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LOCAL LETTER

人が関わった森を人が好循環にしていく。豊かな暮らしをつくるため、森の編集者『やまとわ』が今、森づくりに必要だと思うこと

MAY. 29

拝啓、自分にとって心地よい暮らしを探し求めるアナタへ

毎日のように聞こえてくる「SDGs」「サステナブル」「エシカル」といった言葉の数々……。豊かな暮らしを続けるために、持続可能な社会を目指した各所の取り組みが加速しています。

では、私たちの「豊かさ」とは何か?

今回は「豊かな暮らしづくりを通して、豊かな森をつくる」をコンセプトに掲げ、事業を通して森林問題をはじめとした課題解決を目指して、地域の森林資源を活用した森と暮らしをつなげる活動を推進する『株式会社やまとわ』さんを取材。

代表取締役・中村博さん、取締役・奥田悠史さんに、今林業に求められていることや森と向き合うスタンスをお聞きする中で、暮らしの「豊かさ」に迫っていきます。

森の資源を使い、楽しい暮らしを提案

2016年10月に設立された『株式会社やまとわ』は、主に暮らしに寄り添ったプロダクト製作や家具製作、森林に興味を持つきっかけを与える学びの場の提供を行っています。

「森の資源を使った楽しい暮らしの提案で、森と暮らしをつなぎ社会をよりよくしていこう」と、代表取締役の中村さん、取締役の奥田さんが立ち上げました。

幼い頃は森の中にある小学校に通い、森のある暮らしが大好きだったという中村さん。高校卒業後は郵便局員になり、保険や郵便貯金の営業担当として働いていましたが、かねてからのものづくりへの興味関心が捨てられず、悶々とする日々を過ごしていました。

中村 博(Hiroshi Nakamura)さん 株式会社やまとわ代表取締役・職人 / 郵便局員を経て木工職人の道へ。実家は、南アルプスを遠望する高台。伊那谷の雄大さの中で育った。社会人となり一度は郵便局員になるも「自分で形あるものをつくり出したい」という想いから、高遠町の木工職人さんのもとに29歳で弟子入り。職人の技で森を元気にできると考え「地域の木で作った品を私たちの暮らしの中に届けたい」と思ったことから、やまとわを設立。
中村 博(Hiroshi Nakamura)さん 株式会社やまとわ代表取締役・職人 / 郵便局員を経て木工職人の道へ。実家は、南アルプスを遠望する高台。伊那谷の雄大さの中で育った。社会人となり一度は郵便局員になるも「自分で形あるものをつくり出したい」という想いから、高遠町の木工職人さんのもとに29歳で弟子入り。職人の技で森を元気にできると考え「地域の木で作った品を私たちの暮らしの中に届けたい」と思ったことから、やまとわを設立。

自分の気持ちに正直に動くことを決意した中村さんは、30歳を目前にして木工職人の道へ進むことを決断。職人として精進する中で、周囲の人たちの暮らしぶりや、自然と人の関係性から「生活の中にある深い喜びみたいなものを体感した」と中村さんは当時を振り返ります。

「毎朝、朝日の前で『今日もよろしくお願いします』と声を発してから作業にあたる75歳の大先輩や、庭先に小鳥が留まれる餌台を作って鳥に餌を与えて話す人の光景を見て、『なんて美しいんだろう』って思ったんですよ」(中村さん)

木工職人として働く中で、人々の暮らしが森とリンクしたとき、人は豊かさを感じられると考え、中村さんの「森づくりから始まる暮らしをつくる」道の模索が始まります。

奥田 悠史(Yuji Oqda)さん 株式会社やまとわ取締役・森林ディレクター / 1988年三重県生まれ。信州大学農学部森林科学科で年輪を研究。大学時代、バックパッカーで世界一周旅行に出かけ、旅を通じていろんな人が“生きる”姿に触れるたびに、その姿を伝えることに興味を持つ。大学卒業後、編集者・ライター、デザイナー、カメラマンを経て、やまとわ立ち上げに参画。やまとわでは、ディレクションやクリエイティブを担当。
奥田 悠史(Yuji Oqda)さん 株式会社やまとわ取締役・森林ディレクター / 1988年三重県生まれ。信州大学農学部森林科学科で年輪を研究。大学時代、バックパッカーで世界一周旅行に出かけ、旅を通じていろんな人が“生きる”姿に触れるたびに、その姿を伝えることに興味を持つ。大学卒業後、編集者・ライター、デザイナー、カメラマンを経て、やまとわ立ち上げに参画。やまとわでは、ディレクションやクリエイティブを担当。

模索をはじめた頃、中村さんは奥田さんに出会います。中村さんの「森と暮らしを近づけたい」という想いに共感した奥田さんは、デザイナーとして活躍していた経験を活かし、プロダクト製作や森づくりのプランニングなど、森をデザインする役割を担っていくことに。

林業が以前と比べて世の中から注目されたり、話題になったりする中でも、やまとわに圧倒的な注目が集まっている現状を、「なによりも僕らが森に対して楽しく取り組んできたから」だと奥田さんは分析しています。

夏は農業、冬は林業を行い、自然と人の営みが関わり合い循環していく暮らしをつくりだしている。
夏は農業、冬は林業を行い、自然と人の営みが関わり合い循環していく暮らしをつくりだしている。

やまとわが森林問題に向き合うこと、環境問題の課題解決を図る取り組みに、多くの共感を得る一方で、 “個々の行動変化にまでつながっていない” ことを、中村さん、奥田さんは危惧しています。

「日本はまだまだ木を伐ることを森林破壊だと思っている人が大半な世の中なんです」(奥田さん)

「23年間、ワークショップやさまざまな活動を積み重ねても、未だに木を切ってはいけないと思う人は相当数いて、変わっていないことを痛感します。森林の生命サイクルと、経済社会のサイクルがリンクしていないんですよね」(中村さん)

やまとわの取り組みは、じわりと共感者を増加させていますが、森の課題解決につながる人々の行動変容を起こす難しさも感じているおふたり。根本的な原因として、そもそも林業や森に興味がない人が多いことに課題意識を持っています。

多様なものが影響し合い生まれる

そんな中「豊かな暮らしづくりを通して、豊かな森をつくる」をコンセプトに活動を続けている、やまとわ。おふたりが考える「豊かさ」とは一体なんでしょうか?

「今までの私たちは物質的な豊かさや経済的な豊かさを求めて時代を生きてきました。ただ、それは本質的ではなく、豊かさを感じる根底には、人間の感情のような情緒的なものがあると思っています」(中村さん)

「心の奥底にある豊かさ」を追求し続けていきたいと考えている中村さん。森と暮らし続けられる未来を、どのように作り出していくのか。そんなところに、面白さを見出しています。

一方、奥田さんは「個人の豊かさ」と「全体の豊かさ」という2つの観点で、自然と人、人と人が作用し合っている時に、人は豊かさを感じると考えています。

「顔が見える関係で、例えば近所の農家さんが作った野菜を食べる時のように、誰かが作ってくれたものをいただいた時には、嬉しい気持ちになりますよね。反対に、自分が作ったものを誰かが喜んでくれた時にもとても豊かな気持ちになる」(奥田さん)

自然や他者との関係の中で、お互いに影響し合っている状態はとても豊かであるのではないでしょうか。
奥田 悠史 株式会社やまとわ 取締役

では森と暮らしの豊かさを実現するために、どのようなことが重要なのでしょうか。奥田さんは「多様であることが重要」と話します。

「木の事例ですが、便利だからという理由で一つの樹種をたくさん植えると、土砂崩れや獣害、他の不都合を引き起こすという結果が生まれるんです。いろんな生命体が相互に関与し合ってる状態が一番安定する、そんな風に思っていて。そこには多様な木々というだけでなく、人間もいることが大事だと思うんです」(奥田さん)

森の可能性をさまざまな視点で見つめ直す、森事業部。森をおもしろく、森を豊かにするため、クリエイティブの力を活かして、森の課題解決に挑んでいます。
森の可能性をさまざまな視点で見つめ直す、森事業部。森をおもしろく、森を豊かにするため、クリエイティブの力を活かして、森の課題解決に挑んでいます。

地域ごとに森の環境も人が暮らす環境も異なり、いろんな生き物や樹種があってそれぞれに役割がある。自然の中でうまく育っていく面白さがあるからこそ、豊かな森になっていく。人も自然も、ちょうどよいバランスがどこにあるのか?を考え続けることが必要だと奥田さんは考えています。

続いて中村さんに聞いてみると、いつでも「森だったら、どう考えるのか」という問いを軸に物事を考えていると話します。  

森に触れていると、自分自身はちっぽけな存在だって感じさせられるんですよね。生まれてきたからには、何らかの役割があって、意味があるだろうから、自分はどういう行動をとるのか、をいつも考えています」(中村さん)

人が関わった森を人が好循環にしていくのが、やまとはのテーマ。天然林にすれば良いわけでもないと思っていて、森もひとつとして同じ場所がないので、森林にとって一番良い姿は何かを考え、付き合い方を決めていきたいんです」(中村さん)

他業種の仲間と森づくりをする学び舎の価値

中村さんは職人として森林業界の現場にいながら、森と暮らしの未来を描く仕事をしています。その中で、業界に興味を抱く人を増やすとともに、業界の人たちのマインドを変化させることも必要だと考えています。

終戦後や高度経済成長期に造林された人工林が50年を超え、利用期を迎えたことで、国が林業を成長産業にしようと、さまざまな補助金を出すようになりました。その結果、制度ありきで活動をする林業事業者が増えたことで、林業に対する危機感が強まっている中村さん。

「自分たちがどんな志を持って林業の世界に入ったのか、ということを振り返ったり、リセットできたりする機会があれば、日本の林業も変わるのではないかと思っています」(中村)

そのために大事なのは「仲間がいること」と奥田さんもいいます。  

「ほんの少しでも『何か変えようぜ』って話が出来る仲間がいれば、未来は自分で作ってもいいんだと勇気が持てるようになって、行動の後押しになるはずです」(奥田さん)

そんな考えをもとに、やまとわが森林づくりの学びと仲間づくりのきっかけの場を提供するために始めたのが「INA VALLEY FOREST COLLEGE」です。「森に関わる100の仕事をつくる」をコンセプトに、森の価値を再発見して豊かな森林をつくることを目指して始まった学び舎。学び合いそして自分たちが出来ることを探りながら参加者と関係者たちが連携して森の価値を生み出す実践型のカリキュラムになっています。

森の現実や課題を実際に触れて理解しながら、仲間と共に取り組むからこそ、継続できる取り組みが生まれることでしょう。
森の現実や課題を実際に触れて理解しながら、仲間と共に取り組むからこそ、継続できる取り組みが生まれることでしょう。

森林業界を超えて他業種との連携から新しい森づくりを行っていくのが特徴で、森のプロはもちろんデザイナーや建築士、教育関係者、アウトドアといったさまざまなジャンルの講師を招き、森の価値を多角的に見ていきます。

2021年から現在までに、800人を超える受講生・聴講生が参加し、仲良くなった参加者や関係者たちが一緒に取り組みを始めるという話が少しづつ生まれているそうです。

「昔からある物の魅力を再発見すること、業界や地域を越えて考えてみるという人たちは、ここ2年くらいで増えた印象です。フォレストカレッジのコンセプトが少しずつ業界に浸透していくといいなと思いますね」(奥田さん)

人類も自然の中の一部。大自然との付き合い方が大事だからこそ、現実を振り返り考える機会をつくっています。

中村さんが森林や木に携わってから23年。活動当初は、周囲や世の中から全く森林問題や林業に興味を持たれなかったけれど、「現在はさまざまな取り組みを通して、やまとわの想いが伝わり、少しずつ同業者の共感を得られたり、林業について考える人が増えてきた実感がある」と話します。

楽しむことが、豊かさに一歩近づく

今、林業において人材不足は喫緊の課題。手足を動かす人がいなければ、どんなに高い目標を立てても林業の継続はできません。携わる人を増やすのが優先、と危機感が強く、同じ思いを抱いている中村さんと奥田さん。

林業は地球に触れる仕事で、エッセンシャルワークそのもの。やまとわでは「林業の仕事の価値を高めるための具体的なアクションをしていきたい」と話します。

常に人や森のバランスのとれた「面白さ」「心地よさ」を追求した暮らしを考えるため、「自分自身が違和感を持つこと」を大事にしているという奥田さん。

「例えば商品開発時であれば、『これが欲しい』と自分が思えなければ作りたくなくなるのと同じで、豊かな森を残せることが嬉しいから、いろんな案を考えられるわけです」(奥田さん) 

奥田さんの考えに「違和感を生まないために、大事なのは嘘をつかないこと」と同様の反応を示した中村さんも、森にとって、あるいは暮らしにとって、いいと思ったことに素直に行動することで、豊かさが実現できると信じています。

人が喜んでいる姿を見て自分が幸せになったり、人生の岐路で偶然の出来事に素直に反応した結果、自分の人生に前向きな変化が起こったり……。

「自分が何をやることが幸せなのか?を考え、その質問と向き合いながら行動を起こすことで、偶然が必然になるんですよね」と、これまでの出来事を思い出しながら話す中村さん。

スタッフの全体ミーティングは、青空の下で行うことも。
スタッフの全体ミーティングは、青空の下で行うことも。

今後は「楽しそうだからやってみたい」と関わってもらえる人を増やすための「森づくりの楽しさや豊かさ」の表現や可視化、情報発信を強化していこうとしています。

林業の中で足りないのは、コンセプトだと思っています。木こり募集って言われてもあまりピンとこなくても、例えば『何世代か先まで残す森を作りましょう』といった、現在と未来を両方考えられるPRだとワクワクするんです」(奥田さん)  

「今年は森の芸術プロジェクトと家づくりに注力していきますよ」と、奥田さんはやまとわの6年目の取り組みを力強く宣言します。中長期のビジョンは立てつつ、「面白そう」「やりたい」「今ならいける」と思ったタイミングや偶然に起こることが楽しそうであれば、積極的に取り組みをしていくのだそう。

林業や農業を通して、地域に面白い仕事や企画を生み出しているやまとわメンバー。
林業や農業を通して、地域に面白い仕事や企画を生み出しているやまとわメンバー。

「林業に対してネガティブに考えることは一切ないですねと力強く話す中村さん。「林業」として捉えるのではなく「森林をつくる」という考え方が、慣習に固執せずチャレンジできる土壌を作り出しているのかもしれません。やまとわは、一つひとつ課題はあれど、捉え方ひとつで、価値のあるものへと変えられることを伝えてくれます。

「具体的な数値目標も大事ですが、僕らは森との向き合い方を深めていきたいですね。共感してくれる仲間が増えていくのが嬉しい」(中村さん)

「そのためにもリアルの取り組みは辞めない」と中村さんは決めています。

土もいじるし、山に入って木も切るし、泥まみれ、埃まみれになって木工もやる。実際に触れないと本当のことがわからないし、幸せのツボがどこにあるのかは、誰かの話を聞くだけではわからない。だから直接触れることは今後も大事にしていきたいですね。
中村 博 株式会社やまとわ 代表取締役

楽しさを可視化する、体験として提供することを大事に、森と暮らしをつなぐ取り組みを加速させようとしている、やまとわ。

中村さんや奥田さんをはじめ、関わる人たちがまず目一杯楽しむ姿を届けながら、森と暮らしを近づけた豊かさの追求は始まったばかりです。

Editor's Note

編集後記

森林問題や林業の人手不足といった課題に真剣に向き合う人、取り組む人は数多くいます。自然と共生するという言葉も聞かれますが、自分たちが森に近づいていく具体的なアクションを行うやまとわは、課題解決の堅苦しさはなく、どこかワクワクさせてくれます。「豊かさ」を求めて、森を知ることから始めてみるのも面白そうです。

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