SUSAKI,KOCHI
高知県須崎市
現代アートはよくわからない。
この気持ちに私は大共感する。そもそもアートって、アーティストが表現したいものを自由に表現したもの。
中学校の美術の時間で聞かれる「この作品にはどんな意味が込められているでしょう?」という先生の質問が大嫌いだった。
「そんなのアーティストが自由に表現しているのだから、わかるわけないじゃん」と心の中で思いつつ(当時優等生だった私は必死で頭を振り絞り)、いい子ちゃんの真面目な回答をしていた。
そんな私がなんと、私が暮らしている高知県須崎市で開催されているアートイベント「現代地方譚」を取材することに。一体私は何を感じて、どんな記事を書くのだろうか。。。我ながら少々手汗が出てくる緊張感。
だが、ありのままのリアルな声をお届けするのがLOCAL LETTER。ということで、今までアートに触れることを好まず生きてきた、ど素人の私が「現代地方譚」のイベントレポートをお届けする!
すべての作品を写真で、、、となると、ちょっと大変なので、素人ながら私の独断と偏見で印象に残った作品を写真でご紹介する。
そもそも現代地方譚とは「現代アーティストが高知県須崎市に訪れ、1,2週間の滞在の中で感じたことを “作品” として表現し、まちの至る所に展示する」アートイベント。アーティストらは、一体このまちで何を感じたのだろうか。
まちの至るところにある作品は、そのほとんどが「なんだろうこれ」と思うものばかり。(唯一、モンデンエミコ氏の作品だけは、真っ先に “気球だ!” と思った)
でも、”気球“ (私には気球に見えるので、記事の中では「気球」と命名する)だって、作家自身が本当は何をイメージしてつくったのかわからない。やっぱり「現代アートはわからない」。
現代アートはわからない。と眉間にシワを寄せていた私に、「現代アートはわからなくていいんですよ」という一人の男性がいた。自身もアーティストとして活躍し、須崎市へ移住したのち「現代地方譚」の立ち上げ、制作、運営すべてを行っている川鍋達氏だ。
「現代美術は “わからない” とよく遠ざけられます。ですが、自分が理解できないものに対して、わからないなりに関心を持つことで、見えなかったものが見えることもあると僕は思っています」(川鍋氏)
実は須崎市は、多くの古い街並みが残っており、川鍋氏はその街並みに惚れ込んだうちの一人。しかし現在ではその街並みも、少しずつ失われてきている。
「これは須崎市で暮らす方に限った話ではありませんが、皆さん自分が使っていた建物に用がなくなったら、取り壊して更地にしてしまうんです。個人視点でみれば、もう使わなくなった “いらないもの” かもしれませんが、地域視点にたったら、景観を保つのに “必要なもの” になることだってあるはずなのに。」(川鍋氏)
なぜ、そこにあるのか。どうしたら、今よりもっとよくなるのか。何をすれば地域全体の喜びに繋がるのか。
常に地域視点に立つ川鍋氏が、今年6回目の開催を迎えた「現代地方譚6」のテーマとして取り上げたのは「そこに生き、そこに在る。」
須崎市は、透き通った海に囲まれた自然豊かなまちであり、今後必ず津波に襲われるといわれているまち。
30年以内に発生すると言われている「南海トラフ地震」では、日本全体で33万人の死者が出るといわれている中で、高知県で予測されている死者は、4万9,000人。須崎市では25mもの津波がまちを襲うと言われている。*1
そんな津波に備え須崎市には、「城山公園(“気球” が展示されている場所)」という高台の避難所が存在し、「現代地方譚6」の展示会場にも使われた。
私が城山公園に登った時に出会った親子は、こんな会話をしていた。「こんな急な坂をおばあちゃんが登るのは大変だね」「どうしたらいいかな」
城山公園からまちへ戻った時には、こんなことを教えてくれた女性がいた。「今度、城山公園でお花見をしよう話しているの」
現代地方譚をきっかけに、少しずつまちの関心が城山公園に向いている。しかしその一方で、忘れてはいけないのは『絶対的な物事はこの世に存在しない』ということ。城山公園の高さは約30m。現在予想されている25mの津波は免れるかもしれない。しかし、30m以上の津波がこないと断言することは誰にもできない。
もし今「南海トラフ地震」が起こったら、須崎市(強いては日本)の未来は、言葉にできない状況へと一変する。だからこそ、今回あえて川鍋氏は、津波の避難場所である城山公園を作品の展示場所の一つに選んだ。
津波を避けられないこの場所で生きるとは、一体どういうことなのか。
「わからない」ではなく、わからないなりに考えてみる。これから先の未来を見据えながら、自らの意志で考え行動していくことが重要である。そんなメッセージを「現代地方譚」は作品を通じて伝え続けているのかもしれない。
「そこに生き、そこに在る。」
果たしてアナタは、何を感じるだろうか。
*1 南海トラフ地震について
朝日新聞デジタル参照:http://www.asahi.com/special/nankai_trough/
Photo by 高橋 洋策
NANA TAKAYAMA
高山 奈々