GIFU
岐阜
※本レポートは、三星グループが主催する共創イベント「タキビコフェス岐阜羽島」にて行われたクロストーク『岐阜県から始まるアトツギ×スタートアップ 共創の火』を記事にしています。
岐阜の地で、民間と行政をこえて共創に励む2名の登壇者と、タキビコフェス主催の岩田真吾氏による今回のクロストーク。
前編では、事業を継ぐアトツギと新たに挑むスタートアップ、それぞれの立場の良さと難しさが語られました。
かつては交わることのなかった両者ですが、今はどちらにも支援の追い風が吹き、両者の接点を広げる動きが見られます。後編では、実際にどのように共創を育むことができるのか、岐阜という土地の可能性についてお届けします。
岩田氏(モデレーター、以下敬称略):人口減少や人材不足といった課題は、もはや一社の問題ではなく、業界全体に共通する社会課題になりました。
その「共通の困りごと」によって、企業間の共創関係が生まれたというお話がありました。一方で、同業他社は競争関係であるという前提も議論の中には出てきました。この前提を乗り越え、共創を進めるためには、どのような動きをしていけばよいのでしょうか。

江崎氏(以下敬称略):まず、現地に行って情報を得ることが重要です。受け身の姿勢で情報を得ても、全体の2割程度しかわからない。しかし自分で現地に行けば、残りの8割の情報を知ることができる。これは徹底して実践していますね。

江崎:アトツギは、どうしてもその業界の枠組みの中で答えを出そうとする難しさがあります。権限が物を言う世界では、たとえ相手が間違ったことを言っていても、とりあえず指示を聞いてしまうという怖さもある。
しかし、権限ではなく知識が重要となる世界では、状況は違います。経済産業省では、辞令が出たら一生懸命勉強して知識を身につけていました。
「3日経ったら10年選手と対等に議論をし、1ヶ月経ったら日本で最も詳しくなるように」と言われていました。大変だったけれど、知識を身につけてさまざまなことができました。
岩田:江崎さんは知事になる前にも、知人の紹介でタキビコに来ていただきました。
勉強して業界の壁に挑戦することも、共創の壁を乗り越える方法の1つですね。そして、さまざまな場所に出向き、物怖じせずチャレンジして、相手と関係を築いていく姿勢が大切だと感じます。
河合さんは、お休みの日には自らドライバーとして配達されることがありますね。facebookで活動を投稿されていて、見ていてほっこりします。普段はドライバーの仕事はしていないと思うのですが、現場を見るために行っているのでしょうか?

河合氏(以下敬称略):その通りです。とにかく、「移動距離と会う人の数によって新規事業の成果が変わる」と、オープンイノベーション推進室のメンバーには伝えています。
例えば配達に行くと、行くたびに街並みがちょっとずつ変化していることに気がつきます。また、配達先で顔を合わせる高齢の方々の買い物の仕方も少しずつ変わっています。
現地・現物でいろいろなことを見聞きすることで、生活スタイルの変化やマーケットを理解することができるんです。
岩田:今の岐阜県には、現地に足を運んでくれる知事が生まれ、セイノーホールディングス(以下、セイノー)のように「オープンイノベーション」という部署を立ち上げた企業も存在しています。セイノーは、100億円規模のファンドを2つもつくり、地方でこれほど目立つ発信をしている会社はなかなかありません。
さらに私たちタキビコは、これまで交わる機会が少なかった「アトツギ×スタートアップ」を、同じテーブルに座らせ、新たな視点を生み出す場をつくりました。

岩田:これまでにも、アトツギとスタートアップが互いに投資家や顧客にプレゼンテーションをし合う場はありました。しかし、両者に必要なのは、競い合うことではなく、コミュニティの仲間になることだと考え、タキビコの活動を開始しました。
三者三様ではありますが、このようなユニークな取り組みや人材が今、岐阜県に集まってきています。しかし、これを岐阜のためだけに使っていたら、その成長は止まってしまうと思っています。この新しいムーブメントを全国に広げていくつもりで盛り上げていきたいです。
江崎:岐阜から全国にぜひ広げていきたいですね。私は「おかしなものを見つけたら治療するのが当たり前だ」という感覚があって、社会の医者になりたいなと考えたんです。
ある医療の学会で聞いた、印象的だった言葉があります。3つ質問をされました。
ひとつめは今、世界は人口減少で大変だといわれるなかで、10年後の未来に希望はあると思うか。次に35万人の不登校がいるといわれているなかで、子供たちの将来に責任が持てるかどうか。そして最後に「この社会を良くするために、自分の利益を捨てて貢献する覚悟はありますか?」と。

江崎:会場はシーンとしていました。誰もイエスとは即答できなかったのだと思います。そのときに私は「せめて3つ目だけでもイエスと答えたい」と思ったんです。
思い出したのは、リーマン・ショックや東日本大震災の時期に岐阜県で取り組んだ仕事が、後から国の政策になった経験が何度もあったことです。
国に残って法改正をしていく仕事もいいけれど、人口減少や働き方、高齢社会、教育といった今ある課題解決を、改めて岐阜から始めたいと思って戻ってきました。

岩田:河合さんの会社の発祥は岐阜県大垣市ですよね。そこから全国に広がっているそうですね。
河合:物流業は現在、全国に6万3000社あります。その始まりは、路線トラックの免許をとって事業として始めた岐阜県です。岐阜県が東西南北どの方向にも行ける土地柄である影響でしょう。
物流は、よく血液を流す動脈に例えられます。私たちも、岐阜で生まれた火を広げていきたいと思っています。
岩田:今の岐阜には「この地域で一番になるぞ」と思っている経営者やリーダー、若者がいます。
しかし、「日本初をここから生んでいいんだ」あるいは「岐阜から全国へ広げることが当たり前なんだ」という可能性を本気で感じている人は、まだ多くないと思っています。
でも、今のお二人の話を聞いて、全国へ広げていけると確信をもてるようになりました。だからこそ、今日いただいた火を広げていくのは、僕たちや今日来てくれた皆さんの責務だと感じています。

岩田:いまタキビコのイベントから広がっている共創の火は、全国に広まっていく勢いで盛り上がると思っています。岐阜から生まれている新しいムーブメントをさらに広げていくには、どのように進めていけばいいのでしょうか。
江崎:全国知事会に参加した際に感じたのは、都心に近すぎると東京と戦わなければならず、遠すぎるとそれはそれで大変だということです。ですが、岐阜県は、日本の真ん中にあるんですよね。ちょうど中間にある、いい位置なんです。
今後リニアが開通したら、品川から岐阜には58分で来れるようになり、都内の会社も通勤圏に入ります。今、品川から58分で行けるのは八王子。岐阜は八王子と同じ所要時間になります。
岐阜県は、広々とした土地と自然があふれる、人生を豊かにするパートナーのような場所です。人生100年時代、都会に通いながらも、岐阜で自然に触れ、のびのびと暮らせたら幸せですね。
これから先リニアが開通し、どのようなまちづくりをするかによって、岐阜は大きく変わっていくと思います。

河合:共創についての具体的な取り組みや社会実装は、各地域でまだまだ不足していると感じています。社内だけで試行錯誤するのではなく、自治体の方や他社のアトツギ、スタートアップの方々を巻き込んで、輪をつくるような動きをする。さまざまな立場の人の輪で共創の火を灯していくことが重要だと思います。
岩田:ここまでアトツギとスタートアップの共創についてお話いただきました。最後に、本日の感想や皆さんへ伝えたいことをお願いします。
河合:ありがとうございます。本日はみなさんと多くのディスカッションを重ねたことで、やはり社内だけで議論していても限界があると感じました。
いろいろな人と会い、フィードバックや話す機会をいただくことが非常に大きいと思いましたので、引き続き僕たちもたくさんの場所へ移動して活動していきたいと思います。
江崎:官民それぞれが地域に問題意識を持ち、物事に取り組んでいます。ですが、現場に行って政策の課題を探そうとする方が多いように思うんです。現場にあるのは政策の課題ではなく、むしろどう政策が機能しているかという「答え」です。

江崎:最初に見えた課題から、問題の本質がわかるまで「なぜそうなっているのか」を突き詰めていく。そうすれば「ここを変えていけば世の中が良くなるはずだ」という課題の根幹がわかります。課題がわかれば、ビジネスはあとからついてくると思います。
そして、視点を変えることも大切です。観光業の方とリニア開通後について話をしたとき、私自身、岐阜県人としての発想にとらわれていたと気がつきました。
視点を変えると、その地域を起点に全体が見えてくる。そんな視点をぜひ持っていただければと思います。
岩田:ありがとうございます。では、時間になりましたので、スペシャルトークセッションは以上としたいと思います。
Editor's Note
現場に足を運ぶのは大前提として、世の中をよくする可能性や、問題の本質を見極める答えは、一度の訪問で見つかるほど簡単なものではないと感じました。自問自答し、さまざまな人に会い、視野を広げてようやく少し掴めるものなのかもしれません。
だからこそ、業界の壁を超えて共創を育むタキビコが、必要な場なのだと思いました。
MATSUBARA AKARI
松原 明莉