事業承継
年間約5~6万社が廃業する「大廃業時代」。そのうちの半数が、“黒字のまま廃業してしまう” 現状をご存知でしょうか。
その裏に隠されているのが、「経営者の後継者不足問題」。団塊の世代全員が後期高齢者に突入する2025年までには、なんと127万人の経営者が後継者不足に陥ると言われています。
そんな中、事業承継の暗黙のルールをぶち破り、「どんな人でも後継者を探すことができる、オープンな事業承継文化をつくる!」と奮闘している一人の男性を取材。その名は齋藤隆太さん。
専門家じゃなかったからこそ、できたんです。齋藤 隆太 株式会社ライトライト
そう話す齋藤さんに、新たな事業承継の文化づくりへと踏み出した背景、そして齋藤さんが大切にしている地域に対する想いについて伺いました。
「地方に行った際の楽しみ」といえば、地元で愛され続けているお店の訪問!地域ごとに育まれた “味” や “伝統” に触れることができ、「旅行や出張時の楽しみ」という方も多いのではないでしょうか。
しかしながら最近耳にするのが、「どの地域へ行っても同じ風景ばかり」という言葉。かつては、地域の特色を活かしたお店が軒を連ねていた場所も、今では有名な全国チェーン店が並びます。
そんな地域経済に希望をもたらしているのが、「後継者を探したい事業主」と「事業を譲り受けたい希望者」のマッチングをはかる、事業承継マッチングプラットフォーム『relay(リレイ)』を運営する齋藤さんです。
齋藤さんは、「地域 × クラウドファンディングFAAVO(ファーボ)」を立上げ運営するなど、「出身地と出身者をつなげる」という志で活動されてきた地域経済の立役者。齋藤さんは6年間運営を行なってきたFAAVOを、クラウドファンディング大手の株式会社CAMPFIREへ事業譲渡をした後、2020年1月に地元宮崎県で『relay』を運営する株式会社ライトライトを設立します。
「宮崎県は中心地に昔ながらのお店が多く残っている町なんですけど、そういった “古くから愛されてきたお店が残っている=(イコール) 地域の豊かさ” だと思うんです。たまに 『地元で愛されてきた名店が廃業しました』 というニュースを目にすることがあると思いますが、それを見て、悲しさや懐かしさが生まれたとしても、廃業という事実は変わらない。
それよりも、事前に “廃業の意志” を開示していたら、『思い出の店を引き継ぎたい!』と思う人が現れて、思い出のお店や味を残せたんじゃないかなって。実際に、SNSでは『誰か後を継ぐ人はいなかったのか』とか『自分が検討したのに』といった声があがっていて、この現状をなんとかしたいと考えていました」(齋藤さん)
しかし、齋藤さんの想いの前に立ちはだかったのは、「事業承継=非公開」という事業承継業界の暗黙のルール。「事前に廃業の情報をオープンにすることは絶対に不可能」と言われ続けた結果、「本当にできないのではなく、みんながルールを盲目的に信じているだけ」という結論にたどり着きます。
「たしかに事業承継やM&Aの規模感によっては、混乱が起きてしまうので絶対に外に出してはいけないものもあります。ですが、僕たちが扱いたい “地域密着の規模感” のお店では、事前に情報を開示しても混乱は生まれないケースの方がはるかに多いんです。
むしろ、事業承継への想いをオープンにすることで、お店の情報が拡散され、『思い出のお店を引き継ぎたい』との声が表面化していく。それって、廃業しようと思っている人や、会社を引き継ぎたいと思っている人、更にはそのお店がある地域にとってもメリットしかない。その想いから、業界の常識にとらわれない情報をオープンにした “事業承継マッチングプラットフォーム『relay』” をつくりました」(齋藤さん)
業界の常識を乗り越え作り上げた『relay』のWebメディアの特徴は、情報がオープンであること。譲渡希望者は『relay』で公募されている後継者情報を吟味し、事業主とのマッチングをはかります。
ここで注目すべきは、relayに掲載されている取材記事。「事業承継」と聞くと、損益計算や収支計算といった堅苦しい数字が並んでいるのかと思いきや、実際に並んでいるのは事業者の方々のたくさんの笑顔。
「これまで最重要視されてきた財務情報ですが、最初にお金の部分に着目してしまうと、売上や利益といった数字の部分しか見えてこない。もちろん財務情報も大事なところではありますが、僕らが一番大事にしているのは、事業者さんの想いです。
どんな場所で、どんなお客さんたちが来てくれていて、どんなものが愛されてきたのか。その部分を知っていただいたうえで、事業者さんが大切にされてきた資源を、どう未来に活かすのかを考えてほしいんです。だから事業主の方々には一切手数料は頂かずに、一件一件自分たちで取材をし、記事にしています」(齋藤さん)
では、いつ財務情報に触れるのか。その方法やタイミングについても、relayのこだわりが光ります。
「財務情報に関しては “希望される方に限り” 有料で開示をしています。値段も一つ5,500円に設定をしていて、あえて情報へのハードルをあげています。記事読んで頂いた後にお金を払って見て頂くので、こちらに対する本気度も伝わりますし、事業承継のミスマッチを防ぎやすいんです」(齋藤さん)
さまざまな工夫の元、「廃業に対するイメージを『悲しみ』から、『ありがとう』の気持ちを込めた花道のようなイメージに変えたい」と話す齋藤さん。
「廃業と聞くと、どうしても抱いてしまうのが負のイメージ。でも、想いの詰まった記事を公開することで、地域で話題になるケースもあります。そういった反響は長年頑張ってこられた事業者さんにきっと届いて、 “続けてきてよかった” という想いに繋がる。僕らの活動を通して、廃業に対するイメージも変えていければと思っています」(齋藤さん)
2020年7月のサイト公開から間もなく2年。現在では80件ほどの公募案件を掲載し、事業継承の手ごたえを感じていると話す齋藤さんですが、「オープンな事業承継」をなかなか受け入れてもらえず、苦戦した部分もあったのだそう。
「2025年に団塊の世代が全員後期高齢者に突入する段階で、多くの事業が廃業に迫られます。ですが、そもそもとして “事業を継承する” と考えている経営者は少なく、『子どもたちが引き継がなかったら、単に閉めるだけ』という方がほとんど。その根底から変えていく必要があると感じましたね」(齋藤さん)
事業承継を「身近なもの」と認識してもらうため、乗り越える必要があった二つの壁。一つ目が、 “事業承継に対する認知を進めること” 。二つ目は、 “オープン化に対するメリットの周知” だと話します。
「そもそもが事業承継についての選択肢がない中で、相談を行う場所は主に銀行。そういったところの大鉄則は『非公開での事業承継』なので、個人事業主や地域に根差した企業の方々には気持ちが刺さりにくい。
ましてや、『自分たちの規模感の会社で事業承継だなんて』と思っている人たちも多く、一人一人丁寧に説明をし、地道に活動を続けてきた結果が今に繋がっています」(齋藤さん)
SNS上などで「馴染みの店が閉店した」という情報を見つけては、直接お店に電話をかけるといった地道な活動だけでなく、今では自治体や商工会、地方銀行等の約50団体と連携を行っているといいます。サポートの幅が全国へと広がっている今、齋藤さんが過去に取り扱った印象深い事例について教えてもらいました。
「宮崎県高原町にあるパン屋さんの事業承継情報を出していたことがあったんですが、千葉県在住で、宮崎県出身の主婦の方がたまたま目にし、『帰省する度に行っていたパン屋が掲載されている!自分が継ぎたい!』ということで、家族4人でUターンをされたケースがありました。
機材を全部譲渡してもらって、今は別の場所でカフェを開いています。しかもその件は高原町も協力してくれて、地域おこし協力隊の業務の一環として事業承継を行いました。その方も『事業承継をしたい!』と積極的に探していたのではなく、たまたまお気に入りだったお店の情報が出ていたことがきっかけとなり、家族での移住が決まったので、きっかけづくりができたことを嬉しく思います」(齋藤さん)
そのほか、「 “いつか開業したい” という方の夢を後押しをしたい」と齋藤さんは想いを語ります。
「ゼロから起業するのはすごくハードルが高いのですが、パン屋さんのように出来上がっているものを引き継ぐ形が取れれば、『いつか自分で開業してみたい』という夢への手助けにもなります。お店を承継する方が、もともと『好きだ』と思ってくれていたお店であれば、なおさら嬉しいですね」(齋藤さん)
事業者と希望者との架け橋になろうと奮闘される齋藤さん。最後に、齋藤さんが大事にしている想い、そして今後のビジョンについて伺いました。
「仕事をする上で大事にしているのは、『そのテーマで自分が踏ん張れるか』どうか。何かをチャレンジするときは、今後伸びそうなマーケットとか、自分が好きなテーマが大事と言われることもありますが、本当に辛いときに『投げ出さない』と腹を括れるものが一番大事だと僕は思っていて」(齋藤さん)
僕自身、東日本大震災を通じて、 “出身地と出身者を繋ぐこと” をモットーに動いてきましたが、地域には都会にはない根深い問題がたくさんある。そういったものを根っこから解決していきたいと思ったんです。齋藤 隆太 株式会社ライトライト
「今後のビジョンで言うと、2025年に向けてシンプルに案件を増やしたいという想いがあります。あとは、 “事業承継の前倒しを、検討してもらえるような仕組みづくり” を行っていきたい。事業承継の現場に出て思ったことが、やはり多くの方が “辞め時” を決めることができないということ。
過去の案件では、事業承継の途中で体調が悪くなってしまい、技術を引き継ぐことが難しくなってしまった方もいらっしゃいます。それは当事者だけでなく、地域にとっても辛いこと。なので、 “事業承継の決断を後押しできるような仕組みづくり” を検討したいです」(齋藤さん)
後継者不足の問題だけでなく、「いつか開業してみたい」の夢をも応援できる、継業マッチングプラットフォーム『relay』。
「このままお店を閉めよう」と思っている人には、自分の身の回りにはいないけれど、自分のお店に価値を感じてくれる次世代へ “バトンを受け渡す” という選択を。
「事業をゼロから立ち上げるのはハードルが高い」と考えられている人にとっては、愛されたお店の “バトンを引き継ぐ” という選択を。
さらに、お店の廃業を風の噂で聞きつけ「もったいない」「なんとかしたい」と思っている人には、掲載を通じて “バトンを繋ぐきっかけをつくる” という選択を。
『relay』という場所で、選択してみるのはいかがでしょうか。
〒889-1606 宮崎県宮崎市清武町池田台7-3
https://light-right.jp/
Editor's Note
少しずつ変わってきた地域の街並み。
「事業承継」と聞くと、地域の小さなお店には関係のないことのように感じていましたが、「跡継ぎ」という馴染みのある言葉に変換することで、その必要性と緊急性が心にストンと落ちました。
私自身も残してほしい思い出のお店がたくさんあります。廃業してしまうその前に、まずは知ることからはじめるのが、私たちにできる第一歩なのだと思いました。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香