協働
新型コロナウイルスの感染が国内で初めて確認されて3年。当時、世界的不安を巻き起こした感染症も、2023年5月8日に今の「2類相当」から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方針を政府が決定した。
コロナの事象だけでも、私たちの生活はめまぐるしい変化を遂げている。そんな変化の激しい時代だからこそ、「昔からの伝統を受け継ぎ、良いものをつくっても、なかなか顧客にまでその魅力が届かない」という悩みを抱えている作り手は少なくないだろう。
そこで今回は、同じように「購買層の変化や購買チャネルの変化により、顧客への有効的なアプローチ方法がわからなかった」という悩みを抱えた作り手と、外部人材が協働することで、新たな価値を生み出したプロジェクトをご紹介。
約425年前から薩摩焼の伝統を守り続ける窯元『荒木陶窯』と、地域企業の伴走支援を行う『協働日本』が協働で生み出した変化とはーー。
村松:私たち協働日本は、「協働」をキーワードに鹿児島県内12の企業様と約7ヶ月間、共に伴走をして参りました。我々は作業代行や一方的にアイディアを提供することは行っていません。事業者自らが考えやり抜く中で、適切な伴走とプロジェクトマネジメントを実施し、「なぜ取り組んでいるのか」を徹底的に言語化をすることを大事にしています。
村松:今日はそんな協働日本と一緒にプロジェクト伴走をしてくださった企業様の中から、「荒木陶窯」の荒木亜貴子さんに協働日本を通じて起こった変化や感想をお伝えいただければと思います。どうぞよろしくお願いします!
荒木亜貴子(以下、亜貴子):「荒木陶窯の本質的価値を言語化、顧客へのアプローチを変革」という題で発表させていただきます。
亜貴子:弊社は約425年前から薩摩焼(鹿児島県で生産される陶磁器のこと)をつくり続けている、鹿児島県日置市の窯元です。私たちは長年伝統的な薩摩焼を守り続けておりますが、協働日本さんと協働する前は、購買層の変化や購買チャネルの変化により、顧客への有効的なアプローチ方法がわからなくなっていました。
亜貴子:協働日本さんとの伴走で得られた変化は、大きく分けて三つ。一つは「荒木陶窯のありたい姿・価値を言語化できた」ことです。
協働日本さんからは、週1回1時間のオンラインミーティングを通じて “問い” をいただきまして。その問いを一週かけて考え、次のミーティングに回答を持参、回答を元に再び “問い” をいただくという流れがありました。この “問い” が私たちにとっては「当たり前」すぎて、「言語化できていなかった」けれど、自分たちの使命や製品の良さなど「荒木陶窯にとって核となる部分」に改めて気づくことができました。
亜貴子:私どもの薩摩焼きは伝統窯なので、薩摩焼の基本的な作りを逸脱することは決してありません。ですが対話を通じて、「その財産を大切にしながらも、お客様が使いたい商品を作っていくためにどうしたらいいか」を考えることができました。
そんな中、私たち自身から「作り手も使う人もワクワクする薩摩焼をつくる」という想いが言語化できた時、なんだか目の前が開けたような感覚になったことを覚えています。
亜貴子:一つ目の変化だった「自分たちが大事にしたいことを言語化できた」ことで生まれた二つ目の変化は「商品の見せ方」でした。当初のECサイトでは「商品の良さをシンプルに伝えたい」という思いで作成しており、これ自体もとても気に入っていたのですが、協働日本さんからは「実際の活用シーンが見えた方が、お客様に魅力がもっと伝わる」とアドバイスをいただきました。
亜貴子:協働日本さんのアドバイスを元につくったのが現在のECサイトです。料理をのせて実際の生活を想像してもらうことで、「ワクワクする薩摩焼」という指針に沿ったサイトをつくることができました。
亜貴子:最後三つ目の変化が、顧客とのコミュニケーション改善です。展示会もECサイト同様「何のために展示するのか」が抜けていて、極論「手にとってもらいやすいからシンプルに展示する」ということになっていました。
亜貴子:「ワクワクの共有」を念頭にテーブルコーディネートをつくってみたり、料理をのせた写真も展示した結果「こんな風にセッティングすると美味しそうにみえるし、美味しそうなだけでなく食器洗浄機も使えてお手入れも簡単ですよ!」と言葉をかけやすくなったことで、お客様との対話も増えました。初歩的なことなんですけれども、協働日本さんに改めてアドバイスいただくことで、気がついたことがたくさんあった7ヶ月でした。
亜貴子:今までは私と主人の間で暗黙の了解で進めてきた想いを、協働日本さんという第三者の方が交わることで改めて言語化することができました。そして今回限りの考えでなく、今後の私たちの指針になるようなものをつくってくださり、本当に感謝しています。
亜貴子:もちろん私たちが主軸なので「応える」というのは違いますがが、協働日本さんが一生懸命「何とかしよう」と傍にいてくれることで、「ここまで必死になってくれてるんだから、絶対に形にしたい!」という思いもあって、満足のいく結果をつくることができました。
荒木秀樹(以下、秀樹。亜貴子さんのご主人):我々は単なる器販売ではなくて、薩摩・鹿児島の文化を支えているんだという自負があります。だから薩摩焼であることを失っては何にもならない。ですが、こういった気持ちを理解した上で、より発展したアドバイスをいただけたことを本当に感謝しています。
秀樹:7ヶ月という短い時間で、本来であれば3年5年と続けていきたい想いです。本当にありがとうございました。
Editor's Note
長い歴史を大事にしながらも、新しい時代に寄り添っていくこと。言葉では簡単に言えたとしても、それは容易なことではありません。荒木さんご夫婦のお話の中でもありましたが、まずは当事者が大事にしていることを汲んだ上で、進んでいくこと。これが協働の満足度に繋がっているのではと思いました。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香