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LOCAL LETTER

ワインを脱がす。“知識”よりも“感覚”を活かした楽しみ方を探求する、ソムリエの「ワインの伝え方」

DEC. 19

拝啓、魅力的なモノをもっと多くの人に発信し、知ってもらうための手法を探るアナタへ

一本千円以下から数十万円〜数百万円と値段の幅が大きい神秘のお酒・ワイン。高貴な空気を漂わせ、素敵な大人の嗜みのイメージがある、憧れのお酒だ。一方で、高級レストランで飲むワインには、何か気の利いた言葉を添えないといけないプレッシャーがある。

そんな敷居の高いワインのイメージを払拭する、異色のソムリエが長野県の下諏訪町にいる。彼の名は岩井穂純さん。

岩井さんは、“知識” だけでなく自身の “感覚” をより大切にしたワインの楽しみ方を広めるため、「iwai-wines」というブランドを立ち上げ、ECショップや角打ちが楽しめるワインショップ、感覚テイスティング” や “暗闇テイスティング”といった独自のワークショップなど様々な事業を展開。昨年は八ヶ岳付近に自身の葡萄畑も取得し、数年後にはワイナリーの創設を目指すなど、活動の幅を広げている。

今回はそんな誰もが楽しめるワインの魅力を伝える岩井さんから、伝わりづらい魅力的な商品の「伝え方」を学ぶ。

岩井 穂純(iwai hozumi)氏 iwai-wines 代表/1978年 神奈川県湯河原町生まれ。2022年4月iwai-winesを立ち上げ。 現在は長野県と東京を拠点に活動。J.S.A.認定ソムリエ、AWMB認定オーストリアワイン大使

なぜワインは敷居が高いのか?既存の評価軸ではなく、感覚でワインをもっと楽しもう。

東京の高級レストランやワインバーなどで長年ソムリエとして活躍し、有名ワインスクールの講師を勤めるなど、ワインの世界の第一線で活躍してきた岩井さん。そんな岩井さんが考えるワインがもつ敷居の高さとは何なのか。

岩井「ワインには、美味しいとか、飲みやすいとかだけじゃ、ちょっと許されない世界観があるじゃないですか。何かに例えるとか、気の利いた言葉を言わなきゃいけないとか。例えば、(ワインを表現するのに例えられることの多い)カシスって食べたことありますか?」

思いつくのはカシスリキュールを使ったカクテルの定番・カシスオレンジやカシスのグミ。本物のカシスは食べたことがなかった。

岩井「フランスじゃ当たり前の果物かもしれないけど、日本だとあまり馴染みがないからきっとみんなよく分からない。そんなものに例えるよりは、僕らが感じる感覚でワインをもっと評価すればいいと思うんです。そもそも “美味しい、不味い” は人それぞれの価値基準なので、感覚を重視してそのものの良さを探るのは楽しいと思うんですよ」

世界と比べる必要はない。その土地の特徴を活かし、仲間が美味しいと思えるワインを作りたい。

美味しいワインの産地といえば、フランスやイタリアなど世界の産地を思い浮かべがちである。そんな中、長野県で新たなワイナリー創設を目指す岩井さんが作りたいワインとはどんなものなのだろうか。

岩井「自分の中で世界のワインと日本のワインを比べることはほとんどなくて。日本は日本の、海外は海外の個性を持っているので、同じ土俵でワインを考えてしまうと、何千年という歴史を持っているヨーロッパにはどうしても勝てないんです。価格に関しても、例えば僕らが土地を買い、醸造所を建てると、それなりのお金がかかるから、ワインも価格も上げざるを得ない。でも、ヨーロッパは受け継いだ畑やセラーが何百年も前からあるんですよ。すると値段も抑えられるし、その土地にあった葡萄が植えられているわけですから、いいワインができる」

海外のワイナリー訪問時の岩井さん

世界の方がワインの歴史が長い分、ワイン作りのための充実した環境が整っているのは言われてみれば当然のこと。その状況はワインの評価方法にも影響しているという。

岩井「ワインの評論家はほとんど海外、西洋の人です。西洋の人が美味しいと思うものと、日本人が美味しいと思うものは、根本的に違う。日本は出汁や水を中心とした文化なので、西洋では水っぽいと評価されるワインも、日本人はポジティブに評価しても良いと思うんです。

岩井さんが海外ワイナリー訪問時に撮影したワイナリー内の写真

でも、どうしても西洋の基準に合わせて、濃く、しっかりしたワインがいいとか、西洋と同じ方向を目指してしまいがちなのが今の日本のワイン業界の現状です。

そうじゃなくて、日本人が作って、日本人が、仲間が美味しいと思える。そんなワインを作りたいです」

環境によって変わるワインの味わいー知識ではなく、感覚でワインを評価する「感覚テイスティング」の誕生。

岩井さんはこれまでオンラインや実店舗で「感覚テイスティング」や「暗闇テイスティング」というオリジナルのワークショップも開催している。普段ワインを飲み慣れていない人や二十歳になったばかりの人でも楽しめるという、ワインの魅力を伝えるための岩井さん独自の切り口はどのように生まれたのだろうか。

ワークショップ中の様子

岩井「グラスの形やワインの温度を変えることはソムリエの世界では当たり前で、ワインを最高の状態でサーブするのが、ソムリエの仕事のひとつなんです。逆にその違いをお客さんに体感してもらうのも面白いなと思っていました。山や海など自然の中で飲むもの、レストラン、バーのキャンドルの灯で飲むもの、家で蛍光灯で飲むもの。同じワインでも、シチュエーションによって味が変わるのは、一体なんだろう。そういうことをもっと主体的に楽しんでもらたらいいなと」

そこで開発された「感覚テイスティング」の一例が、部屋の “あかり” の変化の中でワインを楽しむものだ。取材を行った岩井さんの実店舗「湯田坂 岩井堂酒店」の “あかり” は白熱灯。それを消して飲んでみたり、キャンドルに変えてみたり、外の夕暮れを取り入れてみたりー。

岩井「人間の体は、外的な要因によって微細に変化していく。ワインはそういうものを繊細に現してくれるんです。本当に味ががらっと変わるんですよ。それがいろんなパターンで、変わっていくのを楽しんでもらいます。ワインの楽しみ方として、自然に溶け合いながらとか、環境に合わせながらとか。そんな中で単純に味が変わっていくのがすごく楽しいじゃないですか」

取材陣と岩井さんとの取材後の懇親会はキャンプ場内にある屋外のレンタルキッチンで。“夜”と“キャンプ場”という環境が、ワインの味わいに影響することを実体験。

このような “あかり” の環境の違いを応用し、視覚情報を制限して薄暗闇の中で行うのが「暗闇テイスティング」だ。

岩井さんの “伝え方” は実に自由で独創的だが、誰にでも体感できる気軽さがある。

「湯田坂 岩井堂酒店」の白熱灯。灯の違いでワインも表情を変える。

日本語特有の “オノマトペ” や感覚的な “形” のイメージで、自分の好きなワインを知れるワークショップ。

私たちが日頃何気なく使っている「オノマトペ」。「サラサラの砂」や「しとしと降る雨」など、擬声語や擬態語、擬音語と呼ばれる言葉は日本語に多く存在すると言われている。

岩井「感覚テイスティングでは、ワインを音と形に例えてもらっているんですよ。音のイメージと形は、連動しているという考え方があって。飲んだ時の食感とか感覚を、まずはオノマトペで捉えてもらいますかちかちしてる、サラサラしてる、ふわふわしてる、とか。さらに、そのワインが持っている形を図や絵で描いてもらいます。これを何人かでやると、ぜんぜん違う人もいるし、そっくりな人もいる。

ワークショップ中に参加者が描いた絵

これを “オノマトペテイスティング” と呼んでいます。そういう遊びみたいなところで、自分はワインをどう捉えているかを知る。(産地や葡萄の品種、作り手では)ワインは覚えられない人が多いけど、オノマトペや形で捉えておくと結構覚えられるんですよ。好きなワインに出会えるんです。感覚テイスティングの一部のオノマトペテイスティングでは、むっちりしたワインだとか、そういう感覚でワインを捉えていくと人にも伝えやすい。この雰囲気・こういうワインが好き、とお客さんから言われると、『ああ、じゃあこんな感じがいいね』とナビゲートできる。自分の中の感覚として捉えておくのはすごく面白いし、伝えやすいんです」

そんな “感覚” が合う者同士の合コンを開催してみたいと冗談混じりに笑う岩井さんからは、誰もが気さくに話しかけやすい雰囲気が漂う。

取材後に岩井さんがセレクトしてくれたワインを試飲。産地を記した紙コップに、参加者が各々の感覚をオノマトペで表現して記入していった。皆少しずつ感じ方が違うことがわかって面白い。

ワインを通して人と人が繋がる場所ーワインショップ&スタンド(角打ち)湯田坂 岩井堂酒店をオープン!

長野県下諏訪町に2022年7月にオープンしたばかりの岩井さんが経営する実店舗湯田坂 岩井堂酒店では、岩井さん流のワインの楽しみ方を知ることができるのはもちろん、ワインそのものが持つ “人と人とを繋げる力” も体験できるはずだ。

岩井「ワインって人と人とを繋げてくれる力が強いなと思っているのですが、お店を角打ちスタイルにしているのは距離感がすごくいいんです。レストランだと、違う席に座っている人同士は絶対繋がらなかったりする。

お客さんで賑わう、角打ちスタイルの「湯田坂 岩井堂酒店」の様子。

でも角打ちや立ち飲みにしていると、離れるも近づくもその人次第。その感覚で人と繋がれる。そういう “場が作りやすい” という側面があります。気軽に来て、“ここの雰囲気はなんか楽しいな” となってくれれば嬉しいです。地元の人にも、観光客にも来て欲しい」

岩井さんはSNSでイベントやワークショップ情報を発信する時に、特に客層を意識しないようにしているという。どんな人にでもワインを楽しんでもらえる “入り口” を作りたいと語る岩井さんの “伝え方” が情報発信の方針にも伺える。

岩井さんがセレクトしたワインが並ぶ店内。ボトルの購入もできる。

ワイナリー創設でゼロからイチを創り出すソムリエとして、みんなが楽しく自分のワインを飲んでくれる未来に向かって。

取材中、ワインの持つ力や魅力を独自の切り口で語ってくれた岩井さん。ECショップや岩井堂酒店を運営する傍ら、今年は葡萄畑も取得。現在はワイナリー創設を目指して準備を進めている。ソムリエでありながら、自身で葡萄づくりにも挑戦する岩井さんの原動力とは何なのだろうか。

岩井「なんでもそうだと思うんですけど、何かひとつを突き詰めていくと人生って楽しくなっていくんですよそれが僕にとってはワインでした。

今までいろんなワインの仕事をした中で、自分でゼロからイチを作り出すという経験はなかったんです。そこに一生に一回でもいいから触れてみたいという純粋な想いがあって、ワイナリーをやりたいと思っています」

葡萄畑用の畑を借りた岩井さん

仕事の70%は遊びであるべきで、残りの30%も遊びながらお金になればいいなと思っていると笑いながら語ってくれた。

岩井「長野に移住した自分ができることを今考えているところです。お店もそうだし、ワイナリーもそうだし。“これで絶対に食べていく” というビジョンは持っていなくて、でも将来みんなが楽しそうに自分のワインを飲んでくれて、わいわいやっているビジョンはすごくあるんです

様々な色眼鏡や先入観を持ちやすいワインだが、難しさを感じてしまう人たちのハードルを下げ、もっと自由に楽しんで” というメッセージを発信している岩井さん。

その原動力には、自身のワインへの尽きない好奇心と、新しいことに挑戦していく情熱が垣間見えた。モノの魅力を発信する上で、とても大切なヒントをもらった。

長野県はちょっと遠いな・・・という方は、ワインのオンラインショップの利用やオンラインのワークショップに参加するのもおすすめ。iwai-winesのSNS(Instagramなど)で随時情報発信をしているのでぜひ一度岩井さん流の “伝え方” を体感してみて欲しい。

「湯田坂 岩井堂酒店」の店内入ってすぐにある看板。
“お気軽に” 岩井さんの世界を体感してみよう!

「湯田坂 岩井堂酒店」

長野県下諏訪町のナチュラルワインショップ&スタンド(角打ち)
住所:長野県諏訪郡下諏訪町湯田町3366
電話:090-3504-6536
営業時間
平日14:00-21:00
土日11:00-20:00
月火定休
駐車場:お店のすぐ隣(向かって右。左は鉄鉱泉さんですのでご注意を)3台OK。四つ角駐車場も◎

Information

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Editor's Note

編集後記

お酒が大好きな私ですが、ワインは知識がないと気軽に「好き」とは言ってはいけないイメージがありました。今回、自分自身の感覚で自由に味わいを表現すればいいと知り、私自身がまさに「感覚を脱がされた」インタビューでした。気さくな岩井さんの人柄も感じて欲しいので、ぜひ実店舗やオンラインのワークショップに参加してみてください!

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