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LOCAL LETTER

先行きが不透明な時代に必要な「​​アート思考」を体感。ビジネスパーソンがアートとの巡り逢いで得られるものとは?

NOV. 26

拝啓、自分の価値観の枠を壊したいアナタへ

正解がない現代を生き抜くために、今注目を集めている「アート思考」。

「アート思考」という言葉は目にしたことがあっても、内容はよくわからないという方が多いのではないでしょうか。

そこで今回は、論理的な思考だけでなく、感性や感覚を大事にする自分起点の「アート思考」がビジネスにおいて重要だと発信する、起業家 / アート思考キュレーターの若宮和男氏を取材。

11/23-30には、東京・渋谷、アート思考の原点とも言えるアーティストたちの感性・感覚に触れられるイベント『ART THINKING WEEK』を開催するという若宮氏。展示だけでなく、パフォーマンスやワークショップも含め、重層的に展開しようと準備をしている彼に、イベントの主旨、参加することで得られるものについて伺いました。

若宮和男(Kazuo Wakamiya)起業家 (uni’que Founder/CEO)、アート思考キュレーター / 建築士としてキャリアをスタート後、東京大学にてアート研究者となる。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げる。2017年、『uni'que』を創業。2018「すごいベンチャー100」選出。
若宮和男(Kazuo Wakamiya)氏 起業家 (uni’que Founder/CEO)、アート思考キュレーター / 建築士としてキャリアをスタート後、東京大学にてアート研究者となる。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げる。2017年、『uni’que』を創業。2018「すごいベンチャー100」選出。

ビジネスパーソンとアーティストの “結び目” を創る

作品展示とパフォーマンス、ワークショップから成る「ジャンル複合」型イベント『ART THINING WEEK』。「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」の五感それぞれがテーマと聞くと、現代アートに関心のある人向けのイベントとも感じられるが、主催者の若宮氏はアートに触れる機会が少ない、ビジネスパーソンにこそ、来てほしいと力を込める。

「ビジネスパーソンとアーティストの接点、“結び目” を創ることが、このイベントの主旨です。ビジネスパーソンは、アーティストの創造性に触れることで、今まで出会ったことのないイノベーションや創造性のヒントを感じられ、その価値が伝わるし、アーティストにとっては、既存のアートファン以外にも作品を届ける機会になります」(若宮氏)

イベントへの参加だけで終わるのではなく、このイベントでの出逢いがきっかけとなり、企業が社内向けにアーティストのワークショップを導入したり、何かのコラボレーションが始まったりするなど、新しい繋がりの発生を期待しているとのこと。

現在開催している『ART THINKING WEEK』、嗅覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)
現在開催している『ART THINKING WEEK』、嗅覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)

若宮氏がロジカルシンキングが得意という方こそ、ぜひアートに触れてほしいと願うのは、ご自身の体験があったから。大企業で新規事業の立ち上げを担当していた時、イノベーションを生み出すには価値観自体を変える必要があるけれど、ロジカルシンキングではそれは不可能だと痛感。その時、思い出したのが大学時代に研究していた「アート」だった。

「僕は根がすごいロジカル人間なんですよ。ロジカルシンキングが有効と思って、新規事業のアイデアや計画を理詰めで作っていました。でも、全然うまくいかなくて。気持ちに余裕がなく、ロジックでチームメンバーを詰めるようなこともしてしまい、プロジェクトがバーンと崩壊してしまったんですよね。

それで若干メンタルをやられかけたり、ロジカル思考の限界を感じ、もがくなかで、以前アートの研究をしていた時のことを思い出したんです。アーティストって、自分の手の中で作られる一つの作品で世界を変えちゃう。そういうモードとか、アート作品に触れたときに “わかることばかりじゃない” ゾーンに行く感じなどが繋がって、アート思考と言うようになりました」(若宮氏)

ロジックは過去から積み上げていくものだから、それまでの価値軸では評価できないゾーンのものには否定から入ってしまう現代では高い評価を得ているピカソやマティス、印象派が、作品発表当時は「そんなものは美じゃない」「アートじゃない」と否定されたのも、その一例とのこと。

「それまでの価値軸では評価できないゾーンのものを生み出し、批判されながらも作り続ける人がいることで、価値観がアップデートされていくんです」(若宮氏)

「わからない」「スッキリしない」からこそ、運動が生まれる

『ART THINING WEEK』に参加すれば、アートやアート思考がわかり、「これだ!」と思えるかというと、そうはならないし、ならなくてよいと語る若宮氏。自分がワークショップを設計するときにも「気持ち良く終わらない」ことを目指してワークショップを作っているし、アーティストのワークショップも「わからない」「余計にモヤモヤした」で終わっていいと言う。

現在開催している『ART THINKING WEEK』、聴覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)
現在開催している『ART THINKING WEEK』、聴覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)

「例えば、先日某企業でダイバーシティのワークショップをやりましたが、その場で『ダイバーシティとしてどうしたらいいかわかった』となるのではなく、その後も日々考えを更新し続けることが大切なんですよね。だから、ワークショップの最後に、参加者が『で、結局どうしたらいいの?』ってなるんです。僕は『それです、それを持ち帰ってください』と伝えます。

『これはこういうことね』とわかって、ストーンと納得した気になると、安定した気持ちになれますよね。それだとスッキリはするんですけど、スッキリしてしまうとその後は思考をしなくなってしまう。思考の運動が生まれないんですよ」(若宮氏)

確かに、ビジネスコンテストやワークショップでは、最後に参加者全員で発表を行い、「わかったー!」「気持ち良かった!」となるケースが多い。イベント終了時が盛り上がりのピークになると、非日常の高揚感は得られるが、翌日以降は元の日常に戻ってしまい、結局、今までと何も変わらないという状況が度々起こる。これはワークショップの主催者として頭を悩ませるところ。「わからない」「すっきりしない」で終わっていいというのは、一つの解かもしれない。

「とは言え、最初からわからなくていい、と割り切っている緩い設計では、モヤモヤしません。一生懸命みんなが答えを見つけようと、思考を巡らせるようにワークショップを設計しているからこそ、モヤモヤが残る。わからないからこそ、わかろうとする。けれどもわからない。ここの思考の葛藤や運動が楽しいんです」(若宮氏)

人間の五感の可能性を広げるワークショップ

今回のイベントのワークショップも、「めっちゃわかりました」「明日からこれをします」とはならず、見たことのないものに身体が触れることで、“わからないから、わかろうとする。けれどもわからない。” が生まれるという。例え、感想を聞かれてもすぐには答えられず「もう少し考えてみたい」と多くの人が口にしてしまうだろうと若宮氏は語る。

現在開催している『ART THINKING WEEK』、視覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)
現在開催している『ART THINKING WEEK』、聴覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)

私たちが日頃使っている五感は『分ける・わかる』に特化したものなので、そうではない部分を活性化させることが僕らのコンセプトなんです。

例えば今回、聴覚を担当してくださる山﨑阿弥さんは声のアーティストで、人間から出る声とは思えない声が出るアーティストです。イルカが声の反射で空間を認識する “エコロケーション” という能力を持たれている方で。僕自身も過去に体験して驚いたんですが、山﨑さんのナビゲートで、1時間くらいの耳のワークをやると、音の聞こえ方が変わってしまうんですよ。人間の身体性や想像力は、そういう可能性を秘めているものなんです」(若宮氏)

確かに、そんな経験をアートの界隈にだけ閉じ込めておくのはもったいないと頷くと、若宮氏が「嬉しいですね」と笑顔を見せながら、ワークショップの紹介を続けてくれる。

「嗅覚のアーティストの上田麻希さんは、記憶から香りを作るワークをされます。匂いは感情と直結していて、匂いから記憶が蘇ると言われていて。上田さんは、“匂いから記憶が引き出せるなら、逆方向の記憶から匂いを引き出すこともできるのか” という問いから、100種類以上の香りを用意し、『怒り』『悲嘆』『幸福』などの感情として思い出し、そこから匂いを調合するワークショップを企画してくれています」(若宮氏)

現在開催している『ART THINKING WEEK』、嗅覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)
現在開催している『ART THINKING WEEK』、嗅覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)

「味覚のEAT&ART TAROさんがやってくれるのは、嫌いな食べ物についてずっと語っていく、Hate Foodというワークで。今の世の中って何に対しても『嫌い』って言いづらいじゃないですか。その中で唯一爽やかに『嫌い』を語れるのが、食べ物の好き嫌い。当日会場にいる人と『何か釈然としない食べ物はないですか?』というところから対話しながら、その日会場にいる人と一緒にたべる。そんなことをやります」(若宮氏)

他のアーティストの方々も、若宮氏曰く「内臓をかき回される系ワーク」を考えてくださっているそうだ。

価値観のマッサージで「楽になったわ」という大人がたくさんいると、子どもも楽なまま生きられる

アートと聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのは、絵画などの美術品だろう。「アート=美しいもの」という意識は根強く、「アート思考」と聞くと「美意識」に関連するものを想像するかもしれない。

アートって、既存の価値観を乗り越えようとする行為なのでかならずしも「美」ではないとよく言っています。僕は『歪(いびつ)』というキーワードを使うんですけど、人それぞれに固有の歪さがあって、その歪さがいいし、それに惹かれるから、僕は “ユニークバリュー” と呼んだりしているんです。

アーティストがよく『作品ができて初めて自分が作りたかったものがわかった』という言葉を口にするんですが、『こういうものを作ろう』と考えて、ポンとアウトプットしているわけではなくて、自分でもよくわからないながらに、自分の歪さと出会い直すプロセスとして作品づくりをしているんですよね。

だから、鑑賞者の方にも、ワークショップや作品に触れ、もう1回自分に出会い直すというか、自分の歪さを見つける体験をしていただけるといいなと思います」(若宮氏)

現在開催している『ART THINKING WEEK』、聴覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)
現在開催している『ART THINKING WEEK』、聴覚のワークショップの様子。(Photo by 越間有紀子)

「凝っているところをマッサージされると痛いんだけど、しばらくすると『なんか楽になったわ』ってなるじゃないですか。凝り固まった価値観をアートでマッサージされて『楽になったわ』となる大人がいっぱいいると、子どもや社会全体としてしなやかに生きられると思うんです。

ビジネスにおいて、リターンがあることは大事なんですけど、そうじゃないものも『わかんないよね』って言いながら楽しめる社会になっていくと、すごく面白いと思います。そんなきっかけになれる『ART THINKING WEEK』になると思っているので、すごい答えが見つかるというよりは、帰り道、来たときよりモヤモヤして帰るかもしれないので、ぜひ」(若宮氏)

絶対的な正解がない時代だからこそ、注目を集めている「アート思考」。日々ついつい、ロジカルに考えてしまいがちな日常にいるからこそ、自分の知っている世界では簡単に語れないアートに触れ、心揺さぶり「わからない」世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。

『ART THINKING WEEK』のイベント概要

  1. 開催日時:2021年11月23日(火・祝)~30日(火)
    【会場展示】13:00~21:00
    ※ワークショップ開催時間中は一部作品をご覧いただけない場合があります。
    【ワークショップ】プログラムごとに日程・時間が異なります。
    ※詳細な時間は以下お申込みボタンからご確認ください。
  2. 会場:SHIBUYA QWS(渋谷スクランブルスクエア15F)
  3. プログラムのご紹介(一部):
    ・基調講演
    藤幡正樹氏『BRAVE NEW WORLD』
    ・各ワークショップ
    1)視覚:青沼優介「視覚の開放弦を鳴らす」 
    2)聴覚:山崎阿弥「耳で歩く/聞かない音を聞きに」
    3)嗅覚:上田麻希「香りの記憶 / 記憶の香り」 
    4)味覚:EAT&ART TARO「美味しくないかもしれないものの会」
    5)触覚:松岡大「身体の閃き」
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