来やりたい問いに行きつく「創造性回復研修」と言っています。おそらくそれを英語でレクリエーションと言うのですが、「ちょっと自然の中で遊ぼうよ」とかではなく、「まずは身体性を回復して自律神経を覚醒させましょう。そして人間性を回復して自分の感情に気づきましょう。その後に仲間たちと社会との関係性を築きましょう」という3ステップ。
僕らはフィールドの力を借りながら、まだまだ自分の身体性を発揮して、新しい事業を作っていくことができるはずなんです。
粟生:私たちは名古屋で新規事業の伴走とスタートアップ支援をさせていただいています。それこそ会議室の中でワークショップをしても、本当にやりたいことは出てこないわけですよ。会議室の研修よりも、非日常的な森の中のサウナで一旦脳をリセットする体験をしてもらって、その後に焚き火を囲みます。
企業研修にはサウナ好きばかりが来るわけではありません。でも「とりあえず水着を持ってきてください」と言っておくと、気づいたらみんなサウナに入っています。スーツのジャケットとシャツを脱いだらみなさん別人。会議室で会うよりも森の中で会うって、本当に重要だと実感してます。
粟生:今年の4月には、「AOU no MORI」の隣に、大人数で楽しめるプライベートキャンプ場「NIWA」をオープンしました。田村敦さんの「大人の小学校」というコミュニティサロンとタイアップしていて、企業ごとに個別研修を行ったり、1ヶ月に1回いろんな企業が集まって合同研修を行ったりもしています。
Information
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Editor's Note
いつの時代も私たちはどこかで自然を求めていると思いますが、その中でもニーズは変化していて、ターゲットにあった自然体験の提供の仕方が求められているのだと感じました。
ただ自然を楽しむということだけではない、自然の活かし方のヒントがセッションの中にたくさんあったように思います。
CHIERI HATA
秦 知恵里