レポート
※本レポートはランサーズ株式会社様主催で開催された『フリーランスが8ヶ月検証した「新しい地方創生」報告会』で行われたトークセッションを記事にしています。
ここ数年で、働き方の多様性が生まれてきました。リモートワークが可能な仕事であれば、旅をするように暮らすことも。
そんな中、旅するように暮らす生き方を後押しするように、月額料金を払うことで、全国にある滞在拠点を自由に利用できるサービス『Living Anywhere Commons*1(以下、LAC)』が注目を集めています。
今回のセッションでは、LAC伊豆下田でコミュニティマネージャーを務めてきた梅田直樹さんと、新しい働き方LAB*2の実験プロジェクトに半年間参加したフォトグラファーの飯野正太さんが登壇し、『【街と人が「接続」される』をテーマに、それぞれの経験を語りました。
*1 Living Anywhere Commons…LIFUL株式会社が運営する月額料金制の滞在拠点提供サービス。
*2 新しい働き方LAB…ランサーズ株式会社が運営するフリーランスのための全国共創コミュニティ。
シモカタ氏(モデレーター。以下、敬称略):最初に、飯野さんが僕ら新しい働き方LABの実験プロジェクトに参加して何を感じたのか、何が変わったかを聞かせていただけますか。
飯野氏(以下:敬称略):変わったことは3つあります。1つ目は「仕事」、2つ目が「価値観」、3つ目は「繋がり」です。
1つ目の「仕事」については、元々Webデザイナーをやっていたのですが、この半年でフォトグラファーに転身しました。Webデザイナーの時は業務委託で決まった仕事をしていたのですが、フォトグラファーは完全にフリーランスとして個人で仕事を得ています。そこが大きく変わったところですね。
飯野:2つ目の「価値観」については、最初は「とにかく稼ぎたい、成功したい」という資本主義的な考え方だったんです。それが今は「自分が楽しいと感じる仕事や、夢中になれる仕事を優先したい」という考え方に変わりました。
最後の「繋がり」ですが、地方で事業をしている社長さんやキッチンカー、デザイナーをやっている方など、今まで出会えなかった人たちと繋がれるようになりました。
シモカタ:仕事が業務委託から完全にフリーランスに変わった時に、収入はどうなりましたか。
飯野:それまであった固定収入がゼロになりました。でも、1ヶ月後ぐらいにはフォトグラファーとしての仕事をいただけるようになり、今は徐々に回復しています。業務委託のときより収入が良い月もあれば低い月もありますが、ようやく安定してきたところです。
シモカタ:固定収入がなくなるのは怖いですよね。それでも踏み切れた理由って何だったんですか。
飯野:以前の仕事が激務で、周りの方に相談したことがあったんですが、皆さん「辞めるときはとても不安だと思うけど、一回手放したら不思議なことに仕事って入ってくるよ」と口を揃えておっしゃったんですよね。
飯野:「本当かな?」と思ったんですけど、「激務を続けていった先に、自分の幸せが本当にあるのかな?」とも考えて。デザインの仕事も好きだったんですが、自分の目指す働き方なのかと考えたときに「違うかも」と思いました。
せっかくフリーランスなんだから、やってみたい生き方と働き方を目指そうと、一か八かでチャレンジしました。
シモカタ:すごいですね。収入が回復してきたきっかけは何だったんですか。
飯野:きっかけは2つあって。ひとつは新しい働き方LABのイベントにちょくちょく顔を出していたんですね。そこで顔を覚えてもらえて実際にお会いした時に、僕に仕事を頼んでくださる方ができました。
もう1つは、地元の茨城で仕事をさせていただいた時、クライアントさんからまた別のクライアントさんを紹介していただくことが多々あって。地元の繋がりの中で仕事が徐々に生まれていきました。
シモカタ:人との出会いで仕事が広がっていったんですね。次は梅田さんにお伺いします。梅田さんは地元の静岡県下田市で面白いことをしようとしていますね。これから何をやろうとしてるのでしょうか。
梅田氏(以下敬称略):今年51歳になるんですが、どうしても地元に長く住んじゃうと新しいものって受け入れづらくなっちゃうんです。でも、LACの仕事を手伝うようになってから、いろんな方と出会うことができて。その方を地域と繋ぐことを重ねていくうちに、受け入れる楽しさに気がついて。
今私がいるところは友人が持ってる大きな倉庫です。ここをもの作りができる拠点にしようと思っていまして。今日ご参加いただいてるようなフリーランスの方に来てもらい、地元の人と繋がりが生まれる場所にしたいです。
シモカタ:地元にずっといて、新しい人を受け入れづらかったはずなのに「外の人たちも巻き込んだら面白い、一緒にやっていきたい」となったのは、どういう変化があったんですか。
梅田:私自身が42歳までずっと下田のコミュニティしか知らなくて、その後VILLAGE INC.に勤めた際にいろんな人と出会えることが刺激的で面白かったんです。
さらにLAC伊豆下田の仕事をはじめると、それまであまり関わってこなかった若い人たちやクリエイティブ職の方たちと出会うようになりました。そういった出会いが僕に変化をもたらしたんだと思います。
シモカタ:梅田さんが実際に人を繋ぐ時に大切にしてること、気をつけていることはありますか。
梅田:地元の方にも来ていただいてる皆さんにも、無理強いはしないように、お互いがライトに関われるように意識してますね。
シモカタ:ライトな入り方っていいですね。実際に旅で来た人に仕事をやってもらってみて感じたこととか、やってもらった上で今はこういうことを大切にしているなどはありますか。
梅田:地方には長年積み重ねた歴史や風土があるんですよね。僕は下田に移住してほしいとは思わないんですよ。僕自身も田舎にずっと住んでるんで、田舎の良さもあれば、ちょっと深入りした時の少し重いところもあることを知っています。
だから「軽さ」ってすごく大事だと思っていて。来ていただいた方がいい意味で刺激を受けて、例えば10年後に子どもと旅行に帰ってきてくれたらそれでいい。そんな風に僕は思って接してます。
シモカタ:確かに、旅で来た人と地元の人のズレは絶対にあるなって思いますし、新しいことを始めた地元の人ともきっとズレがあるなと思いますね。
梅田:そうなんですよね。
シモカタ:今度は飯野さんにお伺いします。クライアントから次のクライアントを紹介されて仕事が広がっていったとお話しされていましたが、そんなに上手く進むケースってなかなか多くはないと思うんです。もしうまくいったコツがあれば教えてください。
飯野:自分が夢中になれる仕事を見つけられたことが大きいです。写真を撮ってる時間ってすごく楽しいんですよね。自然に笑っちゃうぐらい楽しくて、一番テンションが上がる時間なんです。写真を撮ってる時の僕ってキラキラ輝いて見えるらしくて。お客さんやクライアントさんからも「またこの人に仕事を頼みたいと思えた」と言われました。そこが大きかったかなと思ってます。
シモカタ:なるほど。実際やりたいことをやっているキラキラしてる若者を見た瞬間って、やっぱり梅田さんも誰かに紹介しようって思われますか。
梅田:そうですね。地元に来てくれた若い人たちを、紹介したいっていう欲求はやっぱりありますね。
シモカタ:紹介したい欲求。
梅田:はい。紹介するバランスってとても大事なんです。この人には何となくこういう人が合うかなって思っても、拗れるケースもゼロではない。僕は逆に一回拗れてみるのもありだと思ってて。そのほうが、実は関係が深くなるパターンもあるんです。
シモカタ:ちゃんと腹割って話し合える状態になるってことですね。
梅田:そうです。外から来てくれた人たちと話し合えることは、小さい町にとっては実はラッキーなことだなと思ってて。
シモカタ:確かに、新しく入ってくる側も受け入れる側もぶつかることへの恐怖心というか、抵抗感みたいなのが結構あるのではないでしょうか。だったら、最初から断ったり、関わらなかったりしたほうが、お互いにとっていいよねという勝手な決めつけがあるんじゃないかなと思うんですけど。ぶつかってもいいってどういう気持ちなんですか?
梅田:ある時、僕がいいなと思った人を、地元の人に紹介したんです。その後、様子を聞いたら「あの子は若さがあるけど、敬語が喋れないよね」と言われて。僕自身は若い人たちと付き合う機会が多いので、言葉のことは気にしないんですけど。やっぱりきちんとした言葉使いをしてほしいっていう人もいます。彼らも別に悪気があってそういう言葉を使っているわけではないんですが、それが原因で仕事の進み方がズレたりしていて。
実際に様子を聞きにいくと、彼は彼でより良くしようと議論をしているんですよね。でも地元側からすると、その言語がわからないんですよ。難しいこと言ってるように聞こえちゃう。
シモカタ:確かに。
梅田:そういう時は言葉だけが問題なんですよね。だからそれを僕ら地元側の人間が「そうじゃないんだよ」ってバランスを取れると、上手くいくんですよね。気がつくと、あんなことあったのにずっと一緒にやってる、繋がってるみたいなことは結構ありします。
シモカタ:間に入ってくれる人や仕事が、結果的にやり取りをうまく進ませる調整役をしてる。そういう調整ができる人がいると、地域とスムーズに繋がれるようになるんですね。
梅田:それって汽水域(河川水と海水が接触する、混合する部分で、淡水域と海域の推移帯のこと)みたいだと思っていまして。川魚は海に行きたいですし反対に、海の魚は川に行ってみたいんですよ。両者が混ざれる丁度いいところがあるのに、最初はお互いに慣れなくて「うわっ」って思うことも。
でも慣れれば、後は自由に動けるようになる。僕がバランスを取っているというよりも、お互いが少しずつバランスが取れるようになってきているんじゃないかなと思いますね。
シモカタ:なるほど。ありがとうございます。本日は、このあたりで終了させていただきます。おふたりとも、お話いただきましてありがとうございました。
Editor's Note
ライターをしている自分はキラキラして見えているだろうか?と飯野さんのお話を聞いて考えました。自分が楽しいと思えるインタビューと記事執筆をこれからも目指して頑張りたいです!
DAIKI ODAGIRI
小田切 大輝