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LOCAL LETTER

買い物支援と地域コミュニティ。実践者に学ぶ「地域福祉」のヒント

JUL. 18

拝啓、地域福祉の取り組みを実践したいと考えているアナタへ

※こちらの記事は、NPO法人Ubdobeが主催したイベント『【福祉留学 無料オンラインイベント】地域×福祉の歩き方Vol.8 〜買い物支援でつくる地域コミュニティ〜』をレポートにしています。

日常生活には欠かせない、「買い物」。

今や、スーパーやコンビニ、そしてインターネット通販で気軽になんでも手に入れることができるようになりました。

しかし、誰しもが“便利”になった買い物ができる訳ではありません。地域の中には、まだまだ課題がたくさんあるのが現状です。

そんな「買い物」を通した『地域×福祉』の取り組みを実践されている2人の女性をゲストにお招きした今回のトークセッション。

地域の困り事の解決や、これからの暮らし方と向き合うためのヒントがありました。

買い物×地域福祉。高齢者への宅配サービス、地域交流拠点、共同売店を展開する地域プレイヤーの姿

室伏氏(MC / 以下敬称略):NPO法人Ubdobeのローカル事業部で地域福祉留学の担当をしています。ゲストのお二人同士は今回が初対面ですが、お二人ともいい意味ですごくお節介な方なので、お節介×お節介でどんな素敵な時間になるんだろうと思いマッチングさせてもらいました。

トークに入る前にお二人がどんな活動をしていて、どんな方たちなのか自己紹介をそれぞれお願いします。

岡氏(以下敬称略):徳島県三好市という人口2万3,000人程の地域で、創設から60年を迎える社会福祉法人『池田博愛会』の事務局長兼総務部長をしております。

『池田博愛会』では「地域を大切に 地域に愛され 地域に信頼される」という基本理念を掲げ、障がい者の施設や、児童施設、成人・高齢者の事業所など様々な福祉事業をしています。

地域には箸蔵福祉村という地域住民の方が作ったボランティア組織があり、協力的に活動を推進してくれる環境です。

具体的な事業としては、山間部にある高齢者のお宅への宅配サービスを通じた見守りを障がい者の方がメインで行う事業「ほっとかない事業」や、公益事業にはなりますが、地域の空き店舗を改装してミニスーパーや食堂、遊び場がある地域交流拠点「箸蔵とことん」の運営などを行っています。

岡千 賀子 氏 社会福祉法人池田博愛会 事務局長兼総務部長 / 1971年(昭和46年)徳島生まれ。三好市池田町の上野が丘にある幼・小・中・高で学ぶ。池田高校を卒業後にジャスコ㈱(現在のイオン)に就職。ベビー・子供服売り場を始め、衣料品部門・総務部門を担当。1996年(平成8年)から池田博愛会の特別養護老人ホーム事務員として勤務。現在、事務局長兼総務部長。2017年(平成29年)には三好市生涯活躍のまちづくり事業の法人窓口担当として「自分達の地域や法人で何ができるのか」を考え、移住者の方や地域のおっちゃん・おばちゃん、子供・障がい者と、いつでも・どこでも・誰もをまきこみながら、おもっしょい場所にしたいと活動中。特技は10歳から始めた阿波踊り。どこにいっても阿波弁でしゃべる。
岡 千賀子 氏 社会福祉法人池田博愛会 事務局長兼総務部長 / 1971年(昭和46年)徳島生まれ。三好市池田町の上野が丘にある幼・小・中・高で学ぶ。池田高校を卒業後にジャスコ㈱(現在のイオン)に就職。ベビー・子供服売り場を始め、衣料品部門・総務部門を担当。1996年(平成8年)から池田博愛会の特別養護老人ホーム事務員として勤務。現在、事務局長兼総務部長。2017年(平成29年)には三好市生涯活躍のまちづくり事業の法人窓口担当として「自分達の地域や法人で何ができるのか」を考え、移住者の方や地域のおっちゃん・おばちゃん、子供・障がい者と、いつでも・どこでも・誰もをまきこみながら、おもっしょい場所にしたいと活動中。特技は10歳から始めた阿波踊り。どこにいっても阿波弁でしゃべる。

小林氏(以下敬称略):私自身は東京出身で、専門学校で美術を学びイラストとデザインを仕事にしていたのですが、東日本大震災をきっかけに東京での暮らしに限界を感じ、沖縄に移住をしました。沖縄で暮らしていた時は、友達と一緒に雑貨屋さん兼デザイン事務所を始めて、映画上映会などのイベントを開催する毎日でした。

2016年に福岡県上毛町に遊びに行ったのをきっかけにお声掛けいただき、地域おこし協力隊として上毛町に着任。山の上の16世帯40人ぐらいの小さい集落にある「田舎暮らし研究交流サロン」という場所で、移住定住の窓口やイベントの企画運営をしていました。

家の裏に住んでいたおばあちゃんと仲良くなったことから、集落で暮らす人たちの生活について考えるようになり、沖縄で聞いたことのある「共同売店」について調べ始め、集落の集会所を借りて「お試し共同売店」を始めまして。

より本格的に学ぶためにまた沖縄に戻り、友達と「愛と希望の共同売店プロジェクト」として活動を始めました。トークイベントや写真展、自主映画上映企画など、実際に沖縄にある共同売店の調査やインタビューなどに取り組んでいます。

小林 未歩 氏 イラストレーター・デザイナー、愛と希望の共同売店プロジェクト / 東京生まれのイラストレーター・デザイナー。広告代理店などの仕事をしながら創作活動を続けていたが、東日本大震災を期に沖縄移住を決意。那覇で地域のデザインに関わるようになる。その後福岡県上毛町で地域おこし協力隊として活動中に共同売店を知ってからというもの、福岡と沖縄を行き来しながら共同売店について学んだり実践を重ねる日々。企画を考えたりプロジェクトを作って形にしたりすることが好き。自主映画上映企画「こうげまち映画部」もじんわり活動中。
小林 未歩 氏 イラストレーター・デザイナー、愛と希望の共同売店プロジェクト / 東京生まれのイラストレーター・デザイナー。広告代理店などの仕事をしながら創作活動を続けていたが、東日本大震災を期に沖縄移住を決意。那覇で地域のデザインに関わるようになる。その後福岡県上毛町で地域おこし協力隊として活動中に共同売店を知ってからというもの、福岡と沖縄を行き来しながら共同売店について学んだり実践を重ねる日々。企画を考えたりプロジェクトを作って形にしたりすることが好き。自主映画上映企画「こうげまち映画部」もじんわり活動中。

サービスの始まりは「社会課題」。障がい者の新規就労機会と、高齢者の課題と尊厳を守れる形とは

室伏:ここからは早速お二人に質問をしていきたいと思うのですが、それぞれ今の活動が始まるきっかけはなんだったのでしょうか?

岡:10年ほど前からやっている「ほっとかない事業」が生まれた背景としては、「障がい者の新たな就労の場として、地域の困り事を手伝えないか」という発想がありました。

同時に存在していた「高齢者が買い物に1時間以上かけて行き、重いものを持つのも大変なので、買い物支援をしたい」という課題がかけ合わさり、試しに障がい者の方が高齢者の家まで宅配を行ってみたら、高齢者の方がとても喜んで、宅配が来るのを楽しみにしていたんです。

高齢者の暮らしを障がい者の方が支えている。相互にとって良いことがあり、三方良し的な考え方で始まりました。

また利用者さんが一番喜ぶのは、ペットフードやトイレットペーパー、お醤油やお米などが多いので、それらを置く拠点として、地域交流拠点「箸蔵とことん」を活用しています。

室伏:以前取材に行った時、宅配のスタッフさんも「前よりコミュニケーションを取る事が増えた」と仰っていましたね。

どこからかインスパイアされて始めたというよりも、「障がい者の雇用をどうしようか」「何か働けるところはないか」という課題から、「ここに困っていることがある」という発想で生まれたんですね。

小林さんはどうですか?

小林:福岡の家の裏に住んでいて仲良くなったおばあちゃんが焼肉が大好きで、お肉を買うためにコミュニティバスなど乗り継いで片道40分以上かけてスーパーに行ってたんですよ。でも夏は帰り道にお肉が傷んでしまう。

「自分がしたい暮らしがこの場所ではできない」のを「なんとかしたい」と思い、最初はお使いからスタートしました。でも毎回お使いしていると、おばあちゃんが「申し訳ない」と言うんです。おばあちゃん達が「申し訳ない」と言って暮らす姿がとても辛く感じました。

堂々と社会人としてお店に買い物に行くスタイルでかつ、高齢者の方達の尊厳を守れる形で、何かできないかなと思い始めたのがお試し共同売店の始まりです。

室伏:そもそも共同売店とはなんでしょうか?

小林:1906年に沖縄の最北端に位置する小さい集落で生まれたのが共同売店です。個人商店同士が敵対するのではなく、集落のみんなが出資し合い、株主のような形で共同運営する「相互扶助」が中心核にあります。

そこから沖縄全域に広がり、 離島も含めて最盛期は延べ200店舗もあったとか。各集落に一つ共同体として運営していましたが、時代と共にだんだん先細りになってしまい、今は50店舗弱ぐらいになったと聞いています。

共同売店は、みんなで意思決定をし、売り上げは誰かのものではなく地域のために還元されていく仕組みただの売店ではなく、情報交換する場所であり、自治が育まれる場所でもあるんです。

日常に溶け込むセーフティーネットが重要。生活の一環で育んでいく「地域コミュニティ」の在り方

室伏:お二人のサービスを利用して欲しい方や、実際に利用されている方にはどんな方がいるのでしょうか?

岡:コロナ禍でなかなか外に出る機会が減ってしまった独居の方や、日中家族が家にいない方、介護保険がまだ使えない方達に「箸蔵とことん」に来てもらおうと、高齢者の方が若い人に教えるワークショップやイベントを行ったり、地域の方と協力して送迎をしたりしています。

室伏:閉じこもらせない、といった感じですね。

岡:そうそう。特に男性の方は、仕事での絡みがなくなったら地域社会になかなか出てこようとしない人が多い気がしています。

なので「箸蔵とことん」におじいちゃんが来た時は「何で来てくれたん?」と質問攻めにしていますね。

室伏:共同売店の利用者についてもお聞きしていきたいのですが、「買い物」というキーワードから考えると、「奥さんに任せてる」という男性も多い気がしてしまいますが、実際にはどうなんでしょうか?

小林:一人暮らしの男性は多い気がします。たばこやお酒を買いに来ることもありますが、やっぱり誰かに会いに来るんですよね。

例えば、公民館やコミュニティスペースで「みんなご自由にどうぞ」という場所は、「暇そうにしている」と思われそうで結構ハードルが高いんですよね。「買い物ついでに」という体裁が取れることが良いんだと思います。

また共同売店のある集落は、例えば病気を抱えている人でも生活の一部として買い物に来ることで、必ず誰かしらの顔を見ることができます。お互いの見守り機能にもなるし、おしゃべりするだけも大事ですが、それ以外にも「目視できる」ことが売店の強みだと感じます。

室伏:お互い目視するという面だと、「箸蔵とことん」でも「ほっとかない事業」でも共通していそうですね。

岡:「箸蔵とことん」は、定休日以外は毎日来る方もいるので、来ない日があれば「どうして休んでいたの?」「言うの忘れとった、通院だったんよ」などのやり取りがあり、またそこでコミュニティが生まれていますね。

室伏:「どんな生活しているか」は通常だと聞けませんが、買っているものや来る時間で補足され、買い物を通じて生活や健康状態を覗くことができるのかもしれないですね。

小林:間違ったことではないですが、今の時代全てお金で解決する側面もあると思っていて。

お金のない人にとってはとても苦しいことなのでその土地で自立して暮らすためのセーフティーネットであることを「ほっとかない事業」にも「共同売店」にも感じますね。

室伏:「ほっとかない事業」は、「〇〇円以上以上買わないと配達しない」などの制限はないですか?

岡:ないです。障がい者の就労支援として、これから一人で社会に出るための訓練でもあるので。

一般の買い物支援として移動販売するよりも障がい者の方が行った方が喜ばれるのと、仲良くなり「近くに寄ったから」と見守り活動にも繋がる、買い物だけではない支援が目に見えない所にあるというか。自分たちも勉強になります。

室伏:先ほどの「たばこを買いにきただけ」もそうですが、“買い物支援”という建て付けは絶妙なんですね。

「ほっとかない事業」は、ハレの日のイベントなどで障がい者の方と関わるのではなく、日々の生活の中のやり取りだからこそ、ゆるやかにずっとコミュニケーションできる楽しみがあるのかも。

小林:それがいかに日常になるか、大事ですよね。

室伏:世の中には「儲けにならなかったので終わります」となってしまうこともありますが、元々は障がい者の雇用と買い物困難の高齢者の支援の掛け合わせで始まったこともあり、何を守り何を大切にし続ける必要があるのかを皆さんがしっかりと理解されているからこそ、今も続けていけているのだと感じさせられますね。

前編記事ではお二人の実際の活動にフォーカスしながら、サービスが始まったきっかけや利用者など、事業の全体像をお届けしました。次回の後編記事では、「買い物」×「地域福祉」を実践されているお二人が感じる課題感や、今後の展望について迫ります。

Editor's Note

編集後記

「買い物」という身近なテーマだからこそ、自分ごととして考えやすいと思いました。生活の中で自然に集まるコミュニティって今の時代なかなか貴重なことだと感じています世代問わずそんなコミュニティが色んな場所にあったらいいなと思いながら、お二人のお話を食い入るように聞かせていただきました。

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