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「アトツギ×スタートアップ」で灯すあらたな火種。信念で共創する地域の輪

DEC. 19

GIFU

拝啓、立場をこえた共創で、地域に新たな可能性を見出したいアナタへ

※本レポートは、三星グループが主催する共創イベント「タキビコフェス岐阜羽島」にて行われたクロストーク『岐阜県から始まるアトツギ×スタートアップ 共創の火』を記事にしています。

アトツギが奮闘する老舗企業と、スタートアップで盛り上がる新興企業。
一見かけ離れているように思える、この2つの立場から新たな共創の火を灯し可能性を見出す。

2025年10月10日と11日の2日間にわたって、岐阜県羽島市で開催されたタキビコフェス。全国から産業・経済の未来を担うプレイヤーが集い、全8セッションにわたるクロストークやワークショップと、参加者での交流会が行われました。

岐阜の地で、民間と行政の立場を超えて共創に挑戦する2名をゲストに、モデレーターをタキビコフェス主催の岩田真吾氏が務めました。本記事では、会場を熱気で包んだトークセッションの一部をお届けします。

アトツギとスタートアップの融合へ、期待があふれる集い

岩田氏(モデレーター、以下敬称略):このセッションは、「アトツギ×スタートアップ」の共創への期待と、共創を阻む壁についてお話させていただきます。

現在、国で「スタートアップ育成5カ年計画」が進められており、スタートアップ支援は全国で力を入れていきたい取り組みです。

岩田 真吾氏 三星毛糸株式会社 代表/1887年創業の素材メーカー「三星グループ」の五代目アトツギ。2019年、ジャパン・テキスタイル・コンテストでグランプリ(経済産業大臣賞)を受賞。産業観光イベント「ひつじサミット尾州」、アトツギ×スタートアップ共創基地TAKIBI & Co. (タキビコ)等を進める。TAKIBI&Co.(タキビコ)公式HP

岩田:一方で、事業承継や中小企業に対しても「100億宣言*」が実施されており、既存事業を引き継ぐ“アトツギ=継ぎ手”の人たちにも追い風が吹いています。

(*100億宣言…売上高10億〜100億円未満の中小企業が、「売上100億円を目指す」と宣言し、飛躍的成長を目指す企業を支える制度。)

今後は、スタートアップ育成5カ年計画と100億宣言の2つの政策が融合していくことへの期待値もあります。

それでは、自己紹介とアトツギとスタートアップの共創についてそれぞれお話しいただけますか。

河合さんは岐阜県大垣市に拠点を置く物流企業グループであるセイノーホールディングスで、他社と協業する土台づくりや、社内起業の受け皿づくりを進めてこられました。

河合氏(以下敬称略):ありがとうございます。2016年からセイノーホールディングスで、オープンイノベーション推進室を担当させていただいている河合と申します。

河合 秀治氏 セイノーホールディングス株式会社 専務執行役員 兼 オープンイノベーション推進室 室長/1997年に西濃運輸株式会社入社後、2011年にココネット株式会社を社内起業。現在は、オープンイノベーション推進室 室長など複数の役員を兼務。

河合:私は2011年に社内でプレゼンを行い、社内起業をしました。現在は、起業した会社が拡大してきたこともあり、社外の知識や技術、人材を活用するオープンイノベーションに取り組み仲間を増やしています。

当時は、新しいことに挑戦すると社内評価で不利になりがちな環境あり、社内起業はほとんど考えられない時代でした。実際にやってみると非常に大変で、後輩たちが同じ道を進むのは難しいと思ったんです。

代々その地域で事業を営んできた企業は、事業基盤や信頼がすでに根付いていることが多い。だからこそ、余力のある領域で新しい挑戦が生まれやすく、創業家の内部からイントレプレナー(社内起業家)が生まれやすい環境にあります。

アトツギとスタートアップの組み合わせは、新しいことに挑戦しようとしている人を後押しできる関係ですだからこそ共創の火がつきやすい環境だと思います。

江崎 禎英氏 岐阜県知事/岐阜県山県市出身。1989年通商産業省(現・経済産業省)に入省し、ヘルスケア産業課長、商務・サービスグループ政策統括調整官、内閣府大臣官房審議官(科学技術・イノベーション担当)などを経て、2025年2月、故郷・岐阜県の知事に就任。

江崎氏(以下敬称略):岐阜県知事の江崎です。私は、通商産業省(現在は経済産業省)に入り、そこで初めてベンチャーを政策として位置づけました。当時は「ベンチャー」という言葉が一般的でなくて、どこかあやしい印象を持たれる時代でした。

まさに「ベンチャー」と呼べる方々を見てきましたが、必ずしも新しいことに挑戦すればベンチャーというわけではないと感じています。

私は10個のポストを経験し、そのうち半分は前任者のいない新設のポストでした。私から始まるポストと、前任から引き継ぐポストを交互に経験してきた形です。いわば、「スタートアップ」と「アトツギ」を繰り返してきたようなものでしたね。

アトツギが拾う「火中の栗」、ビジネスチャンスとなる

岩田:ありがとうございます。お二方ともスタートアップへの理解が非常に深くていらっしゃいます

江崎さんのおっしゃる「あの頃」というのは、ベンチャーの存在感をゼロから作り上げなければいけなかった時代だと思います。その当時は、アトツギという概念は議論のノイズになり得たのではないでしょうか。

一方で、現在のスタートアップ育成5か年計画では、10兆円規模の投資が進むなかで、中小企業やアトツギが少し置き去りにされているような感覚もあったと思います。

岩田:スタートアップ育成5か年計画ではスタートアップを1万社から10万社に増やすことを目標に掲げています。実際に計画を進めてみると、全国に300万社ある中小企業のうち1パーセントをスタートアップ化するだけでも3万社、2パーセントなら6万社にもなるという視点が見えてきました。

また、スタートアップの会社を地方で起業して育てるには、基盤のない状態から始めるという環境的な難しさがあるとも感じています。

一方でアトツギ企業は、すでに先代・先々代と築いてきた信頼や、事業基盤があります。既に持っているリソースに新しい視点を加えることで、地方でもスタートアップのような成長がしやすいと考えています。

岩田:江崎さんは知事になられて8ヶ月が経ちましたが、スタートアップとアトツギに対してどのように感じていらっしゃいますか。

江崎:スタートアップは、前任者のしがらみがなく、自分の考えで進められるという良さがあります。
逆にアトツギには、前任がやり残したことや手をつけていない部分にビジネスチャンスがあるという良さがあります。

アトツギのポスト(前任がいるポスト)になったときには、「火中の栗を拾うやつだ」とよく言われました。やりやすい政策はすでに手をつけられていても、面倒な政策はまだ誰も手を出していない
だからやってみると、意外と成果が出やすいんですよね。

河合:そうですね。この「火中の栗」問題は、会社のなかでもよくあります。過去には部長陣が栗を押し付け合い、プロジェクトが進まないことがありました。

会社にはいろいろな部署があり、業務や営業、総務などそれぞれが必死に頑張っています。
けれど、各部署が担当する範囲の隙間に落ちる栗があります。自分の部署から少しはみ出した課題を拾い、実現まで持っていけるかどうかが重要だと思います。

結局プロジェクトは一旦解散し、新人2人の担当になりました。その一人が、現場業務から本社に上がってきたばかりの私だったんです。この経験は、社内起業をやるきっかけにもなりました

それぞれの信念で助け合う。行政と民間の連携

岩田:地方創生を推進することは、地方のビジネスを生みだすという点でも意義があります。地方を盛り上げるとき、行政と民間、両方の協力が必要です。民間企業は課題に対してビジネスを起こして解決をしていき、行政は民間の基盤をととのえる役割を担います。

行政のリーダーである江崎さんは、地方創生のビジネスに挑戦する民間企業にどのような期待をお持ちですか。

江崎:そうですね。どんな仕事でも「何のためにするのか」に尽きると感じているので、民間も行政も本質的には同じだと思います。

多くの場合、「これをなんとかしてほしい」から課題が始まります。私の場合は、たまたま行政の担当だったので、その答えとして法律改正にたどりつきました。

今困ってる人のために動く答えの1つとして、民間は「ビジネス」につながるのだと思います。

岩田:なるほど。目的次第で行政が前にでる時もあれば、民間の時もあるということですね。うまく連携ができれば、その成果は広がっていきますか。

江崎:そうですね。経営者の方が、社会の役に立ちたいという信念を持っているか、単に利益だけを追求しているかでも変わってきます。

今まで見てきたベンチャー企業は、必ず1度は業績が落ちる時期がありました。ですが、落ちたときに復活する会社とそうでない会社がある。業績が落ちたとき社会貢献の信念を持つ企業は、必ず周囲が連携して助けてくれていたように思います。

共通の課題が生みだした、地域の共創

岩田:1社だけでは、すべての社会課題を解決できません。ビジネスはさまざまな企業・関係者との連なりがあって成立します。社会貢献を目指していても、課題の収集から現場が解決するまでを1社だけで成功させることは難しい。

企業が共創の必要性を感じていても、実現にはさまざまな壁があるのも事実です。壁はどのように打ち破られるのでしょうか。

河合:そうですね、物流業界では、「2024年問題」や「人口減少」といった課題が共通化したことが、共創を生むきっかけとなりました。自社だけでなく他の運送会社も、同じ社会課題を抱えているんですよね。

例えば、人材不足が会社の課題だとします。トラックドライバーを同業他社から引き抜けばよいのではないか、と会社内で議論になってしまうこともあります。

しかし、昨今の人員不足は「人口減少」の問題なので、地域全体で人が足りないのです。

河合:配送の実態を見ると、過疎地域では、地域の荷物に対して1台のトラックで運んでいます。トラックの中はガラガラで、何台ものトラックが道の駅に並んで一旦休憩をしている状況です。

人口が増え、売上が右肩上がりだった時代はその非効率も許されたのかもしれません。しかし働き手不足である今は、深刻な課題となっています。

岩田:深刻な課題の解決に向けて、他社と共創したり、新しいサービスをつくりたいと思っても、地域から受け入れてもらえないこともあります。課題が表面化して、地域の方々が「なんとかしなければ」と動き出す段階になってからでは手遅れになる。もう少し前の段階で、地域の企業や人と危機感を共有し、共創を生む方法を探していきたいですね。

 

Editor's Note

編集後記

「火中の栗」を拾い、それを成果として実現までもっていくには、相当に信念が必要なことだと思います。目の前の仕事に対する「自分なりの理由」があってこそ、既存の形式にとらわれずに周囲と助け合い、共創の輪が広がっていくのだと、尊敬と共感を覚えました。

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