IBARAKI
茨城
地域で働くということは、仕事だけをしに来ることではありません。
ここに移り住み、暮らしの中に身を置き、人や環境と向き合いながら自分の意思で動き続けることです。
経験や肩書きよりも大切なのは、『なぜここなのか』を自分で語れること。
そんな問いに対し、未完成な環境を楽しみながら、試行錯誤を重ねて地域の現場に立ち続ける組織があります。茨城県鹿嶋市に拠点をおく、株式会社KX(以下KX)です。
KXは、プロスポーツチームを地域のハブとして活用し、人や挑戦が集まる持続可能なまちづくりを推進。商店街再生や小規模事業の創出を通じて地域経済を活性化し、外部人材や企業との連携を促進しています。
鹿島アントラーズのアセットを核に、スポーツの価値を地域課題の解決へと展開し、全国のモデルとなるような挑戦をしている会社です。
本記事では、鹿嶋市の今後に危機感を持ち、このまちを大切に想うKXの社員3名にお話を伺いました。地域での事業の在り方や底値にある価値観に迫ります。
「『鹿嶋という辺境でありながら、まちが最強であり続ける物語を作って行くためには、鹿島アントラーズが強くあり続けるだけじゃなくて、まち自身が続いていかないと成り立たない。』この言葉はKXの社長小泉文明氏(現メルカリ社会長兼鹿島アントラーズ代表取締役社長)が語った言葉です」(黒木さん)

鹿島神宮のある参道を歩きながら、黒木さんが鹿嶋という地域の現状を説明してくれたとき、最初に話した言葉でした。
その言葉の背景には、このまちが直面している「待ったなし」の状況があります。
観光客で賑わうはずの鹿島神宮の参道を歩いていても、目に付くのはシャッターの閉まった店やそのままの状態で使われていない空き家が目立ちます。
「人口減少が進む中でまちづくりの領域をプロスポーツチームであるアントラーズだけで担うには事業領域や意思決定の面でなかなか難しいところがあります。
スポーツの価値を街の存続に繋げるには、既存の枠組みを超えた組織が必要でした」(黒木さん)
そこで2021年、リスクを負い株式会社KXを創設したのが小泉氏でした。
黒木さんは、言葉を続けます。
「アントラーズと切り離して考えるわけではありません。私たちが目指しているのは、この場所にアントラーズがあるからこそ人が集まり、新しい挑戦が生まれること。KXはそのための存在でなければいけないんです」(黒木さん)

黒木さんが語る「人が集まり、挑戦が生まれる場所」としての鹿嶋。その考え方はKXのもう1人のキーパーソンである菊池さんの言葉にも、はっきりと受け継がれています。
アントラーズを核に生まれたエネルギーを、どうすればまち全体に広げていけるのか。その答えとして菊池さんが見据えているのは、外から与えられる成長でなく、内側から立ち上がる自発的な動きでした。
「持続可能なまちをつくるためには、外部資本に依存するのではなく、まちに暮らす人や挑戦したい人が、自分のやりたいことを実現できる環境を整えることが重要です。個性豊かな個人店が並び、自ら『ワンチャンス』を掴みたい人がこのまちに集まる機会や環境をつくる。それをミッションに掲げて活動をしています」(菊池さん)

その「ワンチャンス」を掴みたい人と人とを結ぶために、KXは鹿島神宮の商店街再生プロジェクトの仕組みづくりに挑戦しています。
KXは、鹿島神宮から1本隣にある仲町通りで、スポーツバー「Asobiya」を運営しています。
黒木さんは、「Asobiya」の背景について、仲町通りを歩きながらこう教えてくれました。
「私たちがいるいないに関わらず、地域で新しいことをやりたい人は必ずいる。でも、その人たちがコミュニティ化してないのは課題だと思ったんです。人知れず始めたチャレンジを『応援してくれる人がいるから頑張れる』と思えるようになるには、物理的に集まれる場所が必要でした。
また、私たち自身も口だけ出して地域に根付く事業をやらない状態は説得力がないと思い、『Asobiya』をオープンしました」(黒木さん)
黒木さんはスポーツバーのシャッターを開けて中を見せてくれました。店内には、鹿島アントラーズの選手のサインやユニフォーム、写真が広がり訪れる人を興奮させる店内でした。
「定期的に誰かしらが1日店長になり、農家の方や世界的に有名なドローンレーサーの方など多種多様な人達で店内は盛り上がっています。まずは、仲町通りを中心にチャレンジを集積させてていき、密度を作っていきたいと思っています」(黒木さん)
その言葉には理想論だけではない、現場に立ち続けてきた人ならではの実感が滲んでいました。

菊池さんから語られたのはプロスポーツチームという存在が、鹿嶋市にとってどんな役割を果たし得るのかです。
「もう一つKXでの大きなプロジェクトは、プロスポーツチームの可能性を引き出す役割です。アントラーズのエンブレムや選手を活用するということではなく、この鹿島アントラーズというプロスポーツチームの存在そのものを通して、枠組みを超えて多くの人たちを巻き込むことが出来ると思っています。
そうすることで、肩書や役職を超えて、地域の課題を解決することに取り組めるんじゃないか、新たな地方の可能性を引き出せるのではないかと感じています。自分たちのことを『スポーツチームの可能性を引き出す、スポーツまちづくり法人です』と、対外的に発信し始めています」(菊池さん)
商店街という「場」を整える一方で、KXはそこで挑戦する「人」を増やすための仕組みづくりにも着手しています。それは、2025年にスタートした「カシマダチ(鹿島立ち)」。
古くから旅立ちの地として知られる鹿嶋の文脈を汲んだ、新しい形のビジネスコンテストです。KXで事業開発に取り組む菊地さんはこの取り組みの印象について話してくれました。
「『カシマダチ(鹿島立ち)』は、一歩踏み出す人を応援するためのビジネスコンテストのような企画として始まりました。属性に縛られず、自分のやりたいことをシンプルに表現でき、多くの人が共感し応援できるカルチャーを目指しています。
公募をかけてみると、38件ものエントリーがありました。このプロジェクトは、人が一歩踏み出す瞬間に、いかに共感が生み出すかで、単なるアイデアに終わらずに、周囲の方の支援を得ながら実際のアクションにつながっていく余地を持っていると思います」(菊地さん)

「カシマダチ」のサブタイトルにあるのは、「ワンチャン、起こそうぜ!」というフレーズ。黒木さんはその言葉の背景についてこう話します。
「『まずはやってみたい』と思える入り口を用意することに力を注ぎました。ビジコンなんていわない、思わずやりたくなるワードを言い換えたいと話し合い、出てきたサブタイトルが『ワンチャン』なんです」(黒木さん)

「カシマダチ」のように、まちの新しいカルチャーを創り出そうとするKX。その裏にあるのは、決して簡単な道だけではありません。
大手企業でのキャリアを経て、あえて「辺境」と呼ばれる地域に飛び込んだ菊池さんは入社時をこう振り返ります。
「当時は、自分のキャリアを一旦ゼロにするような感覚もありました。かなりのギャンブルだったと思います」
菊池さんは言葉を続けます。
「組織として、何も決まっていない状態でしたが、プロスポーツチームの可能性を引き出しながら地方の課題に取り組もうという、新たな取り組みにワクワクし、入社を決断しました。
KXが立ち上がった時には何も決まっていませんでしたが、今は目指したい方向性も決まっているので、組織の『第1章』がまさに始まったところだと考えています。地盤固めの『第0章』をショートカットして入社できるのは羨ましいなと思います」(菊池さん)

また、事業企画を担当している菊地さんは、ある種の「ロマン」を感じたと言います。
「私は地方出身なんです。地方出身者が抱える反骨心だったり全て背負っているロマンみたいなものを、鹿島アントラーズ、鹿嶋に感じました。大きい資本に頼らず、自分たちで常に抗い続けて戦い続けていくようなイメージです。
アントラーズという文脈と地域が一体となり、自らの力で成功を掴み取ろうとする。その挑戦の物語こそが、私にとってのロマンです」(菊地さん)

今回募集する「事業推進プロデューサー」は、地域の人々をプレイヤーとして育て、どのように価値を生み出していくか考える役割を担います。
黒木さんが強調するのは、決められた正解をなぞることではなく、人や状況に向き合いながら、その都度問いを形にしていく力です。
「多様なステークホルダーが存在し、価値観や前提となる経験も異なる中で、思いを汲み取り調整していく難しさがあります。そのため、関係者と向き合いながら実績を積み、必要なスキルセットを持つ人材が重要だと考えています」(黒木さん)

この姿勢について菊池さんは繰り返し「スタンス」の重要性を語っていました。
「非常に求めているレベルは高いですが最も大切なのは『覚悟とやりきる思い』であり、足りないスキルがあっても覚悟を持ってやり切る姿勢を大切にしつつ、地域へのリスペクトを忘れず、本気で向き合うことが求められます。
地域の中で何かを担うとき、私たちは決して「やってあげている」とは考えません。まちのためにやっているという意識でもありません。大切にしているのは、『私たちが本気でやりたいからやっている』という主体性と、それでもなお“やらせていただいている”という地域への敬意です」
菊池さんの言葉から伝わってくるのは、地域に対する一貫した敬意でした。

菊池さんは、KXでプロジェクトを共につくるうえで大切にしていることを次のように話します。
「プロジェクトをお任せする際も、私たちの方から細やかなお願いはせずに、新たに参画された方のノウハウや想い・ビジョンを尊重すると思います。私の感覚で言えば、背中を預けられる関係かどうか。その信頼こそが重要です。そしてその姿勢は、私たちの行動指針である「enjoy」「ownership」「respect」の3つの言葉に集約されています」(菊池さん)
黒木さんは、この仕事を「人と向き合うこと」そのものだと捉えています。地域に深く入り込み、同じ時間と感覚を共有することではじめて生まれる価値がある。そんな現場主義の考えを黒木さんはこう表現します。
「まちのプレイヤーである人たちとのコミュニケーションを積み重ねていくことこそが、この仕事の本質です。鹿嶋という地域に根ざして、環境に共感しあえる人と仕事をしていきたいですね。プロスポーツの大きな仕組みを動かし、チームの価値を育てる、『ドライバー』になれる方なら、私たちの想いにピンと来てくれるはずだと思っています」(黒木さん)

最も大切なのは『覚悟とやりきる思い』
菊池さんが語るその言葉には、地域の人々と誠実に寄り添い続けるという覚悟が込められています。
自分のふるさとや、大事にしている地域をよくするために、この鹿嶋というフィールド・機会から盗めるところは盗んで持ち帰りたい。
そんな思いも大歓迎だそうです。
一歩踏み出すのは今しかない。完成された計画がなくてもいい。
やりたいという衝動を大切にし、その挑戦が誰かの共感を呼び、まちの未来へとつながっていく。その最初の一歩こそが、新しい風を生む。
鹿嶋というフィールドで、あなた自身の「本気」を形にしてみませんか。
Editor's Note
鹿嶋市で株式会社KXの皆さんに会い、地域再生への覚悟と未来への熱量を現地で実感した。言葉の一つ一つが次の一歩を照らす。ここから始まる次なる挑戦に、大きな期待を寄せたい。
MARUTAKE
まるたけ