ETAJIMA, HIROSHIMA
広島県江田島市
私は、東京の暮らしが大好きだ。
地域のお仕事をしているのに「東京が好き」だなんて言うと、いつも決まって驚かれる。
だがコンビニも、病院も、学校も、郵便局も、ショッピングモールも、、、、徒歩圏内に揃っている人工物だらけの東京で20年以上暮らしてきた私にとって、むしろ自然に囲まれた環境の方が今でも違和感が拭えないのが本音だ。
(そんなことを言いつつ、欲張りかもしれないが・・・)
私は、地域の暮らしも大好きだ。
正直「東京より便利だ」と思う地域に出会ったことはないし、初めて地域に訪れた時は大げさでもなんでもなく、トトロの世界に迷い込んだと思うくらいの衝撃だった。タバコの看板、鹿注意!の標識、木造建築や近くを流れる川、すべてが新鮮すぎて、本物に見えなかった(作り込まれたセットかと何度も思った)。
東京に比べれば便利とは言えない地域だが、そこにはいつも「東京にはない何か」があった。その「何か」には地域によって全く違う色があって。「何か」はいつも、東京では気づけないことを気づかせてくれたり、食べられないもの、見られないもの、触れないもの、、を私に体験させてくれた。
私にとって地域は、人間として大切にしたい「本質的な何か」を教えてくれる場所なのだ。
そして今回私が初上陸した広島県江田島市も、いつのまにか私にとってかけがえのない大切な場所になっていた。
東京から新幹線と電車、さらにはフェリーに乗って揺られること約4時間30分。江田島市の土地に足を踏み入れた瞬間、最初に私を出迎えてくれたのは、江田島市の「空気」だった。ふわっと暖かい空気が私の身体を包み込む。クーラーの風に凍え、アスファルトに照りつけられる東京の夏を過ごしていた私の身体が一気にほぐされる。
海に囲まれている江田島市だからこそ、適度な風が吹く。こんなに夏の暑さを心地いいと感じたのは、いつぶりだったか。。
自然の暑さに浸っていると、少し遠くの方から男性の声が。
「おーーーーい!」「いらっしゃーーーい!」
両腕を大きくブンブンと振っている男性3人組。その姿に思わず笑みが溢れる。今度は心がほぐされた。
初対面の相手にここまで歓迎してもらったことが、今まであっただろうか。。嬉しい気持ちと、なんだか照れくさい気持ちが入り混じる。
今思えば、この時すでに私は、江田島市を好きになってしまっていたと思う。
無事、今回アテンドを行ってくださる後藤さんと合流し、早速江田島市の海を満喫しに海へ移動。
移動中、常に車の窓から見える海が、遠目でも東京とは比べ物にならないほど綺麗にキラッキラと輝いているのがわかる。逸る気持ちを抑えつつ、持参したビーチサンダルに履き替え、いざ海へ出陣。
と思いきや、まずはみんなで準備体操(みんなで準備体操なんていつぶりだったか)。続いて、後藤さんからSUPの漕ぎ方についてレクチャーを受け、ようやく本当に海へ出陣!
デジタルから解放され、目の前にただただ広がる地平線、底が見える透き通った海、初体験で覚束ないSUP操縦に「どうしたら上手くできるか」を必死で考える。
「絶対に海に落ちたくない」と思っていた私でしたが、一度落ちてしまったら、海の気持ち良さと、あとは何度落ちてもずぶ濡れ状態は変わらないという開き直りで、難しそうな技にも挑戦。
海に落ちた(失敗した)って御構い無し!な精神で、何度でもSUPに這い上がって挑戦、失敗、挑戦、成功を繰り返す。失敗を落胆する間も無く、再び挑戦していた自分に今になって気づき驚く。思わず「仕事だってそれくらい挑戦し続けてみたらいいのに」と自分に自分で突っ込んだ。
海から上がると「浜辺のゴミ」が目に映る(海に入る前から、東京の海と同じくらい浜辺にゴミがあって気になっていた)。驚いたのは、「今日のゴミは少ないほうだよ」と地元の方が口々に言っていたこと。
ゴミの大半は「牡蠣の養殖業」から出たプラスチック。牡蠣の養殖量、日本一を誇る江田島市が抱える大きな問題の一つだった。
「地域の人や市役所で定期的に掃除をしていますが、すぐにまたゴミが溜まってしまって、キリがないんです。本当は、プラスチックではない素材の製品を開発したり、海に流れでないような仕組みを整えたりしなくてはいけないのですが、牡蠣業者さんも通常業務で手がいっぱいで、そこまでできないのが正直な現状です。誰もこれでいいと思ってやっている訳ではありません。僕自身は海のゴミを、海を守るものに作り変えられたら素敵だなと思っていて、プラスチックゴミでライフジャケットを作りたいなと仲間を探しています」(後藤さん)
地域の人たちが協力し合いながら、まずは自分たちができることをする。「牡蠣業者が悪い」と一方的に誰かを責めるのではなく「どうしたら上手くいくのか」を考える。他人事ではなく、自分事として捉える文化がここにはあった。
海を満喫したあとは、後藤さんが立ち上げたコミュニティースペース「フウド」へと移動。海を背に、内陸の方へと坂を登っていくと、突如として目の前にカラフルな建物が現れた。これこそが「フウド」だ。
高台にあるフウドは、窓枠いっぱいに海が広がり、潮風が吹き込んでくるとっておきの場所。
「 “風(外の人)”が、“海” を介して、“土(島の人)”と交わる。様々な価値観をもった人が、それぞれの働き方、暮らし方、楽しみ方を持って交わる、縁が繋がる機会と場所をつくりたくて “風・海・土” から “フウド” プロジェクトと名付けました」(後藤さん)
安芸郡江田島町、佐伯郡能美町、沖美町、大柿町の4市町村が合併して生まれた江田島市。中でも、フウドがある沖美町は、最も人口が少なく、高齢化率は高い、さらに交通機関はほとんど走っていない江田島市の中でも条件不利地域と言わざるを得ない。それでも後藤さんがこの地にフウドをつくったのは、「ロケーション」が大きく影響していた。
「景色が最高にいい場所で仕事ができる環境をつくりたかったんです。移住する時、どうしても仕事はネックになってきてしまいます。でもだからといって、僕が会社を創って雇用を増やすというイメージはありませんでした。でも、仕事ができる環境があれば、場所を選ばずに仕事ができる人が江田島市に来てくれると思って、最高のロケーションで仕事ができるこの場所を気に入ったんです」(後藤さん)
私がフウドに訪れた時は、ちょうど夕日が沈む前。毎日沈んでいる夕日だが、東京にいるときは一度もみたことがなかったことに気がつく。フウドでは、夕日の沈み具合で建物内の光の入り具合が変わるので、自然と夕日が沈んでいくタイミングがわかり、思わず夕日に目が奪われてしまった。
外の人と中の人が交わることで、何かが生み出される舞台装置(きっかけ)として立ち上げられた「フウド」は、現在オープンして1年とちょっと。少しずつ少しづつ、フウドに訪れる「風」と「土」が増え、両者はプライベートでも仕事でも交わるようになってきている今、この場所がますます面白くなるのは言うまでもないだろう。
江田島市には、後藤さん以外にも地域で活躍するプレイヤーがたくさんいる。
中でも特に驚いたのは、自動車の板金塗装屋 兼 耕作放棄地を活用しサツマイモの生産・加工・販売を行なっている「峰商事合同会社カーライフ・キューティ(てくてく)」。現在、地域の方から譲り受けた13箇所の耕作放棄地で年間50トンのサツマイモを収穫しているものの、商品が大人気すぎて出荷が追いついていないばかりか、今後中国にも参入していくという。
「 “江田島市には仕事がない” というイメージを払拭し、江田島市が活気付くことで、ここに住み続けられる選択肢が増えたらいいなと思って、いろんなことに挑戦をしています。ですが、単純に江田島市でつくるサツマイモが好きで、いろんな人に食べてもらいたいからこそいろんな商品に加工しているという理由も大きいです。自分自身が好きなものなら、継続できますからね」(掘部さん)
他のプレイヤーさんたちも「やりたいと思ったことを素直にやっているだけ。だってそっちの方が楽しいでしょ。全然すごくないよ」そう笑いながら、話しをしてくれた。
江田島市で暮らしている人たちは、活動的である一方で、消費される生き方をしていない。一人一人が自分の暮らしている地域のことを考えながらも、決して無理をしすぎず、自分自身が楽しむことを忘れない。
皆さんの姿勢をみていたら、まだ慣れない「社会」という荒波に必死で食らいつこうと緊張していた私の心と身体が完全にほぐされていくのがわかった。
働き方や生き方において「こうでなければならない」という前提は、時代とともに変化し、今や個人の理想や仕事内容によって、自らデザインできるようになってきた。そんな今だからこそ時には、過ごす場所をガラリと変えて、初めましての人とゆっくり話し、新しい価値観や生き方を知ることで、人生の幅を広げてみるのもいいかもしれない。
そうそう、2019年7月から江田島市では新たなチャレンジとして「お試しサテライトオフィス*1」を開始している。お試しサテライトオフィスの期間中は、フウドの後藤さんが江田島市内のアテンドもしてくれるそうだ。
「フウドでは地域内外の人たちが出入りする空気感があって、実際にここで出会った人たちの間で新しいビジネスが生まれています。お試しサテライトオフィスは、課題先進地域である江田島市の “課題” を “ビジネスチャンス” だと思って活動してくれる企業さんに利用してほしいです。そのために、僕自身は “御社のオーダーメイドのお試し視察案内をします” と公言しています」(後藤さん)
旅費や宿泊費もサポートしている江田島市のお試しサテライトオフィス。この機会にまずは地域に足を踏み入れて、自分の目で地域を見てみるのはいかがでしょうか。
「ちなみにフウドは、お試しサテライトオフィスの利用者以外でも、“人に出会う拠点” としていつでも利用できるので、江田島市やフウドがぜひ気になった方はぜひ一度、気軽に来てみてほしいですね。事前にご連絡いただければ、懇親会の実施や地域のアテンドをすることもできますよ!」(後藤さん)
大自然と自分の気持ちに正直な人たちがいるここには、きっとアナタの想像を超える素敵な出会いと発見があるはずです。
*1 お試しサテライトオフィス
サテライトオフィス開設を検討している企業に対して、お試し勤務を実施できる制度
NANA TAKAYAMA
高山 奈々