Ryokan
旅館再生
「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 – 人生に刺激を与える対談 -』。
第8回目のゲストは、宿泊機能だけでなく、ライフスタイルの提案をし続ける宿『里山十帖』を新潟県南魚沼市にオープンさせた、株式会社自遊人代表の岩佐十良さんです。
前編では、仲間が立て続けに過労死したことで、生き方や豊かさを問い直し、オフィス移転・移住によって生活が一変した変化を惜しげも無くお話いただきました。
後編では、廃業直前の旅館を稼働率90%以上の人気宿に生まれ変わらせ、ライフスタイルの提案をする宿の先駆けとして数々の実績をあげている岩佐さんから、宿創業までの背景や葛藤、そして今後について伺いました。
常に本気で地域と向き合う岩佐さんの丁寧で力強い刺激をお届けします。
平林:『里山十帖』の開業経緯は、地域の農家さんから「廃業してしまう温泉旅館を引き継いで欲しい」と相談が入ったことだったとお聞きしました。
僕自身も地域で活動していて思うのは、地域からの相談は信頼関係がないと成り立たないということ。しかも岩佐さんは移住者です。ただでさえハードルが高い中で、どうやって信頼関係を築かれたのでしょうか。
岩佐:旅館のご相談をいただいたのは、移住してから8年が経った2012年でした。自分たちで言うのはおこがましいかもしれませんが、地域の活動、特に農業に関してけっこう真面目に取り組んでいたのが評価されたのかなと思います。
平林:相談をもらったときはどんな想いだったんですか?
岩佐:長年、多くの人と出会う中で「宿泊業がいかに大変か」は見てきたので正直、宿泊業はやりたくなかったんです(笑)。でもレストランをやりたいという想いがあって、宿であれば夕食・朝食を通じて食の提案はもちろん、衣食住のライフスタイル全体の提案もできると、やってみることを決断しました。
平林:今でこそ『里山十帖』のような、ライフスタイル全体を提供する宿が増えてきつつありますが、当時は全くなかったんじゃないですか?
岩佐:そのとおりです。だからこそ、「衣食住を全て提案できるような宿があったら面白いよね」と頭の中で組み上げて、最終的にはメディアとしての役割を持つ宿泊施設をつくることができないだろうかと考えたのが『里山十帖』でした。
平林:岩佐さんがつくる宿は、元々の資源を活かしてつくられているのが、さらにすごいと思っています。僕自身、長野県根羽村で空き家を一棟貸しの宿に再生したことがあるんですが、ゼロから新しく作り上げるより、元々あった駆体や資源を活かすことって本当に大変だと感じました。
岩佐:お金と時間がかかるのがリノベーションなので、それを受け入れるしかないですよね。抜本的にリノベーションしようとすると、新築より遥かに大変だし、お金もかかる。平林さんがおっしゃったように、気持ちが萎える問題はたくさん発生します(笑)。
平林:それでも情熱を絶やさなかったのは何故ですか?
岩佐:単純な話で、途中で辞めたら解体費用や物件購入費用だけでも億近い借金を抱えてしまうことになるからなんです(笑)。「じゃあ進めばいい」というほど単純なものでもなくて、本当に成功するのかわからないし、常に不安を抱えていましたね。
平林:なるほど。「開業してよかった」という気持ちに至れたのはどのタイミングですか?
岩佐:開業して2、3年経ってからですね。開業して3ヶ月で92%の稼働率まで上がったんですが、そのときは「やってよかった」よりも「首が繋がった。死なないで済むかもしれない」みたいな状態でした。
実際、いつその稼働率が下がるかも分からないので日々不安でしたが、90%越えの稼働率が2、3年続いて、やっと「やってよかったな」と思えるようになりました。
岩佐:2022年にオープンさせた『松本十帖』なんかはオープンするまでにトータルで13億円ぐらいかけてるんですけど、長野県の出身でもない私がやるのは本当に馬鹿だなとは思いました(笑)。だけど、『里山十帖』を通じて地域に対する影響力を知ることができたからこそ、松本でもやってみたくなったんですよね(笑)。
松本市に住んでる人たちからすると、「松本はいい町だから、改めて宿をつくってもらわなくてもいい」と思っているかもしれない。けど、例えば10年後20年後ぐらいに「意外とあのとき、松本十帖ができて面白いことが起きたよね」みたいなことを言ってくれれば、メディアとしての『松本十帖』の意味があったなと思っています。
平林:南魚沼市や松本市だけに限らず、神奈川県箱根町や滋賀県大津市でも宿泊業を展開されていますが、岩佐さんが「この地域でやろう」と決めるポイントがあったらお聞きしたいです。
岩佐:僕の場合は完全にご縁。じゃあその縁とは何かというと、相手がすごくいい人か、真剣かどうかです。
何となく「やってください」と言われても、背負うリスクも半端ないから出来ないんですよ。僕は手品師でも何でもないから、僕が何かをつくったらそこにドカッとお客さんが来るってことはありません。1個1個オーダーメイドでつくって、本気で力を注いでいくからこそお客さんへと繋がっていく。だからこそ、一緒にできるかどうかの本気度はすごく重要なんです。
平林:基本的には現地の方とタッグを組んでやられているんですか?
岩佐:運営に関してはケースバイケースですね。自社で物件を取得して運営まで一貫して行うこともあれば、オーナーは地元の方や東京の会社で企画と運営を僕たちがやることもある。また事業計画、建築設計、さらに料理や運営手法まで僕たちが綿密に計画して、運営は地元の会社ということもあります。コンサル的な案件も多いのですが、コンサル案件でも一緒にできる方なのかを真剣に考えます。なぜってコンサルした会社は絶対に成功してもらいたいですからね。
平林:岩佐さんの実績を見てみると、すごい量のアウトプットをされている分、日常的にインプットされる量も膨大だと推測しているんですが、インプットをされる上で何か意識されていることはありますか?
岩佐:出向いた場所や出会った人、全てのものから吸収することですね。
平林:呼ばれて行く以外に、自らの意志で出向かれることもあるんでしょうか?
岩佐:もちろんあります。例えば最近だとサウナをつくる構想があるんですが、サウナを知るにはやはり本場のフィンランドを見ておかないといけないと思い、来週から8日間でフィンランドにある20ヶ所のサウナをまわる予定です。
平林:8日で20ヶ所ですか!?
平林:最後に、岩佐さんが人生で大事にされていることを教えてください。
岩佐:やっぱり20代の気持ちを持ち続けることですね。年を取ると守るものがいっぱい増えてきて、チャレンジがしづらくなるんですよ。もちろん真面目になることはいいことだし、丸くなることもいいことだけど、20代のときのような、ある種「明日はどうでもいい!今に全力だ!」みたいな気持ちをもってチャレンジし続けたいですね。
平林:個人的には、岩佐さんがつくるサウナがとても気になっているので、まだまだこれからも岩佐さんのチャレンジを追いかけさせてください!今日は貴重なお話をありがとうございました!
Editor's Note
「サウナを知るためには本場のフィンランドを知らなければ」とインプットのために大胆な行動をとる岩佐さん。その姿は宿をただの宿泊施設としてではなく、「リアルメディア」と捉え、長年編集者として培ってきた英知を全てつぎ込んでこられた姿に全て通ずるのだと感じました。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香