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三重
※本レポートはふるさと兼業事務局NPO法人G-net主催で開催されたオンラインイベント「【事例勉強会】明治20年から続くお酢の老舗 オンライン販売の売り上げが、昨年度の5倍になった兼業事例」を記事にしています。
「働き方改革」の浸透により多くの企業で副業や兼業に関わる就労規則が見直されはじめました。またコロナ禍では、リモートワークやワーケーションのハードルが下がり、居住地に捉われず働ける環境が急速に整ってきています。個人の人生設計において「働くこと」に求める価値も多様化が進み、ワークライフバランスを重視する声も聞こえてきます。
そして今、首都圏の企業で働く人々が全国の地域企業の経営課題の解決に、リモートで取り組む副業兼業プロジェクトに注目が集まっています。NPO法人G-netが事務局を担う「ふるさと兼業」のサービスは、これまで首都圏で活躍する企業人と地域企業を数多くマッチングさせてきました。
今回は事業拡大の成功事例として、三重県津市にある明治20年創業の山二造酢株式会社のプロジェクトを取り上げます。
伝統的な醸造法により、まろやかで質の高いお酢を造り続ける山二造酢の社長・岩橋邦晃氏と、プロジェクトに兼業で参画した株式会社ダイゴビレッジの代表取締役・木下亮氏を中心に、プロジェクトの成功秘話を語ってもらいました。
前編では、山二造酢が「ふるさと兼業」を活用するに至った経緯から、木下さんが1期目にチャレンジした新商品PRの成功とつまずきをお伝えしました。
後編では、1期目の業績に満足できず諦めきれずにいた木下さんが、新たにメンバーを集め新商品の開発から取り組んだ2期目のプロジェクトを中心に、いかにして彼らがオンライン販売の売り上げを昨年度の5倍にまで伸ばしたのかをお届けします。
木下氏(以下、敬称略):プロジェクトの2期目がスタートしたのは、僕がスタイリストの知人に山二造酢さんのことを相談したことがひとつのきっかけでした。
その方は山二造酢の歴史や、今回のコンセプトである「首都圏で戦えるブランドづくり」を考慮したうえで「こんなボトルで売ったらいいんじゃないか」というのをすぐに考えてくれました。僕もその案を見て「これはできるぞ」と思ったんです。
そこからさまざまな分野の人に声をかけ、メンバーを集めたんです。先ほどのスタイリストの方だけでなく、コスメ系のポータルサイトでコピーライティングをしている方やプロのカメラマン、アパレルの店長など総勢7名のチームが出来上がりました。
木下:各分野の専門家が集まったんですが、こうした複合チームで動くのははじめての人も多かった。はじめのうちは「本当にできるだろうか」と不安になる場面もありました。
しかし、岩橋社長に企画を提案すると「いいね。ぜひ、やってほしい」と言ってもらえて。僕たちのチャレンジしたいという想いが社長に受け入れられたのが嬉しかったです。
2期目のメンバーでつくったのがこちらの「伊勢のクラフト酢」です。コンセプトやデザインを決めていくなかで、当初僕は「伊勢」という言葉を使うことに反対していたんです。なぜかと言うと、山二造酢は三重県の県庁所在地である津市の会社なのに、別の地域である「伊勢」を出すと、双方の地域から反感を買うんじゃないかと思ったからです。
岩橋社長に相談すると「会社の前に伊勢街道も通ってるし、もともとは県全体が『伊勢の国』と言われていたから。首都圏で戦っていくのであれば、この『伊勢』というブランドがいいんじゃないですか」と言ってもらえて「伊勢」を採用させていただきました。
社長も含め、率直に意見を交わせるチームワークができていたんです。
木下:こうして「伊勢のクラフト酢」というブランド名で立ち上げることになりました。「クラフト酢」という言葉も、山二造酢は手づくりにこだわって製造してるということや、お酢を使ったドリンクということをしっかり表現したくて考えたネーミングです。
ラベルを見ていただくとわかると思いますが、ひとつひとつイラストやカラーも変えています。
このラベルのデザインの担当者ですが、実は全体のトンマナを管轄していたメンバーが紹介してくれた知人のデザイナーというわけではないんです。多様な人から提案を受けてみようという話になり、クラウドワークスで募集をかけました。
公募で集まったデザインの中で山二造酢にあったテイストはどれなのかを、僕たち自身も模索しながら選びました。
それでスペイン在住の日本人デザイナーの案を採用することに。クラウドワークスの活用は、僕にない発想だったので面白いなと思いました。多様なメンバーがそろったことで、いろいろなサービスを駆使しながらプロジェクトを進めることができました。
木下:この「伊勢のクラフト酢」の取り扱い先ですが、ひとつは専用のECサイトを開設し販売しています。
また西武百貨店さんが作ってるchoosebaseというリアル店舗とオンラインを融合したモデル店でも取り扱っていただいています。さらに、TSUTAYAとも現在話が進んでいて、4月からポップアップで1ヶ月ほどお取り扱いいただく予定があります。
事業の資金ですが補助金をうまく活用し商品を開発しました。今はボトルを買い切って製造しているほど売れ行きが良いですが、当初そこまでになるとは予想していませんでした。
プロジェクトとしても、4か月ぐらいで終わるかなと思っていたんですが、結果9か月かかりました。社長には広い心でお待ちいただきましたね。
チームの特徴としては、みんなが自主的に動いてくれたのが良かったです。この資料もみんなが担当する箇所をそれぞれつくってくれて。僕から資料をつくってほしいとお願いしたことはほとんどありませんでした。
木下:今後、僕たちが山二造酢さんとやっていきたいことがたくさんあります。2期目の当初の目標であった「首都圏の売上拡大」に加えて受託加工(=OEM)の拡大もフォローしていきたいなと思ってます。そこでOEM窓口の運営管理も任せてもらっていますし、SNSでの情報発信やパンフレット制作も担当させていただきました。
また、山二造酢は地域での社会貢献活動にも積極的なので、そこにも加わらせていただきブランドの向上にも着手していきたいです。実際に子どもたちと一緒に、飲むお酢をつくるプロジェクトをイオンモールと連携して3ヶ月間にわたり実施しました。
海外への販路開拓は、社長が積極的に取り組まれている分野でもあり、こちらもお手伝いをしています。マレーシアへの商談にも、チームメンバーから3人同行しました。
社長からもプロジェクトを受け入れた感想などをお願いします。
岩橋:「副業兼業の受け入れをなぜ活用したのか」とか「どういう効果があるのか」などを聞かれることがあります。
うちみたいな小さい会社にできることって、本当に少ししかないんです。社長の僕1人で「あれやりたい、これやりたい」という想いがあっても、具体的に進めることができないというのが実情でした。
「やりたいけどやれない」と思っていたことを、副業兼業の皆さんに手伝ってもらうと実行に移せるんです。ここが、活用する1番の良いところだと思っています。
中村氏(モデレーター / 以下、敬称略):おふたりのお話を聞いていて、プロジェクトがすばらしい速度と規模で発展しているなと思いました。1期目に比べて2期目では、なぜあんなにメンバーが増えたのでしょうか。木下さんがどんどん呼びこんで、岩橋社長がそれを受け入れてくれるという土壌が良かったのかな。
実際のところ、副業兼業で関わっている方たちは、決して高額な報酬ではないんですよね。
木下:岩橋社長、これはある程度はお話しても大丈夫でしょうか。
岩橋:大丈夫です。
木下:僕たちの報酬は「ECサイトで売れた利益から、幾分かもらう」という形でいただいています。あと面白い報酬としては、海外出張に同行した時には海外で1日休日をいただいています。
中村:報酬はそんなに大きな額をもらってはいないけど、続けているのはやっぱり面白いからなんですね。
木下:そうですね。今ECサイトを担当してくれているメンバーは主婦なんです。今の業務について聞いてみたら「自分自身の取り組みが成果につながっていくことや、やってみたいことが形に変わっていくのが面白い」と言っていました。
彼女はブランドを向上させ売り上げを伸ばすために取り組みたい企画に、優先順位をつけて取り掛かっているそうです。先日は「次はパンフレットをつくったほうがいいです」と社長に提案して了承をもらっていました。自分の企画がひとつずつ成果に変わっていくのが楽しいそうです。
木下:あと働きやすさの要因としては、子育て中でも打ち合わせや会議に参加してもいいことがあると思います。今日も展示会があったんですが、子どもを連れて遊びに来たメンバーもいました。ブースの奥で子どもが駄々をこねていたとしても、みんなが認めてくれます。
それと、岩橋社長が僕たちのやりたいことに挑戦させてくれるのが素晴らしい環境だなと思います。やりたいことに対して「イエス」と言ってもらえるっていうのが、やりがいにも繋がっています。
中村:2期目のメンバーのみなさんも、地に足ついた方々でしっかり売上を伸ばしていることが伝わってきました。岩橋さん、1期目の反省もあったと思うんですが、1期目から2期目で変わったことや、2期目になって特段に進んでいった実感などはありますか。
岩橋:1期目の皆さんも、本当にプロフェッショナルな方たちでした。スタートは良かったんですが、尻すぼみになってしまったなとは感じていました。1年半ほどで終了してしまったのは残念でした。
2期目の皆さんは、それぞれがいろいろなところで活躍されてる方たちで、みなさんに引っ張ってもらっているなと実感しています。皆さんのおかげで新商品をつくることができました。
そして、販売開始と同時にいろんなところから「取り扱ってみたい」というお声をいただいています。TSUTAYAやそごう西武にも卸すことになり、これからますます広がっていきそうです。
中村:今日は山二造酢のプロジェクトがどのように発展していったかを紹介していただき、私も衝撃を受けました。これもやっぱり、想いと熱意で繋がるという「ふるさと兼業」のコンセプトが良かったんだろうなと改めて思います。
スキルでマッチングするとか、報酬額を見て決めるというマッチングはたくさん聞きますよね。そういう関係性だと、予算がなくなったり業務が完了したりすると関係が終わってしまうことが往々にしてあります。
今回の山二造酢さんのケースから、お金を飛び越えた取り組みが世代や地域、国境を超えて人々を繋げていく大事なポイントになるのではないかなと思いました。そんな壮大なことを感じることができました。
ご登壇いただいたみなさん、ありがとうございました。
Editor's Note
木下さんが山二造酢にスポットライトを当てたいという熱い思いに呼応して、2期目のメンバーが集まったのだなと思いました。リモートで繋がるだけでなく、展示会や海外出張に同行することでリアルでも繋がっているメンバーが素晴らしいですね。
DAIKI ODAGIRI
小田切 大輝