旅
コロナ禍で外出制限を余儀なくされてきた、2年。
私たちの生活にも変化が起き、世の中では「ニューノーマル時代」「ウィズコロナ時代」といった言葉が聞こえてくる中、働き方や生き方を見直したり、時代を楽しく生き抜くためにいろんな挑戦をスタートさせた人も多いのではないでしょうか?
そこで今回、「今、絶賛生き方を模索中!」という方におすすめのイベントを開催することになりました。ゲストとして登場するのは、旅のサブスク『HafH(ハフ)』を手がけている株式会社KabuK Styleの共同創業者・大瀬良亮さんです。
2022年、大瀬良さんは「余白」をテーマに旅の魅力を伝える取り組みをスタート。旅の「余白」とは何なのか?その価値を大瀬良さんにお聞きしました。
『HafH』は、毎月定額でいつでも全世界の好きな場所で生活するプラットフォームを目指して生まれた、サブスクリプション型宿泊サービス。
月毎に滞在日数に応じてプランに申し込み、会員(ネイバー)になれば、提携するホテル、旅館、ゲストハウスなどを利用することができます。国内外で1,000以上の宿泊施設があり(2022年3月末現在)、リモートワーカーや旅好きの人たちに圧倒的な支持を受けています。
そんなHafHを運営するKabuK Styleの共同創業者である大瀬良さんは、新型コロナウイルスが流行して以降の私たちの暮らしを「当たり前にあった余白をつくる力を奪われた2年間だった」と語り、さまざまな体験の機会が得られなくなったからこそ、旅の価値を再定義する機会になったと振り返ります。
ようやく、「withコロナ」という考え方で経済活動が動きはじめ、旅行を再開する人の数も少しづつですが回復する中、HafHは航空会社JALとコラボレーションした航空券と宿のサブスクリプションモデルの実証実験をスタート。
これまでの旅行は、多くの人が行き先ややりたいことを決めて出かけることが当たり前だった中、「サブスク」という形態をとることで、旅の仕方にも変化がみられるようになったと大瀬良さんはいいます。
「面白いことに、旅行者の出かける地域が分散したんです。行き先などを完全には決めずに、まず36,000円のサブスクに登録したという人が8割程度いました。さらに、そのうちの7割以上が初めての地域に出かけていたんです」(大瀬良さん)
サブスクによる旅の提案は、今まで旅先として考えていなかった地域や、見えていなかった地域に目を向けるきっかけになっているよう。現在は旅行者だけでなく、リモートワークをする人たちが自宅近くなどにあえて滞在しながら仕事や生活をする「ご近所ステイ」も増えているのだとか。
そんな暮らしの変化を第一線で感じている大瀬良さんですが、『HafH』を立ち上げるにあたって、彼に影響を与えた人物がいたんだそう。それは、バンライフ(「バン(VAN)」と「ライフ(LIFE)」の造語。車中泊や自宅と車の生活をする人、日本各地を巡るなど車を中心としたライフスタイルを指す)の先駆けである渡鳥ジョニーさん。
「彼と出会い、『与えられた環境ではなく自分であえて選んで生活する人もいるんだ』って彼の生き方に格好良さを感じて僕は “宿なし族” の研究を始めました。それが『HafH』のきっかけですね」(大瀬良さん)
生きる場所を自分で選ぶことが出来る状態は、選ぶ力、余白をつくり自分でデザインしていく力があるということ。そう考えた大瀬良さんは、「生きる場所を自ら選ぶ人、選んでいこうとする人たちが格好良く見えるサービスをつくりたい」という想いから、『HafH』のサービスを発想してきます。
「例えば、今の大学生は、利便性がよくなり、直接どこかに行って何かを感じ取らなくても『オンラインでいいじゃん、Netflixで見ればいいじゃん』となってしまう学生も少なくないみたいで。自分で余白を作る力が失われつつあるんじゃないかと思っています」(大瀬良さん)
与えられた情報や便利なものに依存し、コロナ禍という生活の制限を余儀なくされてきたことも相まって、自分で自分らしさを見つける時間や場所をつくること、考える機会が(作りたくても難しく、結果)少なくなってしまっていると話す大瀬良さん。
正解のないVUCAの時代と言われる令和の世において、人生の岐路に立ったときに自分で正解を選ぶ力をもつことが今まで以上に重要になってくる、と大瀬良さんは考えています。
そこで「余白」があることで、人生や生き方を見つけることにつながるきっかけを提供しようと、未完全の旅を企画。
自分を受け入れてくれる場所ができ、気づけば地域の人に『また帰って来なさい』って言われるようになって、気づけば『手伝ってよ』って頼られるようになって、本気で自分のことを怒ってくれるーー。そんな場所ができたらと話します。
「怒られるって、僕にとってはめちゃくちゃ嬉しいことなんです。地元の人と同じ扱いをされる感じ。旅行をしているとそうした感覚を味わうのは難しくて、出会う予定のなかった人と関係性ができて、当初想像もできなかったことを体験するのは、用意されたものではなく余白があることが多い。そんな時に、旅の満足度は上がると思うんです」(大瀬良さん)
『HafH』を通して出会った、各地域にいる「余白名人」を通じて、予測不可能な出会いを創出する旅をプロデュースしようと動き出します。
「旅は、つながるセレンディピティが一番の醍醐味だと思っています。集合時間や工程が最初から決まっている旅行とは全く異なるのが、僕らの提案する不完全の旅です」(大瀬良さん)
大瀬良さんのいう “不完全の旅” とは、偶然の出会いやつながりを生み出すきっかけを手伝い、そこから先は一人ひとりの感覚や反応に任せる旅。
自分の心地よい生き方や価値観を探るには、何が起こるかわからないドキドキ感や偶然の出会い、つながりを味わえる環境の中から、答えが見えてくると考えています。
多様性が増し、生き方に正解のない時代になったイマ。しかし、選択肢が増えたことで返って生き方の選択に悩む人も増えているのも事実。だからこそ、旅の余白を活かすことが、生き方や自分のスタンスを見つけるヒントになると、大瀬良さんはいいます。
これまで大瀬良さんが旅をして出会った人の中で印象的だったのは、アイヌ民族なのだそう。
「アイヌ民族との出会いには、心を動かされましたね。2020年にアイヌの文化復興や発展などを目的につくられた施設『ウポポイ(民族共生象徴空間)』へ、アイヌ民族に会いたいと思って訪問しました。でも簡単に会えるわけもなく(笑)。そこでスタッフの人たちにいろいろと尋ねてみると、偶然にもそのスタッフの方がネイティブのアイヌ人だったんです」(大瀬良さん)
日本のルーツやアニミズム(生物・無機物を問わないすべてのものの中に霊魂、霊が宿っているという考え方)をアイヌ民族から知ることができ、大瀬良さんは自分の知らなかった価値観や生き方に大きく触れる経験をします。
「自然と共生する生き方とか、歴史や文化と共に暮らす生き方を知って心が揺さぶられました。その時、僕の心は『かっこいい生き方』と感じる生き方に触れた瞬間に動くのだとわかったんです」(大瀬良さん)
さらに「ウポポイ」に期待を持って訪れる前夜。北海道で出会った現地の人との偶然の出会いも大瀬良さんの心を動かします。
「ウポポイに行く前夜、友人たちと現地の居酒屋でワクワクしながら話をしていたんです。そしたら、お店の女性に『そんな軽々しくアイヌって街中で叫ばないほうがいいよ』って指摘されたんですよ。歴史的背景を知らなかった僕らに、かつてはアイヌ民族は差別的な目で見られていた歴史を教えてくれました」(大瀬良さん)
地元の人から歴史を聞き、感動していた大瀬良さんはいつの間にか女性と仲良くなり、気づけばお店のマスターが好意で、地域の伝統料理までいただいていた、と話します。
何も決めずに、ゲストハウスのオーナーからおすすめされたお店に行き、思ってもみなかった出会いや出来事から心揺れ動く時間を過ごした大瀬良さん。ガイドブックやネット上の確からしいとされる情報だけではわからなかった、旅の楽しみや価値をご自身でも体感されています。
そしてだからこそ、「人々の “余白力” を取り戻す旅の提案をしたい」と考えているのです。
大瀬良さんは自身も全国各地でワーケーションをする生活をしている中で、「自分の人生をより豊かに生きるための舞台を探している」といいます。
「自分にとって辛かったり、上手くいかなくて悩んでいたりした時に、安全を確保できる避難場所のようなところがあるのは、心理的安全として大事なことだなと思います」(大瀬良さん)
「この場所の景色を見るだけで心が穏やかになる」「あの場所に行けば、おばあちゃんが美味しいご飯をつくってくれる」といった絶対的な安心を得られる地域を持つような、ウェルビーイングマネジメントができるとよいのではと考えている大瀬良さん。
旅をすれば、さまざまな地域の人やコミュニティに触れるからこそ、コミュニティに入るだけでも楽しいと思えたり、『来てくれてありがとう』と言ってもらえるコミュニティがあったりすると、幸福感・満足感が満たされると話します。
とはいえ、大瀬良さんのように自ら積極的に人と関わることが好きな人もいれば、「自分から話しかけなければいけない」「どんな接し方をすればいいのかわからない」と不安を感じる人もいるでしょう。
そんな人たちに向けて大瀬良さんは「何にもしなくたっていい」とアドバイスをします。
「自分から話しかけなくても、飲食店に入れば地元の人が声をかけてくれたり、時にはお世話をしてくれたり、きっかけはいくらでもあるんですよ」(大瀬良さん)
実際に『HafH』を利用する人の中にも、あえて何もしない中から地元の人との交流を深め、自分の暮らしの中に旅が馴染むようになった人もいるのだそう。
東京の生活を手放さなくても、自分なりのペースで自分の生きる場所を見つけることはできます。自分の直感で動いてみることを『HafH』を使えば、気軽にできるんです。大瀬良 亮 株式会社KabuK Style
正解なき時代を生きるうえで、自分の心と会話が出来ることは、幸せに生きるための大事なスキル。だからこそ大瀬良さんは「『HafH』のように定額でどこでも行けるからこそ、自分の感覚を大切に選択できる生き方は幸福度が高まる」といいます。
とはいえ、『余白力を高めよう』と高らかに宣言したいわけではないと伝える大瀬良さん。大切なのは、まずは気軽に月に一度寝る場所を変えて、余白をつくり出してみること。それこそが一歩を踏み出すチャンスになると話します。
「いいホテルだったと思うだけでもいいと思うんです。泊まる時に『もしかしたら何かチャンスや変化のきっかけがあるかもしれないし、ないかもしれない』くらい気軽に泊まってみてほしいですね」(大瀬良さん)
自らを「余白名人」と呼び、無邪気な子どものようにキラキラと、旅の楽しみ方や魅力を話す姿が印象的であった大瀬良さん。
「これまでの経験で、なんとなくあそこに行ったら面白い出会いがありそう、この人に話しかけてみようかな、という予測不可能な出会いを創出させるアンテナは高いと思います」という彼が自信を持ってお届けする『余白旅』にぜひアナタも触れてみてはいかがでしょうか。
自分が幸せを感じられるローカルを探す「余白旅」、おすすめです。
Editor's Note
「いろんな視座の人たちがつながって、化学反応を起こしていくのが僕は幸せ」と話す大瀬良さんが提案する、余白のある旅。HafHを手がける大瀬良さん自身が人生を楽しんでいる様子が伝わってきて、サービスが注目されている理由を垣間見ました。「余白」の活かし方はそれぞれ。自分らしい生き方を見つける旅をしたくなりました。
ASUKA KUSANO
草野 明日香