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LOCAL LETTER

大量廃棄時代に “染め” というエシカルな選択を!ファッション業界が認め、アップサイクルでも注目が集まる「古着の染色」とは

MAR. 23

拝啓、”染め” の技術を使って、サスティナブルな事業を推進したいアナタへ

「大切にしていた服だけど、大きなシミをつけてしまった。」
「好きな形だけど、今の流行りの色じゃない。」

そんな経験はないでしょうか?

ファッション業界の大量生産大量廃棄が懸念される中、2020年に日本国内で廃棄された衣類の量は、なんと51万トン。廃棄処分を一枚でも減らそうと、サスティナブルの観点から注目を集めているのが、“アップサイクル” という考え方です。

アップサイクルは、 “捨てられるはずだったものに付加価値をつけてアップデートさせるもの” 。 “別のものへと作り変える” リサイクルとは違い、エネルギー活用の面でも地球にやさしいと期待が高まっています。

そんなアップサイクルの選択肢として、日本が誇る文化「染色」というアイディアはいかがでしょうか。

今回は染色の中でも、日本のラグジュアリーブランドから「漆黒に染まる」と定評がある、丸幸産業株式会社・代表取締役社長の堀内茂利さんを取材。染めを通じて捨てられるはずだった衣類に命を宿す、サスティナブルな後染め技術について伺いました。

堀内茂利(Shigetoshi Horiuchi)さん 丸幸産業株式会社代表取締役社長 / 1956年山梨県生まれ。市内の高校を卒業後すぐに、家業である丸幸産業に入社。1970年に糸染め工場として創業した丸幸産業で、先々代、先代の後を継ぎ2001年に代表取締役社長に就任。染め加工一筋45年。長年の経験、技術、勘を活かしてどんな依頼・相談にも誠意を持ってお応えしている。
堀内 茂利(Shigetoshi Horiuchi)さん 丸幸産業株式会社 代表取締役社長 / 1956年山梨県生まれ。市内の高校を卒業後すぐに、家業である丸幸産業に入社。1970年に糸染め工場として創業した丸幸産業で、先々代、先代の後を継ぎ2001年に代表取締役社長に就任。染め加工一筋45年。長年の経験、技術、勘を活かしてどんな依頼・相談にも誠意を持ってお応えしている。

“先染め” が主流のまちで苦渋の選択。過去の知識が活きた “後染め” の世界

布に彩りを生み出すのに欠かせない「染色」という技術。方法は主に2種類で、生地にする前に色をつける「先染め」(糸を染めて生地を織る)と、出来上がった生地に直接色を入れる「後染め」があります。

丸幸産業は、山梨県富士吉田市で50年以上の歴史を持つ「後染め・後加工」の専門店。しかし、“機織りのまち” として1,000年以上の歴史がある富士吉田市は、先染めが主流!

富士吉田市=先染め” と言われるまちで、あえて後染め専門店として仕事をはじめられた経緯について伺いました。

「私たちも元々は糸を染める仕事をしていました。その当時は外から仕事をもらってくるという発想がなく、競合と張り合うために、仕事の単価を下げる流れが当たり前。でも値段を下げ続ければ、会社を存続することができない危機感から、事業内容を後染めに変え、外から仕事をもらってくるという思考にシフトしました」(堀内さん)

地元で生き残るため、あえて地元の主流業から離れた丸幸産業。当時は苦渋の選択だったが、先染め・後染めの両方の技術を学べたことが、今の仕事の幅を広げているのだとか。

ほとんどの糸は染めたことがあるので、生地を見たらだいたいのことはわかるんです。この知識は染色の見極めに役に立つんですよ」と堀内さんは笑います。

「毎日が実験!」色彩を操り生み出す、美しい染めの秘訣とは

「生地を染める」と言われると、「浸けた染色液の色に全て染まる」と考える人も多いと思いますが、実はそうではありません。後染めで染色できるのは、綿・麻・ウール・シルク・ナイロン・レーヨンといった素材のみ。服をまるごと染色液に浸けても、異素材の部分は染まらないといった、不思議な現象が起こります。

「天然繊維の衣類でも、縫い糸はポリエステルといった化学繊維で使われていることがほとんど。そのまま染色液に浸けても、写真のように糸だけが染まらずに染めあがります。天然繊維であれば、日焼けや色落ち、シミがあっても染めることができ、1枚の依頼でも対応ができます」(堀内さん)

化学繊維でできている糸は染まらず、綺麗な柄として出てくるので、染める前の服とは全く違う印象に驚きます。
化学繊維でできている糸は染まらず、綺麗な柄として出てくるので、染める前の服とは全く違う印象に驚きます。

過去にはわざわざ1枚のために九州から商品を送ってくださった方がいて、日焼けしてしまった30年前のコートを染めたということも。

「ヨーロッパの消防士が着ていた服で、重厚感のある立派なコートだったんですが、どう染めあげられるか、腕の見せどころでした。黒染めが素敵かなと思ったんですが、カーキに染めて欲しいと希望されたので、お客さんのイメージに近づけられるよう、予定していなかった二度染めもしましたね」(堀内さん)

できるだけお客様の要望に応えたい一心で、気が付けば13種類にもなっていた丸幸産業の染色・加工メニュー。一色に美しく染め上げることはもちろんのこと、多色同時に染め上げる「タイダイ染め」や、色割れをつくる「ムラ染め」、「シワ加工」や「ダメージ加工」といったさまざまな技法を楽しめます。

その中でも、丸幸産業の強みは染めの鮮やかさ。ファッション業界から一目置かれる、美しい色味の秘訣を教えていただきました。

秘訣は染める際に使用する水にあります。うちは富士山の伏流水を使って染色しているので、化学物質が何も入っておらず色が入りやすいです。富士吉田が「織物のまち」として栄えた所以でもありますね。
堀内茂利さん 丸幸産業株式会社

「秘訣は染める際に使用する水にあります。うちは富士山の伏流水を使って染色しているので、化学物質が何も入っておらず色が入りやすいです。富士吉田が “織物のまち” として栄えた所以でもありますね」(堀内さん)

富士吉田市は、富士山の麓にあるまち。家庭の水道をひねれば、富士山の天然水が飲めるほど、水に恵まれているまちです。
富士吉田市は、富士山の麓にあるまち。家庭の水道をひねれば、富士山の天然水が飲めるほど、水に恵まれているまちです。

「あとは染料づくり。元々の染料を使うこともありますが、例えば紺だったら紺という染料を使うのではなく、赤や黄といった複数の色味を混ぜ合わせた染料を作り出します。最終的には紺色に染まりますが、生地に色が入っていく順は、赤だったり黄だったり生地によってさまざま。生地の特徴を見極め、染料の種類や時間を計算をしたうえで染色します」(堀内さん)

染め屋にとって命にもなる染料。堀内さんが操る元の染料は100種類を超え、衣類によっても鮮明に出る・出ない種類や色を見極めて、これらの染料を元に出したい色の調合を行っていきます。
染め屋にとって命にもなる染料。堀内さんが操る元の染料は100種類を超え、衣類によっても鮮明に出る・出ない種類や色を見極めて、これらの染料を元に出したい色の調合を行っていきます。

何百色とある染料の配合、手法、時間を全てを操り、希望の色を生み出す堀内さん。まさに驚きの職人技ですが、その手助けのキーとなるのが、今から30年以上前に購入した測色器。サンプルの生地や色見本を頼りに弾き出された数値を読み解くことで、堀内さんの理想を越えた美しい色へと導きます。

堀内さんが30年以上前に購入した測色器
堀内さんが30年以上前に購入した測色器

「その測色器、とても古いでしょう。メンテナンスをしながら大切に使っています。古いっていうのもありますが、値段も値段で、今ではとてもじゃないですけど買えないです。幸い、うちには昔から使ってきた設備がたくさんあるので、今あるものを使って、自分たちのできることを考えて工夫する。毎日が実験です」と堀内さんは話します。

脱色や染色を組み合わせ、「何色」とは特的できない、色を表現することも。堀内さんの実験の中で生まれた色合いだが、染める前からどんなカラーになるかのイメージはついているというのが、職人としての凄みを感じました。
脱色や染色を組み合わせ、「何色」とは特的できない、色を表現することも。堀内さんの実験の中で生まれた色合いだが、染める前からどんなカラーになるかのイメージはついているというのが、職人としての凄みを感じました。

自分たちの当たり前に価値があると気付かされた “黒染め展”

現在では、法人向けのサービスから個人向けの衣類染め直しサービス、染物体験といった幅広い展開を行っている丸幸産業。しかし、染め直しのサービスを大々的にはじめたのは、実を言うとここ数年の話なのだそう。

「サービスをはじめる前にも、ご近所の方や、長年のお付き合いのある古着屋さんから『染めて』と依頼を頂いていたのですが、これを事業としてやろうという考えは全くなかったんです。そもそも、これが仕事になるとも思っていなくて。『頼んでくださるから染める』くらいの感覚でした」(堀内さん)

そんな堀内さんが、「自分たちの技術がみんなの方の驚きに繋がる」と気が付いたのは、富士吉田市で活動を行っている織物を中心としたお祭り『ハタオリマチフェスティバル(通称:ハタフェス)』での出来事。“衣類を集めて全て黒に染め直して展示する” という『黒染め展』のアイディアを頂いたことがきっかけなのだとか。

「地元の人たちが協力してくれて、100着以上の衣類が集まりました。デザインの違う衣類を真っ黒に染めて、ずらーっと並べる。すごい迫力でした。お客さんたちも『こんなに真っ黒になるんだ!』って驚いてくれて、そのリアクションに私たちも驚いたんです」(堀内さん)

堀内さんは、衣類を染めるということは、いい意味で自分たちにとっては “当たり前” のことだったと語る。

「中には、展示品を売り物だと思う方もいたんです。自分たちにとっては、衣類を預けてもらえればできることなので、 “みなさんの周りにある衣類を染めること=価値がある” と気付かされました」(堀内さん)

ファッション業界が認める黒染めの難しさとは

黒の中にもグラデーションがあるような引き込まれる美しさをつくりだす丸幸産業の黒染めファッション業界が認める “黒” を生み出す難しさを伺いました。

「黒の難しさを表現する方法はいくつかあるんですけど、黒っていう色は “黒い光を当てたときに黒く見えること” が大事なんです。最初は全然理解できなかったのですが、色というのは光の当たり方で見え方が変わってくる。そのうえで黒を導き出すのが難しいんです」(堀内さん)

同じ染料・同じ釜で着色を行っても、布本来が持っている特性やカラー、保管具合でも仕上がりが全く異なる印象に。大手ブランドメーカーは、布の性質や光の当たり方を計算しながら、ごくわずかな違いでもイメージ通りの黒を導き出す堀内さんに絶大な信頼を寄せます。古着の場合は、印象がガラッと変わることはもちろん、洋服1枚1枚に個性が出るため、世界で1枚だけの洋服に仕上がる特別感も。
同じ染料・同じ釜で着色を行っても、布本来が持っている特性やカラー、保管具合でも仕上がりが全く異なる印象に。大手ブランドメーカーは、布の性質や光の当たり方を計算しながら、ごくわずかな違いでもイメージ通りの黒を導き出す堀内さんに絶大な信頼を寄せます。古着の場合は、印象がガラッと変わることはもちろん、洋服1枚1枚に個性が出るため、世界で1枚だけの洋服に仕上がる特別感も。

衣類を通して、日々どんな風に染まるのかを考えながら作業している堀内さん。しかし長年染めに関わっているにも関わらず、だいたいが自分の想像を超えた仕上がりになると話す。

染める前は「これぐらいの仕上がりになるな」って予想をしながら作業をする。だけど、何故だか不思議と自分の想像を越えてくる。「こんなに綺麗に仕上がった!」って。それが染めのおもしろさですよね。
堀内茂利さん 丸幸産業株式会社

相手や環境にとっても良い品を!期待する古着業界との連携

現在は、多くの方に染めの世界に触れてもらおうと、染め物体験ワークショップを行っている丸幸産業。染めあがったものは色落ちや色移りがしないほど深く染め上げているため、ワークショップ後にそのまま着て帰られる方もいるのだとか。

「ワークショップを気に入ってくれて、2週続けて来てくれた方もいます。布をしばったり色味を変えることで、表現の幅が無限に広がる。同じTシャツで同じ染料で染めたとしても、全く同じものにはならないんですよ。世界で一つだけ。お子さんなんかは、喜んでそのまま着て帰られることが多いですね」(堀内さん)

実際にワークショップで染められた洋服たち。王道のTシャツだけでなく、ズボンやカバンなど、自分自身の染めたい洋服を持ち込むことも可能です。一番左のズボンは、堀内さんの奥様のくたびれてボロボロになっていたジーンズを染め直したもの。奥様自身「もう履けないから試しでやってみたら、すごく素敵な仕上がりになって履いている」と話してくれました。
実際にワークショップで染められた洋服たち。王道のTシャツだけでなく、ズボンやカバンなど、自分自身の染めたい洋服を持ち込むことも可能です。一番左のズボンは、堀内さんの奥様のくたびれてボロボロになっていたジーンズを染め直したもの。奥様自身「もう履けないから試しでやってみたら、すごく素敵な仕上がりになって履いている」と話してくれました。

無限に広がる染色の可能性について教えてくださった堀内さん。最後に、丸幸産業の今後のビジョンについて伺いました。

「自社ブランドをつくりたいとも思っていますし、古着の事業も展開していきたいですうちは会社も機械も古いので、新しいものを買い足すのではなく、古いものに価値をつけ再生させたい。今後は古着店と連携して、お互いにとっても、お客さんや環境にとっても、自信をもって『良い!』と思えるものをつくりたいです」(堀内さん)

古い物に価値をつけ、新しい製品に生まれ変わらせるアップサイクル。ただ古い物を再利用するだけでなく、その服が持つ思い出やストーリーをも引き継ぎます

丸幸産業では、個人、古着一枚からの染めもお受けしていますが、今後の環境配慮を考え、企業と連携した事業展開を積極的に広げていく予定。アナタの企業で、 “染め” を掛け合わせる新たなチャレンジを一緒にしませんか。

現在、富士吉田市では企業コラボを推進中!

「漆黒染」をはじめ、技術力の高さに定評がある丸幸産業さんは、某有名ブランドとのコラボレーションや、古着屋さんからの発注を多数受注。

ご本人たちも、「今後自分たちの技術を活かし、企業とのコラボレーションを加速させていきたい」と意気込んでいます。

ぜひ、この機会に “企業コラボ” にご興味のある方は、以下問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください!

取材先情報

『丸幸産業株式会社』
〒403-0001 山梨県富士吉田市上暮地2222-1 (Googleマップ
https://www.marukousangyou.co.jp/
tel. /0555-23-5562

Information

地域共創コミュニティ「LOCAL LETTER MEMBERSHIP」会員100名突破!

場所に縛られずに、 オモシロい地域や人と もっと深くつながりたいーー。

LOCAL LETTER MEMBERSHIP とは、「Co-Local Creation(ほしいまちを、自分たちでつくる)」を合言葉に、地域や社会へ主体的に関わり、変えていく人たちの学びと出会いの地域共創コミュニティ。

「偏愛ローカリズム」をコンセプトに、日本全国から “偏愛ビト” が集い、好きを深め、他者と繋がり、表現する勇気と挑戦のきっかけを得る場です。

<こんな人にオススメ!>
・本業をしながらも地元や地域に関わりたい
・地域で暮らしも仕事も探求したい、人が好き、地域が好き、旅が好き
・地域を超えた価値観で繋がる仲間づくりがしたい
・社会性の高い仕事をしたい
・地域や社会課題を解決する事業を生み出したい

 

MEMBERSHIP の詳細&お申込みはこちら
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Editor's Note

編集後記

お話を聞いてから「染めってすごい!」状態の私。

「自分にとって染めは縁遠いもの」と思っていましたが、こんなにサスティナブルで、こんなにかっこいいなんて!思い返せば、自分の家にも捨てられない色あせ服がちらほら。

ただ染めるだけじゃなく、想像以上の服のかっこよさを引き出す、奥が深い染めの世界。クリーニングという選択肢が日常に近いように、染めも身近な存在になってほしいと強く願います。

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