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LOCAL LETTER

「適材適所はパズルのように」現場主義の社長が語る、人と仕事のつなぎ方

OCT. 23

MIE

拝啓、魅力あるまちづくりのために「人と繋がること」を大切にしたいと思うアナタへ

魅力のあるまちとはどんなところだと思いますか?
アナタはどんなまちを訪れたいと思いますか?

自然が美しい、食が美味しい、建築物が素晴らしい、理由は人それぞれあると思います。
その中でも訪れる人に大切な思い出を残したいと日々魅力的なまちづくりをする地域が、ここ三重県尾鷲市にはあります。

今回、お話を伺ったのは特定非営利活動法人あいあい理事長で、一般社団法人OMOTENASI代表理事でもある湯浅しおりさん。介護施設の運営のほか、レストランやホテルの経営も担い、三重県尾鷲市には欠かせないキーパーソンの一人です。

2025年の4月からは尾鷲市の観光交流施設「夢古道おわせ」の指定管理者となりました。これまで長く民間事業を経営してきた湯浅さんだからこそ気が付く目線で改革を進め、まちの人や観光客に喜ばれています。

「一番大事なのは人しかない!人がいなければ成り立たない」と話す湯浅さん。人を大切にした事業、まちづくりを行っています。

湯浅しおり氏 特定非営利活動法人あいあい理事長 一般社団法人OMOTENASI代表理事 / 准看護師として活動後、2000年12月に特定非営利活動法人あいあいを設立。福祉事業を多角的に展開し地域に根ざした活動を続けている。現在は『夢古道おわせ』を運営し指定管理を担っている。

人に寄り添い、人に感謝し、現場に立ち続けた25年。尾鷲での新たな挑戦

湯浅さんが立ち上げた特定非営利活動法人あいあい(以下、あいあい)は今年で25年を迎えました。一緒に働くスタッフは今では270名を超えます。

「福祉事業を大きくしたいとは、当初からあまり思っていませんでした。観光業を始めた今も、それが決して目標だったわけではなくて。ただ、誘われると断れないんですよ(笑)『やってみたら、できるんじゃないか』と思ってしまうんです。目標達成した時の達成感が忘れられなくて

と軽やかに話す湯浅さんは、時に無邪気な笑みをこぼしながら話してくれます。

「私一人では、ここまでこれた訳がないんです。立ち上げてから25年経って、『どうでしたか』と問われたら『人に助けてもらいました』と答えます。

スタッフやお客様、関わってくれた人達がいなかったら、今の自分はいません。『人を使う』とか『雇う』といった言葉ではなくて、『私のしたいことを助けてもらっている』という気持ちです。それは、もう法人を立ち上げたときから変わりません。組織のトップと従業員というよりも、仲間という意識が強いです。その結果、今のコミュニティにつながったのかなと思っています」

また、そうしたつながりは「現場にいるからこそ育まれる」と湯浅さんは言葉を繋ぎます。

「私が現場で働くから、仲間が出来るんです。夢古道おわせのレストランでも、厨房やホールに立つんですが、メンバーたちは『社長が働いてる』と笑ってくれるんです」

フードコート『OMOTENASI』では尾鷲の食材を使ったラーメンのほか、各種カフェメニューも含め、20種類以上メニューを楽しめる。

社長室を持たない湯浅さん。これまでに何度か作業スペースを設けてもらったことはあるそうですが、それでも自然と現場に戻っていきました。

「私はずっと働いていたい人なんです。動いていなきゃダメだし、ちょっとでもみんなの役に立ちたい。社長室にいるよりも、現場に立つほうが性に合っているのだと思います。パソコンは苦手だし、お金の計算をしたら間違える(笑)だから任せられることは他のメンバーに任せて、自分は現場に立つようにしています」

湯浅さんの居場所は、常に現場にあります。働く人と同じ空気を共に感じながら動く。それが湯浅さんの働き方です。

「自分の適材適所はもちろんですし、スタッフの適材適所を探すことも大事な仕事です。まるでパズルみたいなもんでね。この人は現場より、もしかして事務が合うかな?などといつも考えています。最終面接の時には『一緒に探そう』と伝えるんです。

合わない仕事をすると、本人も周りも苦しくなってしまいますよね。それはもったいない。誰にでも絶対にいいところがある。人のいいところを探すことが、私の得意なことかもしれません」

相手の長所を活かした場所で働いてもらう。できることと仕事に相違が起きないようにすることで、働きやすい環境づくりが行なわれています。

「自分もいかしてもらっているように、人もいかさなきゃいけないなって」と笑顔で話す湯浅さんには、一切の迷いも見られませんでした。

尾鷲から広がる『助け合いの輪』民間事業が支える新しい福祉のかたち

湯浅さんのテーマとして、『人生にバックギアはない』という言葉があると笑いながら話をしてくれました。

「もともとは事業で融資を受ける際に、あまりの額面の大きさに怖くなっていた私に仕事を一緒に進めるバディが送ってくれた言葉なんです。『あんたの人生にバックギアはない』って(笑)

一度立ち止まってしまったら、かえって疲れてしまう気がしませんか?めんどくさいと感じたときでも、動きを止めない。それは福祉のプロとして、医療のプロとして。地域の住民としても『ボランティアです』なんて言うとおこがましいですけど、できることがあれば取り組んでいきたいと思っています」

その考えからあいあいでは仕事中でも、困っている人を見かけたら「行ってあげたい」という気持ちを大切にできるようになっています。たとえそれが仕事としての報酬につながらなくても、その行動を優先していいのです。

「その気持ちを大事にしていきたいんです。みんなの「してあげたいな」っていう気持ちを。見返りは求めないでやろうね、っていつも言っているんです」(湯浅さん)

民間の立場から湯浅さんが地域に関わることで、どんな変化を尾鷲にもたらしているのでしょうか。

「やっぱり一番は質の向上ですね。私たちのような民間の団体が関わることで、それまで地域で活動してきた事業者さんたちも刺激を受けて、全体の質が上がっていくのを目の当たりにしてきました

あいあいとしてはもちろんですが、地域にとっても刺激になれたのかなって。ひとつは、いいことができたのかなと思いますね」

その中でも一番地域に馴染んだと感じているのは、あいあいの取り組みで始まった有償ボランティアによる「助け合い活動」だといいます。

これは誰でも市民の困った人同士が互いにできることを持ち寄り、生活のちょっとした困りごとをサポートし合う仕組みです。本来なら介護事業の範囲には入らない生活支援を、有償ボランティアとして30分600円で行っています。

依頼を受けてお弁当を届けたり、骨折で動けない方の買い物を代行したりと活動内容は様々です。支えたい人、支えられたい人、双方にとって無理のない持続的な関係性が生まれています。

「たとえば、手術前に忘れ物を家に取りに帰りたいと病院に話しても、病院側も安全上のリスクがあるから帰らせられない。でも、そんな時に『あいあいさんならどうにかしてくれるんじゃない?』と、市役所の人たちが言ってくれるそうなんです。『ちょっとあいあいさんに聞いてみたら?』と。そう言ってもらえるのは、やっぱり嬉しいですよね」

「行政や病院のケアだけでは届かない隙間を、私たちがサポートできれば」と湯浅さんは優しい表情で語ります。

次の世代へ、人と仕事をつなぐ組織づくり

あいあいだけでなく、夢古道おわせの中で大きな課題となっているのが働く職員の高齢化や職員の人手不足です。

「働き手は足りていない現状があります。高齢化が進んでいながらも、私たちのところは平均年齢が若い部類に入ると思います。それでも、25年前に設立した当時から働いている方だと、70歳を超える方もいます。介護仕事による身体への負担を理由に、別の配置や職業への転職を希望される方もいます」

今までの明るい表情とは打って変わり、人手不足の課題の話になるとさらに真剣な表情になる湯浅さん。

「人が足りていない分、誰がその役割を担うのかというとベトナムやミャンマーの方々と面接させて頂いている状況です。今は7、 8人の海外からの方々が一生懸命働いてくれています。

やはり自分の国にいる家族のために、言葉に苦手意識があっても頑張ってくれています。言葉がつたなくとも、その方にあった場所を選ぶことで協力して仕事をすることができます

湯浅さんはここでも相手の適材適所を探し出し、困りごとのないようにピースを当てはめていっています。従業員の子どもたちの中には大人になってから尾鷲に戻り、湯浅さんと一緒に働く人も。

子供がいても働きやすい環境を25年前から作り上げてきた湯浅さん。事業と一緒に育っていった子供たちが今度は、湯浅さんをサポートしています。

次世代のチームができました」と笑顔で語ります。

ファミリーのように繋がっていかなくてはいけない、やっぱり。横のつながりを大切にしたことが、組織づくりでうまくいった秘訣かもしれません」

驚いたことに人数の多い組織となった今でも、面接ではあまり人を採用していないといいます。

「自分が働いているところが良い場所であれば、『働きやすいよ』周囲の人を誘ってくれるんです。逆に、嫌なところであれば『絶対にきたらアカン』となると思いますが。

あいあいなら『子供がいても絶対大丈夫だし』と言ってくれる。そして話が広がって、ご家族みんなであいあいで働いてくださる方も多くいます。意外と縦ではなく、横のつながりの方が大切なんです」

上司と部下のような上下の関係ではなく、まるで家族のように「横のつながり」を大切にしながら働いていく。そして現場の第一線に立ち続ける湯浅さんをみて、また次の人へとつながっていく。あいあいに人が途絶えない秘訣です。

湯浅さんはインタビューの最後に、これからの課題と自分たちが担っていきたい役割について話してくれました。

「田舎だからこそ、外部に対して少し閉じてしまうところもあります。観光でも、それぞれのお店や施設が“点”として一生懸命がんばっているけれど、その点同士を線で結ぶような関係づくりがまだ少なくて。だからこそ、私たちのチームでその橋渡しの役目を担っていけたらいいなと思っています」

「結局、魅力あるまちづくりって、魅力がなければ人は来ないですよね。それは何の魅力かといえば、人の魅力だと思うんです。やっぱり、ほかの方を受け入れる“包む気持ち”がないと、まちは思い出にならないから」

湯浅さんが最後にそう語った言葉には、尾鷲というまちに根づくあたたかさがにじんでいました。 相手を受け入れる気持ちを何より大切に——。そんな想いとともに、湯浅さんたちは人の魅力であふれる職場と地域をこれからも育てていきます。

Editor's Note

編集後記

湯浅さんの人と人とを繋げる思いは、福祉事業だけでなく観光事業に広がっています。湯浅さんのもとに一度尾鷲を離れた人も戻ってきます。一緒に人やまちを支え合い、世代を超えて人が集まります。湯浅さんの観光という大きなプロジェクトはまだ始まったばかりであり、これから尾鷲がどう変化していくのか楽しみです。

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