前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。

LOCAL LETTER

移動スーパーが築く豊かな地域交流。買い物支援で充実した“人生の質”を

SEP. 18

NAGANO

拝啓、地域ビジネスの力を使って新たな地域交流の方法を考えたいアナタへ

※本記事は「ローカルライター養成講座」を通じて、講座受講生が執筆した記事となります。

高齢になり、不自由になるもののひとつが「移動」。身体機能の低下を感じ運転免許を自主返納したら、特に地方では日常生活の移動が不便になる。その不便さを少し解消してくれるサービスのひとつが「移動スーパー」。その中のひとつ「とくし丸」は、軽トラックに食料品や日用品、約1,200品を積み込み、お客様の玄関先まで出向く。

冬になると積雪が2mを超える長野県信濃町を、とくし丸で山間部の集落を巡る安藤陽子さん。移動スーパーは「必需食料品供給」、「高齢者の見守り」という以上の価値を提供できる可能性を秘めているそう。移動スーパーとくし丸の活動から、買い物支援の未来の可能性を考えてみたい。

安藤 陽子(Ando Yoko)さん 移動スーパー「とくし丸」販売パートナー / 東京都出身。2004年にご家族で長野県信濃町に移住。介護福祉関連に長年携わり、2019年3月まで信濃町役場にて福祉部局で約10年勤務。2019年7月よりとくし丸での移動販売をはじめる。photo by mocchy
安藤 陽子(Ando Yoko)さん 移動スーパー「とくし丸」販売パートナー / 東京都出身。2004年にご家族で長野県信濃町に移住。介護福祉関連に長年携わり、2019年3月まで信濃町役場にて福祉部局で約10年勤務。2019年7月よりとくし丸での移動販売をはじめる。photo by mocchy

移動スーパー「とくし丸」がもたらす暮らしの質。地域の豊かな日常を支える風景

信濃町は長野県の北部にあり、山に囲まれた自然豊かな場所で、夏は避暑地として、冬はウィンタースポーツで多くの観光客が訪れる。町は過疎化と高齢化が進むと同時に、自家用車保有率の高まりとともに、公共交通は衰退。

さらに町民が買い物ができる商業施設があるのは町の中心に位置する1エリアに集中しており、町内に日常生活品を購入するスーパーはとくし丸の拠点でもある第一スーパーの1箇所のみ。そのため、町内のエリアによっては、高齢者が日常生活の買い物をするための移動が難しいこともでてきているとか。

長野県信濃町のとくし丸の拠点の第一スーパー古間店 photo by mocchy
長野県信濃町のとくし丸の拠点の第一スーパー古間店 photo by mocchy

「実は20年前に自社で、移動スーパーとしてマイクロバスを走らせていたんです。しかし人件費や車両費など維持費がかかり赤字。かなり続けていくのが厳しかったので一度撤退したんです」(西條さん)

西條 慎也(Saijo Shinya)さん 株式会社第一スーパー商品部課長、古間店店長、水産部門バイヤー photo by mocchy
西條 慎也(Saijo Shinya)さん 株式会社第一スーパー商品部課長、古間店店長、水産部門バイヤー photo by mocchy

上手くいかなかった過去があるため、さらに過疎化と高齢化が進んでいく中でお客さまにこちらから商品を持って接触ができる移動スーパーにはなかなか手を出せずにいた第一スーパー。そんな中、安藤さんが移動スーパーとくし丸を始めるにあたり、第一スーパーに声を掛け、2019年から安藤さんのとくし丸での買い物支援が信濃町で始まった。

安藤さんが、移動スーパーのビジネススキームとして「とくし丸」を選んだ理由のひとつとしてあげてもらったのが、とくし丸の販売商品に関する仕組み。

それは安藤さんのような販売者が「商品を仕入れで買い取る」というのではなくクルマの売り場は「提携している地域スーパーの売り場の延長」という形をとっている、ということだ。つまり、商品はあくまでも”スーパーの商品”だから、その日のクルマでの販売終了後に精肉・鮮魚、惣菜などが残ってもスーパーの売り場に戻せるのだ。

野菜だけ買っても(高齢者の方は)生活はできない肉や魚も必要だし、夏ならアイスも食べたい。日常生活に必要なもの全部、商品として揃っているっていうのが『とくし丸』なの」(安藤さん)

とくし丸は、買い物の場であるとともに1軒ずつご自宅を訪問するので、お客さまの見守り機能も担う。安藤さんは週に4日、4つのコースをまわってお客さまを訪問している。

「いくら役場が、地域の高齢者たちを365日心配してても回りきれないし、目が届かない部分もあります。とくし丸は週に1回、安否確認ができるんですとくし丸で生活必需品が買えれば。1人で家から出ることが難しい方でも、安心して日常生活を送ることができるようになります」(安藤さん)

photo by mocchy
photo by mocchy

「お寿司が食べたい!」プチ贅沢は高齢者だって楽しみ!元気をもたらす買い物体験

高齢者が買い物をする方法として、「ヘルパーさんに買い物をお願いする」ということもできる。最初のうちは、「あれ買ってきて」といろいろと頼むが、時間とともに「頼む」ことが億劫になり面倒になって、毎回同じ品物しか頼まなくなることがあるんだとか。

それを解決できるのもとくし丸。自分で商品に触れ、好みのものを選ぶ。自分で買い物ができるという“楽しさ”を得ることで元気になることもあるという。

ヘルパーさんには、生きるために必要なパンや牛乳ならいくらでもお願いできる。しかし、お寿司などの贅沢品や嗜好品はヘルパーさんに頼むのはよくないという気持ちを持ちやすいため、贅沢品の買い物はお願いしにくい。

「私がとくし丸でお客さんのところに行ったとき、「お寿司が食べたい」と言って、お寿司を1か月間ぐらい毎週買ってくれたお客さまがいました。本当に自分の食べたいものって、他人には言えないんですよ。だからこそ「お店で自分で選んで買う、好きなものを買う」ということがとくし丸ならできるんです」(安藤さん)

とくし丸には、肉・魚をはじめ刺身や惣菜の冷蔵商品、アイスなどの冷凍商品が約400品目およそ1200点の商品が積め込まれる。photo by mocchy
とくし丸には、肉・魚をはじめ刺身や惣菜の冷蔵商品、アイスなどの冷凍商品が約400品目およそ1200点の商品が積め込まれる。photo by mocchy

必要な分以上は買わせない。「生活の見守り」がとくし丸を長く運営していく秘訣

ご自分の欲しいもの、食べたいものは購入してほしい、でもお客さまと長いお付き合いをするために、安藤さんはあることに気を配っているという。それは、”お客さまに買わせすぎないようにしているのだそう。

安藤さんのとくし丸での、お客さまの1回あたりの買い物の平均購入額は3000円。ビジネスとして、1日の総売上金額を増やすには、お客さまに多くの商品を購入いただきたいのが本音。

しかし、それは違うという。理由は、お客さまが、もし1度にたくさん購入しても、一週間で食べる量はだいたい決まってくるので、多く購入した場合、食べきれなく余ってしまうからだ。そうなれば、冷蔵庫に傷んだ食品が残ってしまい、普段離れて生活しているご家族が来て処分するというのは、お互いに気分が良くない。

だからこそ「買わせすぎない」事が大事なのだそう

「お客さまの買い過ぎで、ご家族からご連絡がくると、やはりあまりよくありません。安藤さんは購入量もしっかりコントロールしてくれてるから、非常にありがたいです 」(西條さん)

「やっぱり長く良い関係でいたいから、お客さまにまかせすぎず、 『1週間の適量』をみて販売しています」(安藤さん)

photo by mocchy
photo by mocchy

加齢にともなう食事の変化も、スーパーの商品ラインナップでカバー!高齢者の食事もサポート

安藤さんのとくし丸は2023年7月で4年を迎えた。長く良い関係を築いているので、お客さまの中には安藤さんのオススメを聞くなど、買い物のときの「コミュニケーション」を心待ちにしているお客さまもいるんだとか

そんな中で生まれたのが、「インフルエンサー・安藤さん」。買い物が大好きで、新しい商品も大好きな安藤さん発で流行る商品が生まれる。今よく売れているのが、チルド商品の「茹でない冷やし中華」。

昨年のバージョンは、水ですすいで麺をほぐしていたのが、今年はスープを混ぜるだけで食べられる上に美味しいらしい。この点を「冷やし中華を買いたい」という人に、安藤さんが「いや、こっちが良いよ」と言うと売れてしまうんだとか。

この冷やし中華の場合、「茹でない」というのも高齢者にとってはいいポイント。というのも夏の台所作業は、お湯沸かすだけでも大変だからだ。味だけでなく、高齢になると身体も変わってきて動きに制限が出るなかで、食事も変わっていく。

photo by mocchy
photo by mocchy

「4年経てば、みんな4歳年を取る。お客さまの中には、昨年できてたけど今年はできないっていうことも増えてくることもある。そうなると、(イチから料理を作らないといけない)野菜や魚肉という素材より、惣菜やレンチン商品などの出来上がったものがよく売れるようになりますね」(安藤さん)

地域スーパーとタッグを組んでいるからこそ、安藤さんはそういったお客さまのニーズにも対応でき、新しい便利な商品も上手く薦めている

お客さまの商品のニーズだけでなく、そもそもの買い物支援という意味では、第一スーパーはとくし丸以外にも、「買い物無料送迎バス」を運行している。「買い物無料送迎バス」は町の特定地点まで迎えにいって、スーパーで買い物してまた帰るという送迎対応だ。

「(自家用車に乗れなくなったら)まず、無料送迎バスを使って買い物に来ていただく。そしてバスが大変になったらとくし丸を使って買い物を楽しんでいただきます。

20年後さらにお客さまの中の高齢者の割合が多くなった時、この大きさの店舗だと、広すぎて買いづらい。 年齢を重ねると、自分の欲しいものが大体決まってくるので、買い回りしやすいレイアウトになってくると思うんです。

とくし丸は、これから先、増えていく事業なのかなと思います。店舗は時代に合わせながら変化していくでしょうし、今1台のとくし丸が、もしかすると2台になるということも将来的にはあるのではないでしょうか」(西條さん)

photo by mocchy
photo by mocchy

買い物好きの安藤さんが考える、「心の交流」が生まれる地域コミュニティとは

とくし丸での販売の際、基本は1軒1軒を回るスタイルだが、ときに“集合ポイント”と呼んでいる、1つのお家に近所の人が数人集まるところが何箇所かあるそう。

ビジネスとして、一度に複数人対応できるという販売パートナー・安藤さんの目線もあるが、福祉の面からみてもそれはすごくいい形だという。

「その人のうちの玄関に近所の人が座って待っていて。買い物が終わったら、その集合ポイントのお家の人から『お茶飲んでけ』って声がかかるので、お茶して帰るみたいな感じになっている場所がある。

それは、「コミュニティ機能の維持」という意味でも、 これから増やしていきたいなと思っているちょっとした近所の繋がりも復活できるし、おしゃべりできるし。そういうコミュニティは私も楽しい。

『今日来てないけど、どうしたんだろう』と、お互いがお互いを心配したり、無事を確認したりしながら、ご近所同士が集まって買い物する。そういう中で、『これ美味しかったよ』『あれ美味しかったよ』なんて言いながら、1個プラスして買ってくれるのが1番嬉しいです」(安藤さん)

安藤さんが体験したとくし丸の効果を教えてくれた。最近、とくし丸が行き始めた住宅団地でのこと。

「とくし丸に子どもが来るんですよ。子どもがとくし丸のことをすごい喜んでくれて。それを見てお年寄りも嬉しそうで。『あの子になんか買ってやりたい』と言ってお年寄りも家から出てきてくれます。こういうことはやっぱりすごく嬉しいです。とくし丸を通して年齢問わず一緒に買い物ができるって良い光景だなと思っていて。お年寄りに“物だけじゃない楽しみ”があるといいですね」(安藤さん)

移動スーパーが提示するのは「物のサポート」を超えた未来像。地域の年齢を超えた交流やコミュニティの活性化に貢献し、人々の生活に心地よい変化をもたらす可能性がありそうだ。

photo by mocchy
photo by mocchy

地域の暮らしの活力源。移動スーパーの存在が生み出す地域の新たな絆

買い物は人生とともに変化するもの。信濃町で提供する買い物支援サービスは、人生それぞれの段階に対応できるように工夫されている。

地域社会にとって、とくし丸のような移動スーパーは、ニーズを満たす必需品の買い物だけでなく、人々の暮らしや楽しみにも寄り添う存在として大きな価値を持っているのではないだろうか。地域の生活を共に豊かにし、充実した「人生の質」を育むため、買い物支援に真摯に取り組むとくし丸。その活動が未来へ続き、新たな絆と希望を紡いでいくことを願っている。

地域で人々の生活を支え、共に歩む地域プレイヤーに興味をお持ちの方へ。信濃町の素敵な物語に耳を傾けてみませんか?そして他の地域の活力を実感できる体験談やエピソードもぜひチェックしてみてください。

Editor's Note

編集後記

第一スーパーでは、とくし丸に載せる商品を選ぶ際、「今、お店で売れてるから紹介してきて」お願いしたり、とくし丸で売れてる商品を「お店に置いてみよう」ということをしているとか。移動スーパーを「スーパー内の一部」ではなく、「スーパーとプラス売り場」とすると販売機会創出への転換だな、とマーケティング観点からお聞きしていました。移動スーパーは福祉ではなくビジネスなので、長く続けるためにもこのちょっとの違いの考え方を大切にしていただきたいな、と思いました。

安藤さんの活動をシェアして応援!

安藤さんの活動をシェアして応援!

安藤さんの活動をシェアして応援!

LOCAL LETTER Selection

LOCAL LETTER Selection

ローカルレターがセレクトした記事