ISHIKAWA・ZENKOKU
石川・全国
※本レポートは、タキビコフェス実行委員会が主催したトークセッション「TAKIBI & Co. Fes Tokyo 2026」の「被災者と未災者の共創:能登に学ぶフェーズフリー」を記事にしています。
未災者、という言葉を聞き慣れない人もいるでしょう。被災していない人、という意味で使われることがあります。
被災していない人は、被災地の復興支援に関わらないかというと、そんなことはないはずです。復興や防災は専門家だけの仕事ではありません。ビジネスリーダーが自らの役割を問い直し、被災者と未災者をつなぐ存在となることで、未来への備えと地域の再生が動き出します。
能登の現場から見える、その可能性と責任について、社会課題を解決するビジネスに取り組むメンバーで語り合いました。
伊藤氏(モデレーター、以下敬称略):このセッションでは『被災者と未災者の共創』、そして『能登に学ぶフェーズフリー』をテーマにお話しいただきます。令和6年能登半島地震から3年目となる今、改めて私たちがどう関われるのか、皆さんと一緒に考える時間にできればと思います。
本日の司会進行を務めます、伊藤と申します。株式会社BICP hanareでマーケティング支援を行いながら、岩手県の住田町の地域づくりにも関わっています。それでは登壇者の皆さん自己紹介お願いします。

河合氏(以下敬称略):セイノーホールディングス株式会社専務執行役員の河合と申します。物流という社会インフラを担う立場から、平時からの備えや体制の設計の重要性についてお話ができればと思います。

伊藤:それでは、坂田さんお願いします。
坂田氏(以下敬称略):スノーピークビジネスソリューションズの坂田です。アウトドア体験を活かした企業研修やオフィスデザインを手がけ、組織づくりを支援しています。

杉本氏(以下敬称略):一般社団法人能登官民連携復興センターの杉本です。「スギタク」と呼んでください。2024年の地震と豪雨の被害を受けた能登で、支援団体と地域をつなぎながら復興を後押ししています。

伊藤:皆さんは『フェーズフリー』という言葉を聞かれたことはありますか。日常時と非常時を区切るのではなく、暮らしと命を支えてくれるようにモノやサービス、体制などをデザインしていく、防災にまつわる新しい考え方です。杉本さん、能登の現状と展望についてお聞かせください。

杉本:2024年の能登半島地震と2024年9月の奥能登豪雨の復興としては、まだ真っただ中であり、半壊以上になった約25,000棟の家屋の解体がようやく終わったところです。公営住宅の整備はこれから進む段階で、資材の価格高騰など課題もあります。震災から3年目に入る中、これからの復興をどのように進めていくかが重要な局面にあると感じています。
河合:フェーズフリーで大事なのは、日頃からコミュニケーションを取ることです。いざというときに連絡しようとしても連絡先が分からない。ネットワーク自体、フェーズフリーが必要なんだと思います。
伊藤:ここでフェーズフリーの考え方を、ハードとソフトの両面から見てみたいと思います。その具体例として、まず杉本さんから能登空港についてお話いただけますか。
杉本:フェーズフリーの話をする前に、能登空港の話をします。能登空港の建設は無駄だとも言われてきましたが、多機能をしっかり取り入れた施設です。日本で初めて道の駅や行政施設がある空港で、県の出先機関も多数入っているため、例えばパスポートを受け取ることも可能です。
能登空港では、環境型トイレとしてもともと雨水を利用する設計にしていたために、地震により水道が使用できなくなった際も、奥能登地区で唯一トイレを使用できました。
震災後、現場に入るボランティアや支援団体の方々も空港に立ち寄ってから現場に向かうことができ、行政施設があることで、国の関係者や自衛隊の拠点も設けられました。
フェーズフリーにおいては、想像力が大切で、考えることで価値を一段高めることができる、ということです。コロナ禍の中で空港としては唯一、国土交通省により防災拠点として認定されていたため、まさに役目を果たしました。

伊藤:河合さん、物流の面からみていかがですか。
河合:空港は人の移動の重要な拠点です。人が動くところには物も動きます。物流の面でも、空港を集約拠点にしている地域や、道の駅を拠点にしている地域などさまざまな取り組みがあります。そうした中で、能登の場合は空港が物流の集積拠点になるという形で、非常にいい事例だと考えています。
杉本:2003年に開設した時には、防災拠点ではなかったんです。おそらく国の政策で拠点をつくっていく際に、他の県は道の駅が多かったのですが、能登空港は道の駅でもあり、奥能登の中心という面からも選ばれたのだと思います。
伊藤:次に、坂田さんからフェーズフリーの事例紹介をお願いします。
坂田:私たちのパートナー施設である熊本県人吉市のキャンピングオフィスは、川の近くにあるコワーキングスペースで、地域の交流拠点や行政と連携するハブのような場所でした。しかし、豪雨で川が氾濫し、オフィスは浸水してしまいました。
復興の過程では、アウトドア用品が有効に活用されました。もともと屋外で使用することを前提としているため耐久性が高く、スノーピーク製品も長期間の利用に耐えられる仕様です。スタッフが全国からキャンプ用品を集め、地域に提供する動きもありました。
ただ、災害時に急にキャンプ用品を渡されても使い方がわからず、活用できない人もいます。普段からキャンプに親しんでいる人や、自分で備えを行える人を増やすことが大切だと感じました。災害時には、医療従事者や自治体職員が安心して休める場所やできる環境を整えることも必要です。
私たちは企業向けの防災研修やチームビルディングを通じて、楽しみながらスキルを身に付け、災害時に役立つ力を育てています。自主防災ができる人を増やすことを目指しています。

杉本:避難所となった体育館ですが、段ボールの仕切りもありますが、プライバシーを守るうえで、テントはやはり有効です。ですが、テントを立てる技術がなければ活用できません。実際に、県が用意したテントの組み立て方がわからず、外部の支援を求める場面もありました。
伊藤:続いて、河合さんからフェーズフリーの事例をお願いします。
河合:震災後の体育館には支援物資が山積みになり、どこに何があるかわからない状況でした。物流の知見を活かして、オペレーションを決め、配置を整理しました。体育館内の動線をあらかじめ区分しておく重要性を感じました。
続いて、ドローンの話についてお話しします。山間部の集落に薬を届ける場合、自衛隊員が徒歩で向かうと6時間かかるところを、ドローンなら10分で到着できます。物流の体制を日頃から地域に組み込んでおくことで、災害時にはエマージェンシーパッケージのように機能します。
現在は全国で自治体や企業と連携して展開しています。ドローンは事前のルート設定と国土交通省への申請が必要なため、孤立可能性集落にあらかじめ整備するプロジェクトを進めています。発災後でなく、日頃からルート設計とハザードマップを組み込んでいくことが重要です。

伊藤:能登での2社の取り組みについてお話を伺いました。能登ではすでに共創に向けた動きがあると聞いております。
杉本:震災で住まいや電気・水道などのインフラが失われ、特に通信が途絶えたことが大きな不安となりました。そこで、イーロン・マスク氏の宇宙企業SpaceXが開発した衛星インターネット『スターリンク』が持ち込まれ、孤立集落の通信が回復しました。
現在は、限界集落を現代集落にしようという珠洲市真浦地区での取り組みが注目され、全国から様々な方が集まり、水・電気・通信を自分たちで賄える仕組みを実践しています。同じように孤立しないために、次を見据えた取り組みを進めています。
伊藤:今後どう関わっていけるかについて、お考えをお聞かせください。
坂田:災害後の復興プロセスはもちろん重要ですが、私たちは企業向けに、日頃から社内でできる防災を提案しております。例えばオフィス内にテントを立てるイベントなどです。
実際にやってみると、社内で何人が寝泊まりできるのか、どんな道具が必要なのかが見えてきます。企業も個人も、楽しみながら防災を学び、日常の中で備えることが大切だと考えています。
杉本:能登にはすでに多くの学生や起業家が訪れ、新しい動きが生まれています。 まずは能登に来てくれたら分かると思います。これが10年後、20年後の地方の姿なのだと実感できると思います。地方だからこそのAIの必要性や、人材の足りない現実も見えてきます。
河合:フェーズフリーで重要なのは持続性ですが、すべてを補助金や復興支援金で賄おうとすると続きませんので、ビジネスモデルが確立されていなければなりません。持続可能性も、フェーズフリーの中で同時に考えていく必要があると考えています。

伊藤:最後に皆さんへ一言ずつお願いします。
坂田:まちの中で集まる場ができること、それもフェーズフリーです。例えばわたしたちは、スタートアップの人たちが集まる場所で、日常的に焚き火を囲むエリアを設けています。コミュニケーションのネットワークを、日常の中で築いていけることは重要だと考えています。
杉本:今、能登は、過疎高齢化という意味で日本の最先端を走っています。最先端では何かが見つかると思います。解決策が見つかれば、日本のどこに行っても役に立ちます。
全国の半島地域から特に注目されていますし、我々の復興プランでは、能登の未来は日本全国のふるさとの未来だと言い切っています。チャレンジを支える体制もあり、大企業ともつながれる場所になっていると思います。ぜひ、能登にいらしてください。
河合:震災から 2年が経ってしまいました。「経ってしまった」という言葉が、今の能登の状況を象徴しているように感じます。東京にいると、時間とともに情報が薄れていく感覚もあり、それは私自身の反省でもあります。スタートアップのメンバーと近々、現地を訪れたいと思います。
伊藤:フェーズフリーとは単なる防災の仕組みではなく、日常の中で人や地域のつながりを育て、その延長線上に災害時の支え合いがあるということを改めて感じました。
◾️こうした視点を、実際の現場で考える機会として、6月26・27日能登で『アトツギベンチャーサミット』を開催します。
『AVS(アトツギベンチャーサミット)2026@能登』
https://www.atotsugiventuresummit.jp/
本サミットは被災地の現場に立ち、経営者同士が本音で語り合う2日間です。復興のリアルに触れながら、自社と地域の未来に何ができるのかを共に考えます。
学びで終わらせず、次のアクションへ。
Editor's Note
被災地と未災地の経営者がともに地域と企業のレジリエンスを考えました。学びで終わらず、次は現地で対話し行動へ。小さな一歩でも、その積み重ねが未来をつくる力になるはずです。
MARUTAKE
まるたけ