レポート
※本レポートは一般社団法人シェアリングエコノミー協会主催のイベント「東北のコミュニティを豊かにするシェアリングエコノミー」のトークセッション「地方自治体のDXをどう進めるか?」を記事にしています。
近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれ、地方自治体においてもDX推進の動きが加速しています。
一方で地域の規模感によってDX化の課題はさまざま。
2023年5月23日(火)に宮城県石巻市で開催された本イベントでは、「地方自治体のDXをどう進めるか?」をテーマに、東北で事業を展開している企業・自治体関係者など5名が登壇。
前編では、シェアリングエコノミーやデジタル分野に精通する企業・自治体の最新の取り組みについて紹介しました。
後編では、地方がリアルに直面しているDXの課題や解決策、そして今後の東北のまちづくりについてお届けします。
中村氏(以下敬称略):例えば宮城県仙台市さんや神奈川県小田原市さんは、もうデジタルイノベーション化ができていて、「DXを前向きに一生懸命やっていくぞ」みたいな雰囲気があるんです。
中村:ですが役場職員が少ない地域になると、DXに取り組めるリソースがないとか、市長をはじめ行政職員がDXを理解していないといった大きな課題があって。(デジタル化を進めるために重要な)規制緩和の前に、まずはそこの勉強会が必要ですよね。
それから僕は医療法人もやっているんですが、例えば弘前大学は医療の膨大なデータを持っているのに、それを活用する方法がないという不思議な現象が起きていて。そのビッグデータをオープンにして、ビジネスとして実現化していければいいなと思っているんですが、この話を行政職員に話しても言語が通じない。今まさに課題に感じていることです。
高橋氏(以下敬称略):僕は行政の出身だし、基本的に役場の方にはシンパシーがあるんですよ。だから愛情を持った上での発言なんですが、決定的に顧客視点が欠けていると思うんです。
高橋:最近自分が経験した話でいうと、法人登記や法人税の納付って、政府は「もうオンライン化しました」って言ってると思うんですよ。けど、そこには完全に顧客視点がない。
普通にオンラインサービスをビジネスとして提供している人だったら、最終的に自分で一通りやってみるはずなんです。どこにボトルネックがあるか徹底的に洗い出して、全部解消してからじゃないとローンチできないじゃないですか。どっか1個でも止まったら全部意味ないんですよ。それがもう決定的に欠けちゃっていて。
1回オンラインのシステムを導入したら、もう「オンライン化」って言っちゃう。結局使う側の時間と労働のコストが下がらない限り、どんなに「オンライン化しました」と言っても、たぶん変わらないと思うんです。
照井氏(以下敬称略):我々のような企業のビジネス支援をする立場だと、環境整備って大事で。環境をつくるには、やっぱり国の方と意見を突き合わせないといけないところが必ず出てくるんですけど、結構自治体の人は国に喋るのを遠慮しがちですよね。東北は特に。
照井:一方で最近の仙台市は、社会人経験がある人の採用を強化して、新しい民間の観点を取り入れるように意識しています。そうすると、国の人とフラットに話せる関係ができるので。ビジネス環境を整えるためには、まず行政同士が仲良くならないといけないと思います。
上田氏(以下敬称略):規制緩和に関してですが、国民のノリがダメだと上手く進まないんですよ。何か事故が起こったときに、 日本は「なんでそんなこと許してんだ!」ってなっちゃうんですけど。
上田:例えば中国やアメリカでは、隣の家に住んでいる人がご飯を用意してくれてそれを食べに行ったり、Uber Eatsみたいなのを頼むとオフィスの向かいのマンションから弁当が届けられたりするんですよ。これって超普通のことじゃないですか。 皆さん、友達の家でご飯が出てきて「調理師免許持ってる?」とか聞かないですよね。
こういうのがね、日本では全然ダメなんですよ。規制が基本古い。飲食店免許を持っていたとしても、検査するのは年に1回ぐらいじゃないですか。それで安全性を担保できるわけないじゃないかって思います。
高橋:上田さんの仰る通り、結局は我々国民なんですよね。コロナで明らかになったと思うんですが、安全性と自由のバランスにおいて、我々日本国民は圧倒的に安全性の方を重視する。たぶん世界的に見て自由の価値が最も低い国だと思うから、そういう国民を抱えた行政はどうしても安全に振らなきゃいけないんですよね。国民に怒られてしまうから。
ただ、行政だけを批判するのも違う。他の国だと「マスクをしろ」って言うだけで暴動が起こるのに対して、日本は国が「もういい」って言ってもみんながマスクをする。別にそれは個人で考えればいい話なんだけど、やっぱり自由の相対的価値が圧倒的に低いことが根底にあって、だから安全よりのポジションを行政も取らなきゃいけなくなる。それが本質なんじゃないかなと思いますね。
中村:今デジタル庁が市民の声を可視化するために、ウェルビーイング指標みたいなものをつくって観測を始めているので、それが浸透してちゃんと定期観測していくと、市民が何を求めているか、我々の気持ちが規制緩和に繋がるかもしれないですよね。
ライドシェア(自動車を相乗りすること)もそうなんですが、もう地方だとタクシードライバーが少ないし、バスも少なくなっていく。そうなった時に「素人の運転手でも安全運転できるんだったらいいじゃん」みたいな。そういう声が規制緩和に繋がっていくのかなと思いました。
中村:村社会になればなるほど、本心を言えない環境になっていくんですよ。「取引先の偉い人が右って言ったから、うちらも右にしとくか」みたいに。だからそういう時に声を発しなくても、自分の意見を表現できる指標みたいなものが出てくるといいなと思います。
高橋:僕も両親が岩手県なので、東北の保守性は体感がすごくあります。ただこの地域に希望があると思うのは、やっぱり震災後の東北、特に被災3県は、この伝統的・保守的な文化から抜け出ているものが明らかに現れていると思うんです。
これまで日本の社会構造は、凄い黒船が来るか原爆を落とされるかみたいな、本当に大きなトラウマに直面した時しか変われなかった。
それでいうと、あれだけの震災が起きて、福島では原発事故もあって、自分の故郷に完全に住めなくなることが起きた後の社会変化はものすごい。依存型の構造が原発事故をもたらしたことも、この構造じゃダメだということも、ある程度共通認識として地域住民が持っているという、たぶん歴史上、本当にレアな窓が開いていると思っていて。
これは自分の人生の中でラストチャンスかなと思うので、今社会構造を変えるチャレンジをどれだけできるか。この窓が閉まってしまうのか、ここから新しいものがつくれるのか。最後の、あと数年の闘いなのかなと思っています。
中村:面白い街って面白い店がたくさんあると思うんですけど、それって続かないとダメで。経済的にも成功させるために、デジタルの力が必要になってくるんですね。デジタル基盤データをみんなが使えるような形で、シェアしていく動きになっていかないといけなくて。
でも、「それって誰がお金出してつくるの?」ってなった時に公だけではできないし、民間がつくったら自分たちだけで囲い込みたくなっちゃう。自助公助共助の話なんですが、みんなでシェアするには共助の部分の動きが必要で、それをどうやって自走できるようにするかがポイントになってくると思います。
高橋:自分が「こうすれば世の中は面白くなるだろうな」と思うのは、あらゆる境界線を溶かしていくことかなと思っていて。
ずっと自分がやってきたことで言うと、東北の食産業のために生産者と一緒に活動してきたんですが、一次生産者がいて、仲卸しがいて、加工業者がいて、流通業者がいて。これまでは全部分断されていたんですよ。でもその壁を取っ払ってみると、めちゃくちゃ面白いことが起こる。
どうやってそのあらゆる境界線を溶かしていくか。全てをグラデーションで捉えていけるか。
そして1番この境界線が溶ける可能性があるのが、官と民だと思うんです。官と民も2項対立じゃないと捉えれば、全然変わってくるなと。
高橋:町役場が運営している施設の会議室があって、土曜日も運営しているからちょうど一昨日、当日予約しようとしたんですよ。そうしたら、「私、委託で来ていて、町役場の人がいないので予約できません」って言われて。
公共の施設だから、その予約をする権限は公務員のみに与えられているわけですよね。本来、公務員じゃなきゃいけない理由なんて何もないわけだし、公共は行政が独占するものでもなく、みんなが担っているものだから、みんなでどうシェアしていくのかってことですよ。
公民館の運営なんか誰がやったっていいわけだし、予約システムをオープンにしちゃえばいいわけで。それこそ、デジタルがあれば誰にだって予約できるし、その権限を分散させてしまえばいいだけだと思うんです。
あらゆる境界性をなくしていく方向に、DXが使えるようになるといいなと思います。そうすればもっと効率性も高まるし、生きやすい世の中になるし、市民が行政を指差して糾弾するような構造もなくなってくる。公共で何かおかしいことが起これば、まず自分たちのせいだよねと自分ごととして考えらえる風潮になっていくことが本質的なのかなと思います。
そしたらもっと面白い社会になると思うし、やっぱり「自分がやっている」ということが1番幸福度は高まると思っていて。与えられる社会を自分たちでつくっていく、自分たちでコトを起こしていく形になったらいいし、そこにDXが上手く使えたらいいなと思います。
上田:自助公助共助の話で、共助的なものだと例えばクラウドファンディングって、結構親和性が高いと思うんですが、先進事例がまだまだ少なくて。ぜひ一緒に研究していきたいなと、話を聞いていて思いました。
あと会議室の予約システムの話もありましたけど、やっぱり官と民の境界線をもうちょっと柔らかくしないと上手くいかないと思うんですよね。一緒に課題を解決して、よりよい社会が進めたらいいなと思います。
Editor's Note
どの分野においても「ただDX化が進めばいい」というわけではなくて、自分たちが生きやすく、もっと面白い社会をつくっていくために、その手段としてデジタルがあるのだと考えさせられるトークセッションでした。
CHIERI HATA
秦 知恵里