HIROSHIMA
広島
「いつか教育に携わってみたい」
そんな気持ちを漠然と持っているけれど、
果たして自分の経験が役に立つのだろうか…
子どもたちの未来を育む関わりが自分にできるのだろうか…
そんな不安が拭えずに一歩を踏み出す勇気が持てない方も、きっといるのではないでしょうか?
同じように子どもたちと関わる難しさ・葛藤を抱えながらも、島全体で支え合い、生徒と共に成長し続ける島が瀬戸内海にあります。
広島駅からバスで港へと向かい、フェリーで揺れること約30分。
辿り着いたのは今回の舞台となる広島県の離島・大崎上島(おおさきかみじま)。
約7,000人が暮らし、造船・海運業が盛んで、柑橘の島としても知られてきたこの島には、自治体と学校が力を合わせ、「高校魅力化プロジェクト」(*)に取り組む高校があります。
*高校魅力化プロジェクト…地域の高校を魅力あるものにすることで、少子化・過疎化による高校の統廃合を回避し、地域活性化につなげるための施策。各高校独自のカリキュラムで行われており、大崎海星高校では地域学・公営塾・生活寮が魅力化の3本柱となっている。
高校存続の危機を地域一丸となって乗り越え、今では全国各地から入学希望もあるという、島の県立高校「大崎海星高等学校」。
そんな地域から愛される大崎海星高校で生徒たちの成長を一緒に育むプロジェクトメンバーを、地域おこし協力隊員として募集しています。
教育業界が未経験の方でも、生徒への想いがあれば大丈夫。
「高校魅力化プロジェクト」に関わる3名の方から、この島ならではの教育の取り組みをそれぞれから伺いました。
まず最初にお話を伺ったのは、プロジェクトの下支えとして大切な役割を担っている大崎上島町役場の松永さん。
「大崎上島町は、瀬戸内海の中央に位置する県内唯一の完全な離島の自治体です。『多様な人材を育てる教育の島づくりを進める』ことを最重点政策として、まちづくりを牽引する人材の育成を、町全体で推進しています」(松永さん)
大崎上島町が「教育の島」を推進し始めたきっかけは、2014年に訪れた統廃合の危機。
広島県教育委員会が打ち出した「全校生徒80名以上」の目標に対し、当時の大崎海星高等学校の生徒数は67名だったそうです。「統廃合になるかもしれない」という危機感から、町が支援を開始。「高校魅力化プロジェクト」が始まりました。
統廃合の危機から11年。2025年1月現在の生徒数は、93名。生徒の3分の1は、他地域からの「地域みらい留学生」が占めています。
この度、さらに教育分野の魅力を高め、町を活性化するために、公営塾「神峰学舎(かんのみねがくしゃ)」」で学習支援等を行うスタッフと、教育寮「コンパス」のハウスマスターを募集。
「塾については、学習支援ができて高校生と一緒になって伴走していける方。ハウスマスターには、 生徒のちょっとした変化に気づく、効果的な声かけができる、駄目なことは駄目と言えるといった方にぜひプロジェクトに参加して、一緒に走っていただきたいと思っております」(松永さん)
プロジェクト全体を支える松永さんが大切にしているのは、「みんなが同じ方向に向かうこと」。
「寮にしても塾にしても“生徒を支えるために我々ができること”を一緒に考え続けていく。そうすることが生徒への良い支援に繋がっていくんだと思います」と想いを語ってくれました。
松永さんが「高校魅力化プロジェクト」の担当になったのは昨年からですが、その前から教育への関心があったそうです。
「以前から高校で開催するイベントなどに参加していたんです。自分も最前線で生徒と関わることはしたいなと思っていました」(松永さん)
「今後、担当ではなくなったとしても関わり続けたいです」と教育分野に携われることを喜ぶ松永さんは、同じ島内にある国立広島商船高等専門学校の出身。
地域と関わる生徒たちの姿を見て「時折、昔の自分を見てるような感じもしますね」と、ご自身の学生時代と重ね合わせます。
「自分が高専生4年生、5年生の時に、 いろんな人たちに誘ってもらって、地域と触れ合える機会がたくさんありました。けど、学生のうちから地域と繋がれることって当たり前じゃないと思うんです。それがこの島の魅力だと思いますし、大崎海星高校の生徒たちにも地域との関わりをどんどん増やして、いろんな経験をしてもらえたら嬉しいですね」(松永さん)
続いて向かったのは、今回の募集ポジションの1つ、公営塾「神峰学舎(かんのみねがくしゃ)」。こちらでは、いわゆる学習塾とは少し違った支援を実施。授業の復習や入試などの学習支援の他、生徒たちのやりたいことを形にする“プロジェクト支援”も行っているそうです。
「例えば、畑をやりたい生徒が、畑を使ったコミュニティづくりに取り組んでいるのを手伝ったり。芸術の道に進みたい生徒であれば、いろんなアートの手法を自分で学びながら、作品の展示を開催してみるなんてこともしていて。そういった生徒たちの相談にのったり、アイデアコンテストへの参加の呼びかけやそのサポートなどを行っています」
そう語ってくれたのは、英語とキャリア支援講座「夢☆ラボ」を担当する伊奈さん。
相談にくる生徒の中には、既にやりたいことが見つかっている生徒から、何をやったらいいか分からずに悩んでいる生徒まで様々。どんな内容が相談されるかは、生徒に出会うまでわかりません。
「日々の面談やコミュニケーションを通して、やりたいことを見つけたり、挑戦を促すような声かけをしています。ただ、生徒たちにどう伝えたら響くのかが分からないので、常にパスを出し続けている感じですね」と、伊奈さんは楽しそうに話します。
地域おこし協力隊として赴任してきた当初に抱いていた「自分の経験を活かせるのではないか」という前向きな気持ちとは裏腹に、この仕事を通じて「学ぶことの方が多かった」と率直な気持ちを言葉にします。
「教育や人材育成に携わった経験が活かせてるかといったら、全然活かせてないのが正直なところです。でも、それはそれで面白いなと思って、日々学ばせてもらってます。特に、教員時代の頃から“教える教わる”という立場に違和感があったんです。この島に来て、より一層、生徒たちとの間に立場の違いを作らないことが大切だと凄く感じました」(伊奈さん)
そう話す伊奈さんは、「生徒がやりたいことに対して前のめりであって欲しい」とこれから一緒に働くであろう仲間にも期待を膨らませます。
公営塾のスタッフとして関わるにあたって、やはり教育現場での経験は必要なのでしょうか。
「確かに教育現場を知っている良さもあるとは思います。けど、なくても全然いいと思っていて。むしろ、教員とは異なる視点があるから面白いのかなと思います。一般企業での営業から事務をしていた人までいろんなキャリアの人がいることは、私たちにとっても切り口の幅も広がりますし、どんな職種でもその人らしいスタイルを作っていけるんじゃないかな」(伊奈さん)
「生徒がやりたいと思ったことを口にした時、ただ見守ってるだけでは生徒は動かないんですよね。そこに対して、『こうしていったら面白くなりそうじゃない?』とこちらが勝手に動いてしまうくらいの勢いが大事だったりする。
私たちは教えるのではなく、生徒と一緒の目線で頑張る。という視点と、生徒たちが自分でやりたいことをやれる主体性を育むこと。そのための手立てを一緒に考えてくれる人が仲間になってくれたら嬉しいです」(伊奈さん)
と言葉を続けます。
現在、塾のスタッフは伊奈さんを含めて4人。それぞれ視点は違うけれど、同じ方向を見ている心強いチームだといいます。
「大人が楽しそうに仕事をしているところを、生徒はめちゃくちゃ見ているんですよね。もちろん、結果を出すことも大事だとは思ってはいます。ただ、結果を出すだけにこだわっていると、1人で色々やってしまったりとかして、輪を乱したり、誰かを傷つけてしまうことも。なので、まずはチームが温まることで自然と結果も出てくるんじゃないかなって思っています」(伊奈さん)
スタッフの雑談の中でも「生徒の良いところをどんどん出していきたい」と話す伊奈さんですが、やはり仕事を頑張れるのも生徒の存在があってこそ。
「生徒を見てると、『よっしゃ、私もやったらあ!』って 思うんですよね。この子たちが頑張ってるんだし、私も負けてられないです」と語る伊奈さんの瞳には公営塾の無限大の可能性が映っているようでした。
最後は生徒たちが実際に生活している寮へお邪魔し、ハウスマスターの西山さんにお話を伺いました。
西山さんもハウスマスターの仕事は未経験だったそうです。しかし、アフリカで過ごした経験をきっかけに学生の頃から抱いていたキャリア教育への関心が大きくなっていたとのこと。
「アフリカでは、教育の重要性は言われるんですけど、仕事はあまり重要視されないんです。要は学校へ行ってもその後の仕事がないので、最初から学校に行かないとか、途中で辞めてしまう。そういった状況を目の当たりにした時に、仕事に就く前のキャリア教育ってすごく大事だなと思ったんです」(西山さん)
ハウスマスターであれば、学校教育ではなく、かれらの生活に関わることができる。日常の会話の中から生徒たちの興味を掴めれば、かれらの将来へと繋げていく関わりが出来るのではないかと考えたという西山さん。
「やっぱり中学3年生の時に自分の地元を離れて島にくる決断をするのって凄いことだと思うんですよ。その決断力を持っているからこそ、感受性も鋭いのではないかと思いましたし、そんなかれらの可能性をもっと伸ばしてあげたい。とはいえ、やっぱりかれらもまだ高校生。社会に出る前に最低限のルールを学んでいく必要があると思っています」(西山さん)
時間を守る、報告、連絡、相談をする。といった社会人としての土台を身につけてもうらうこと。その上で、「生徒一人一人も自分の好きなことを見つけてほしい」と話します。
そんな西山さんにとって、ハウスマスターでの仕事は「“観察”すること」だといいます。
「やっぱり都会とは違う息苦しさが島の暮らしにはあると思うんです。地域の皆さんも含め、どうしてもいろんな場所でかれらの行動は見られます。
加えて、学校はもちろん、部活に行っても寮に帰っても常に一緒なわけですから、ストレスはありますよね。だからこそ、かれらが普段どんな言葉を発しているのか。どんなトーンや視線で、誰と一緒に過ごしているのか。そういった小さなことから変化を見つけること。それが1番の仕事だと思ってます」(西山さん)
「ある生徒ですが、最初は『休みたいです』と言うだけで、こちらから理由を聞いてあげる必要がありました。しかし、ようやく自分の口から休みたい理由を、なぜ休みたいのかまで説明できるようになったんです」(西山さん)
そういった小さな成長に喜びを感じる反面、繰り返し伝え続けることの難しさも。
「1度言って変わってくれたらいいんですけどね。1年経ってようやくできる子もいるし、2年経ってできる子もいる。なので、僕たちの役目として、ここまではオッケーだけど、これ以上やったらダメだよっていうのを、しっかり線引きして指導し続けることが大事になってくるとは思います」(西山さん)
「好きなことを見つけるのって、もっと気軽で良いんだと思うんですよね。最初から大きな志がなくても、やっていくうちに見つかっていくこともある。なので、とりあえず何でもやってみたら良いんだと思います」(西山さん)
そう話しながら「旅にもトラブルがつきものだけど好きですよね?」と笑う西山さんにとって、生徒たちと過ごす島での暮らしは、まるで旅のような生活なのかもしれません。
日本の未来をこれから担っていくかれらの可能性を信じ、寄り添い続けること。
日々の悩みは絶えないというが、「やり続けていくしかない」という言葉からは西山さんの確固たる熱い想いが伝わってきました。
足を踏み入れてみなければ、その土地の魅力はわからないもの。まずは島を訪れてみませんか?生徒と共に成長をし続けるこの島で、アナタのことをお待ちしてます。
◾️募集職種
(1) 大崎海星高校魅力化スタッフ(公営塾「神峰学舎」スタッフ及び魅力化プロジェクト支援)
(2) 大崎海星高校教育寮ハウスマスター(教育寮での寮生の生活支援)
◾️報酬
月額173,900円【翌月15日支払】
◾️応募受付期間
令和7年1月6日(月)~令和7年3 月31 日(月)
◾️選考方法
▼第一次選考:書類審査
▼第二次選考:面接を2回実施
各詳細はこちらから
(1) 大崎海星高校魅力化スタッフ
(2) 大崎海星高校教育寮ハウスマスター
Editor's Note
三者三様それぞれの役割に向き合いながら、生徒達の成長と向き合っている皆さんからは、松永さんが繰り返し言葉にしていた「全員が同じ方向であること」を肌で感じました。学校の先生以外で、こういった教育の携わり方もあるんだと知ることができ、私自身にとっても新鮮な取材に。今度は、皆さんが楽しいと話していたお祭りに参加しに遊びに行きたいです!
YUNA TAMURA
田村 結奈