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LOCAL LETTER

15年の会社員人生から起業。「週末冒険会」防災サバイバルキャンプ主催者が伝える「生きる力」とは

DEC. 28

拝啓、災害時に生き残るためにどのような行動を取るべきか分からないアナタへ

※本記事は「ローカルライター養成講座」を通じて、講座受講生が執筆した記事となります。(第2期募集もスタートしました。詳細をチェック

いつ、どこで遭遇してもおかしくない “災害”。地震や台風、洪水など、災害は全国各地で発生している。自宅や仕事場、外出先など、どこで災害に遭遇しても、私たちは生き抜かなければならない。災害に襲われた時、私たちはどのような行動をとるべきだろうか。

電気やガスなどのインフラが崩壊した状態は、何もない山と変わらないんです」と語るのは、野営家で週末冒険会代表の伊澤直人さん。伊澤さんは、キャンプを通して “生きる力”を学ぶ様々なプログラムを八ヶ岳の麓にある長野県富士見町の八ヶ岳BASEを舞台に開催する。プログラムの中でも防災に特化した内容で、2021年春から防災サバイバルキャンプを始めた。

今回はそんな伊澤さんを取材。全国各地で多くの災害ニュースを見る私たちが今、養っておくべき「生きる力」とはーー。

伊澤直人(Naoto Isawa)氏 週末冒険会代表/宮城県出身。幼少より参加したボーイスカウト活動では最高賞を受勲し、総理大臣と皇太子殿下に拝謁。米国発アウトドア・サバイバルスクールを卒業。会社員をしながら野外学校の運営等に携わるも、東日本大震災での経験をきっかけに起業を決意し、管理されたアウトドアではなく、本物の自然を感じられる”野営”を経験し楽しむ事業を運営。自らの力と自己責任で、自然の中で過ごせる人材を育成中。2021年5月にはTBS「情熱大陸」にも出演。

私たちが身につけるべき生きる力を学ぶ「防災サバイバルキャンプ」とは

「インフラも何もないところで、寝て食べて体温を維持するために必要な道具や考え方は、キャンプも災害時も全く一緒なんです。なぜ命を失うのか、そのメカニズムを考えることが大切」と力を込める伊澤さん。

防災サバイバルキャンプは全4回のプログラムで、サバイバルの基礎を座学とフィールドワークの実践形式で学ぶ。プログラムでは、“人はなぜ命を失うのか”から考え始め、論理的思考力を養っていく。伊澤さんによると、重大な怪我などを除く、比較的平穏な状況下で人が最も命を失う原因は“低体温”。低体温で意識を失って心臓などが動かなくなるメカニズムを知り、家など風を凌ぐ場所がない状態で寒さを防ぐ場合、どうすれば良いかを考えるそうだ。

「服を着る、焚き火に当たるなど、手段はなんでもいい。体温を保持するという結果を出すためにどうするか。メカニズムを知って体を冷やさないことが、今自分にとって命をつなげる大事なことだと分かればその手段を考える。そういった考え方を養うプログラムです」(伊澤さん)

ロープワークや火の起こし方、少ない水での調理方法など、サバイバルの基礎から学ぶので、初心者も参加可能だ。また基本的なキャンプ道具は借りることができるため、テントや寝袋がなくても大丈夫とのこと。

キャンプの原点と起業。サラリーマンが東日本大震災をきっかけに、野営家へ

伊澤さんの原点は、小学3年生から加入したボーイスカウト。

何も教えてくれないんですよ。『火を起こせ』って言われて、『起きません』って言うと『起きるまで吹き続けるんだよ』って。ご飯はおこげの残ったのを取り合うし、カレーもお湯みたいにシャバシャバで」と笑いながら伊澤さんは当時を振り返る。

喘息でインドアだった伊澤さんを心配したお父さまの意向で加入したボーイスカウトも、初めは嫌々参加していたが、だんだんできることが増えていくと次第に楽しくなったという。

社会人になってからも、都内に住んでいた当時は毎週キャンプに行ったり、近所の公園で焚き火を囲んだりした。週の半分は夜中まで池袋で飲む生活をしていたが年齢が進むにつれ、周囲は結婚や転勤など、次第に友人の腰も重くなっていった。

そうした中で、「キャンプ行くやつとかいなくてつまんねえなあ。じゃあ仲間作ろうかな」と自然に考えるようになった伊澤さん。そう思っていた矢先に2011年、実家のある宮城県が東日本大震災に襲われた。

「実家は半壊。同級生も3人亡くなった。元々サラリーマンをずっとやっているタイプじゃないと思っていたけれど、もう金のために仕事してる場合じゃねえなって」(伊澤さん)

独立起業を支援するコンサルタントの元でこれまでの人生を棚卸する中で、自身にできることとそのニーズに気づいた。周囲がまるで夜逃げのように車に道具を詰め込んでキャンプ場へ来るのに対し、自分はザック1個でキャンプに行けるほど身軽。東京で自分と同世代の30代から40代の独身でキャンプはしたいけれど、道具も教えてくれる仲間もいない人がいる。

「やりたいことは仲間作り。アホみたいにいつまでも焚き火して飲んでいたい」と伊澤さんは起業当時の思いを率直に話してくれる。ボーイスカウトで賞を獲るなど、キャンプはある程度できた。どちらかというとやりたいことを重視していたが、調べてみるとある程度やりたいことに社会的ニーズもありそうだった。

現在は予約が取りにくいほど人気のプログラムもあるが、起業当時は貯金を切り崩す生活。以前の仕事をフリーで受けながら、3年ほど凌いだ。

リピーターも増え著書の出版などもあり、Facebookページのいいねも1,000を超えるなど、徐々に参加者が増えていったという。

キャンプイベント・野営教室には、 できる楽しさ求め好奇心旺盛な女性が多数参加

週末冒険会のプログラム全体の参加者は6:4で女性が多く、還暦を超えた女性も珍しくないという。

「最初女性が来るなんて、想定してなかった。俺と同じような変わったおっさんが焚き火をして、遊ぶ会になるんだろうなって。そしたらあれ女性が多いぞ、みたいな」(伊澤さん)

過去には、全員女性の回も。

「俺、女子校に一人で放り込まれた気分だった。会話に入れないの。ずっと焚き火の面倒見てて。初対面のはずなのに、夜通しガールズトークしてたよ(笑)キャンプをすれば、あっという間に仲間になるよね」(伊澤さん)

参加者については、「チャレンジ精神や好奇心旺盛な人が多い。自分でできる楽しさや強さを求めてくるのでは」と分析する。

キャンプは少人数制だが、「普段は会わないタイプの人ばかりで、非日常」と言う声もよく聞かれる。「俺にとっては日常だけどね」と伊澤さん。

取材当日、5年前から週末冒険会のプログラムに参加する女性が、単独で八ヶ岳BASEを訪れた。防災サバイバルキャンプの修了生でもある彼女は、「最初はもう全然火がつかなくてどうしようって泣きそうで。でもまだまだこれから」と、今後の自己研鑽に意欲的だ。

キャンプに「本当に必要なもの」と「なくてもいいけどあった方が楽なもの」を棲み分ける

「重いテーブル持って行くなら、ウィスキー1本、おつまみ1つでも多く持って行きたいね」。伊澤さんはザック1つで身軽にキャンプに出かけるが、荷物を軽量化する“本当の理由”を軽妙に教えてくれた。

「キャンプ道具って2段階あって、第一段階は野外で命を繋ぐためのもの。これは常に持っていく。その上ってキャンプのクオリティに関わる、なくてもいいけどあった方が楽なものを持って行く。例えば、ランタンが無くても焚き火があったら明るいですよね」(伊澤さん)

道具の性質は楽、早い、正確、便利といったところにあるが、無くてもなんとかなるものも多いという。

伊澤さんのキャンプ道具。寝袋やナイフ、着火剤など最小限

「持って行ける時はいいけど、なくてもなんとかできる力がないと、いざというとき困っちゃうし、荷物ばっかり増えてハードに頼っていくと、引っ越しのような荷物のキャンプになってしまうからね。キャンプ経験のある人は、思い切って道具を半分にしてみることを勧めますね」(伊澤さん)

激混みのキャンプ場はもう嫌だ。八ヶ岳の麓、長野県富士見町を選んだ理由

一般的なキャンプ場は、使用方法やチェックイン・アウトの時間など、レギュレーションが多い。特に繁忙期は激混みで、車と車の間にテントを貼っているような状況は当たり前だという。そんな不自由でやりたいことができないキャンプに不満を抱えていた伊澤さん。自分たちで自由にできるベースを求めて各地を訪ねていたときに出会ったのが、長野県富士見町だった。

20代の頃、ホテルやスキー場の住み込みバイトで訪れた北海道の大雪山。その街の風景に似ていた。

「地平線の向こうの山まで、ずっと小麦畑があって、牛がいて。それのミニ版。この風景知ってる。落ち着く。そう思いました」(伊澤さん)

日本の森は杉の放置林が多く急斜面もある中で、富士見町はたっぷり日の当たる広葉樹の森があり、理想とするキャンプ場のイメージにぴったりだった。

広葉樹の広がる森でロープワークを実演する伊澤さん

地主と交渉し自由に木を伐採したり小屋を建てたりするなど、約1,000坪の敷地をたっぷり活用して今も理想のベースを開拓し続ける

何かやるときの諦めない粘り強さ、工夫する力。ないところでなんとかする」(伊澤さん)

キャンプで身につく力は、私たちの日常生活に生きる力強さを与えてくれる。

防災サバイバルキャンプの次回開講は、2023年5月から。基本的なキャンプ道具は伊澤さんから借りられるということなので、生きる力を養うキャンプにあなたも一歩踏み出してみては。

Editor's Note

編集後記

災害時は落ち着いて行動しようとよく言われますが、落ち着いて何をすれば良いのか。伊澤さんのお話から、もしもの時は求めている結果から逆算して行動することが大切だと学びました。水や食料はいつも持っているとは限りませんが、必要な考え方を身につけておくことで、どこで災害に遭っても生き抜く自信につながるのではと感じました。

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