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里山の自然資本を活かした関係人口づくり。歴史と現代が融合する一棟貸切り宿 “埜の家” が繋ぐ、地域の未来とは

FEB. 22

拝啓、歴史や文化に光を当てた「地域づくり」を学びたいアナタへ

自然の彩りが色濃く映る、日本の誇るべき里山の風景。

しかしながら、人口減少や少子高齢化などの影響を受け、その美しい風景も減退の一途をたどっています。

そんな中、里山の未来を残すべく注目されているのが、“地域資源を活用した地域づくり”。

今回は築130年の古民家を宿へと改修したことで、里山の未来づくりの拠点にもなった、一棟貸切り宿埜の家(ののいえ)」を取材。地域で大切にされてきた資源と現代が融合した唯一無二の宿として人気を博しています。

佐藤将貴(Masaki Sato)さん 埜の家 支配人 / 兵庫県神戸市出身。埼玉県で営業マンとして働いていたが、2011年東日本大震災をきっかけに地方移住を考えはじめる。映画「おおかみこどもの雨と雪」の舞台となった富山県に興味を持ち、2014年富山県立山町へ移住。陶芸家である妻のみどりさん、二人のお子さんと暮らしている。移住後は県内の一般企業で働いていたが、2020年に転職し、現在は一棟貸しの宿「埜の家」の支配人を務める他、社内起業の形で、Eマウンテンバイクで里山と村をめぐる「里山マウンテンバイクツーリズム」の事業など、マルチに活躍中。

埜の家支配人・佐藤将貴さんが考える「地域資源を活かした里山の未来づくり」、そして「埜の家を運営する想い」とはーー。

古民家再生。現代と歴史が融合する築130年の一組限定「一棟貸し宿」

日本有数の豪雪地帯である、富山県立山町。除雪の際に出来る “雪の大谷” で知られる、世界有数の雲上山岳観光ルート・立山黒部アルペンルートを有しており、雪と山と大自然が楽しめる町として知られています。

そんな立山町にある「埜の家」は、北陸特有の建築様式「枠の内」をそのままに残す古民家。富山の大雪に耐えるため、金物を使わず梁を組み上げて造られており、大きな広間と高い吹き抜けが特徴です。

築130年の埜の家は、2014年に “地域の結の場” としてリノベーションを実施。2020年10月からは、1日1組限定の一棟貸し宿として営業をスタートさせました。

「埜の家の改修を行った前川建築の家づくりには、“経年美化” という想いがあって、年数が経つごとに味が染みていくような工夫が施されています」と語るのは、埜の家で支配人を務める佐藤さん。

「特に、大広間の立派な梁が目を引くと思いますが、目線より上の部分は建築当時の姿のまま残されています埜の家では今と過去との融合が味わえるのも魅力の一つなんです」と教えてくれました。

里山の想いが紡いだ支配人という仕事。「一緒にこの地域で働こう!」

“古民家改修” などがキーワードとなり、オープン1年目でも多くの方が訪れたという昨年でしたが、その中にはこの建物にびびびと感じた!と話される方もいたのだそう。

埜の家で働く前から、「この場所は、人を惹きつける魅力があると感じていた」と話す佐藤さん。佐藤さん自身が埜の家で働くことに至った経緯についても伺うと、随分と破天荒な佐藤さんの顔が見えてきました。

時はさかのぼって2014年。元々埼玉県に住んでいた佐藤さんでしたが、妻・みどりさんが立山町の地域おこし協力隊として任命されたことをきっかけに、一家で立山町に移住します。

地域のことを想い活動するみどりさんに刺激を受け、自身も「この地域がもっと良くなるためにはどうしたらいいのか」を日々考えていたという佐藤さん。そんな時に、地元の人から「マウンテンバイクを使って山を散策する」というアイディアをもらいます。

アイディアを元に登山道を調べていくと、立山町には立山信仰の修験道があったことを知り、「その道を復活させ、Eマウンテンバイクで探索する」という夢を描き始めた佐藤さんでしたが、熱意虚しく、最初はどこからも相手にされなかったといいます。

「絶対に里山のためになると思ったんですが、全然相手にされず、結果的に自分で道を整備しちゃいました(笑)。その時の場所がちょうど埜の家の裏手だったことと、地域おこし協力隊の関係で元々前川建築と関わりがあったので、前川建築の前川社長に連絡をしたんです。そしたら『佐藤君、一人で道をつくってるの!?』って、すごく驚いてくれて(笑)」(佐藤さん)

雨の日も風の日も、毎朝4時から山に入り、半年かけて2㎞の道のりを整備したという佐藤さん。

「前川社長自身も『埜の家を “人が交わるような地域の拠点にしていきたい” 』という想いがあったことから、『佐藤君、里山に対してそれだけの想いがあるなら、この地域で一緒に働こう』と声をかけていただいたんです」と嬉しそうに話します。

埜の家に込められた想い。“滞在型関係人口が生まれる宿に”。

埜の家の「埜」という字には、“自然の” “ありのままの” という意味があるといいます。では、佐藤さんが埜の家で支配人をする中で、大切にされていることは一体なんなのでしょうか。

「元々サラリーマンだったので特に思うのですが、僕たちの時間は常に『効率』や『合理性』を求められている。でも埜の家は、効率や合理性だけではない時間の在り方を感じてもらえる場だと思うんです」(佐藤さん)

埜の家に宿泊される方に必ず提供しているのが、地元のコーヒー専門店で焙煎されたばかりの珈琲豆。効率を求めるのであれば、自動販売機のボタン一つで熱々のコーヒーを飲むことができる時代ですが、あえてお客様に豆を挽いてもらうことで、コーヒーを入れる時間そのものを楽しんでもらうのが目的なのだとか。

そこには効率や合理性だけに捕らわれない、ゆったりとした特別な時間があるのだそう。

「お越しになられる方は、普段忙しくされている方がほとんどです。なので埜の家で “ありのまま” の時間をゆったり楽しんでもらってもいいし、アクティビティのコンテンツで里山を楽しんでもらってもいい。埜の家で過ごす時間のなかで、自由にいろんなものを感じていただきたいと思っています」(佐藤さん)

また、埜の家を 滞在型の関係人口が生まれる宿” にしたいと話す佐藤さん。

「お客様と時間を過ごす中で、『佐藤さんは里山の未来づくりをしているの?』と盛り上がることがあるんです。それがきっかけで、今いろんなプロジェクトが生まれています。元々 “人と交わる拠点にしたい” という想いがあったので、埜の家に滞在していただくことをきっかけに、関係を繋いでいけるような場づくりができたらと思っています」と優しい表情で話します。

地域の価値に再び光を。山で芽生えた「自分のやるべきこと」

現在は前川建築内で「マウンテンバイクツーリズム事業部」を立ち上げ、埜の家を拠点に里山マウンテンバイクツーリズムの事業も展開している佐藤さん。埜の家の支配人だけに留まらず、日々里山を想って活動されている佐藤さんの想いも深ぼります。

「幼い頃は神戸に住んでいたんですけど、目の前に標高300mくらいの鉢伏山という山があって、何かあったらいつも山に行って遊んでいました。自分の中で山は特別なんです」(佐藤さん)

里山に対する佐藤さんの原体験は、幼少期の山遊びその後富山へ移住をし、山や田んぼに囲まれた生活に身を置く中で、里山に対する想いがより強くなっていったと話します。

「移住してきて思うのは、“僕は地域からたくさんのプレゼントをもらっている” ということ。この土地に一軒屋を購入したんですが、本当に景色の良い場所で、そこから富山湾を眺めることができるし、朝焼けに燃える立山連峰や、赤く沈んでいく夕日を見ることもできます。夜は星が近く、冬になったら一面の銀世界が楽しめる。日常のはずなのに、別荘に来た気持ちになります」(佐藤さん)

里山を大事に思うからこそ、人口減少や少子高齢化といった里山が抱えている問題について「自分は何ができるのだろう」と深く考えている佐藤さん。最近では、地域の小学校・中学校が順々に休校や廃校になっていく現実に直面しています。

「人が減っていく問題について、夜中に薪ストーブを燃やしながら悶々と考えるんですけど、そもそも地域にはその場所に根ざした営みや歴史があって。それに再度光を当てることができたら、地域にとって価値があるし、『おもしろい』と思って人が集まってきてくれるかもしれないと思うんです道づくりもそうですが、地域の可能性を増やしていくことが、今の自分がやるべきことだと感じています」(佐藤さん)

自然資本を活用した経済循環の仕組みづくりへ!“自分事化” で築く、里山との関係人口

「埜の家」と「里山」に対する熱い想いを語ってくれた佐藤さんに、改めて今後の目標について伺いました。

「僕自身が移住者だからこそ感じているのは、『移住したい』と思ってその土地を訪れても、働き口がないと想いは続かないということ移住先にその土地の自然資本を活用した雇用があれば、人も根付くし、更なる広がりが生まれると思うんです。今、里山マウンテンバイクツーリズムを実施していますが、“道巡り” で『こんなところがあるんだ!』と里山に興味をもってもらえることが第一ステージですね。

そして、興味をもってもらうだけで終わるのではなく、次のステージとして “道づくり”  に関わってもらいたい。たとえば『ここの3mは私がつくったコーナー!』みたいになると、富山という土地に対して自分事化するじゃないですか?(笑)最終的には “関係人口” という言葉に集約されるかもしれませんが、プレイヤーが増えて、雇用が生まれるような自然資本を活用した経済循環の仕組みをつくりたいです」(佐藤さん)

「里山の未来をつくる」を合言葉に行動し走り続ける佐藤さん。その背景には、義務感ではない、佐藤さんの溢れんばかりの “里山愛” が滲み出ます。

「僕がやっていることは完全にでしゃばりなんです(笑)。でもそれがきっかけで化学反応が起きたら楽しいですし、そこから雇用が生まれたら地域の為になる。人生は一度きり。僕は、叶えたいことについて “どうやったらできるか” を日々考え、人が集まる場づくりをしていきたいですね」(佐藤さん)

『埜の家』

〒930-3221 富山県中新川郡立山町四谷尾691−4 (Googleマップ
tel. /076-464-3130
mail/stay@nonoie.jp

\2022.03.14 佐藤さんとイベント開催!(詳細は画像をクリック)/

Information

地域共創コミュニティ「LOCAL LETTER MEMBERSHIP」会員100名突破!

場所に縛られずに、 オモシロい地域や人と もっと深くつながりたいーー。

LOCAL LETTER MEMBERSHIP とは、「Co-Local Creation(ほしいまちを、自分たちでつくる)」を合言葉に、地域や社会へ主体的に関わり、変えていく人たちの学びと出会いの地域共創コミュニティ。

「偏愛ローカリズム」をコンセプトに、日本全国から “偏愛ビト” が集い、好きを深め、他者と繋がり、表現する勇気と挑戦のきっかけを得る場です。

<こんな人にオススメ!>
・本業をしながらも地元や地域に関わりたい
・地域で暮らしも仕事も探求したい、人が好き、地域が好き、旅が好き
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MEMBERSHIP の詳細&お申込みはこちら
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Editor's Note

編集後記

どこまでもアクティブな佐藤さん。
「高校生の時に猿岩石が日本一周したのを見て、『僕もやらないかん!』と思って、ギターもってヒッチハイクと野宿で日本一周したんです」といった驚きエピソードを連発。
「半年間毎日道を整備する」など、自分の想いを具現化される行動力も、チャンスをものにされた理由なのかもと思った学び多き時間となりました。

これからも LOCAL LETTERの応援をよろしくお願いします!

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