伝統工芸
※本記事は「だれでも送れる、LOCAL LETTER」の企画を通じて、読者の皆様から投稿いただいた記事となります。
「伝統工芸品」と聞くと、高い技術で日常には取り入れづらい。現代の生活には合わない印象。など、とっつきにくい印象を抱く人はまだまだ多いだろう。
今回ご紹介するのは、そんな伝統工芸品に対する印象を取っ払い、より身近に感じて欲しいと、山形県鶴岡市で地域おこし協力隊として奮闘する橋本美紀さんから届いたお手紙。
橋本さんが語る、鶴岡市の伝統工芸品「羽越しな布(通称、しな織)」の魅力・可能性とはーー。
「羽越しな布」はシナノキの幹の内皮を糸にして織る織物で、産地の1つである山形県鶴岡市関川地区では「しな織」と呼ばれています。
しな織は、シナノキの天然素材が紡ぐ繊細な美しさを持っており、関川地区では織物以外に、シナノキの糸を使ったアクセサリーからかごバッグ(山形では「てんご」と呼ぶ)まで、大小さまざまなクラフト商品があるのが特徴です。
そんな数あるしな織を使ったクラフト品の中でも特に橋本さんが惚れ込んだのが「編み帽子」。
「私自身、数ある “しな織” 品をみている中でビビッときたのが、織物とは違う佇まいだった “編み帽子” でした。この “編み帽子” を見たことが、私が “しな織” の奥深さを感じ、この魅力をもっと伝えていきたいと活動を始めたきっかけでもあります」(橋本さん)
しな織の中でも「編み帽子」に惚れ込み、さらには自分自身の活動としてどっぷりハマってしまった橋本さん。その魅力とは一体どんなところにあったのでしょうか。
「編み帽子は、シンプルで無駄を省いたデザインが美しさの秘訣です。シナノキの糸の風合いを活かしているので、夏の帽子として可愛さと美しさを兼ね備え、かつ職人たちの手仕事の精神が詰まった作品にもなっています」(橋本さん)
全て手仕事でつくられる編み帽子ですが、中でもシナノキの糸をつくる作業には熟練の技術が必要なんだとか。
「特に、繊維によって太さや強さが異なる樹皮の繊維を一定の糸にしていくのが大変なんです。私も実際に体験させてもらったことがあるのですが、木材を糸にしているため、どれ1つとして同じ状態のものがなく、技術的な難しさはもちろん、根気のいる作業だとわかります。実際に体験してからクラフト品をみるとまた違った見え方になりますね」(橋本さん)
やっとの思いで出来上がったシナノキの糸をかぎ針で編んで、編み帽子がようやく完成を迎えます。
「自然素材の編み帽子は、帽子としての機能だけでなく、手仕事に対する尊敬や暮らしの豊かさといった、人々の価値観をも表現しているアイテムです」(橋本さん)
まだまだ認知度が低い「しな織」。橋本さんは、そんなしな織をどう知ってもらい、日常生活に取り入れてもらうか。広報PRの観点でいろんな考えを巡らせている最中だと言います。
「自然の木材の風合いが強い “しな織” はどうしても、映えクラフト品になりにくい。編み帽子は見た目が “夏のアイテム” になるので、季節を超えたオシャレアイテムの紹介ができないかなと思っています。
あとは、地域の温泉『あつみ温泉』では、浴衣のそぞろ歩きを楽しめるので、しな織のクラフト品を手にしてもらえる機会をつくれないか考えています」(橋本さん)
冬には雪深くなる山の中にある集落・鶴岡市関川地区で昔から受け継がれてきた技術である “しな織”。シナノキの糸をつくるだけでも1年の工程を必要とするため、一つのクラフト品を完成させるまでには、とても長い時間を要しますが、それだけ手間暇がかかっても長く愛され続けている技術とも言えます。
「シナの繊維の利用は縄文時代からと言われており、編み帽子は悠久の時を体現しているのではないでしょうか。技術・技法を残すためにも、シナを使ったいろいろな作品を丁寧に見せていくということを大切にしていきたいです」(橋本さん)
鶴岡市の地域おこし協力隊として、旧温海町地域、あつみ温泉地域を中心に交流人口の増加のためのミッションを担当している橋本さん。今後は “しな織” をフックに、関係人口づくりにも取り組んでいきたいと話します。
「地域おこし協力隊に着任してから知り合った鶴岡市在住の方がいま、糸績みの後継者育成研修で技術を学んで精進しています。その方々は農家さんや自然ビジネスに興味をお持ちだったので、繋ぐことができました。
今後は地域内だけでなく、関東圏やその他の地域の人でも、織物や草木布に興味がある人を関川につないで、関係人口の増加に寄与できたらと思っています」(橋本さん)
橋本さんの挑戦はまだまだ始まったばかり。まずは、 “しな織” を知ってもらうところから一歩ずつ、でも着実に歩みを進めている彼女の挑戦をぜひ応援してくださいね。
「『伝統的工芸品』と聞くと畏縮してしまいますが、自然好きな人が手にする『編み帽子』や『かごバッグ(てんご)と見方を変えれば手にしてもらえやすいのでは、と思っています。
『技術継承』と聞くと、気後れしてしまいますが、カジュアルな場面で使える小物だとみれば、カワイイ小物を作りたい!という人がでてくるのではとも思います。
そのためにもまずは一人でも多くの人に知ってもらうことから始めたい。ゆくゆくは、実際にしな織アイテムを手にしてもらい、年に一度の『しな織まつり』に来てもらって、関川に触れて自然の中に入って新しい持続可能な価値観を体験していただきたいです」(橋本さん)
<この記事を投稿してくれた人>
橋本美紀
鶴岡市地域おこし協力隊/あつみ観光協会
鶴岡市地域おこし協力隊。旧温海町地域、あつみ温泉地域を中心に交流人口の増加のためのミッションを担当。1974年石川県かほく市出身。テレビ番組ディレクター⇒イベントディレクター⇒ウェブコンサル(フリー)⇒現在。食べること、吞むことが好き。スナック・バー好き
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