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LOCAL LETTER

売るのではなく、使い道の提案で成長を続けるヤマチク。地域ビジネスの原理原則

MAY. 19

KUMAMOTO

拝啓、地域素材の価値を活かしたいと願いながら、届け方に迷うアナタへ

熊本県南関町に本社をおく株式会社ヤマチク。純国産の竹の箸をつくり続け、地域に根ざしたものづくりと、新たな価値の届け方に挑戦している企業です。

代表の山﨑さんは、自社ブランド『okaeri』の立ち上げをはじめ、竹という伝統素材に新たな可能性を見出してきました。

その特徴は『商品を売る』ことだけでなく、『どう届けるか』を徹底的に設計していること。

まちの人とのつながりを起点に、商圏を広げすぎず、届く範囲へ確実に届けていく。そうした積み重ねによって、着実に業績を伸ばしています。

素材の難しさを受け止める中で見えた独自性、想いを共有する仲間との共創、価値の『使い道』を生む場づくり。

ヤマチクの実践には、『価値を育て、届ける』多くのヒントが詰まっています。

地域活性に特化したキャリア開発の講座『WHERE ACADEMY』の講師も務める山﨑さん。今回は、地域でどのように事業を展開し、価値を届けてきたのかについてお話を伺いました。

効率では測れない。素材の「難しさ」×職人の営みが育てるものづくり

「竹という素材は扱いが難しく、一本ごとに状態が異なるため、加工や保管の面にも多くの課題があります」(山﨑さん)

山﨑 彰悟氏 株式会社ヤマチク 代表取締役CEO / 24歳で家業の株式会社ヤマチクに入社し、2024年6月28日に代表取締役CEOに就任。初の自社ブランド『okaeri』で『NY ADC』や『Pentawards』などの国際的なデザイン賞を受賞。『ICC FUKUOKA 2022 CRAFTED CATAPULT』にて優勝。『マーケターオブザイヤー2025』地方編優秀賞を受賞。

「竹の箸をつくる機械は特殊で、竹を割って節や凹凸(おうとつ)を削る工程など、独自の技術も必要です。竹の切り出しから加工まで一貫して行うなど、簡単な作業ではありません」(山﨑さん)

職人の経験や感覚が大きく影響し、機械だけでは対応できない作業が少なくありません。さらに、竹製品は完成までに時間がかかり、湿度や温度の影響を受けやすいため、素材の保管にも細心の注意が求められます。

当然ながら、その分だけコストや手間も。

それでも工程を省かない理由について、山﨑さんはこう語ります。

工程を飛ばすと、良いものにならないから

竹に関わる職人の世界は高齢化が進み、後継者不足という課題も。それでも、誰かが続けなければ途絶えてしまう仕事であり、技術と仕組みの両方を維持していく必要があります。

素材そのものの手間や難しさを抱えながらも、『他社がやらないからこそ価値がある』と考え、竹に向き合い続けてきました。

効率だけでは測れない工程を積み重ねることで、品質と独自性を両立させている点が、ヤマチクの大きな特徴です。

「経済性・合理性の視点から、お箸の形状加工の工程については、他社の生産拠点は海外へと移っていきました。今では、純国産かつ専業の竹のお箸メーカーは他にいません。

儲けが出にくい構造の中でも、誰もやりたがらないことをやり続けてきた。結果的に、それが強みにつながったんです」

箸づくりの研磨・仕上げ工程。力加減や角度が少しでもずれると削れすぎるなど、均一な仕上がりには高い集中力と熟練した手の感覚が求められます。

竹の箸を販売するうえで山﨑さんが大切にしているのは、『商品そのもの』ではなく『届け方』です。

背景には、山﨑さんが感じていた「原産国表示」への違和感がありました。

「原産国は、最終加工国が表示されるため、海外で加工された製品でも、日本で塗装やパッケージといった最終加工をすれば『日本製』と表示される場合があります。だからこそ『純国産で価値あるものを届けたい』と思うようになりました」

そして、素材だけでなく、職人や地域といった「背景まで含めて価値を届けることを大切にしたい」といいます。

「働く人たちの営みが続かなければ、竹のような環境に良いとされる資源も活かせないと思うんです。

竹の箸を単なる日用品としてではなく、地域や職人、素材の背景を含めた価値として伝えていきたい考えています」(山﨑さん)

『okaeri』は単なる商品ではない。ブランドは価値を直接届ける仕組み

竹箸は、軽くてしなやかで口当たりがやさしいのが特長。日常の中で使いやすさと心地よさが生きるヤマチクの箸。

こうした取り組みの延長線上にあるのが、自社ブランドの『okaeri』です。

『okaeri』は単なる商品ブランドではなく、価値を直接届ける仕組みとして構想されたもの

そこにあったのは「価値は自分たちの言葉で届けたい」という想いでした。

「『okaeri』はトップダウンではなく、社内から自然に生まれました『働く人たちが誇れる仕事をつくりたい』というテーマを軸に事業の方向性を見直し、現在のブランドへとつながっています」(山﨑さん)

さらに、コロナ禍での市場環境の変化もありました。

「国内市場を見ると、都市部よりも地方の小売店の方が、比較的早く回復の動きを見せていました。そうした店舗は地域との結びつきが強く、柔軟に対応していた点が印象的です。

オンラインでのつながりも重要で、取引先とのコミュニケーションの取り方や頻度によって、回復のスピードにも差が出ていました」

単に商品をつくるだけでなく、関係性の中で価値を伝えてい必要性を実感。

一方で、価値を届けるためのクリエイティブにおいて、外注にはコストが伴うだけでなく、自分たちのこだわりや価値観を正確に反映してもらう難しさもあります。だからこそ『誰とつくるか』が、ものづくりの質を左右する重要な問いとなっていきました。

「そこで大切にしていたのが『想いを理解してくれる人』との出会いです。商品の背景やストーリーまで共有できるかどうかが、クリエイティブの質を大きく左右する。だからこそ『誰とつくるか』が重要になります。

伝える力を持つクリエイティブディレクターに、自分たちの『翻訳者』として関わってもらうことで、発信の幅が広がりました」(山﨑さん)

地域で活動するクリエイターとの関係は、大きな意味を持ちました。

「僕は運がよかったのかもしれませんが、最初に出会ったのがクリエイティブディレクターでした。その人が、グラフィックや撮影など、案件ごとに最適な人を集めてくれる。『届ける』工程の中で、上流から見られる人と最初に出会えたのはよかったなと。

偶然、地元が九州の人が多かったんです。地元ならではの感覚や視点を共有しながら進めることで、自然と共感される表現が生まれます。信頼できる仲間とともに取り組むことが、結果として良いものづくりにつながっています」(山﨑さん)

外部のデザイナーやカメラマンを選ぶ際、明確なスキルやクリエイティブの基準だけで判断するのではなく、出会いの中から関係性を築いていくことが多いそうです。

「デザイナーさんと組みながら、唯一プロダクトデザインだけは外に出していないんです。僕たちが世界一『竹のお箸』に詳しいはずだから

でき上がった商品をどのように届けるか、パッケージライティングやグラフィック、写真などはプロの力を借りる。でも、形状などは外に出さない。その点は強いこだわりとして持ち続けてきました」

関係性が価値を広げる。地域に立ち返り、人を呼ぶ実践

ファクトリーショップ『拝啓』。作り手の背景やストーリーに触れることができる場です。

ファクトリーショップ『拝啓』は、熊本県南関町にある工場に併設する店舗です。木の温もりを感じられる外観と、大きなガラス越しに広がる店内。竹箸の魅力やものづくりの背景を体感できる空間となっています。

地域での事業には『どう価値をつくるか』が重要であり、ヤマチクでは商品そのものではなく『届け方』を設計。竹箸を背景とともに伝えることで価値を高め、顧客に直接届く場を生み出しています。

その実践として立ち上げられたのが『拝啓』でした。

コロナ禍で従来の販路が機能しなくなる中、多くの企業がオンラインや広告へと軸足を移していきました。その中で、あえて地域での販路に立ち返ります。

「従来の方法が通用しなくなる中で『自分たちで人を集める必要がある』という課題に直面します。まちの人たちが商品を手に取り、購入できる場として、2023年にファクトリーショップをオープンしました」(山﨑さん)

オープンのきっかけには、コロナ禍で催事などが減る中で開催を決めた、一つのイベントがありました。

2020年にヤマチクの工場で開催した『大日本工芸市 at 熊本』。全国各地からものづくりの企業が集まり、物販やワークショップを行いました。

この取り組みの中で山﨑さんは、二つの学びを得たといいます。

「『コンテンツさえあれば場所に関わらず人は来るということ。そして『ローカルはお金がないのではなく、お金を使う使い道の選択肢が少ないということ」

そこで着目したのは、地域の集まりや送別など、ローカルならではのギフト需要。

低単価だけれど「センスがよくて、他の人と重ならない」。そんな潜在的なニーズに応えようと立ち上げたのが『拝啓』だったのです。

さらに、ローカルで集客が伸び悩む理由を『人がいない』のではなく『きっかけがない』と捉えた山﨑さんは、確実に情報を届ける手段としてチラシ配布を選択します。

都市部ではSNSや広告が有効である一方、地方では人とのつながりの中で、情報が広がる力が強まると考えるからです。

「隣近所の情報をSNSで調べないですよね。チラシは約8千枚を配布し、PTAや子どもの習い事など具体的なルートも活用しました。当時の南関町の人口は約9千人。当初は3日間で千人の集客を見込んでいましたが、結果として約2千人を集客でき、短期間で大きな売上につながりました。

ファクトリーショップは販売の場にとどまらず、まちの人が関わり、話題にすることで価値が広がる場。来場者が次の来場者を呼び込む循環が、持続的な集客を生み出しています」(山﨑さん)

根底にあるのは、竹箸そのものの価値です。

製造工程や国産であることへのこだわりといったストーリーを丁寧に伝えることで、『安さ』ではなく『納得』で選ばれる商品へ

広く売るのではなく、届く人に深く届ける。その積み重ねが、持続的な販売へとつながっていきます。

ヤマチクの取り組みの特徴は、商圏を無理に広げない点にあります。車で来られる範囲に絞り、地域の生活圏に寄り添うことで、再現性のある売上を生み出しています。『広く届ける』のではなく、『確実に届く範囲で積み上げる』という戦略です。

「ものづくりやブランディングはどうしても都市部を前提に考えがちですが、まちの人たちにきちんと評価されることが大切だと考えています。市場を広げることも重要ですが、それ以上に、まちに根ざした価値を丁寧に届けていけるかを意識しています。

何百万人に届けることを目指すのではなく、顔の見える範囲で価値を積み重ねていく。そのためには、地域を観察し、人の動きや関係性を理解しながら、小さく試し改善を重ねていくことが重要です。こうした積み重ねが、地域に根ざした事業を形づくると考えています」(山﨑さん)

2020年にヤマチクの工場で開催した『大日本工芸市 at 熊本』。約2千人が訪れたこのイベントで「地元でもコンテンツを用意できれば、お客さまが来てくれる」と手応えを掴んだそうです。

山﨑さんが目指すのは、地域に『働く場所』『活動できる場所』をつくること。そうした場があることで人が集まり、地域の可能性が広がっていきます。

単なるアルバイト先ではなく

「ここで働けてよかった」

と思える経験が、まちへの愛着を育てていく。そうした積み重ねが人を呼び込み、地域の魅力を高め、次の挑戦へとつながっていくのです。

最後に、これから地域で事業をはじめる人やすでに挑戦をはじめている人へ、山﨑さんはこう語ります。

まず手を動かしてみることが大切。完璧を目指すよりも、まず形にしてみるその積み重ねが、次のステップにつながっていきます」

地域に根ざし、まちの人たちと関係性を築きながら価値を届けていく。その実践が人を動かし、これからのローカルビジネスの可能性を切り拓いていきます。

山﨑さんも講師を務める、地域に根ざした事業や特産品販売を学べる講座は『WHERE ACADEMY』公式LINEでお届けしています。

Editor's Note

編集後記

今回の取材を通して感じたのは、地域の事業は特別なことではなく、小さな行動の積み重ねから始まるということです。一人の挑戦が、人を動かし関係性を生み、やがてまちの風景を変えていく。そのプロセスこそが地域の価値であり、可能性なのだと実感しました。

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