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LOCAL LETTER

“人”こそが資源。志がつくる「シナノフェス」からみた、まちの魅力

NOV. 07

NAGANO

拝啓、まちの資源をいかし、さらなる付加価値を生み出そうと奮闘するアナタへ

「地元の人も移住した人もみんなが来てくれるイベントにしたい」

そんな思いでつくりあげられるお祭り「シナノフェス」が長野県信濃町にはあります。

2023年7月22日、第5回目となるシナノフェスが4年ぶりに行われました。

自然豊かな会場に設置された立派なステージには、地元の有志や著名なアーティストの姿が。のんびりと音楽に耳を傾ける大人や、楽しそうに走り回る子どもたちの笑顔が印象的です。

林 拓(Taku Hayashi)さん GOOD TIME BUILD代表 / 小学校5年生の時に東京から長野県信濃町へ家族で移住。東京の専門学校卒業後、東京で就職。アパレル店の施工などを手がける。結婚、子どもが生まれたタイミングで再び信濃町に移住。株式会社ログラフに勤めた後「GOOD TIME BUILD」を開業。 2023年シナノフェスの実行委員長。photo by mocchy
林 拓(Taku Hayashi)さん GOOD TIME BUILD代表 / 小学校5年生の時に東京から長野県信濃町へ家族で移住。東京の専門学校卒業後、東京で就職。アパレル店の施工などを手がける。結婚、子どもが生まれたタイミングで再び信濃町に移住。株式会社ログラフに勤めた後「GOOD TIME BUILD」を開業。 2023年シナノフェスの実行委員長。photo by mocchy

今回のシナノフェスで実行委員長をつとめた林拓さんは、信濃町への移住を2度経験されている方。そんな林さんに、移住を決意した経緯や、信濃町の魅力を生かしてみんなが楽しめるイベントをつくりあげる秘訣を伺いました。

「ゴミばっかりつくっているような気がした」。リサイクルできるもの、壊されないものへの愛着

林さんは信濃町で「GOOD TIME BUILD」という会社を起こし、廃材を活用した建物の改修などを行っています。

「予算が潤沢にある人は僕じゃないと思うんです。別の人に頼むと思います」(林さん)

林さんに依頼をするのは、予算は少ないけど「こういうものがつくりたい」としっかりとしたこだわりがあるお客さんたち。

絶対にいいものができるとわかれば、お客さん自身でできるところは任せて、一緒につくりあげていく。林さんは限られた予算の中でお客さんの要望を実現させるために手を尽くします。

信濃町にあるゲストハウスLAMPの施工にも林さんが携わった。photo by mocchy
信濃町にあるゲストハウスLAMPの施工にも林さんが携わった。photo by mocchy

林さんの仕事のこだわりは、「無垢の木を使う」ということ。

「世の中に溢れているのはベニヤとか、接着剤を使ったものが多い。短期的に見たらいいんですけど、長く使えるものではないんですよね。無垢の木であればぶつけて表面が傷ついても、ちょっと削ったり、塗装したりしてメンテナンスすればずっと使っていけるものだし、味が出ますよね。そういうものを使っていく方がいいなと思って」(林さん)

ずっと使っていけるものを使いたい。この思いが生まれた背景には、林さんが東京で働いていた時の経験がありました。

photo by mocchy
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林さんはもともと東京都の出身。小学5年生の時に家族で信濃町に移住し、高校卒業までを過ごします。その後、東京の専門学校へ行き、東京で就職。主にアパレル店の内装を手がけていました。

しかし、そこで林さんが目にしたのは、ブランドイメージの入れ替えやお店の撤退などで、せっかくつくったものが数年という短い期間で壊されるという現実。

気持ちを入れてつくったものが壊されるのは悲しい。自分はゴミばかりつくっているような、そんな気になってきたんですよね」(林さん)

それを機に、リサイクルできるものや、つくっても壊されないものがいいと思うようになったと言います。

photo by mocchy
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また、東京にいる時に経験した東日本大震災も林さんにとって大きな転機となりました。

アパレル店の施工が多かった林さん。

「おしゃれの部分って、最終的には一番後回しというか、2の次、3の次。生活に支障は出ないですよね。なんでこのタイミングで洋服屋さんをつくっているんだろうっていうのがちょっとあって、東京でそういうものをつくるのはもういいかなと思いました」(林さん)

結婚して子どもができたタイミングと重なり、林さんは信濃町への移住を決意します。

「僕には、子どもの頃に野尻湖で遊んだ思い出がすごく残っていて。子どもにもそういうふうに過ごしてもらえたらいいなって」(林さん)

信濃町に戻ってガラッと変わった生活スタイル。「人間の生活」ってこうなんだ

林さんが信濃町に戻ってきて今年でちょうど10年目。東京にいた頃の暮らしとは大きく変わったと話す林さん。東京で働いていた頃は、睡眠時間は3、4時間ほどあれば良い方だったと言います。

「信濃町に帰ってからは夜9時には寝ています。『30代ってこんなに寝られるんだ。人間の生活ってこうなんだ』って思いました」(林さん)

photo by mocchy
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林さんは、波がある時は出勤前にサーフィンに行きます。

「子どもは学校に行っているのに父ちゃんたちはサーフィンをしています。『今日仕事じゃないの?』ってあんまり聞かれないのもいいですね」(林さん)

東京にいた頃とはまた違う充実した日々を送る林さん。しかし、林さんのように信濃町での暮らしを謳歌している人もいれば、そうでない人もいると言います。

「ずっとこのまちに住んでいる人の中には『暑いし寒いし、住みづらくて』という人もいます。でも、移住してくる人の中には『最高じゃん』って言ってくれる人もいるし、そこの温度差がもうちょっと埋まればいいなって思いますね」(林さん)

信濃町が「いい場所」だと気づいてほしい。その役割を果たしてくれればと林さんが考えているのが、「シナノフェス」です。

「楽しいことがしたい」からはじまったシナノフェス。続けていくにつれ意義を問うように

信濃町で2016年にスタートしたシナノフェスは、「野尻湖で楽しいことをやりたい」という想いを形にしたイベント。「湖畔で音楽フェスをやりたい」という一言をきっかけに、町内のジャズバーや音楽に詳しい方を入れて5、6人ではじまりました。

アーティストは、まちやまちの人と縁がある人に出演してもらうようにしており、「シナノフェスは人とのつながりで成り立っている」と林さんは言います。

「大きい資金があって、著名なアーティストを呼ぶこともやろうと思えばできるんですけど、まちの人とのつながりや関わりがあるアーティストさんに出てもらいたいっていうのもあるし、そういうのが自分たちに合っているなって」(林さん)

photo by mocchy
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今年のシナノフェスは「黒姫童話館」にて行われました。実に4年ぶりの開催で、林さんが実行委員長になって初めてのフェスです。1年前から月に1回集まり、企画から準備までを進めてきました。

「出店を多くして、お店にもお客さんが来てほしいんですけど、音楽フェスだから音楽も聴いてほしい。ステージのところに人が集まらないことには、アーティストさんを呼んでいる意味がないので。お店でフードをいろいろと買いつつ、ステージ前に人が集まるような動線にするというところを、今回は悩みました」(林さん)

ステージやお店の配置への試行錯誤から、シナノフェスに対する林さんのこだわりが感じられます。

「出店している人も町内の人が多いんです。その人たちや受付スタッフたちも、ステージが見れて音楽を聴けるようにしたかったんですよね」(林さん)

お客さんだけでなく、まちの人たちみんなが楽しめるようにと考え抜かれています。

photo by mocchy
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シナノフェスには、会場を1年ごとに変更するなど、連続して同じ場所で開催しないというこだわりも。毎回同じ場所にすれば、ステージや出店の配置を新たに考える必要もなく、もう少し負担が減るはずです。

しかし、場所を変えるのは「自分たちが飽きないように。毎回新鮮な気持ちでやるため」と話す林さん。「山も湖もいいところだから」と、自分たちが楽しむためには、あえて難しい方を選択するという、苦労もいとわない林さんの姿勢がありました

過去に会場を訪れた人からは「こんないい場所があったんだ」とシナノフェスを通じて、まちの良いところに気づいてもらえるという嬉しい反応もあったそうです。

信濃町の良いところに改めて気がつくーー。

そんな役割をすでにシナノフェスは担っていました。

photo by mocchy
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開催には大変な苦労もあるなかで、林さんのシナノフェスへのモチベーションや志を伺いました。

「第1回とか第2回くらいは楽しいことをしようくらいにしか考えていなかった。でも、途中で立ち止まって『俺たちなんでやっているんだろう』ってなるんですよ。それをみんなでいろいろと考えていった時に『やっぱり子どもたちじゃない?』ってなって」(林さん)

信濃町で育った子どもたちの中には、都会に憧れて東京に出ていく子もいます。

「そんな後に戻ってきてくれたら嬉しいなと思っていて。移住者が増えてくれるのも嬉しいんですけど、それだけじゃなくて、戻ってくる人口も増やしたいんですよね。そのためにはこのまちでの楽しい思い出がないと戻ってこない」(林さん)

photo by mocchy
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林さんは「子どもたちを楽しませたいというよりは、親や大人が音楽を聴いて楽しめる場所を自分たちでつくって、その姿を子どもたちに見てほしい」と言います。

「子どもたちが『うちの父ちゃん、母ちゃん楽しんでたな』と見て覚えていたことが、東京へ行った時にちょっと思い出されて、戻ってもいいかなって思ってくれるといいですよね」(林さん)

「なんとかなるっしょ、できるっしょっ」。みんなを集めると何かしらできちゃう

シナノフェスにも、仕事と同様「なるべくリサイクルできるものでやる」「自分たちでつくる」という林さんの想いがあります。

シナノフェスの入場料は無料。お金がかけられないなか、1回目のシナノフェスは借り物を集めて組み合わせてステージをつくったと言います。

「お金があるなら、イベント屋さんにステージをバンっと組んでもらえばそれで済むんですよね。でも、僕の周りには大工さんや建築系の仲間がいて、自分たちで手を動かせる人がいるので、大変なんですけどそういう人たちとならステージがつくれるんです」(林さん)

自分たちがつくったステージでアーティストの人に歌ってもらう喜び。

「それがすごく良いと思うので、みんなでつくっていくことの方を重視していますね」(林さん)

photo by mocchy
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町の人たちが自らの手でつくりあげるシナノフェス。林さんは、シナノフェスを成り立たせる鍵は“人”だと教えてくれました。

「信濃町では、なんの仕事をしているかわかんない人が多いんですよ。自分の食べるものをつくっていたり、空いてる時にバイトしてたり、本職が何かわからない。大工さんのお手伝いをしてたり、自分のものをつくったり、それを売っていたり、そういう人たちが多くて、だから『フェスをやろう』となっても、『なんとかなるっしょ、できるっしょっ』ってなるんです」(林さん)

「最近、信濃町って移住してくる人もそうなんですけど、自分の生き方をDIYできる人が多い」と林さんは信濃町の人を評します。

「そういうメンバーが集まっていると、お金がなくても何かができるっていう考えになるじゃないですか。みんなを集めると何かしらできちゃうからシナノフェスも成り立っているんだなって」(林さん)

“人”こそ信濃町の魅力であり資源。自分の人生にこだわり抜く人が多いから面白い

林さんは信濃町の魅力は“人”だと言います。

「信濃町は自然が豊かなところも魅力なんですけど、それによってここへ来る人たちの方が、資源というか魅力だと思いますね。自分の人生にこだわっている人が多いですから、それが面白い」(林さん)

面白い人たちが集まる信濃町で、人とのつながりで成り立ってきたシナノフェス。林さんに今後のシナノフェスのビジョンを伺いました。

photo by mocchy
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「先のこと、継続していくことを考えたら高校生とか若い子を含めてつくっていかないとなって思っています」(林さん)

今年のシナノフェスには、ボランティアスタッフとして参加をする高校生の姿もありました。

ボランティアスタッフとして参加した高校生や、お客さんとしてきた子どもたちが、将来運営側に回る日もくるかもしれません。

シナノフェスは、込められた想いとともに、若い世代へと引き継ぐ準備が進められていました。

まちの資源は人ーー。

「自分たちのまちでイベントをやりたい」と考えている人は、まず、まちにどんな人たちがいて、集まればどんなことができるのか、自分たちのまちの可能性を探ってみるのはいかがでしょうか。

LOCAL LETTERでは、メールマガジンで全国の地域プレーヤーの情報を発信しています。

Editor's Note

編集後記

林さんには、シナノフェスを終えたばかりでお疲れのところインタビューにご協力いただきました。「疲れた」と笑うお顔に達成感や安堵感が滲んでいたのが印象的です。シナノフェスにはたくさんのこだわりが詰まっており、その分大変な苦労も。しかし、林さんのお話を聞いていると、その苦労さえも楽しんでおられるように感じました。まちの人たちが楽しめることを追求して作り上げるシナノフェス。その努力を惜しまない姿勢や志も次世代に引き継がれていくのではないでしょうか。

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