生き方
「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 – 人生に刺激を与える対談 -』。
第5回目のゲストは、“日本一おかしな公務員”から、民間企業へ転職した山田崇さん。
公務員時代には「地域の課題を想像で捉えるのではなく、実際に当事者になってみないと商店街の現状・課題はわからない」と、閉まった空き店舗のシャッターを開ける賑わい創出プロジェクト 『nanoda(なのだ)』を展開したり、TEDトークでの動画『元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな「地域活性化」の取組み』が話題になったりと、数々のユニークな活動をされてきました。
そんな山田さんが、24年の市職員生活に終わりを告げたのは2022年の3月。NTTコミュニケーションズグループでオンライン動画学習サービスを手掛ける株式会社ドコモgaccoへの転職を決断した背景、そして転職した今だからこそ語れる山田さんの想いとはーー。
「このままの自分でいいのか」と悩むアナタに注ぐ、一匙の刺激をお届けします。
平林:山田さんといえば、ご自身の著書でもある『日本一おかしな公務員』のとおり、長野県塩尻市の “スーパー公務員” というイメージが非常に強かった中で、2022年の3月末に退職されて、東京都内に本社を置くドコモgaccoに転職されました。山田さん、今は東京と塩尻市の二拠点生活ですか?
山田:そうです。現在はオンライン動画学習サービス『gacco(がっこ)』の運営会社である株式会社ドコモgaccoの管理職として働いています。家族は塩尻にいるので、東京と塩尻の二拠点。
平林:山田さんの動向が気になってたんですけど、今は教育分野で尽力されているんですね。
山田:そうなんですよ。2014年からスタートした『gacco』に向き合っている日々ですが、実は教育に携わることは僕の昔からの夢でした。僕は今48歳になりますが、30代前半から「大学の先生になりたい」と公言してたくらい。
ただ30代前半の当時は、公務員として定年退職すると思っていたので「60歳を過ぎてから大学の先生になる」と公言していました。ご縁があって2015年から信州大学で授業をするようになって、昨年から特任教授にもなりました。
60歳を待たずして夢が叶ってしまっているところもあるんですが(笑)。そんな背景があったので、転職をして「教育」という分野に関わることに違和感はなかったですね。
山田:自分で言うのもなんですが、『スーパー公務員』って取り上げられていたし、「辞めるのもったいない」と言ってくださる方もいて、このまま塩尻市役所で働き続ける選択肢もありました。でも正直、60歳まで公務員を続けた自分を想像するのが怖かった。
山田:よく「山田さんだからいろんな挑戦ができるんだよ」と言われますが、僕の行動を見て「自分たちもやろう!」と行動に移してくれた人たちがいたことも事実。
山田:だから僕が進むことで生まれる変化に喜びを感じていたんですが、ふと、「私が今の延長線上にある人生に怖さを感じ、悩んでるなら、280万人の地方公務員みんなが悩んでいるんじゃないか」と思ったんです。
だったら、私がその悩みの当事者になって、ちょっと早く仮説を立てて新しい挑戦をすることが、誰かのヒントや行動に繋がるんじゃないかって。
平林:壮大な実験ですね!
山田:私自身、郵便局と兼業農家の両親の間に生まれた長男で、レタス農家と公務員という父親の背中を見て育ちました。
でもそんな私が2012年の公務員時代に、「商店街に住んだことも、商売をしたこともないのに、商店街の活性化や空き家対策はできないのではないか」と仮説を持ったからこそ、当事者になる空き家活用プロジェクト『nanoda(なのだ)』をスタートしました。
「仮説を持ち実行してみる」という一連の行動は、僕としては当たり前のことだったんですが、信州大学の先生から、「山田さんの行動は、『参加観察法』だよ」と言われまして。参加観察法(※)って、つまり現場に行き、自分も現場に参加しながら観察をすることなんですが、僕たちがnanodaでやったのは、実際に空き家を借りて「大家さんがどういう気持ちなのか」とか「空き家のシャッターを開けたら、どういった人がそこに通っているのか」を知るための行動だったんです。
※参加観察法:対象となる所属状況に研究者が参加し、何らかの役割を果たしながら観察をする方法。 (例:病棟で看護業務をしながら患者を観察する)
山田:今思うとnanodaだけでなく、僕自身の人生をつかって盛大な実験をしている感覚があります。こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど「東京に住んだことがない」「民間企業で働いたことがない」なのに、私は公務員時代に、そういう人たちをターゲットに「関係人口とか官民連携、移住定住施策を担当していた」。
だからターゲットにしていた「東京のビジネスパーソン」という当事者になって働いてみたらわかることがあるんじゃないかって、ごく自然に思いました。参加観察法のような感覚が常々僕の中にあるんでしょうね。
平林:山田さんは「一歩目を踏み出す天才」ですよね。マインドとしてもですが、スキルとしても「どうしたら一歩目が踏み出しやすくなるのか」を習得されていると思います。山田さん流の「一歩目の踏み出し方」を教えて欲しいです。
山田:「小さく始める」を意識することと、「やめる日を決める」をセットで実践しています。例えば、先ほどお話ししたnanodaで空き家を借りたのが、2012年4月15日なんですが、「3ヶ月だけ借りる」という契約にしたんですよね。
公務員が空き家を借りることも、仲間を集めて空き家を借りることも初めての経験だったので、正直、未来がどうなるかわからなかったんです。だから「3ヶ月やってみて、継続についてはその後考えればいい」という形を大家さんに相談して決めました。実は今でもその3ヶ月契約が続いています。
平林:え!今でもなんですか。
山田:そうなんです。この話って、会社だと「実証実験」という言い方になると思うんですけど、スタートしてみないと分からないことはたくさんある。スタートすることで見えてくるものもあるし、それらのサンプルをいくつか持つことで、なんとなくの方向性や、今の時代に合ったものが明確になると思うんですよね。
山田:さらに言うと、普通空き家を借りるときって、「飲食店をやりたい」とか「オフィスにしたい」という目的があるんですけど、私たちは当時「公務員がまちづくりをするのに、現状課題を知らないまま政策をつくることはまずいのではないか」という仮説から空き家を借りようとしたので、大家さんにも「空き家を借りる目的は、現場を知る当事者になることなんです。必要だと感じたら、自分たちで空き家の掃除からやります!」とお願いをしました。
平林:仮説のつくり方がすごく上手ですよね。
山田:バイアスや前例を疑うことを意識しているのかもしれないです。現実に地方都市では人口減少が進んでいて、今の情勢は先輩方や両親世代が経験していないフェーズです。だからこそ、「国に言われたから実行してみる。ではだめなんじゃないか」という疑問があった。
望まない現状があるなら、一度でも角度を変えないと、望まない未来が早く近づいてきてしまうんです。だから仮説を立てて、覚悟をもって3ヶ月でもやってみれば、違った未来が見えると自分の中で感じているんです。
爆速で数々の挑戦をしてきた「一歩目を踏み出す天才」山田崇さんの後編記事も公開!実際は不安を抱えながらも「一歩目を踏み出せる」山田さんに、より具体的な極意を学びます。後編『不安とどう付き合う?行動力の塊・山田崇に学ぶ“挑戦への踏み出し方“』もぜひご一読を!
Editor's Note
元 “スーパー公務員” の新たな挑戦の背景に踏み込んだ今回の対談。私も含めて山田さんの動向が気になっていた方も多いのではないでしょうか!?今回の対談で感じたのは、山田さんの当事者意識の高さ。「自分が悩んでいるなら声をあげられていないだけで、みんな同じ悩みを持っているのではないだろうか。だったら自分が先回りして実践してみれば多くの人たちの悩み解決になるのでは。」そんな想いからスタートした山田さんの壮大な“実験”という名の人生から目が話せません。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香