地域おこし協力隊
地方創生という言葉が注目されている現代で、地方に移住し、地域を盛り上げる「地域おこし協力隊」も年々注目されています。
そこで、実際に地域おこし協力隊として働いてきた人々の生の声を聞けるイベントとして、1年の活動を振り返り、締めくくりとなる報告会を実施。現在、地域おこし協力隊隊員の方や、協力隊に興味のある方に向けて情報発信がされました。
今回は、宮城県・登米市長沼ボート場クラブハウスとオンラインの同時イベント『登米市地域おこし協力隊活動報告会』より登米市の協力隊員2人「志田敏典隊員(観光振興支援員)」「丹菊龍也隊員(移住・定住支援員)」のレポートをお届けします。
【出演者自己紹介】
まず最初にステージに登壇したのは、観光振興支援員の志田敏典さん。2年目となる令和3年度は、本当にあっという間だったと志田さんは話します。
志田敏典隊員(以下、志田)「地域おこし協力隊 観光振興支援員の志田敏典と申します。目まぐるしく市の取り組みや、個人の活動を目一杯楽しんできた1年だったなと思います」
志田「私自身が昨年まず手掛けたのが、ガイドの作成です。宮城オルレ登米コースという、全長11キロのトレッキングコースを歩いて感じたことを、簡易的なガイドブックにしました。
それに合わせて、小規模なイベントを開催させていただき、その地域のことであったり、登米市のことを聞きながら一緒に歩く取り組みもしましたね」
そのほかにも、志田さんは農村交流研修に参加。グリーンツーリズム(農山漁村に滞在して農漁業体験を楽しみ、地域の人々との交流を図る余暇活動のこと。ワーケーションの文化があるヨーロッパ諸国発祥と言われている)を推奨している登米市で、農業体験をしながら旅をするという体験型のコンテンツに目をつけました。
ですが、コロナ禍でなかなか受け入れられなかったり、旅行に来る方の動きがなかったりと、二の足を踏んでいたといいます。
そこで、志田さんは新たに『教育旅行』という名目で高校生をターゲットに、前職の知り合いの学校にアプローチすることを考案。
生徒が体験するだけではなく、学習を深掘りできるよう『旅前』として、事前に農家さんとお話をする機会を設け、面識のある中で農業を体験。『旅後』では生徒さんから農家さんに何か面白いアクションをお願いできるような双方向の取り組みを目指しました。
そのほかに志田さんが地域おこし協力隊の活動としてあげたのは、東京都の日本橋にて、実業家を前にプレゼンテーションした経験。
志田「ワーケーションは、旅をして、余暇を楽しみながら仕事をするという掛け合わせの面白い取り組みです。
この内容に関して、連携協定を結んだ一般社団法人兜LIVE推進協議会の会員様に向けて登米市の魅力であったり、課題であったり、そのワーケーションをどう推進するか、という内容のプレゼンテーションをさせていただきました」
前職でも経験できないぐらいの高い緊張感の中でプレゼンテーションをしたのが、一生忘れられない取り組みになったと、志田さんは話します。
また、志田さんにとって一番思い入れが強かったのは、初開催となったキャンドルイベント『燈火』でした。
志田「2022年12月26日に長沼フートピア公演を会場にして、手作りのキャンドルを3,000ほど並べて、昨年起きた地震の復興を祝うイベントを開催しました。
来年に向けて皆さんの希望や、コロナで身動きが取れなかった皆さんのモヤモヤを、火に灯して『来年いい年にしましょう』と祈願したいという思いから、発案したイベントです」
このイベントが生まれたきっかけは、とある取材を受けた時「地域おこし協力隊として、なにか成果はあるのか」とストレートに言われたのがきっかけだったといいます。
実績らしい実績がないところに、自身の足らない部分を感じてた志田さんですが、このイベントから『燈火の人』という認知が生まれ、自身の名札代わりのイベントができたと志田さんは胸を張ります。
志田「最初は自分の成果のために始めたものでした。ですが、進めていくうちに、いろんな人が『手伝います』『一緒にやりましょう』と声を本当にたくさんいただいて、私個人の関係が爆発的に増えたきっかけにもなりました。
1回で終わらせるのではなくて、これからも大切に育てていきたいイベントです」
ここまで積極的に地域おこし協力隊の活動をしてきた志田さんですが、それ以外の活動にも力をいれていたといいます。
志田「昨年10月に地域おこし協力隊の業務をしながら、個人事業として『まちづくり企業縁屋』を立ち上げました。企業理念は縁を丸い円で結ぶ場所で、 いろんな人が集まって、誰かと誰かをつなぐことを大切にしております。 1月末で、300人ぐらいの方に来店いただけました。
その反響を受けて、縁屋を起点にたくさんの人とつながる『たくらむ会』『LINK』という活動もはじめ、世代ごとに様々な人と繋がり持つことができる環境を作ってきました」
令和4年度目標として、5月に大型のマルシェの企画を進行しており、協力をしてくださる皆さんと一緒にこのイベントを成功させたいと、思いを語りました。
志田さんの次に、ふるさと定住係にて、移住定住支援員として活動してきた丹菊龍也隊員が登壇しました。
丹菊龍也(以下、丹菊)「現在26歳で、今年で3年の任期を終えました。出身は東京都の目黒区で、巣鴨にある大正大学へ進学しています。大学では地域創生学部で、地域で起こる様々な課題の解決や、新たな価値を創出する力を学んでいく中で、東北で銭湯を作りたいという夢が出てきたんです」
丹菊さんの夢のきっかけになったのは、高校時代に震災のボランティアで南三陸を訪れたとき、隣町の気仙沼にあった、老舗の銭湯と出会い。誰に対しても屈託のない笑顔で迎えている女将の振る舞いに感動し、当時から丹菊さんは「この漁師町には、なくてはならない場所だな」と感じたといいます。
しかし、その銭湯も、かさ上げ土を盛る対象の地域に入ってしまっており、6年前に131年の長い歴史に幕を閉じることに。 これらの一連の出来事によって丹菊さんは、銭湯開業を目指すことを決めます。
丹菊「卒業後、私は銭湯開業に向けた起業の準備をしようと考えてました。ただ、それを心配した大学の先生が、たまたま大学が協定を結んでいた登米市で地域おこし協力隊として関わるのはどうかと提案してくれたのがきっかけで、入隊に繋がりました」
順調に地域おこし協力隊に入隊が決まった丹菊さんでしたが、そのあとに待っていたのは、コロナ禍による多大な影響でした。
丹菊「当初は、実体験を基としたSNSなどで情報発信、都内で開催される移住フェア等のイベントへの従事や、移住希望者の相談対応、あとは空き家情報バンクに関する業務など、移住に絡むものを行う予定でした」
しかし、コロナの影響により状況は一変。
「ですが、協力隊1年目の時期に、コロナがやってきてしまい、これまであった仕事ができなくなりました」
と、本来やるべきだった仕事がなくなる緊急事態に。新卒で地域おこし協力隊を選ぶ難しさも感じ、かなり心がすさんで、鬱状態になってしまったと丹菊さんは当時を振り返ります。
ですが、そんな丹菊さんをささえたのは地元の方々だったそう。
丹菊「先輩隊員や、フジイさん、 地域住民の皆さんにたくさん支えていただきました。見捨てずに、あの時、クビにせずに見守ってくれた役場の方々のおかげで、私はなんとか復活できました」
その後はコロナ前の業務は再開できない状況を受け止め、オンラインを新たに取り入れた移住相談環境の整備、体験ツアーの企画・実行に奮起した丹菊さん。
ほかにも「頼まれた事は断らない」精神で、移住以外にも活動の幅を広げたことで、丹菊さんの働きが評価され、当時の係長より「新卒でここまでできる人はなかなかいない」と太鼓判を押されたことが、自分の中でも転機になったと言います。
地域おこし協力隊2年目には、これまでの移住の業務と並行して、気仙沼市との連携企画の対応を行うなど、精力的に活動。
オンラインの移住体験ツアーには、YouTubeにて移住者の暮らしを伝えるために仕事と休みの日に密着した動画をアップロード。
また林業がテーマの時は、木工のワークショップを事前に商品送付し、 画面越しに一緒に取り組む仕組みを構築し、工夫をこらしました。
さらに、この年には個人活動として、移動式のサウナをスタート。銭湯を開業する活動の足がかりとするべく、小屋を地元の大工さんと協力して運営を開始しました。
丹菊「柱と壁と天井を全部、軽トラの荷台に乗せて、持ち運びができます。なのでイベントで出店して、皆さんに使っていただいてます」
また、協力隊3年目になると体験ツアーをアップグレードするという目的で、オーダーメイド型の移住体験を新たにスタート。
従来の移住体験では、あらかじめ決めたスケジュールに沿って動きますが、 移住を考えてる人それぞれに、いろんな考えや、環境の違いがあることに着目。1人1人に寄り添ったツアーの内容を提示できるようにと、移住体験を発表するとその年だけで8組の方が利用と実績を残しました。
丹菊さんは、今年で地域おこし協力隊を卒業する年。今後は南三陸へ行くことが決まっています。
丹菊「南三陸の地域おこし協力隊として、南三陸研修センターという場所に勤務します。研修のコーディネートや動画と記事の制作、コンテンツ開発をする予定です。あとは、サウナの方は岩手県の一関市の現鼻渓という日本百景にてオープンを進める予定です」
今回のイベントでは、実際に新たな企画を立ち上げたメンバーが登壇。地元の人や実際に仕事として関わってきた人々が観覧者として参加したこともあり、発表中や質疑応答の時間でも掛け合いが生まれるなど、終始和やかな雰囲気でイベントは進行しました。
Editor's Note
地方移住が注目されるなか、実際に移住して地域の仕事に貢献する、地域おこし協力隊のリアルが知ることができる今回のイベント。
自治体によっては、他の地域から来た隊員を受け入れられずにトラブルに発展することもあり、まだまだ問題は山積みではありますが、今回のイベントでは「自身のやりたいことを実現する」という思いが伝わってきて、地域おこし協力隊ならではの面白さがわかる内容でした。
YUYA ASUNARO
翌檜 佑哉