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LOCAL LETTER

ゴミになっている竹を、宝に変える。環境づくりを最重要視する工務店が取り組む、竹林問題のいま

DEC. 15

拝啓、100年先も、そのまた先も、美しい山や森を残したいと考えるアナタへ

※本記事は「ローカルライター養成講座」を通じて、講座受講生が執筆した記事となります。(第2期募集もスタートしました。詳細をチェック

「住む人にとって安全で安心な家、環境にも負荷をなるべくかけない家を、しっかり時間をかけてつくりたい」ーー言葉にすることは簡単だが実現は途方もなく難しいこの理想に、真正面からチャレンジしている工務店がある。長野県上田市に本社を置く、アトリエデフだ。

家づくりを徹底的に見直したら、日本の山を見直さなければならない現状が見えてくる。どうにも動かしようがない問題解決の鍵は、日頃何気なく目にしている竹林にあった。

伸び放題でどうしたらいいかわからず放置され「竹害」とまで言われる竹林を整備すること。そこから始まった取り組みについて、アトリエデフ代表取締役社長・大井明弘さん、同社環境事業チームリーダー・植松和恵さんに語っていただいた。

安心安全な建材探しから、環境問題への取り組みが始まった

大井 明弘(Akihiro Oi)氏 株式会社アトリエデフ 代表取締役社長 / 長野県上田市出身。サラリーマン時代に建てた自宅が原因で家族がアトピー性皮膚炎を発症したことをきっかけに「安心、安全に住める家」をつくろうと、1996年アトリエデフを設立。その後2007年にNPO法人エコラ倶楽部を設立し理事長に就任、2019年にサーキュラーエコノミージャパンを共同創設し理事に就任。未来の子どもたちにより良い地球を残すために、待ったなしの環境問題への解決に向け、さまざまな企業・団体と連携しながら活動を行なっている。

「アトリエデフは工務店として創業以来、自然の材料で家を建てることにこだわってきました。私たちがつくる家は、木材はもちろんのこと、接着剤であっても化学物質は一切入っていないものを使っています。

サラリーマン時代に建てた家に入居したら娘がアトピーになって、息子がシックハウス症候群になってしまった。建材のあちこちに化学物質が使われていたからです。それが創業のきっかけです」(大井さん)

安全な家を作るには安全な材料でなければならない、そう決意して国産の無垢の木材を探すがなかなか見つからない。その理由をたどっていくとある結論が見えてきました。

安全な材料で家を作るためには日本の山を守ること、そして安全な暮らしを提案することの両輪を進めないといけないんです。
大井 明弘 株式会社アトリエデフ

現状、日本の山はどんどん荒廃しており、日本の山を育てるためにはちゃんとした森を作らないといけません。

「僕自身、森を整備したいという願望がずっとありました。長野県の八ヶ岳の麓に15haの森があって、それを管理するために今から16年前、2006年に長野県の原村に移住しました。そこから日本の山を守り育てる法人としてNPO法人「エコラ倶楽部」を設立し、各地で『エコラの森』を作って整備しています。

最近では企業がCSR活動の一環としてご一緒に活動をして下さることも増えました。今ではアトリエデフとエコラ倶楽部の両方で、日本の山を守り育てる活動をしています」(大井さん)

身近にある竹林を整備することは、問題解決のカギだった。工務店が行う竹林整備活動とは

森づくりと並行して、竹林整備活動も行なっている大井さん。竹林整備とは、一言でいえば「荒れ放題の竹林をきれいに整備して解決するプロジェクト」のこと。

創業の頃から環境問題を取り上げているアトリエデフですが、環境事業チームを作って竹林問題に本格的に対応し始めたのは約3年前からです。

「日本には約600種類も竹があるんですが、今や日本の山は竹林によって侵されています。どうして竹が繁茂するかというと、筍(たけのこ)を取らないからなんです。竹は地中で根が繋がっています。横に伸びていくから、1つのところに生えている竹はほぼみんな親戚なんです。竹自体は独立しているけど根で繋がっているから、1本だけ取ったとしても他は生き残っています。そして竹は1日に1mも縦に伸びてしまう。筍を取らなかったらそれらが一斉に繁殖します」(大井さん)

竹林整備のメンテナンスで最も大事なことは筍を取ることですが、竹の根を全て取ることは途方もない作業。竹林は大体斜面にあるから、大型重機なんて入らない。ますます竹林問題は深刻化の一途を辿ります。

「木と違って竹は子どもや女性でも簡単に切れるし、軽いから扱いやすい。そうすると竹林整備に皆さんも入っていきやすいんです。それでも整備した1か月後に同じ場所に行くと竹が伸び放題になっています。

だからこそ、竹林を荒れさせないためには、人が入っていきやすい竹林を作らないといけません深い藪だと所有者さえも入らないですよね。逆にきれいな竹林だったら入りたいと思いませんか? そうすると筍が生えてきても取りに入りやすい。僕らはそんな竹林を目指しています」(大井さん)

竹林をひとつひとつを整備していくと「綺麗になったな」という実感があるという大井さん。やがて「うちの竹林もどうにかしてほしい」という問い合わせがひっきりなしに入り、大井さん自身「高いかな」と思うほど、竹林整備には手間とコストがかかりますが、それでも「やって欲しい」という人たちが後を絶ちません。

「竹林整備を依頼する方は『切った後の竹をどうしたらいいかわからない』んですよね。業者やボランティアに竹の整備を頼んでも、彼らが切った竹をその場に置いて帰ってしまったら、依頼者は竹の処理に困ります。やがて面倒が見切れなくなって、また竹林整備をやらなくなる悪循環です。僕らは切った後の、ゴミとなった竹を全部引き上げて、いろんな製品にするところまでやっているから強いんです」(大井さん)

竹をよみがえらせよう!各地の竹イベントは熱い想いにあふれて

アトリエデフの環境事業チームでは、竹林整備・商品開発以外に、竹に関するイベントも企画・実施しているそう。チーム発足から1年目までは、自社でイベントを行なっていましたが、ここ最近は外部の方から「地域の竹を使ったイベントをしたい」とお話をいただいくケースが増えたと、環境事業チームリーダーの植松和恵さんは言います。

植松和恵(Kazue Uematsu)氏 アトリエデフ環境事業チームリーダー / 自然豊かな信州八ヶ岳の麓で生まれ育ち、建築を勉学の後、建築CADオペレーターとして出産後も勤めた後、農業や花卉栽培の培養経験と幅広く携わる。現在は4児の母でもあり、昨今の気候危機を何とかしたいと「みらいの子ども達のために」環境問題を主に、株式会社アトリエデフにて活動をしている。環境事業チームチームリーダー。全国に広がる竹林問題の解決へ従事する。

「直近だと小学生対象に30人くらいで竹を切るイベントや、福祉の方と竹を切ってコップやプランターを作るなどの、身体を使ったワークショップをしました。皆さん一生懸命で『終わりです』って言っても夢中で作っているくらいです。

都会の方は環境問題への意識が高い人が多く、SDGsに関連したイベントもやっています。『竹を使ってプランターを作って花を植える』子ども向けのワークショップでは、プランターに植える用の花も、本来だったら捨てられてしまうような余剰の花を使っています」(植松さん)

以前神奈川県の武蔵小杉で開催されたイベント「まんなかフェス2022」では、LFCコンポストを推進しているママさんたちから『自分たちが作った土でプランターを作りたい、その素材もプラスチックではなく竹にしたい』とご要望をいただいたこともあるんだとか。

「このその実現に向けて自主的に動いてくださったのが、実はアトリエデフで建てた家のオーナーさんでした。環境に配慮した活動を何かしたいという想いから協力してくださったんです。

おかげさまでイベントの評判はよく、いろんなところからお声がかかりスケジュールがすぐに埋まっています。私たちの活動に共感してくださる方と、同じ志でイベントやワークショップ、竹林整備活動をできることを本当に嬉しく思っています」(植松さん)

竹から生まれるプロダクト。害でしかなかった竹が、宝として生まれ変わる

昔は買い物にはレジ袋ではなく竹のかごを持っていきました。他にも竹ざる、竹箸、竹竿などの竹製品が身の回りにたくさんありましたが、それらが今はプラスチックに取って変わりました。「竹の需要が減って竹を取らなくなったのも、竹林が荒れた原因の1つ」と、植松さんは話します。

「竹は邪魔でしかない存在になってしまったので、竹の活用を我々が考えて商品開発をしています。宝になればニーズも出てくるし、何よりもゴミになりません。竹ならゴミになって腐っても土に還るから自然に優しいのです」(植松さん)

整備して切った竹をどのように使っているか、例をいくつかみていきましょう。

「まずは、竹を炭にした『竹炭』です。野菜などを栽培するのに、土に竹炭を入れるととてもよく育ちます。竹はどこにでもあるので、地場の竹を使ってできるんですよ」(植松さん)

最近では「竹を炭にして地中に埋めるとCO2が減る」ことについて、アトリエデフが大学と共同研究もしているんだとか。この研究が証明されれば、竹林が綺麗になり、野菜も育って人間もよくなるだけでなく、CO2削減にも役立つことになります。

他にも竹のペレットやパウダーなど、アトリエデフは竹からいろんな製品を生み出しています。

「その他に、変わったところでは『竹ボイラー』がアトリエデフにはあります。その名の通り竹を燃料とするボイラーです。枯れた竹を薪のように使い、燃やして湯を沸かします。竹の火力は木で燃やす3倍くらいの強さがあり、灯油もガスも電気も使わずに圧倒的に早くお湯が沸きます。若い竹は燃やしづらいですが、枯れた竹は燃えやすいので、とてもいい活用方法だと思っています」(植松さん)

燃料となる枯れた竹は、最初こそアトリエデフのスタッフが自分たちで割って作っていましたが、今ではその作業を福祉の方にお願いしているんだそう。

「竹を切って割って、という作業を延々と続けることは結構大変ですが、福祉の方はそういった作業が得意なようで助かってます。時々『竹が足りない』って電話が来たり、自分たちで竹林に行って竹を持ってきて作ってしまうくらい。お互いにとって嬉しい関係性が築けていると思います」(植松さん)

「他にも面白いところでは、敷地内にバンブードームを作っています。見た目は1本の竹のように見えますけど、実は数本をつないでいるんですよ。竹の、しなりがよく自由自在に動く性質を利用しています」(植松さん)

まずは身近なところから、環境への意識を高めよう

「学校の出前授業で『竹から考える環境』の話をすると『明日からぼくはビニール使わない!』なんて言ってくれる子がいます。先日も竹を自分で切る体験をした子が早速ホームセンターで自分の手鋸(てのこ)と鉈(なた)を買って、自分で竹の弁当箱と竹箸、竹の箸入れを作って持ってきてくれました。とても嬉しくて、涙が止まらなかった。その子の意識の高さに感動したんです。

環境問題については、小さい子の方が大人よりもずっと行動力があって問題意識が高いんです。だから未来を担う子どもたちに話していきたいですね」(大井さん)

アトリエデフで家づくりをしていて思うことは、いくら環境に配慮したデフの家が増えたとしてもそれはあくまでハードであって、環境自体が変わるわけじゃないってことでした。住まう人、1人1人の意識が変わらないと、環境は変わらないんです。
大井 明弘 株式会社アトリエデフ

そこで、人にも環境にも優しい暮らしづくりを提案して活動し続けてきた大井さん。現在では、竹林整備にも活動が繋がっています。ですが、大井さんは竹林問題だけを見据えているわけではなく、そこから先にある地球環境を考えようと提案しています。

「自分がいる間に竹林問題は解決できるのだろうか?とよく考えます。あくまでも竹林整備は環境問題解決の入口でしかなくて、人間の一代でできることとできないことはあるから、後の世代に繋いでいくことが大事だと思っています」(大井さん)

まずは身近なところから、竹に魅力を感じる人たちが増えてほしいと活動を進めているアトリエデフ。アトリエデフが手がけるWebサイト『環と環』には、彼らが環境問題に向き合いながら開発された商品たちが並んでいます。この機会に、どんなものがあるかぜひ、のぞいてみてくださいね。この話を読んでくれた皆さんが行動に移してくれたらとても嬉しいです。

Editor's Note

編集後記

日々の生活の中ですっかり存在感が薄くなっているにも関わらず、整備する人がいないことで問題になっている竹の存在が、環境にこんなに大きな影響を及ぼしているのかと改めて感じたインタビューでした。山だけでなく街中でも整備されていない竹を見かけますが、整備することで環境にもいい影響があること、製品として活用できることをもっと広めていけたらと思います。

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