SHIGA・ZENKOKU
滋賀・全国
いまいる場所のまま、遠くの誰かと一緒に何かを生み出す。
そんな働き方に心が動いたことはありませんか。
今回ご紹介するのは、エール株式会社(以下、エール)の取り組みです。
主役となるのは、都市部などの「女性複業人財」と「地域に暮らす女性」。複数の仕事をすべて本業ととらえる「複業(パラレルキャリア)」を地域課題の解決や価値創出に結びつけ、滋賀県高島市で「女性複業人財と地域の共創による関係人口創出プロジェクト」をスタートしました。
内閣府が実施する「令和7年度 関係人口創出・拡大のための対流促進事業」の採択事業の一つとして始動した本プロジェクトは、単なる複業マッチングにとどまらず、地域の女性にも変化をもたらしています。
地域の内と外が手を取り合うことで、まちはどのように輝くのか。エールで代表取締役を務める美宝れいこさん、現地でプロジェクトを取りまとめている田中可奈子さん、パラレルキャリア推進委員会 広報PR室リーダーの下河内優子さんにお話を伺いました。
都市部の複業女性が「越境しながら地域女性と共創する」という、これまでにない関係人口モデルをご紹介します。



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2024年に、民間の有識者による任意団体「人口戦略会議」が公開した「消滅可能性自治体」の数です*。
消滅可能性自治体とは「2050年までに、若年層の女性の数が半分以下になる」と予測されている自治体のこと。このスピードで女性が急減する地域では、人口が70年後には2割、100年後には1割程度にまで減少し、最終的には消滅する可能性が高いと推測されています。
(*人口戦略会議,2024,「令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート」 参考)
エールが「女性複業人財と地域の共創による関係人口創出プロジェクト」のターゲットとして選んだ滋賀県高島市も、この消滅可能性自治体のひとつ。エールのプラットフォームを利用する複業女性の力を活かして、高島市の地域課題に取り組もうというのが、今回のプロジェクトの主眼です。
これまで、女性の「複業」を推進してきたエール。働く女性の活躍を応援するためのNPO「パラレルキャリア推進委員会 ®」も運営しており、全国の会社員・起業家の女性3,000名以上が在籍しています。

「地方に住む女性に話を聞くと、オンラインで人とつながり仕事をすることに抵抗感がある方や、その発想自体がない方もいます。自身のキャリアを見つめ直し、複業に踏み出すきっかけにすることで、どこに住んでいても自分の可能性は広げられるんだという前向きな気づきを得てもらうのが狙いのひとつです」(美宝さん)
「女性複業人財と地域の共創による関係人口創出プロジェクト」は2025年8月に本格始動したプロジェクトです。北は北海道から南は九州まで、30代後半から50代の女性たちが参加しています。「高島市を盛り上げたい」という願いはもちろん「自分が住む地域にも展開できるヒントを見つけたい」という気持ちで関わっています。

これまでにキャリアイベントを3回、高島市での1泊2日のリトリート(日常を離れ心身を癒すための滞在)を1回実施しました。
10月に行われたオンラインのキャリアイベントでは、「暮らす地域と自分のキャリアをどうつなげていくか?」をテーマに、高島市をはじめ、全国から40名以上の参加者が集まり意見交換を行いました。
さらに11月に1泊2日で実施したリトリートでは、全国の複業女性17名が高島市に集結し、地域の女性11名と交流しました。

「リトリート1日目の座談会では、2名のメンバーに登壇してもらいました。お二人とも結婚を機に地方へ引っ越して、オンラインを活用しながら複業をする子育て中の女性です。
お二人とも新しい土地で、ゼロから努力してこられました。キャリアアップした登壇者の姿に、『地方にいてもやりたい仕事に就く手段があるんだと希望が湧いた』という声が上がっていました」(下河内さん)
2日目には、高島市の発酵食文化にちなみ、発酵料理ワークショップを開催。地元文化に触れる機会もつくりました。
高島市の女性と全国の複業女性が意気投合して盛り上がり、熱気に包まれた会場。イベントの最後に自らの変化を書くアンケートを実施したところ、なんと満足度100%だったのだとか。
「アンケートでは、参加者全員が『キャリアに対してポジティブに変化した』『新しいつながりができた』と答えてくれました。
さらには、『今後はもっと地域のプロジェクトに関わっていきたい』という声もすごく多くて。『学んで終わり』ではもったいないので、そんな方には運営に入らないかとお声がけしました。外から支援するだけでなく、地域の中からも運営体制を強固にしていくことで、市内外の女性の対話や交流がより活発になると考えています」(美宝さん)
費用や距離の問題でどうしても気軽に市外へ出るのが難しい中、複業女性の多様な働き方や価値観に触れたことは、高島市の女性たちにとって大きな刺激になりました。

また、当日の交流の効果を最大限にするためにイベント設計も入念に行いました。
「リトリート前にキャリアイベントを開催したのは、現地でスムーズに打ち解けられるようにという狙いもありました。オンラインで一度顔を合わせておけば、対面で会ったときに話が弾みやすいと考えたからです。
さらに会場には、参加者のほとんどが一度は来たことがあるレンタルスペースを選びました。知らない場所で知らない外の人と会うのではなく、自分たちのホームグラウンドに招き入れることで、高島市の女性も緊張がほぐれ、良い雰囲気づくりができていたと思います」(田中さん)
高島市で高まる熱気。「足を運んで終わり」にしないために、その熱を持続させる工夫にも余念がありません。Facebookで立ち上げた「Biwako Community ー滋賀とつながるー」もそのひとつです。

「このコミュニティは、地元のくらしや観光、グルメ、自然や歴史など、滋賀の魅力をシェアし、安心して交流できる場です。
『高島市でこんなイベントがあります』『今日はこんなすてきな景色を眺めながら仕事をしています』といった投稿をこまめに行うことで、複業女性が定期的に高島市を思い出し、『また行きたいな』と思えるようにしています。関係人口が興味を持ち続ける関係性を保つことも、地域活性にとっては重要だと考えています」(美宝さん)
プロジェクトの柱のひとつである「地元企業の複業プロジェクトの受託」は、開始3ヶ月で4件進行中です。順調に見えますが、「企業から案件を掘り起こすことがいちばん大変だった」と美宝さんは語ります。
「地元の企業から仕事を生み出し、複業人財に任せてもらう流れをつくることが想像以上に難しくて。対面での関係値がないままオンラインで進める土壌が整っておらず、なかなか協力体制を得ることができませんでした」(美宝さん)
そこで一役買ったのが、高島市にいる田中さんです。現地で関係性を築いていた企業に対面でプロジェクトの話を持ちかけたところ、二つ返事で了承をもらえたのだといいます。
「もともと地域との共創に力を入れてこられた企業だったのも大きかったと思います。ですが、顔が見える相手が窓口にいるなら『お願いしてみようかな』という気持ちになりやすいのだと気づきました。
現在は私が、企業の案件を集約し、高島市や都市部の女性に仕事をお願いするまでの一連の調整を担っています。他の地域で同様のプロジェクトを行うときにも、オンラインでのやりとりに加えて、現場で企業と個人の間に立つ『つなぎ役』の存在が必要だと感じています」(田中さん)

現地にはニーズがないわけではなく、「仕事を切り分けて外部に依頼する」発想自体がない可能性もあります。下河内さんは、「企業や自治体に事例を知ってもらうことも重要」と考えています。
「リトリートで開催したイベントに参加された観光局の方から『ライティングのような時間がかかりがちな業務を、外部のプロにお任せできるなら助かる場面も多いと思います』という前向きなコメントをいただきました。
人手が足りずに困っている企業や自治体は、潜在的には多いと感じています。ライティングやデザイン、マーケティングといった仕事を少しずつ複業人財に任せていただくことは、業務効率化の面でも大きなメリットになるはずです。根気強くアプローチし続けて、きっかけを見逃さないようにすることが大切だと考えています」(下河内さん)

「確かに、ニーズをしっかりと掘り起こすことが重要ですよね。高島市で仕事を探しても、サービス業や介護などが中心で、デザインやマーケティングの求人は少ないという現状があります。
一方で家族の都合で移住して、前と同じ仕事を探したけれど、見つからずにキャリアが途切れてしまったという女性は話題に上らないだけで一定数いると思うんです。移住後に仕事がなく困っている人の受け皿にもなれるはずなので、これから広げていきたいですね」(田中さん)
これまでの関係人口は、現地に足を運ぶことに重きを置かれてきました。女性複業人財が外から関わり、地域の女性を盛り上げるエールの取り組みは、そのあり方に新しい風を巻き起こしています。
「もちろん、現地へ赴いて地域の方と交流することも非常に大事です。ですが、現実には家庭があると頻繁に足を運ぶのは難しいこともあります。そう考えたときに、リアルとオンラインのハイブリッドが地域活性に一役買うと私は考えています。
オンラインイベントなどを通じて現地の方と交流する機会をつくったり、その土地の情報に触れ続けたりすることが、現地でスムーズに交流できる土台になり、地域への興味醸成することにつながります。何よりオンラインで会えれば、誰もが場所を選ばずに関われる点もポイントです。
訪れたときだけではなく、長期的に接し続けられる機会をつくることが地域に長く関わってもらう秘訣です。移住や二拠点生活を考えるきっかけにもなると思います」(美宝さん)

さらには、外からの働きかけだけではなく、同じ熱量を持って取り組む地域の人や企業の存在も鍵。ここでもオンラインの存在が大きいといいます。
「地域の中では女性のキャリアが築きにくいという問題があるなかで、オンラインを活用すれば全国の女性とつながって相談できます。
地域を持続的に強くしていくには、外から呼び込むだけでなく、いま地域にいる女性たちをいかに流出させずに、その土地で活躍できるようにしていくかという視点も大事なんです」(美宝さん)

滋賀だけでなく、将来的には他の地域にもプロジェクトを展開していく方針なのだそう。今回見えた課題や得られたノウハウを活かして、同じ人口流出問題を抱える地域にバトンを渡すことを目指しています。
「私たちは『消滅可能性自治体をゼロにする』ことを目標に掲げています。プロジェクトを全国に広げて、みんなで地域に関わっていくことで、ひとりでも多くの地域の女性の活躍につながれば。そして、若年女性の流出を食い止める一助になれたら嬉しいですね。
県外の方が関係人口として関わることをきっかけに、いま高島市に住んでいる女性たちがますます輝いていく。それが地域活性を大きく前進させると私たちは考えています」(美宝さん)
市外のファンを増やし、地域の女性も元気にする、一石二鳥のプロジェクト。注がれる熱いエールに呼応して、切り拓かれる地域の明るい未来を垣間見た気持ちになりました。

今回ご紹介した高島市でのプロジェクトは、内閣府が実施する「令和7年度関係人口創出・拡大のための対流促進事業」の採択事業の1つです。
関係人口創出・拡大施策についてもっと知りたい方は、「かかわりラボ」(関係人口創出・拡大を目指す全国の組織や団体が集まり、情報共有や連携を行う協議会)をぜひチェックしてくださいね。
Editor's Note
都市部でマンションなどに住んでいると、「近所の人となるべく会わないように…」と息を潜めて生活しがちです。一方、高島市は『顔が見える関係』が当たり前で、住民どうしが助け合うネットワークがあるそうです。オンラインや現地での交流で、地域の温かさに触れたこともリトリート成功の理由かも。参加した女性たちの明るい笑顔を見て、そんなことを考えました。
AYAKO SEGUCHI
瀬口 恵子