生き方
「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 – 人生に刺激を与える対談 – 』。
第6回目のゲストは「自動運転」をキーワードに、交通の利便性を高める取り組み、MaaS(マース)へ踏み出している、BOLDLY株式会社の佐治友基さんです。
佐治さんはソフトバンク株式会社に入社後、孫正義直伝の経営を学びSBドライブ株式会社(現:BOLDLY)を創業。「交通をITの力でアップデートしたい」と日々奮闘されています。
ソフトバンクという誰もが知る大企業で働きながらも、「自動運転」をキーワードに社内起業を実現させた佐治さん。起業の背景に迫った前編でしたが、後編では夢の実現のために奔走する佐治さんの姿に迫ります。
自分の人生テーマを探している、今の自分の生き方に迷っているアナタに注ぐ、一匙の刺激をお届けします。
平林:社内コンテスト入賞が、起業のきっかけと話されていましたが、佐治さんが思う入賞の評価ポイントは何だったと思われますか?
佐治:ソフトバンク時代に培ったプレゼン力かなと思います。でも元からプレゼン力があったわけではなくて、企画部が考えた内容を誰もが理解できるように一言一句精査する営業推進部の仕事で培われたと思いますね。経営層用の資料作成をするようになってからは、経営陣の考え方も学ぶことができたので、仕事経験の全てが評価されての入賞でした。
平林:アイディアコンテストで優勝をしても起業(事業化)しないケースも多々あると思いますが、佐治さんが起業できた理由はなんだったのでしょうか?
佐治:歴代の優勝者は僕よりはるかに優秀だと思います。でも起業や事業化はしていない。僕も気になっていたので、コンテストに出る前に歴代の優勝者から話を聞いてみたら「本業があるから挑戦しなくてもいい」とか「実現させたいけど、事業化のリスクを考えるとできない」という声があって。
佐治:僕は孫正義さんに憧れて入社したタイプなので、「長年の人生テーマ」と思えるものを見つけるのに苦しんできたんです。だからこそ「自動運転」というテーマに出会った時、絶対に事業化させたいと思った。僕にとってあの時のコンテストは、予算をとるためのコンテストだったんです(笑)。
平林:多くの方が力試しと捉えている中で、「何のための場なのか」という目線を持つことは大切ですよね。
佐治:もちろん、僕に対しても「それだけの想いがあるなら、会社を辞めて起業すべきじゃないか」という意見もあると思うんですが、僕はソフトバンクのバックグラウンドやスキルを活用したかった。だからこそ社内で起業するためには、社長へ直談判するしかありませんでした。
平林:実際にはどんなアクションをとられたんですか?
佐治:メールです。ちょうど社長から「将来を見据えて、5年10年かけて実践するテーマを若手から募集します」という内容のメールが全社員にBccで送られてきていたので、そこに返送しました(笑)。
平林:タイミングも最高ですね!
佐治:本来であれば、いきなり事業化ってことにはならないと思うんですよ。でも社長から、経営企画会議に出してもらえるチャンスをいただいて。当時、現場で成果を出し続けながら、経営企画では予算の獲得をし続けていた部長さんにアドバイスをいただきながら、プレゼン内容を作りこみました。
実際に経営企画会議に出てみると、最初は渋い反応だったんですよ。それでもめげずに、プレゼンをしたら、会議に出ていた1人の経営陣の方が「若手の挑戦を応援しましょうよ」と声をあげてくれて。そこから一気に流れが変わって、「まずは少額で予算を与えてみて、企業として成り立たないなら潰す」という条件付きで起業化の話がまとまったんです。
佐治:経済産業省の公募事業に申請を出して3年間のプロジェクト実行ができるよう動いたり、各市町村と連携を結んだり、期限付きの起業だったのにガンガン最初から動きました。
平林:継続するしかない状況をつくったんですね(笑)。佐治さんが素晴らしいのは、ハード面だけでなくソフト面も大切に、しっかり地域に溶け込んでいくところだなと思います。地域側にも「どうせ地域に出向いてくるのは最初だけで、儲からなかったら来なくなるんじゃないの?」という危惧があるじゃないですか。
佐治:地域の方々は本当にちゃんと見てくださっていますよね。自動運転もそうですが、地域で技術を活用するのは地域の人たちなので、信頼関係はとても大切。
平林:技術って僕らの生活が便利になるためにあるはずなのに、意図しない方向に発展してしまうことがあると思います。例えば、スマートフォンを手に入れたことで、人と手軽に繋がれるようになった一方で、自己肯定感が下がるとか。
技術を扱う人たちは、扱い方をちゃんと知っておかないと、不幸を招いてしまうこともある。だからこそ、使い手のフォローアップも大事ということを佐治さんのお話を聞いて思いました。
佐治:本来、自動運転(技術)を取り入れてもらうことだけが目的ではないはずなのに、事業の評価は「何地域で取り入れられた」とか「いかに他社よりも先行するか」でされることが多いんですよね。大事なのは「いかに地域で使ってもらうか」。だからこそ、現場に出向いて地域に溶け込んでいくことが大事だと思っています。
自動運転バスが走る時って、最初から住民の方全員が賛成、はないんです。時には反対意見を言ってこられる方もいます。でも反対者とも向き合い話すことで、結果的に一番応援者になってくれるってこともある。
佐治:以前、とある町で走っている自動運転バスの利用者さんから「臭いがキツい方が乗車されるから、乗車拒否にしてもらいたい」という要望が役場に対して持ち込まれたことがありました。役場担当者もどうしたものかと困っていた中で、相談を受けて。
平林:佐治さんはその時どうされたんですか?
佐治:乗車拒否の検討者にあがっていた方に直接会いに行きました。ご本人が乗りそうなバス停・時間帯で待機して、乗車されたら必ず僕に連絡を入れてもらうようにもお願いをして。で、一緒にバスに乗りながら話をしたんです。ご本人の事情も、周囲から臭いの件で話が上がっていることも、自動運転バスは僕の夢であることも、たくさん話しました。
一緒にコインランドリーで服を洗って、銭湯にも入って。最後には、ご本人の方から「もう少し身なりを考えるよ」とまで言ってくださって。利用者には、一人一人に想いや事情がある一方で、僕の夢は「利用者さんたちに楽しく利用してもらう」ことなので、現地でのコミュニケーションを増やしていきたいと思いますね。
平林:佐治さんは企業に属しながらも、しっかりと自分の軸を形成されています。一般的には会社員として働くか、起業のために退職するという2択を持つ方が多い中で、佐治さんは常に第3の選択肢を捻り出し続けている印象です。そんな佐治さんの強みを踏まえて、読者の方へアドバイスをお願いします!
佐治:僕の軸になっているのは、大学時代に教えてもらった「自己を積極的に活かし、他者に貢献する」という考え方。
一人一人にいろんな生き方があって、お金持ちになりたいとか、事業で貢献したいとか、皆さんが皆さんなりの幸せについて日々考えていると思うんです。だからこそ、幸せに行き着くために、「とにかく自分を一生懸命活かして、誰かに貢献すれば、見えてくることがある」と教わりました。
佐治:振り返ってみれば、今の僕があるのって、営業推進部時代に資料を見やすくするために文章を端的に記そうとした練習からきているかもしれないし、もっともっと振り返ってみると、相手を知ろうと努力をした恋愛からきているのかもしれない。僕は今たまたまやりたいことを見つけて起業しましたが、それを助けてくれたのって、自分でも些細なことだと思っているような過去の自分の経験なんじゃないかなって。
平林:素敵です。今は「一生懸命」に何かに取り組むことが難しい時代じゃないですか。
佐治:そうですよね。いいナレッジや素材がいろんなところに落ちてるから、一生懸命やる手前で辞めてしまったり、知ることができてしまったりする。
スティーブ・ジョブズさんの有名なスピーチに「点と点をつなぐ」があると思うんですが、実は僕は最初この話を全く理解できなかったんですよね。でもある人と話していた時に捉え方が変わって。
例えば、女の子を好きになって努力をし続けることって、結果恋が叶わなかったとしても「努力をした」という事実は残る。この努力の積み重ねが、ふとしたきっかけで未来に活きることがある。僕は当初、点は成功事例でないといけないと思っていたのですが、そうではなく、努力の点がつながることで見える未来があると思って頑張ってもらいたいですね。
平林:本当にそうですね!貴重なお話をありがとうございました!
Editor's Note
「全てが今につながっている。」変化が多く何をすべきか見失いがちな時代の中で、実際に行動されてこられたからこその力強いメッセージ。社長が一利用者さんと銭湯に!?という仰天エピソードも飛び出しましたが、だからこそ「この人になら任せられる!」と人が集まってくるのかもしれません。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香