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LOCAL LETTER

暮らしを描くように、お店をつくる。信州松本「Hangout coffee」の3年

JUN. 16

NAGANO

拝啓、好きな仕事をしながら、ローカルで生きる場所をつくりたいアナタへ

「好きなことを仕事にして、好きな場所で生きていきたい」と思ったことはありませんか?

今いる場所に別れを告げて迎える、新たな土地での生活に憧れを抱きながらも、それでも一歩踏み出せないのは何故でしょう。

「地域に馴染めるのか?」「生計は立てられるのだろうか?」といった、不安があるからではないでしょうか。

でも、今、長野県松本市には多くの移住者が集まり、2018年からは転出者よりも転入者の方が多い状態*が続いています。

*松本市,2025,「令和7年1月1日現在の松本市人口です」,松本市ホームページ,https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/5/130486.html

松本市にあるカフェ「Hangout coffee」は、コーヒーとクラフトビールが充実したお洒落なカフェ。愛知県名古屋市からの移住者である、山崎正人さんが店長を務めています。

山崎さんは「Hangout coffee」を営む前は、プロとしてスノーボードや、料理の道を歩んでいました。その後、松本市への移住と共にお店をオープン。3周年を迎えました。

山崎さんはどうやって、人と人が繋がる場づくりをしたのか。松本というまちでカフェづくりに挑戦することで見えた、「好き」を仕事にする秘訣をお届けします。

山崎 正人氏 「Hangout coffee」店主 / 愛知県名古屋市出身。スノーボード選手を引退後、料理の道へ。ペンションの支配人、レストラン経営を経験後、星野リゾートでの料理長、総支配人も務める。2022年4月に長野県松本市にて「Hangout coffee」を開業。

山が好きでこの地域を離れられなかった僕が、カフェをオープンするまで

山崎さんが地元・名古屋を離れ、最初に住んだのは新潟県妙高村でした。
スノーボード選手として、大手メーカーのスポンサー契約も得て活躍。選手引退後も「やっぱり山が好き」という思いから、長野県白馬村に移住しました。

好きだった料理の仕事に関わるようになり、そこで出会ったのが、「オセアニア系のカフェ」でした。

オセアニア系のカフェとは、エスプレッソベースの高品質なコーヒー、健康的で美味しいお洒落な食事の提供が特徴なのだとか。さらに、内装はナチュラルでリラックスできるもの。「ただの飲食店」ではなく、人が集まり、気軽な交流ができる場であるというのが最大の魅力のようです。

山崎さんは、日常生活に溶け込む、オセアニアのカフェ文化にひどく感銘を受けたと言います。

「白馬村には、オーストラリア人がいっぱいいました。どうやらオーストラリアにはカフェ文化がすごく浸透していて、毎日行くのが当たり前のようでした。『今日も来たぜ』みたいに、日常的に訪れるお客さんが大勢いたのを覚えています」

「Hangout coffee」はコーヒーのカクテルや、飲みやすいミルク入りのコーヒーメニューも豊富。ソイミルクやオーツミルクの用意もあり、ヴィーガンや牛乳が苦手な人にも配慮がされています。

その後は一旦、星野リゾートに就職し、長野県大町市や軽井沢町へ。

「星野リゾートでは、地域の魅力を発見してゲストに伝えていました。地域活性のようなことをしていましたね。そこで働いて、ホスピタリティの精神を高めていました

星野リゾートでは料理長を経て、その後、総支配人にまでなりました。

しかしそんな中、芽生えていったのは「新しいことがしたい」という思い。
2022年に松本へ移住し「Hangout coffee」を開業します。思いを寄せていた「オセアニア系のカフェ」を目指して始めました。

「カフェをやるとなったら、松本だったんですよね。経営的な目線から見ても、松本は周辺地域と比べて人が圧倒的に多いので、魅力的に写りました。

そして、まちがコンパクトで、カフェやお店がすごく多い。そんな環境で戦えないのでは、他でもなかなかうまくいかないだろうということで、松本で挑戦してみたい思いがありました」

静かに語っていた山崎さんに、雪の斜面を果敢に攻める選手魂が見えた瞬間でした。

賑わう「Hangout coffee」での取材は難しく、別の場所まで足を運んでくださった山崎さん。言葉を選びながらお話する姿から、知的さが滲みます。

実際に松本でカフェを始めてみて、どうだったのでしょうか? 

「いや、最初はね、厳しかったですよ」と、開業から2年間の苦しい時期を振り返りながら、言葉を続けます。

「店がある場所は『本町通り』と言って、松本の中ではすごく一等地なんですよね。
松本城から一直線に伸びる道で、夏まつりの『松本ぼんぼん』や市民祭がある時は全面封鎖されて、山車が練り歩いたり、舞台が出たり。一番活性化するメイン通りです。

でも、『Hangout coffee』は2階にあるし、間口もすごく狭いので、知ってもらうまではすごく時間がかかりました。最初の2年ほどは赤字でしたね」

そこから、どう立て直していったのでしょうか。

お店は本町通りというメイン通りの2階。階段を上ると、木目を基調とした店内は明るく落ち着いた雰囲気が広がり、何時間でも居たくなります。

転機はモーニング導入。松本で提供したかった価値

「僕、名古屋出身っていうのもあって、モーニングが身近なんですね。
朝の時間を有意義に過ごすのがすごく好きなので、カフェをやるならやっぱりモーニングと思って、始めることにしました」

そうして始めた、モーニングメニューが人気になり、口コミで認知が広がりました。少しずつお客さんが増え、「赤字続きだった」窮地を脱します。

モーニングの提供は9:00-11:30。カラフルでお洒落な料理に、朝から元気を貰える気がします。

「うちのように海外風の朝食を取り扱ってるところはそれまで周辺にありませんでした。もしかしたら、松本では最初だったのかなと感じています」

「エッグベネディクト」や「バケットフレンチトースト」など、海外を感じるモーニングメニューの数々。平日の朝を中心に、インバウンドのお客さんが多く訪れるようになったと言います。

松本は有名な観光地。インバウンドは、最初から見込み客として想定していたのでしょうか?

「元々メニューは、英語でも作っていました。でも特に、インバウンドを狙ってたわけではないんですよ。むしろ、海外から日本に来たら日本の食べ物を食べてほしいなと思ってるんです。

こうしたメニューは、どちらかと言えば地元の人達に、このオセアニアのカフェスタイルのお店を楽しんでほしいと思い、作り始めました」

松本駅周辺には観光客や地元の人々が集まりやすく、多くのカフェが点在。特に、松本城周辺では、歴史的な景観を楽しみながらカフェ巡りができます。

個性的なカフェが並ぶ松本の中でも、独自の強みを生み出しながら存在感を増している「Hangout coffee」。2階という立地も、隠れ家的な居心地の良さにつながっていると感じさせます。

山崎さんの理想のお店には、お客さんの顔が見えるオープンキッチンは必須だったそう。

山崎さんがお店を通して提供したいのは、「日常使いできて、リラックスして人と人とが繋がれるカフェ文化」。

目指すのは、お店とお客さんだけでなく、見ず知らずだったお客さん同士も馴染みになってしまう、そういう場

お店の名前の「Hangout」には、英語で「たむろする」といった意味があり、山崎さんの目指す場への思いが込められています。

人と人が繋がる日常使いのカフェ作り

メニューの他には、こんなこだわりも。

「カフェって、女性が行くイメージが多いかもしれませんが、女性だけの文化でも場所でもないはずなので、うちはどんなお客さんも大歓迎です。性別に関わらず来てもらえるよう、お店作りをしています。

店内はいろんな要素をちょっとごちゃごちゃさせていて。独自の雰囲気を作れたらいいなと思っています」

オープンキッチンの壁面の棚には、クラフトビールの缶や瓶が所狭しと並べられていました。様々なパッケージデザインを見るのも楽しく、どんな味なのか想像が膨らみます。

また、お客さんがいつでも来れるように、朝から夜まで営業し、定休日は無くしたとのこと。

「『今日やってるかな』って毎回調べて行くとか、行ったらやってなかったとかそういう煩わしさが自分の中で嫌でした。

カフェってふらっと行って時間潰したり友達と話したり、いろんな使い方をすると思うんですが、行きたい時に行けるのが理想です。つまりいつでも開いてるっていうのは、お客さんにとっての価値だろうなと思って。

また、いつでも開けておくためには、運営を属人化しないっていうのがすごく大事だと思っています」

スタッフ全員が同じクオリティで提供できるよう、丁寧に教え、工程を仕組み化するのは、「星野リゾートでの経験が活きている」と山崎さんは語ります。

「自分がいる時にお客さんの反応が見られるのは嬉しいけれど、それ以上に、お店そのものを好きになってもらいたい。

『行ったらあの店員が必ずいる。だから行く』ってお店もあるじゃないですか。でも、そうじゃない形を目指しています。スタッフみんなを含めて、『あのお店が好き』と思ってもらえるのが理想ですね」

「僕のファンじゃなくてもいい(笑)。お店のファンを作りたいんです。それに、育てたスタッフが褒められると、自分のことの様に嬉しいですから」

肩肘張らずに楽しめる。新たな出会いにつながるメニューへ

続いて、豊富なメニューについてもお聞きしました。

「いわゆるディープなものは、あまり置かないようにしてるんですよ。
幅広い人に楽しんでもらえるように、入り口になるようなものを選んでいます。

例えばコーヒーって、『コーヒーマニアの店』と『誰でも入れるカフェや喫茶店』で分かれると思ってるんです。

コーヒーマニアの店には本当にコーヒーが好きな人が集まる。
いろんな豆が置いてあって、焙煎の度合い、豆の原産国、そこの気候や標高、農園の違いがある。その中にグレードがあったり、浅煎り・中煎り・深煎りがあったり。

でも、多くの人にとっては、自分がどんな豆が好きなのか、よくわかんないじゃないですか。

だから僕らのお店は、毎日飲んでも飽きずに楽しめるコーヒーを、わかりやすく提供するようにしているんです。より飲みやすいように、ミルク入りのコーヒーメニューもいっぱいご用意しています」

お店にはバリスタが3名在籍しています。見た目に可愛いラテアートも、かなり高度な技術と練習が必要だそう。

では、クラフトビールはどういう基準で選ばれたのでしょう。

「1個気に入ったビールを見つけたら、同じブルーワリーの商品を取り揃えてみます。地元の人達にも新しい味を楽しんでほしいので、県内産にこだわることはしていません。

うちには、普段ビールを飲まないような方も『カフェだから』という理由で来てくれる。なので、IPAやセゾン、ピルスナーなど色々な種類を置いていますが、基本的には飲みやすいものばかりです。

パッケージデザインが可愛かったり、いろんなフレーバーが楽しめたり、飲んでみたいって思わせるようなラインナップにしてます。それは肩肘張らず、幅広くいろんな人に楽しんでもらいたいからですね」

ビールについて語る山崎さんはとても流暢で、本当に好きなのが伝わってきました。日々取り揃えが変わるというクラフトビール。いつ訪れても、新たな出会いが楽しめそうです。

どんなメニューが始まったのか、どんなビールが揃っているのか等、Instagramの案内も見るのが楽しみ。

ローカルへ移住して、自分の好きを仕事にするには

新しい土地への移住や開業と聞くと、地域に馴染む難しさや孤独感も気になるところです。

実際に松本では、「一緒にまちを盛り上げていこう」という共通の思いを持つお店同士が、横で繋がってお互い支えあっているよう。山崎さんは開業してみて気づいたことだと語ります。

また、「自分で行動して繋がりを広げようと思えば、しっかりと広がる」とも。

大切なのは、受け身ではなく自分から動くことにあるのでしょう。

ローカルでの挑戦について山崎さんは、「どんな暮らしをしていきたいかによって、お店の出し方や場所は大きく変わる」と話します。

「のんびり暮らしたいなら、もっと静かな場所を選び、松本のような地方都市にはお店は出さないでしょう。

どんな暮らし方を理想とするかなど、価値観によってかなり変わる部分なので、やり方についてはなんとも言えないっていうのが正直なところです。ただ言えるのは、やってみないとわからないことがたくさんあるので、余裕を持って始めた方がいいということぐらいですね」

山崎さんには、元スポーツ選手らしいチャレンジ精神、オーナーの分析力と経営力、そして経験という素材を使い、人生を丁寧に料理していく力があるように見えました。

自分だけが生活できるような範囲でお店を細々とやっていきたいのか、それともしっかりと自分の生活も安定させていきたいからお店をやるのか。

スタートラインの考え方で、やり方は大きく違うと思うんですが、僕はしっかりと自分の収入も、生活も安定させていきたいと思っていました」

山崎さんは、「仕事と暮らし方を切り離さずに考え、自分の価値観に合った場所で挑戦することが大切」だと、挑戦の心得を教えてくれました。

「好きなことを仕事にしながら、ローカルで生きる場所を作る」

山崎さんは、それまで松本にはあまりなかった新しいタイプのカフェ作りによって、人と人の繋がる場という価値を提供しました。

それが松本のまちや地域の人だけでなく、山崎さんにとっても、生きる場所という価値を作ることに繋がりました。

必要なのは、自ら動くことと無理なく暮らしを描くこと。

アナタは、ローカルでどんな暮らしを描いていきましょうか?

 

本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。

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Editor's Note

編集後記

筆者も、松本に数年間住んでいました。松本では地元の人の家に招かれると、お茶とお茶請けにお漬物が出てきて、何時間も語り合うことがよくありました。
議論好きな松本の人々の気質という土壌に、山崎さんの理想「人と人が繋がる場」がうまく融合し、新たな価値のある場が生まれたのかもしれない、と思いました。

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