レポート
※本レポートは一般社団法人シェアリングエコノミー協会主催のイベント「東北のコミュニティを豊かにするシェアリングエコノミー」のトークセッション「地方自治体のDXをどう進めるか?」を記事にしています。
近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれ、地方自治体においてもDX推進の動きが加速しています。
一方で地域の規模感によってDX化の課題はさまざま。
2023年5月23日(火)に宮城県石巻市で開催された本イベントでは、「地方自治体のDXをどう進めるか?」をテーマに、東北で事業を展開している企業・自治体関係者など5名が登壇。
オープニングトークでは、シェアリングエコノミーやデジタル分野に精通する企業・自治体が、東北の課題や希望に触れながら、各々の最新の取り組みについて語りました。
上田氏(以下敬称略):私はシェアリングエコノミー協会の代表もしていますが、「人と人をつなげる」ことがミッションのガイアックスという会社を創業して、社長をさせていただいています。
上田:元々創業直後は、ソーシャルメディアをやっていました。ソーシャルメディアとシェアリングエコノミーって別ものな感じがしますが、我々はよく似たものだと捉えています。オンラインだけで完結する、赤の他人と赤の他人が繋がるのがソーシャルメディアで、 オフラインも含めて、赤の他人と赤の他人が繋がるのがシェアリングエコノミー。当社の中ではそういう認識で、大手企業のソーシャルメディアの運用コンサルティングなども行っています。
シェアリングエコノミーの方だと、誰もが体験を販売・購入できるような「aini(アイニ)」というサービスを運営していて。このサービスは例えば、僕のパートナーは磯遊びが好きなので、「磯遊び一緒にしませんか?500円です」とか、僕自身だと「家で野球のWBCを見るんですが、誰か来ませんか?」みたいな、一人ひとりが体験を提供できるサービスを自社でやったり、出資もさせていただいたりしています。
中村氏(以下敬称略):僕は以前ニューヨークに住んでいまして、母が亡くなったので青森に帰ってきたら「青森いいとこじゃん」っていう感じで。それまでアメリカのレコード会社のブランディングをしていたスキルを活かして、青森をブランディングしたいなと思って、「おもしろい街をデザインする」デザイン会社を立ち上げました。
中村:街の価値って分解すると「集客数×滞在時間×客単価」で上がっていくと思うんですけど、「じゃあ滞在時間を長くするためにどうしたらいいか?」というと、街のパン屋さんの隣にコーヒー屋さんを置いたり、コーヒー屋さんの隣にジャム屋さんを置いたりしていく。街の中、大体半径200メートルの中に10個ぐらいのアクティビティを置いていくと、それがプレースになってエリアになるっていう考え方。
スーパーマンが街にいなくても、おもしろい街ができる方程式みたいなものを作ったので、今、
中村:まずは出張に来たビジネスマンや観光客、移住者や住民が一緒に空間と時間を共有できる場所で、ご飯が食べれて、お酒を飲めて、本が読めて。さらに創業支援をするような場所をつくることによって、「なんか俺らで面白いことできるんじゃないの?」みたいな空気感をつくっていくのが第1ステージ。
そこから、学生がバンドを始める時のノリで、「先輩がバンド始めたら急にモテだしたから、じゃあ俺もなんかやるわ」みたいな。それを意図的につくっていくには、人口減少もしているので、もう当てに行かないといけなくて。そのためにデジタル(DX化)が必要だと思っています。
鍵となる事業を1個立ち上げたら、データを取ってデジタル基盤をつくって、それと紐づくサービスを次々起こしていくと成功しやすいですよね。今、デジタル庁の方にアドバイスをいただきながらデータを集めてデジタル基盤をつくっていくこともやっています。
高橋氏(以下敬称略):私は元々外務省の役人をやっていました。その後コンサルでビジネススキルを身につけて、3年ぐらいしたら自分で「1次産業×海外」とかで地方に革新をもたらす仕事をしたいなと思っていて。ちょうどその頃に東日本大震災が起こりまして、完全に人生が変わり、震災直後から仙台を拠点に緊急支援の仕事をずっとしています。
高橋:とにかく食産業が本当に壊滅的で、もしかしたらもう日本の食料庫だった東北の食産業がなくなってしまうかもしれないという危機感があり、食のスタートアップの人たちと一緒に「東の食の会」を作りました。それからもう十数年、岩手・宮城・福島を中心に活動を続けています。
特にここ5〜6年はやっぱり福島にフォーカスをしなきゃと、福島でブランディングや商品プロデュースも含めて開拓していっています。ただこういう産業復興は、震災からの復興で重要な一方で、もう一方では「コミュニティ再生」が大きな課題の1つとしてあると思っていて。
自分は、震災から10年の間、福島の第1原発周辺の市町村については何もやってこなかったんですね。産業のアプローチではやりようがなかったんですが、「コミュニティ再生」という難しい課題を見て見ぬふりしてきた自分にずっとモヤモヤしていました。
だから思い切って10年経った2021年のタイミングで、全町避難がかかった町の1つ、福島県浪江町に移住したんです。今は東北全般の食産業もやりつつ、浪江町を中心に避難指示がかかった地域のまちづくりをしています。
高橋:町の記憶を紡いでいくアートをしたり、記憶を取り戻していくオンラインゲームを作ったり。浪江町は震災前2万1,000人いた人口が今は2,000人弱なので、コミュニティの存続も記憶の存続も、自治会という最小単位から社会を作り直すことにチャレンジしたいと思っています。
70歳ぐらいのおじいちゃんたちを集めて、1番身近なデジタルであるLINEを一人ひとりにダウンロードするところから教えて、グループを作り、回覧板をLINEで置き換えるみたいなことにも取り組んでいますね。
今日のテーマであるDXって絶対マストだと思っていますが、より本質なのは規制の問題かなと。DXに捉われず、もう少し広く「単純に今あるものをデジタルに置き換えたらハッピーになるのか」をちゃんと考える必要があると私は思っています。
松原氏(以下敬称略):宮城県仙台市のまちづくり政策局プロジェクト推進課で、仙台市全体のDXやスマートシティ化などに取り組んでいます。
松原:規制の改革を推進するような「国家戦略特区」という事業もやっていまして。「国家戦略特区」というのは、国と自治体と事業者が一緒になって、法律や何か手続きなどの規制を解くことでビジネスをしやすくする国の制度です。これに指定されてるのが日本で10区域、首都圏や関西圏もあるんですが、東北だと仙台市と秋田県仙北市が指定されています。
私たち仙台市としては社会企業家の支援や、震災以降女性企業家が増えたこともあって、女性の意欲向上などの実証をテーマに「国家戦略特区」を進めています。
今まで仙台市でやってきた代表的な取り組みは「信用保証制度の対象拡大」です。これまではNPOや中小企業の融資に対してしか適用ができなかったのですが、社会企業家さんが利用される時に一般社団法人の形態が多いということから、仙台市から対象拡大の提案をして規制改革が叶いました。
また市民のニーズに即したサービスの創出をしていこうと、東北大学と一緒に「スーパーシティ構想」を進めていたり、いろいろな事業者と連携して実証実験を行ったりもしています。
先端技術を活かして、大学と民間事業者と一緒に地域課題の解決と新しいサービスの創出を行い、「選ばれる仙台」を目指していきたいと思っています。
照井氏(以下敬称略):我々仙台市経済局は、ビジネスをする企業の支援を行う部署です。仙台市は課題先進地で、もちろん人口減少もそうですし、人材の首都圏への流出は他の地域よりも先行して進んでいます。
ただ我々は逆にこれをチャンスだと捉え、どこの世界にもない「課題解決先進地」になれるんじゃないかという考えで、様々な事業を展開しています。
具体的には「X-TECH(クロステック)イノベーション都市・仙台」を目指し、社会課題をテクノロジーで解決して、企業にビジネス化してもらうような取り組みをしています。一昨年度からAIを使ったビジネス開発や、AIを使える人材育成のプロジェクトを行い、それをベースに事業を展開しているところです。
ただ新しいテクノロジーって、経営層が分からないとなかなか取り入れられないので、 まず初めに経営層向けのセミナーを行いました。実際に経営者の方に体験していただき、自社のビジネスに置き換えた時にどういうビジネスができるかを考えていただく。それをアイデアコンテスト「仙台 X-TECHイノベーションアワード」で発表いただき、表彰するような取り組みもしています。
照井:それから「防災×テクノロジー」の取り組みも。東日本大震災の時はテクノロジーも何もなかったので、あの経験と教訓から、やっぱり「防災×テクノロジー」は必要だよねと。近隣の自治体とも協力して実証実験をしつつ、実際に社会で実装していく動きもあります。
最後に産学官連携について。我々は、東北大学情報知能システム研究センター(IIS研究センター)を東北大学と一緒に仙台市でつくっています。何か企業の課題があった時にセンターが間に入り、「東北大学のこの技術が使えるんじゃないか」とマッチングのサポートを行ったり、補助金申請の支援や企業の売り上げ支援を進めたりもしています。
仙台市はいろいろな企業さんを支援していますので、ぜひ興味があればお問い合わせいただきたいと思います。
Editor's Note
「シェアリングエコノミー」「DX」という言葉はよく聞きますが、高橋さんが仰っていた「単純に今あるものをデジタルに置き換えたらハッピーになるのか」という問いは常に持っておく必要があるなと思いました。
5名のお話から、様々なまちづくりの考え方やDXの取り組み事例を学ばせていただきました。
CHIERI HATA
秦 知恵里