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LOCAL LETTER

人・まち・風景への投資が未来を創る。「地域商社」だからこそできること

SEP. 16

JAPAN

拝啓、地域の魅力をより大きなスケールで広げたいアナタへ

※本レポートは株式会社WHEREが主催した産学官の起業家が全国から一堂に会す地域経済サミットSHARE by WHERE内のトークセッション「Session 3 地域商社|地域経済循環を担う役割と価値を問い直す」を記事にしています。

行政より「地方創生」が声高に叫ばれるようになって10数年。

財政難の地方自治体が各地で困窮している一方で、ふるさと納税で多額の寄附金を集めることに成功している自治体もあります。人々の注目を集められる地域と、集められない地域の二極化が進んでいるなかで、地域に根差し活動する「地域商社」が果たすべき役割はどこにあるのでしょうか。

本記事では、東海地方で活躍する4人の登壇者がこれからの地域で必要とされる「地域商社」の在り方について熱く語りあったセッションを一部お届けします。

前編では、「地域商社」という言葉から連想される機能と、実際に地域で求められている機能のギャップについて深く議論が交わされました。

前編の最後で打ち明けられた「産業に発展しないコンプレックス」とはなにか。後編では地域の課題がもつ構造的な問題が浮き彫りになり、登壇者たちの共感の声が上がります。

補助金やクラファンに頼らない。「作る・売る」の向こうにあるべきもの

蒲 勇介氏(以下敬称略):僕のコンプレックスは、小売店では小さな市場や小さな商品は作ることができるけど、産業にまでは発展しないことなんです。

水谷岳史氏(以下敬称略、モデレーター):産業に発展しないとはどういうことでしょうか。

:つまり、地域のより多くの人がそのプロダクトで食べていける状況にならない
今、うちの会社で1番売れているのは和傘です。ピーク時は年間2,500万円ほど売れていました。しかし、これが頭打ちで売上は年々下がっています。原因は、どちらかというと生産量が減っているからなんです。

蒲 勇介氏 NPO法人ORGAN 理事長 / 1979年 郡上市生まれ。2018年度より観光庁日本版DMO法人に登録。流域連携での観光推進事業に取り組む。長良川ブランドを生かした水うちわ、岐阜和傘など伝統工芸品の商品開発や販売など、地域商社としても活動中。
蒲 勇介氏 NPO法人ORGAN 理事長 / 1979年 郡上市生まれ。2018年度より観光庁日本版DMO法人に登録。流域連携での観光推進事業に取り組む。長良川ブランドを生かした水うちわ、岐阜和傘など伝統工芸品の商品開発や販売など、地域商社としても活動中。
水谷 岳史氏 株式会社On-Co 代表取締役 / 1988年生まれ。三重県桑名市出身。家業である造園業に従事し、デザインや施工、設計管理スキルを学ぶ。同時に空き家を活用したシェアハウスや飲食店を数軒運営。株式会社On-Co代表として全体運営を行う他、社外プロジェクトにも参画。
水谷 岳史氏 株式会社On-Co 代表取締役 / 1988年生まれ。三重県桑名市出身。家業である造園業に従事し、デザインや施工、設計管理スキルを学ぶ。同時に空き家を活用したシェアハウスや飲食店を数軒運営。株式会社On-Co代表として全体運営を行う他、社外プロジェクトにも参画。

水谷:この5年間でも職人が減ってるんですか。

:減っています。職人数と生産量は右肩下がりです。 最近は売れっ子の職人が家庭の事情でお休みに入ってしまいまして、納品が減ったりしています。

今、人気の和傘を作る職人たちはこの10年ぐらいで独立した、一点物をつくる作家型の職人です。
彼女たちと一緒に和傘も高付加価値化してきました。私の店舗でいうと、平均客単価が2万5,000円の時代から、現在では5万円以上になりました。20万円する傘も売れるようになってきています。

単価や利益率は上げてこられましたが、 一方で生産体制が脆弱なため事業が拡大しないんです。

商社と名乗るのであれば、明和観光商社のようにふるさと納税の寄附を10億円以上集めて地域に多様な新しい働き方が生まれるようなことをしたいと思っています。僕の取り扱う1個1個のプロダクトの規模が小さすぎて、そうなりきれていないことが今の悩みです。

水谷:明和観光商社は模の大きい農業にリーチできているから、 利益を使って地域に再投資ができている。でも、蒲さんには規模の大きな産業にリーチする手段がないということですよね。傘などは売れてはいるけど、まだお金が地域の再投資に使える状態ではない。

:スケールさせたいといっても、ベンチャー企業のような規模で拡大させたいわけではありません。地域で持続可能に回っていく体制を作りたいんです。

次世代を担う人材に再投資する時に、補助金やクラファンを使わなくても、利益から再投資できるところまで行くことが僕の目標ですね。 

千田良仁氏(以下敬称略)私も蒲さんと一緒で、人材育成に投資していくことを考えています。長いスパンで地域の経済を回していくことを考えたら、例えば今小学生の子が、高校・大学でまちを離れても就職のタイミングで帰ってきてくれる。彼らが働く場所があることも長いスパンで言うと経済の循環ですよね。そういう状態を実現するために、そういった可能性があるものを残していくことが大事ではないでしょうか。

地域が誇りに思ってるものをなんとか残したいと活動する人がいるとして、その想いも次の世代に伝えていく必要があるんです。若い子たちが「地元に帰ってきたらこういうことができるんだ」とか「こういう仕事があるんだ」というのをちゃんとわかってもらえるような活動をやりたいと思っています。

千田 良仁氏 / 一般社団法人明和観光商社代表理事/皇學館大学現代日本社会学部教授。地域内外のヒト・モノ・カネとのコーディネートを通じて、地域に「生業(なりわい)」を創出する内発型の持続可能な地域活性化を支援している。
千田 良仁氏 / 一般社団法人明和観光商社代表理事/皇學館大学現代日本社会学部教授。地域内外のヒト・モノ・カネとのコーディネートを通じて、地域に「生業(なりわい)」を創出する内発型の持続可能な地域活性化を支援している。

全てを手掛けるのが「地域商社」。原材料からその先にある文化継承まで

:実は和傘には後継者不足だけでなく、原材料の問題もあります。和傘のある部品をつくる職人は日本に一人しかいませんでした。それで、産地で協会を設立し、職人を育成してきました。しかし、今度は部品の材料となるエゴノキが足りないってことがわかったんです。

エゴノキは雑木なのでその辺に生えていますが、和傘部品に使えるエゴノキは樹齢10年以下の比較的若いものだけなんです。

長良川の上流には、エゴノキの集合林がありました。想定では、伐採後、ひこばえが生え、数年後に再び伐採できるはずでした。しかし、年々増加する鹿の食害によって、若い芽が全て食べられてしまうんです。江戸時代からエゴノキが植えられてきた森でも、エゴノキが枯渇してしまっている。そこで、山に鹿柵を作って、エゴノキの苗を山に植え「和傘の森」をつくる活動も始まっています。

職人を育てながら、さらに自然界からの原料供給を担保し、プロダクトを作っていくのは、産業的なスケールアップとは別の時間軸で考えないといけないんです。

伊東:僕は、今みたいな話こそ地域商社を考える時の醍醐味だと思っていて。 

地域商社として重要なのは、取り扱うものに関係するものも全て手掛けるというところだと思ってるんです。それは人への投資だけではなく、まちへの投資であったり、風景を守るための投資でもある。

伊東 将志氏 一般社団法人つちからみのれ Founder / 18歳で地域の商工会議所に入所し22年勤務。その後、まちづくり会社を経て現職。「そのまちならでは」の取組みを全国各地で支援する。地域資源活用における実践として、尾鷲ヒノキの間伐材の利活用を促進する「100のありがとう風呂」などを企画、全国展開。2022年からは地元尾鷲の電力会社の撤退に伴い、変わりゆく街に呼応し、一般社団法人つちからみのれを設立。
伊東 将志氏 一般社団法人つちからみのれ Founder / 18歳で地域の商工会議所に入所し22年勤務。その後、まちづくり会社を経て現職。「そのまちならでは」の取組みを全国各地で支援する。地域資源活用における実践として、尾鷲ヒノキの間伐材の利活用を促進する「100のありがとう風呂」などを企画、全国展開。2022年からは地元尾鷲の電力会社の撤退に伴い、変わりゆく街に呼応し、一般社団法人つちからみのれを設立。

伊東:岐阜の話をさせてもらうと、大垣市に伝統工芸として枡がありますよね。その枡も原料が足りなくなっているんです。

枡の材料になるのは木材の一部分だけです。でもその部分だけを売ってくれというわけにはいきません。そして、材料を得るためには、森を間伐する必要がありますが、林業の担い手にとっては赤字になってしまうためやりたがらない。 そのため、赤字にならないように、全て僕たちが買いとりますということをやっているんです。

枡を作るためには森をつくらなきゃいけない。森をつくるためにはさらにその周りの環境を作らなきゃいけない。そして、それを大事だと思える人もつくらなきゃいけない。 地域商社って全部やらなきゃいけないんですよ。

:そう思います。僕たちは「長良川流域文化クラスタ」という繋がりで伝統産業を捉えています。

最終的には、和傘というプロダクトに辿り着きますが、そこに至るまでに和傘を構成する各部品があり、その原料がある。さらには、美濃和紙、提灯や刀鍛冶、さらには川船大工、川船を使う漁師や鵜匠さん、その船の上で芸能を行う芸妓・舞妓の文化など、全てが長良川を通じて、伝統的な産業クラスター*としてつながっています。 

*産業クラスター特定の地域に、その分野における関連企業・サービス提供者・関連機関などが集まり、競争しつつ同時に協力している状態を指す

どこかが欠けるとその先にいる人たちも消えていく。あるいは原料のどこかがかけると最終プロダクトができないということが分かってきてました。

伊東:一つの産業構造における生態系みたいなものが、我々にはパッとは分からないのですが、一歩入り込むとめちゃくちゃわかってくる。ここを残すために、今度はここを残さなくちゃいけないというのが見えてくるんですよね。

大企業にも、地域のプロジェクトの当事者になってもらうためには

水谷:みなさんのお話を聞いていて、規模が大きくなっているなと感じています。地域経済の循環を目指すのであれば、規模が拡大するのは当たり前ですよね。それでは、大企業や自治体は、地域商社の動きや取り組みにはどんな関わり方をすればいいのでしょうか。御三方にお伺いしたいです。

伊東:地域商社と大企業が組んで何かをするのであれば、やはり地域を深く知る人がそこにコーディネーター的な役割として入ってほしいですね。そうでないと、「モノさえ売れればいい」という話になりがちですし、売上ばかりが成果として見られてしまうのではないでしょうか。

千田:大企業さんだとできないというわけじゃないですが、地域と密着している地域商社だからこそできることはあると思います。つまり、大企業が持ってるような、ビジネスモデルのロジックで考えるのではないやり方が必要です。地域商社の存在があることで地域全体の経済を高めている、失われつつある文化や伝統を守っている。こうしたことに共感して関わってもらえたらいいですよね。

:現在、古民家の不動産開発をORGANとは別の団体で取り組んでおり、企業の方から出資のお話をいただくことも増えてきました。

大企業には地域に対して一定の投資をしていただくことで、地域開発とか地域プロジェクトの当事者になってもらう。そうした関わり方があるんじゃないかなと思っています。

蒲:ちょっとした原資で地域が動いていくこともあるので、企業も一緒にその地域に投資してほしいんですよね。 今は、NPO法人や地域商社が観光庁や経産省の補助金を取ってくることが多いですが、行政との関係次第では公的な財源も得ることが難しい。企業からの支援といった形がもっと増えてもいいなと思っています。

千田:明和町では、去年から大麻草を育てるプロジェクトをやっています。 これは「天津菅麻(あまつすがそ)プロジェクト」と言います。麻からとれる繊維は昔から日本で使われています。特に神事に使うものだったりとか、弓の弦になったりとか、相撲の横綱の回しとか、文化的なものともかかわりが深いものなんですけども。 

しかし、全国で麻を作っている生産者さんは、実質10名ぐらいしかいない。

水谷:日本で10名ですか。

千田:はい。生産者さんが減っており、今や、神社で使われる麻は中国製だったり、麻でないものを使っていたりするところまであります。それをなんとかしたいということで、明和町で「麻を復活させよう」というプロジェクトを始めました。昨年、法律が改正され、規制が緩和されたタイミングでした。

また、伝統的な麻文化を復活させるという目的以外にも、麻自体が二酸化炭素を吸収したり、新しいバイオプラスチックとしても活用できたりするなど産業化の可能性が高いといった利点もあります。 

その可能性を見出して、共感してくれるのであれば、資金以外でも関わり方が色々あるんじゃないかなと思っています。ぜひ、大企業に参画してもらいたいですね。

:地域には様々な価値や意味を持つプロジェクトがあるけど、逆に私たちは企業に対して「こういう切り口で見ると投資対象になりますよ。産業的な未来がありますよ」と、向こうに合わせた言語で説明し巻き込んでいくことが必要かもしれないですね。

千田:そうですね。ただ、地域でプロジェクトを立ち上げるという部分は、地域と繋がりのある地域商社じゃないと難しいかなと考えています。

水谷:地域課題の確信に迫るお話を聞くことができたと思います。三者三様な取り組みを知ることができて、大変面白い時間になりました。みなさんも、それぞれの地域にぜひ足を運んでいただければと思います。ありがとうございました。

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Editor's Note

編集後記

農作物一つをとっても、後進の育成だけでは守ることができません。地域のものを守ろうとするとそれを取り巻く「全て」を扱わなかければならない。ローカルで活動するプレイヤーだれもが共感することではないでしょうか。

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