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LOCAL LETTER

北海道米を日本トップクラスのブランド米へ。JAが主軸で取り組む、美味くて、環境に配慮した「持続可能な米づくり」とは

APR. 11

拝啓、日本の主食 “米” づくりの未来を共に創りたいアナタへ

今や国内有数の米どころとして名前が上がる北海道だが、かつては他府県より劣っていたため「​​厄介道米」とまで揶揄されていたことをご存知だろうか。

寒冷の気候が稲作に不向きであったため、長年米づくりに苦戦を強いられてきた北海道だが近年、農業者の栽培努力と品種改良によって食味が改善され、その味が評価を得ている。

さらに北海道の中でも、大雪山からの天然水に恵まれる東川町で育てられた『東川米』は、「ゆめぴりかコンテスト2019」で最高金賞を獲ったほか、取引先からの評価も高く、多くの注文を受けている。「米が旨い」と移住を決める人も多い。

米づくりは日本の農業の柱であり、米の品種改良や栽培方法の研究が盛んに行われている分野にも関わらず、逆境からスタートした『東川米』がなぜこんなにも高い評価を得るのだろうか。

そして近年ではSDGsの分野でも、環境に負担をかけない持続可能な農業(ゴール2“飢えをなくし、だれもが栄養のある食糧を十分に手に入れられるよう、地球の環境を守り続けながら農業を進めよう”)への取り組みが注目される中、東川町の「持続可能な米づくり」への挑戦とは一体なんなのだろうか。

今回は、北海道屈指の米どころ、上川郡東川町の稲作を率いる、東川町農業協同組合(以下、JAひがしかわ)代表理事組合長 樽井功氏に話を聞いた。

樽井 功(Isao Tarui)氏 東川町農業協同組合代表理事組合長 / 昭和34年5月21日生まれ。平成17年より理事を務め、平成25年専務理事兼信用担当理事、平成26年から代表理事組合長に。令和2年からホクレン農業協同組合連合会理事、同年上川管内農協組合長会副会長。後継者の長男と面積約20haで水稲、みつば、ブロッコリーを作付け。
樽井 功(Isao Tarui)氏 東川町農業協同組合代表理事組合長 / 昭和34年5月21日生まれ。平成17年より理事を務め、平成25年専務理事兼信用担当理事、平成26年から代表理事組合長に。令和2年からホクレン農業協同組合連合会理事、同年上川管内農協組合長会副会長。後継者の長男と面積約20haで水稲、みつば、ブロッコリーを作付け。

「厄介道米」と揶揄された北海道米を、全国で選ばれる『東川米』へと成長させた

開口一番に「東川米の成功の一番の理由は、生産者の米作りに対する真摯な取り組みの歴史」と語ってくれた樽井功氏。

「平成19年に『東川米信頼の証10か条』を制定し、平成22年には東川米GAP(農業生産工程管理)を策定して実施しました。独自の厳しい栽培基準に基づき、徹底した品質管理を継続しています。その努力が認められ、平成24年に北海道米では初となる地域団体商標を “東川米” として取得し、登録されました。

本町で作付けされ、独自の栽培基準を遵守し、JAひがしかわで検査を受けたすべての品質(ゆめぴりか、ななつぼし等)が東川米の対象となり、北海道米の主力品種のブランド化に向けては先駆けた取組となりましたね」(樽井氏)

「より高品質の米を作っていこう」という意識が高い生産者たちに育てられた東川米は、ブランド米として、大手取引と複数契約を交わし販売されている。

「農協の担当職員は責任を持って、取引先との価格交渉に取り組んでいます。恵まれた環境の中で栽培できているので、自分たちで責任を持って販売することによって、農家さんにより高く還元できるのです」(樽井氏)

東川町のふるさと納税の返礼品としても好評で、毎年右肩上がりで売り上げが伸びている。「町の誇りとして、町民の方が自分の家で買ったり、お友達に送ったりと色々な面で宣伝してPRしてくれています。本当にありがたいですね」と樽井氏は微笑む。

2021年には、東川米が皇室献上米の看板を拝受。これを皮切りに、飲食業界などから新たな引き合いも来ているという。
2021年には、東川米が皇室献上米の看板を拝受。これを皮切りに、飲食業界などから新たな引き合いも来ているという。

「環境に負荷をかけない」米づくりの推進のために、水を守り、土を豊かにする

東川町の米づくりでは、環境に配慮した取り組みも他地域に先駆けて手掛けている。例えば、水。東川町には上水道がなく、生活用水として地下水を使用している。また、東川町は大雪山系の麓で上流に位置する。そのため、農業生産者は農薬を少しでも減らすような取り組みを重ねてきた。 

農薬を使って種子消毒した廃液は、最終的には川に流れていたり、土に染み込んでいたりします。下流に生活している人たちの水を汚さないために、東川では種子消毒にも農薬を使いません。60度のお湯で、種もみを消毒して、それを農家さんに渡しています。道内でも一番早く、平成19年から取り組んでいます。
樽井功 JAひがしかわ 代表理事組合長

水を汚さないために、畦畔に虫をよせつけず草刈り不要のハーブ系グランドカバープランツや乗用型の除草機の取り入れも検討している。

土づくりに関しても、鶏糞などの安い有機質肥料を使い、微生物をいかに増やして、お米の根をいかに張らせるかに取り組んで、環境に負荷をかけない取り組みを進めていく。

「東川町は水稲作付面積が 2,200haあり、それぞれの生産者が限られた面積の中でいかに品質の良い安定したものを作るかが肝心です。土作りといった、基本中の基本を忘れてはならないと思います」(樽井氏) 

東川の米づくりの技術開発は、稲作研究会という、生産者で作る組織が中心となって進めてきた。5年後、10年後、さらにその先の未来を明るくするために、東大農学部の客員教授などからもアドバイスを受けている。

できれば本当に完全無農薬米を作っていきたいですが、急にはできません。どうやったら少しずつ殺虫殺菌剤を減らすことができるか。みんなで挑戦中です。
樽井功 JAひがしかわ 代表理事組合長

東川町の米づくりが取り組む「水を守り、土を豊かにする」こと。それは、SDGsのゴール15 “陸の豊かさを守り、砂漠化を防いで、多様な生物が生きられるように大切に使おう” のターゲットにあげられている、“森林や淡水地域の生態系と、それがもたらす自然の恵みを守ること”そのものである。

持続可能な米づくりのために、農協がリーダーシップを取って農家を引っ張る 

現在、東川町では、小さな水田をまとめて大区画にする、基盤整備に取り組んでいる。

「最後の区画整理だと思います。この先10年ほどかかりますが、省力化やコスト削減に向けて避けて通れないところです」(樽井氏) 

大型の農業機械が使えるようになるなどで、一農家が耕作できる面積が広がれば、稲作農家が減少しても、町として現在の稲作面積を維持できる。同時に農家の所得向上にも繋がる。さらに水温の維持管理がしやすくなるなどのメリットもあり、「ますます安定した品質の良いお米が採れる」と樽井氏は未来を語る。 

効率化できるとはいえ、一戸あたりの経営面積が大型化し、倍近い面積になってくると、自分の家で刈り取ったものを乾燥調整し、籾摺りをして、玄米で出荷するのは農家さんにとって大変な負担になる。そこで、JAひがしかわでは、乾燥調製施設の新設を計画中だ。 

「農協で作業を請け負うわけですから、いろんなコストもかかってきます。それを払ってでも農家さんの手取りはしっかり残っていくようなやり方をすることが必要です。精米所で高付加価値の米を作るといった取り組みをして、農協がリーダーシップを取って引っ張っていかないといけないと思っています」(樽井氏)

水田の大型化と並行して、JAひがしかわが力を入れているのが、米の輸出の拡大だ。日本国内では毎年40万人から50万人ぐらい人口が減っており、それに伴って、お米の消費量も年に10万tほど減っている。

「これから何十年先もずっと米作りで生活していくためには、海外に目を向けて販路の開拓をしていかないとならないと感じています。今は輸出もしていますけれども、その量を増やしていかないといけません。輸出の形も、玄米、白米、パックご飯などの加工米など色々あります。それに伴う技術開発も必要ですね」(樽井氏)

国内での販売の仕方についても、パックご飯などに加工して販売したり、1合2合の小袋で販売したりすることも検討している。少量販売することで、農家の収益向上を目指す。「本当にいいものは、いいものなりの売り方を考えてもいい」と樽井氏。

「これからは東川の米を食べたら健康になれるというか、機能性をもった米を目指していきたいと思います。例えば、新しく開発された精米方法で、味を落とさずに胚芽を残し、味と栄養を両立させた『金賞健康米』というものがあります。

計画中の精米所が完成した暁には、金賞健康米を作って、まず小学校や幼稚園の給食、また町民、道民に食べてもらえるようなこともやっていきたいなと思います。町のふるさと納税の返礼品にも使っていただきたいですね」(樽井氏)

SDGsのゴール2“飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する”のターゲットとして、2-4 ”2030年までに、食料の生産性と生産量を増やし、同時に、生態系を守り、気候変動や干ばつ、洪水などの災害にも強く、土壌を豊かにしていくような、持続可能な食料生産の仕組みをつくり、何か起きてもすぐに回復できるような農業を行う“がある。東川町の取り組みは、正にこれを体現しているといえよう。

自然環境に恵まれ、食べ物を生産している強みが様々な人を呼び寄せる

これからの時代は自然環境があって、そこで生活していくために必要な食料、食べ物を生産しているのは、すごく強みだと思うんですよね」(樽井氏)

その強みが、東川町に様々な人を呼び寄せている。例えば、一昨年の秋に岐阜県の中津川から酒蔵が移転してきた。東川町の水と米の良さと地域振興を高く評価しての決断だったという。

 「酒蔵以外でも、札幌から東川に移住して来てフランス料理店をやっている方に『札幌のいい場所でやっていたのになぜ東川に?』と訊いたら、お米や野菜などの食材がいいからとのことでした。農協としても、そのような地元の方々と色々な意味で繋がっていく必要があるんじゃないかと思っています。東川米と一緒にお酒を輸出することなども進めていきたいですね」(樽井氏)

樽井氏の友人も、地元の熊本に帰らず、水と米に惹かれて東川町に移住して来る予定だ。

「空港に近いし、旭川にも近い。大雪山系をはじめ、自然環境が豊か。子育て支援をはじめ、色々な面で町づくりも進めています。昔から『写真の町』を掲げて町おこしをしながら、芸術文化と自然環境と、様々な交流ができる環境づくりに取り組んできています。それが今形になってきていると感じています」(樽井氏)

写真の町の企画委員を何年か務めた樽井氏。写真甲子園に参加した高校生たちの被写体になった経験を思い起こしながら、「来る人を待つっていうかね、いろんな交流を持てるのが楽しいかなと思います」と笑みを浮かべる。

東川米を売るというよりも、東川の町全体を売り込む取り組みが必要ではないかと思います。だから、お米がどういう環境で作られたとか、どういう人が作ったとか、米ができるまでの物語とか、そういったことをお米を買って食べてくれる人にどう伝えるか。それを、話し合いながら、取り組んでいかなければならないと思いますね」(樽井氏)

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Editor's Note

編集後記

誰よりも農家さんのことを考え、リーダーシップを持って取り組んでいる「JAひがしかわ」。今後もチャレンジし続ける東川町では、現在、企業連携を推進中です。ぜひこの機会に、東川町の取り組みをチェックしてみてはいかがでしょうか?

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