KAGOSHIMA
鹿児島
福祉業界に興味がある。でも、それって地域に結びつくんだろうか。
この記事を読んでいるあなたは、そんな悩みを持っているかもしれません。
体や心が弱ったときに利用するイメージが強い「福祉」。その印象を変え、もっと身近なものにしたいと故郷で奮闘している人がいます。
今回お話を伺ったのは、WHERE ACADEMY(株式会社WHERE)の第6期地域バイヤープログラムを卒業した川窪慶太さん。地域バイヤープログラムは、第一線で活躍する起業家から学びつつ、現地での商品選定から販売・発信までを実践する講座です。
川窪さんは、地元・鹿児島で両親が立ち上げた社会福祉法人慶生会を事業承継を見据えながら、地域交流センターの建設や新たなプロダクトの立ち上げに取り組んでいます。
講座での学びは、どのように現場とつながっているのか。福祉への新しい視点と共に、川窪さんに伺いました。

鹿児島中央駅から在来線に揺られて約15分。谷山駅のすぐそばにあるのは、社会福祉法人慶生会が2023年に立ち上げた複合型地域交流センター「La Plus(ラプラス)」です。

やわらかなオレンジ色の壁面にカラフルな塗装。明るく親しみやすい外観のLa Plusはいわゆる子どもから大人までの福祉事業に加えて、「就労継続支援B型事業所」を中心に地域向けの店舗やサービスの運営をしています。建物内にはさまざまな店舗が入っており、お店に立つ人の多くは障がいや難病で一般就労が難しい人たちです。
川窪さんは、法人全体の統括のほか、このLa Plusの運営にも関わっています。
「La Plusは『福祉と暮らしが溶け合う場』をイメージしてつくった施設です。1階には、クラフトビール工房に、定番から変わり種まで。好きなパンがきっと見つかる、多種多様なラインナップのベーカリー、自家製クラフトビールと料理のペアリングが楽しめるビアバルもあります」

「3階には温泉やピラティススタジオなどのスポーツ施設、5階には5000冊以上の本が読めるブックラウンジや、最新の遊具をそろえた子ども向け屋内施設、9階には400人規模のホールや会議室を備えています」

昔ながらのベッドタウンで、多様な生活に寄り添うコンテンツや施設が少ない谷山。La Plusは、そんな谷山の「地域のハブ」となることを目指してつくられました。その狙い通り「行ってみたい」「利用してみたい」と思えるような店舗のラインナップ。思わずここが福祉施設だということを忘れてしまいます。
「『すごく魅力的だから利用して、蓋を開けてみたら福祉だった』というのが、関わる人すべてにとってベストだと考えています。
長い人生、誰もが一度は福祉のお世話になるはずなのですが、いざ関わろうとするとなんだか身構えてしまう人が多いのではと思います。その原因は、福祉業界の情報が閉じられがちだからだと思っていて。だからこそ、その情報を開き、どんな方でもアクセスできる身近なものにしていきたいという想いが根底にあるんです」
2019年に鹿児島へ戻り、現場と運営をつなぐ役割として両親が立ち上げた事業に関わってきた川窪さん。現在は第二創業のタイミングでLa Plusと法人のリブランディングを重ねながら、新しい福祉のかたちを模索しています。そのなかで、「地域と福祉は切り離せないもの」と強く感じるようになったのだといいます。

「人口が減少する日本では、福祉が地域にないがために別のまちへ移住することが当たり前になっていく可能性があります。つまり、『頼る場所がないから消滅する地域』が出てくる。そうならないためにも、私たちが積極的に地域とつながりを持って『今何が必要なのか』『何に困っているのか』をヒアリングし、地域と福祉の垣根を越えて、関わる人みんなで魅力的なプロダクトをつくっていく必要があると考えています。
良いプロダクトが生まれ、ファンが増えれば、経営にも余裕が生まれます。それを地域に還元しながら、持続可能な福祉にしていく。その視点も重要だと思っています」
La Plusが提供するプロダクトの代表例は、鹿児島の特産品を副産物として使用したオリジナルクラフトビールです。クラフトビールブルワリーは、「ふくし」と「くらし」の境界線を溶かしたいという想いを軸に「ふくしの熱量から生まれた、クラフトビール」です。その想いを届けていくため「MAGMA BREWING」と名付けられました。

ですが、そもそもなぜ福祉施設でビールを……?
そう尋ねると、もとは理事長(母)が鹿児島の城山ホテルさんのビールの大ファンで、こういうのを福祉のパワーで作って、福祉に関わる方々に笑顔になってほしいのに乗っかった形ですが、個人的には「東京の飲み屋でのできごとが原体験です」と川窪さんは笑顔を見せました。
「昔、東京に住んでいたころは飲み歩いてばかりで(笑)狭いお店だとテーブル間の距離が近くて、自然と隣のお客さんと会話が生まれ、打ち解けあうことも少なくありませんでした。みんながほろ酔い気分で乾杯して、楽しい場所を共有しながらつながる体験を福祉にも持ち込めないか、と考えたんです」
ビールを基軸に、福祉と暮らしの境界線を溶かせたら。様々な経験を持つ二人のブルワー(職人)を職業指導員として迎え、障がいのある利用者さんとともにビールをつくっています。

「利用者さんはラベル貼りだけでなく、発酵などの重要な製造工程も担うべく準備中です。職人さんが持つ技術に助けられながら、みんなで味づくりの段階から取り組んでいるんです。
世間を見渡せば、魅力的なクラフトビールはたくさんある。それならば、単純に見た目のセンスやかっこよさ、ブルワー(職人)の熱量だけで戦うのではなく『まずは商品を作りこみ軸のぶれないブランドを作り、ふくし業界の中で第一任者になることを目指しながらも消費者にはふくしを押し付けない、そして何よりおいしいビールにする。でも蓋を開けてみたらふくしなんだ!』というのが、MAGMA BREWINGの方針です」。
その中での普遍的なミッションはビール(ビバレッジ)を基軸に、社会福祉に新たなイメージと循環(人の流れ)をつくるというものです。
従来の就労支援では、利用者さんに怪我をさせないように配慮するあまり、シンプルな作業しか任せないこともありました。一方、MAGMA BREWINGではひとりひとりの特性を考慮しつつ、本人が望む仕事をできる限り任せる方法にシフトしているのだそう。
「障がいのある方だから遠慮するなんて、可能性を潰すようなもの。私たちだって、営業が向いている人、バックオフィスが向いている人、技術職が向いている人などさまざまですよね。それと同じだと思っています。
伝え方には工夫しつつ、その人に合った働き方を見つけて、スキルを伸ばしてもらう。そのプロセスが、結果として福祉の現場ならではのストーリー性ある商品につながっていくと感じています」

小さな成功体験を積み重ねた結果、利用者さんが「次はもっとこうしよう」と前向きな気持ちで仕事に取り組むシーンも増えたのだそう。利用者さんの家族からも、「La Plus(慶生会)でよかった。ありがとうございます」と感謝されることが多く、職員のモチベーションにもなっているのだとか。
川窪さんたちの取り組みは、着実に福祉業界へ温かな風を呼び込んでいるようです。
地域と福祉の架け橋になろうと実践を続けてきた川窪さんが、なぜ地域バイヤープログラムの受講を決めたのか。その理由は、「良いもの」を「選ばれるもの」にしたいという課題意識がありました。
「MAGMA BREWINGは、味やストーリーには自信があります。それをどう届ければ、お客様に手に取ってもらえるのか。その部分を、きちんと構造として理解したいと思うようになりました。
私は接客そのものは得意なほうなのですが、だからといって四六時中商品に付きっきりというわけにはいきません。自分自身がその場にいなくても自然と商品が売れるようになるためのヒントを得たいと考え、受講することにしました」

消費財メーカーでの勤務の経験がなかったこともあり、顧客の視点に立ったマーケティング戦略を学び直し、商品開発を軌道に乗せたいと考えた川窪さん。視察を通じて魅力的な商品を発掘しPRするこのプログラムで、有形文化財を多数有する岐阜県の郡上八幡を訪れ、フィールドワークを行いました。

「魅力ある郡上での取り組みを外へPRする際、地域の方がどんなプロセスを経ているのか興味がありました。実際に行ってみると、商品展開をして都市部へ売り込んでいる方もいれば、あえて地域の中だけで完結させている方もいて。価値のつくり方はさまざまで、その設計こそが事業づくりなんだと捉え直すきっかけになりました」
さらに、地域バイヤープログラムでは、フィールドワークで見つけた商品を東京のポップアップストアで販売する経験を積むこともできます。実践的に学びを深めたことで、発見も大きかったようです。
「商品説明文の書き方を学んだことで、商品の見え方が大きく変わると実感しました。それに、La Plus以外の場所で商品を売る際に、魅力的に見せる場所の選び方や発信の方法も考えるようになりましたね。この視点は、今後プロダクトを増やしたり、ローカルショップを展開したりする機会を得たときに、軸になっていくと思います」

さらに、学びを通じて利用者さんの働き方を広げる視点にもつながりました。
「お客様が商品を知って興味を持ち、購入するまでの流れは、いくつかの工程に分解できるんです。そのひとつひとつを切り分けて任せれば、より利用者さんの可能性を発揮してもらえるかもしれない。販売や製造だけでなく、“価値を届ける工程”そのものが、就労の場になりうるんだと気づいたんです。これから職員の理解も得ながら、少しずつ現場に取り入れていきたいと思っています」
福祉は、困ったときだけ使う「最後の砦」ではない。川窪さんはそう語ります。
「福祉って、『幸福』や『優しさ』に由来する言葉なんですよね。困っている人に手を差し伸べて、その人の生活を幸福で優しいものにしていくのが私たちの最終的な目標です。
福祉は無形なので、その手段が限られないのも強みだと思っています。プロダクトをつくってもいいし、体験型のサービスを提供してもいい。地域の状況に合わせて、自由に方法を選べるのが魅力なんです。
公的サービスの建付けもありますが、実態とすり合わせながら新しいコンテンツやあり方を地方自治体にも提案をしていきたいとも思っております。
正直、これまでは私たち福祉業界も『これに手を出したら大変かも』『これはやってはいけないかも』と自ら壁をつくってきた部分もあります。その壁を地域の方と関わりながら一緒に乗り越え、みんなが集える場所を提供していけたらと考えています」
福祉で地域を想う、川窪さんの取り組み。その活動は、これからもよりいっそう深く谷山にコミットし、多くの人を幸せにしていくに違いありません。

地域バイヤープログラムは、川窪さんのようにすでに地域で活躍している人にも気づきや学びを得られる機会をご用意しています。
現役で活躍する講師陣から、仕入れ・価格決め・販促PR・販売のノウハウを学べるほか、実践を通して顧客に商品の魅力を伝える経験を積むことができます。
「自分の事業や地域活動を、次のフェーズに進めたい」
そんな方は、ぜひ地域バイヤープログラムを覗いてみてください。
詳細はこちらからご覧いただけます。
Editor's Note
大学進学を機に、一度は故郷を飛び出すように上京した川窪さん。その後、国内外を巡る生活をするうちにあらためて地元の良さに気づき、ご両親を手伝いたいと、30歳を機に鹿児島に帰る決意をしたのだそうです。帰郷して5年。「まずやること、向こう見ずで馬鹿なんです」と自らを称する川窪さんですが、さまざまな経験をし、良いものを見極める着眼点を養った20代は、着実にLa Plusでの挑戦につながっているのではと感じました。福祉と地域をつなぐ新しい取り組みに、これからも目が離せません。
AYAKO SEGUCHI
瀬口 恵子