レポート
※こちらの記事は、NPO法人Ubdobeが主催したイベント『【福祉留学 無料オンラインイベント】地域×福祉の歩き方Vol.8 〜買い物支援でつくる地域コミュニティ〜』をレポートにしています。
「買い物」を通した『地域×福祉』の取り組みを実践されている2人の女性をゲストにお招きした今回のトークセッション。
前編では、実際の活動にフォーカスしながら、サービスが始まったきっかけや利用者など、事業の全体像をお届けしました。
レポート後編では、実践者のお二人が感じているリアルな課題感や、活動にかける想い、今後の展望について迫ります。
室伏氏(MC / 以下敬称略):ここまで事業の成り立ちや詳細をお話いただきましたが、実践で見えた課題感はありますか?
岡氏(以下敬称略):お金のことで言うと、うちは赤字ですね…。でも利用者さんの笑顔やおばあちゃん達の楽しみになっているので、「それは辞められないよな」と。ここ数年は「移動販売」として自治体から少し補助金が出ているので、助かってる部分もあります。
今日お話していて、改めて「(ほっとかない事業が)10年続いているんだ!」と自分でもびっくりしています。
小林氏(以下敬称略):赤字なのは同じですね…。車の運転ができて、インターネット通販で買い物もできるようになり、コンビニもどんどんできていって。ちょっと割高で目新しいものが売っているわけでもない「共同売店」は、だんだん潰れてしまうんです。
「時代の変化だから仕方がない」と言えることもできますが、何とか食い止めたいです。食い止めることができないとしても、何か別の形で生まれ変われないかなと、ずっと考えています。
そもそもの「共同売店」は、生産と販売がセットだったんです。ただ今の時代は、販売だけでなんとかやっていこうとしています。そもそも地域の生産能力が無くなってしまっているので、いかに別のもので置き換えるのかが大事だと思いますね。
室伏:「別のもので置き換える」という点では、岡さんの話で「買い物に行けないから宅配サービスを利用される高齢者の方」の他に、「障がい者の方の働く場所になっているならと、買い物には行けるが配達を選択する方」もいるかもしれないなと思いました。
岡:いますね。「今度移動販売が来るなら、お菓子ひとつ買うのやめとこうかな」と考える人もいると思います。
小林:「ここで買い物することで何が守られるのか」を認識した上で、買い物システムが機能することが一番良いですよね。ただそこに関しては、特に若い世代にはなかなか伝わらないんです。
室伏:若い世代は特に“安さ”で選ぶから、でしょうか?
小林:安さもありますし、色んな選択肢がボタン一つで誰の顔も見ることなく買えてしまう時代ですからね。
その一方で沖縄の離島では「共同売店」なのですが、インターネット販売から仕入れて運営の工夫をされているところもあり、面白いです。
室伏:視聴者さんより「共同売店には主にどんなものが売っているんですか?」と、質問コメントをいただきました。
小林:目立ったものは特にないです。基本的には沖縄のスーパーで手に入るものが置いてありますね。
ただ面白い事例ですが、9世帯しか住んでいない小さな集落に「共同売店」があって、そのお店がずっと続いてるんです。呼び出し音を押すとおばあちゃんが店の奥から出てきて、買い物ができるのですが、いつ行っても全部の商品が埃も被ってなく色焼けもしていないんです。つまり、常に商品が循環してるんですよ。
お店のおばあちゃんが「誰が何をどのタイミングで欲しいのか」を把握していて、商品を適宜仕入れて、お店を運営していることがわかる。どんなに小さいお店でも、持続することができるんだと希望になります。
大型スーパーに行くと商品も色んなバリエーションがありますが、その人にとって必要なものは本当は一つだけってことも。物がありすぎる事は、逆に人の足枷になっていると私は思ってるんです。
必要なものを手に入れられるだけで良いんだって、私はその小さいお店を通して改めて教えてもらった気持ちでしたね。
室伏:移動販売である「ほっとかない事業」でも「たぶんこの人はこれが好き」を把握されているんですか?
岡:職員は、利用者さんのニーズをよく理解してますね。「おばちゃん、もうこれ無いんちゃうか?」と声をかけると、「なんでお前はん分かるん!」みたいな感じになっています。
室伏:物が溢れることでの自由と、物がないことは一見選択肢が限られるように感じるけれど、逆にその人の世界としては広がっている、みたいなこともあるんですかね。大きければ良いというだけではないのかもしれないです。
室伏:最後にご自身や事業の活動について、これから目指していきたいことを聞かせてください。
岡:高齢者には「きょうよう(今日用事がある)」「きょういく(今日行く場所がある)」が大事だとよく言われます。特に地域では、まだまだ残ってるコミュニティがたくさんあるので、それを無くさないようにしていきたいです。
団塊の世代の“アクティブ シニア”と呼ばれような方々に「今仕組みを作っていかないと、数年後には自分たちが困ってしまう」と伝えると、運転手やおもてなしとして積極的に活動に参加してくださり、「私が歳とったら頼むよ」と言われます。
高齢者の方が活躍する場所や、買いに行く用事がある場所はこれからも絶対に必要だと思うので、残していきたいと思っています。
小林:岡さんの話、共感です。アクティブシニアの世代または下の世代の人たちが「自分がここで暮らし続ける」ことを受け止め、「そのためには何を今やるべきか」を本気で考えていくべきだと思います。
与えられるものだけを受け入れ、それをただ消費していくままでは先細りになる。「果たして今手に取ってるものは本当にこれでいいのか」「この仕組みのままでいいのか」と疑問を持ったり、「本当はこういう暮らしがしたい」と理想をちゃんと握ったり、これからの時代を生きる人たちに一緒に考えてほしいところですね。
共同売店を残したい思いはありますが、根本的には「みんなのマインドセットをどうしたら変えられるだろうか」と考えています。そのため、一つの手法として映画制作に取り組んでいる所です。
室伏:お二人とも、事業を続けることはもちろん、それ以上に目の前の人々の暮らしが守られることや、地域が守られることに焦点を当てているのだと聞いていて感じました。
買い物支援を通して関わる人たちの暮らしを覗くことで、地域との関わりしろを増やしている。
岡さんたちが「これが必要かもしれない」と思ったら、どんどん事業を増やしているのも、「地域生活の困り事を解決して、よりよく暮らしたい」という思いからですよね。
大切にしていることは「事業がどう続くか」ではなく、「暮らしがどう続くか」なんですね。
小林:ぜひ岡さんたち、池田博愛会さんの取り組みを直接見に行きたいと思いました。その時はどうぞよろしくお願いします。ありがとうございました!
岡:私は小林さんの行動力がすごいなと思いました。沖縄にも行ってみたいです。ありがとうございました!
室伏:今日はお二人に「買い物支援でつくる地域コミュニティ」というテーマでお話をいただきました。買い物支援という“口実”で暮らしを覗き、地域との関わりが生まれていました。
買い物支援にこだわらず、目の前の地域にいる一人一人の暮らしをどう続けていくのか、どうしたら地域が続いていくのか、という部分を軸として日々向き合っているお話を、お二人ともありがとうございました!
Editor's Note
コロナ禍を経て、現代のライフスタイルは猛スピードで変化している中で、買い物についても様々な選択肢が目の前に並べられています。お二人の想いを聞き、小さなことでも「これからのみんなの暮らしを守る」ことに繋がる選択をしていきたいなと強く思いました。
SAKI SHIMOHIRA
下平 咲貴