NAGANO
長野
※本レポートは2024年9月25日に行われたイベント「【ローカルプロデューサー養成講座 特別公開講義②】地域の文化・自然を活かすプロデューサーの役割とは」を記事にしています。
進化を続ける実際のプロジェクトに参画し、それを仕掛けるプロデューサーから社会性と経済性の両輪をまわす事業づくりのリアルを学んでいく「ローカルプロデューサー養成講座」。
本講座では、地域でぶつかる経済性の課題を乗り越えるため、ローカルを強みに変えるプロデューサーの役割と知識を身近で体感できます。それを通じて、ご自身のフィールドで活用するための「実現し続ける力」を身につける超実践型のプログラムです。
第1期からは25名の受講生が巣立ち、第2期目となった「ローカルプロデューサー養成講座」。開講に先立ち、特別公開講義をお届けしました。
今回の講義の講師を務めたのは、長野県伊那市で森林ディレクターとして森と人の暮らしのつながりを作り続けている株式会社やまとわ取締役の奥田悠史さん。奥田さんとともに、プロデューサーが事業・プロダクトを生み出す過程を深掘り、ローカルプロデューサーの目線と考え方を明らかにしていきます。
平林 和樹(モデレーター、株式会社WHERE):今日は、自然の資本を活かして地域を守っていくために、地域資源をどう価値に変え、経済の流れに乗せていくのかをお聞きできればと思います。はじめに自己紹介をお願いします。
奥田 悠史 氏(以下、敬称略):僕は森林ディレクターという肩書きで、2016年に「森をつくる暮らしをつくる」を企業理念に掲げる、株式会社やまとわ(以下、やまとわ)を立ち上げて活動を続けています。
奥田:森林ディレクターというのは、森とディレクション両方の専門性をもって、森と関わる課題を解決するアイディアを考え、それをカタチにする仕事です。簡単に言うと、森のことを考えるときに、森だけを見るのではなく、まちや人、風景や観光資源など、関わる環境全体を見た上で、この森をどうしていけばいいんだろうと考えていくことをやっています。
やまとわでは、農林業からものづくり、企画、販売に至るまで取り組んでいます。軸となるのは、その地域にある木の物語を活かして新しい見立てをつくることです。里山の木には使いづらい樹種があるんですよね。
あえてその樹種を使う意味を生み出す提案を考えて、プロダクトをデザインします。例えば、家具などには不向きとされる樹種の柔らかさと軽さを活かした「持ち運べる家具」や、木を削った経木のブロックメモをつくりました。このようにして、木や風土の価値を再編集しています。
奥田:また、木工などのものづくりで出る端材を炭にして土に戻し、里山の落ち葉や地域にある馬糞などを利用して堆肥をつくっています。その堆肥を活用して無農薬・無化学肥料で農産物・加工品を生産するなど、山と農業がどうやって繋がるのかを土で表現しながら、新たな商品にする。
そうすることで、森があるからできる農業になり、それぞれの関係性が生まれます。このようにして、地域資源をおもしろがりながら、プロダクトを作って届けています。
奥田:プロダクトだけではなく、ソフトコンテンツも手がけています。森を知り、森を楽しむプログラム「Shindo.(しんどう)」は、「経験するために生きている」僕たちの「はじめまして」の経験を通して、人生をおもしろくしていく体験型コンテンツです。
木登りや薪割りなどから森を楽しみ、遠くなってしまっている森と私たちの暮らしの関係性を繋ぎ直す道をつくろうとしています。
こういった取り組みを通じて、地域の森・里山からものづくり・暮らしを循環する、顔の見える関係をつくり直していきたいのです。
そのために、夏は農業、冬は林業をして、そこで出てくる木や農産物を使ってプロダクトをつくっています。木工の端材は畑に還元したり、エネルギーにして暮らしに届けたりする。そこで培ったノウハウを活かして、森づくりの企画をプランニングしていきます。
奥田:美しい中央アルプスの麓で暮らしながら、森と暮らしの繋がりと、地域の風土が循環するデザインをつくろうとしているのが、僕たち、やまとわという会社です。
平林:僕は奥田さんの言葉がとても好きなんです。いまおっしゃられた「経験するために生きている」という言葉もいいですね。WHEREの講座も、頭にインプットするだけでなく、実践して得る身体知を大事にしています。
実際、ローカルで事業をつくるときの「実行力」が重要で、その実行力を身につけていく過程で大事なのが経験だと感じているからです。今回2期目のローカルプロデューサー養成講座では、TSUG合同会社代表の新山直広さんにも講師をお願いしています。新山さんもデザイナーとして活躍されている方なので、奥田さんとの共通点も感じました。
奥田:僕たちのような事業に携わるには、いわゆる「デザイン」ができなくてもいいと思うんです。「これはどういうふうに伝えればいいんだろう」とか「これがこうなのはどうしてだろう」という問いを立てて、様々な角度から「見立てる」「編集する」視点を持つことはとても大事だと思います。
平林:農林業は特に歴史の長い産業なので、関わる人が多く、年代も幅広いため、合意形成が難しいと思います。その中で、新たな事業をどのように組み立てて、展開していらっしゃるのでしょうか。
奥田:僕らの活動の軸になっているのは「森をつくる、暮らしをつくる」という理念です。根底にあるのは「森が豊かなほうが人間が幸せだ」という考えで、それが「森を豊かにしたい」に繋がっています。
しかし、現実問題としてその理想的な状態をつくるのはすごく難しい。なぜなら物事は深掘りしていくほど、さまざまな要因が絡み合っていて、ひとつの方法で全て解決とはならないからです。
林業ひとつとっても、森が荒れていることを知らない人も多いですし、食品と違って「無農薬」などの特徴を打ち出しにくいんですよね。そんななかで、事業としても成り立ち、地域の森にもインパクトを出せる状態をつくるのは、ものすごく難しいことだと感じています。
しかも、農林業もものづくりも儲からないから衰退しているわけです。そこに携わるにあたって、そもそも儲からないのはなぜかと考え、産業を支えるそれぞれの段階で分業制が進み過ぎているからではないかと思い至りました。木を育て伐出する林業、製材所などの林産業、消費者の流れのなかで、「安く売ってよね」と一番負荷がかかりやすいのは生産者です。
奥田:その分業化しているシステムを全部繋ぎなおして、顔の見える関係性を構築していくことが必要です。「安くして」と言われないためには、ブランドとしての付加価値も関係性も欠かせません。その実現に向けて、全てがつながる事業を実践しています。
農林業もするし、ものづくりもやる。一見すると、「なんでそんなことやってるの?」と不合理に見えることが一番森にインパクトを与え、事業としても成り立つのではないかと思ったんです。
平林:やまとわが「複合経営」を掲げていらっしゃる理由がよくわかりました。とはいえ、実際に事業として始める際、背負うリスクは小さくないと思うのですが、事業内容などはどのように決定していくのでしょうか。
奥田:僕たちは「森をつくる、暮らしをつくる」という企業理念を掲げていますが、「森が荒れているから皆さん森に寄付してください」とただ言っても社会課題が解決することはありえません。
僕たちが常に提案し続けなければいけないのは、暮らし手の人たちの豊かさと、森の豊かさがどう接続するのかという視点です。
例えば、やまとわの事業のひとつに「YAMAZUTO(やまづと)」という食のプロダクトがあります。商品のひとつであるルッコラのジェノベーゼソースの試作段階で、「森の資源を使いたい」と思い、スパイスとして松の葉やカラマツの葉を入れてみました。でも、全然おいしくなかったんです。そんなときに「それでも森の資源を使いたい」を優先してしまうと、売れる商品にならないと思うんです。
奥田:おいしさや幸福感など、暮らし手の豊かさにきちんとつながっているのかを考え切る視点はとても重要です。
僕らが商品やサービスをつくる際、「これ絶対おもしろい!」と心から感じた時点で、大体のことは間違いではない気がしています。間違っているのは、その事業のやり方・届け方・プロダクトのデザイン設計の部分です。
おもしろいと自分たちが感じたように、本当は刺さる層がいるのに、商品やサービスのデザインが疎かだったりしたことで、うまくいかないことも多いのではないかと思います。
平林:確かにそうですね。いわゆるプロダクトアウトかマーケットインか、という話に関わってくると思います。自分たちが心から「おもしろい!めちゃくちゃいい!」と思ったものを、どうお客さんに届けていくか。プロダクトアウトとマーケットインを掛け合わせる力がプロデューサーには求められますよね。
奥田:事業を継続していくうえでマーケティングは大事ですが、大企業などの大きなリソースをもっている会社と同じ戦い方を僕たちがしても勝てません。その地域性の特徴・要素が入らず、ユーザーの利便性だけに寄ってしまうと、「その地域である必要性」が薄れ、どこにでもあるものになります。
奥田:「この愛着ある風景を守る」というある種の業のようなものを抱えながら、ビジネスに向き合い、地域資源の使い方・地域での戦い方を考え抜くことは、不利なんだけど有利とも言えます。もちろんやり過ぎても失敗するので注意は必要ですが、むしろプロダクトアウト寄りの事業の方がおもしろいはずだと感じています。
平林:現在、やまとわは様々な事業を展開されていますが、経済性を担保するうえで意識されていることはあるのでしょうか。
奥田:僕たちが取り組む実体のあるものづくりは、手作業でつくっている限り、つくる手間を減らせず利益をとるのは難しい業種だとは思います。ただ、農林業・ものづくり・企画などを行うなかで、ひとつひとつの事業の付加価値が上がっていくことをイメージしながら事業に取り組んでいます。
「企画がおもしろいやまとわ」がつくる商品を購入したい。
「つくるものがおもしろいやまとわ」にこれを頼みたい。
そうやって、僕たちが指名してもらえる意味を積み上げていくことがすごく大事だと感じています。
奥田:最初の事業を生みだす時は「これ絶対おもしろいよね!」とわくわくする衝動を種にしますが、いくつもの事業がある状態で大事にしているのは、「全体で育つか」という視点です。
他の事業とのシナジーを生むか。
現状の事業を伸ばすことにどう寄与するか。
現在の足りないピースを埋めているか。
会社の付加価値にもなるブランドは、会社の内側からつくられるものです。だからこそブランドを育てていくためには、スタッフが誇りをもって楽しく働いている状態を考え、つくっていく努力をしていかないといけない。
実際に、そうした積み重ねの後に農業や木工などのものづくりが伸びてくる経験もしていて、そこにおもしろさを感じています。
平林:「同じものが並んでいたら、やまとわから買うよね」というような、やまとわだからこその付加価値、ストーリーの強さを感じます。
奥田:僕たちがいくらかっこいい商品をつくっても、もっと安価な値段で同じようなデザインの商品は出てくる。そんな時に「やまとわだから買う」と思ってもらえることが重要だし、そういう世界を目指したいと考えています。
奥田:ローカルでは一般的に、人口減少・空き家問題・担い手不足などが「課題」だと言われていますが、僕たちはこれらを課題だと捉えていません。
つくりたい・守りたい風景を明確にした先で、そこに辿り着くまでに立ちはだかっているものが課題になるんです。
奥田:「森の担い手がいない」ことに注目するのではなく、「森の中でたくさんの人が心地よい時間を過ごすような風景をつくるにはどうするか」と考えたとき、そこに事業が生まれる。
そうしないと、「担い手不足を補うためには、担い手を育成しなければ」となり、「そのための事業は木こり塾しかない」という流れになってしまうからです。
人は、課題に行きたいわけではなく、楽しいところに行きたいのだと思っています。
平林:プロデューサーに一番求められるビジョンと呼ばれる部分で、解像度をどれだけ高くもてるかで実現するための手段も変わってくると言えます。その掲げた「愛着ある風景をつくる」ビジョンに吸い寄せられて仲間が増えていくのではないかと感じました。今日は本当にありがとうございました。
ローカルプロデューサー養成講座の詳細はこちら
Editor's Note
奥田さんのお話はどれも誰かに聞いた話ではなく、中身が詰まったホンモノの言葉。あまりにどのお話もおもしろいので全部書きたくなるけれど、記事にするには削ぎ落とさなければならない…。美味しいご飯を半分捨てるような身を切る思いでした。旗を掲げるプロデューサー、形にしていくプロデューサー。なんならプロデューサーを支える立場の方が「プロデューサー」が見ている視点を知り、サポートしていく為に講座で学ぶのもアリだな、と感じました!
MISHIRI MATSUMOTO
松元みしり