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LOCAL LETTER

“理由”より“気持ち”。北海道・北広島発、自由で軽やかな新・挑戦論

MAR. 25

HOKKAIDO

拝啓、やりたいことを心の中に秘めたままのアナタへ

「挑戦」と聞くと、勇気や覚悟が必要で、やり遂げなければいけないイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。そのハードルが、夢や目標を遠ざけることも。しかし、挑戦はもっと自由で軽やかでいいはずです。

やりたいからやってみる」「ゼロからイチになればOKというシンプルな考え方で夢を現実に変えてきた表谷明美さんは、意外にも昔は挑戦を避けていたタイプと笑います。

今、表谷さんが自身の夢を形にしているのは、「北海道ボールパークFビレッジ」内にある地元の特産品やお土産などを集めたセレクトショップHUB HOKKAIDO SELECT SHOP(以下、HUB)。多くの観光客が訪れるこの場所で、表谷さんは店長として、北海道の魅力溢れる商品を提供しています。さらに、販促POPやディスプレイの工夫にも挑戦し続けています。

表谷さんがつくったPOP

表谷さんはPOP、色彩検定、ディスプレイの講師として全国を回り、多くの人に影響を与えてきました。また、臨床美術師やVMDシニアクリエイターなどの資格も取得し、ラジオDJや地域イベントの実行委員も勤めてきました。

そんな表谷さんに一歩を踏み出す秘訣を尋ねると、「かつては挑戦を避けていた」と振り返りつつ、転機となった経験を教えてくれました。そのエピソードには、挑戦を楽しむヒンが詰まっています。

「挑戦する人」になるまでの転機――正社員時代にもやもやしていた私が変わった日

表谷 明美氏 HUB HOKKAIDO SELECT SHOP店長 / 北海道出身。観光物産店での正社員を経たのち、独立。POPクリエイターとして活躍する傍ら全国で店舗販売促進の講師活動を行う。2023年よりボールパークFビレッジ内の「HUB HOKKAIDO SELECT SHOP」店長に就任。まだ知られてない北海道各地の魅力を北広島から発信中。

20代の頃、観光物産店で店長を務め、特に「POP作り」に注力していた表谷さん。

「皆が嫌がるから、好きな私がやるよ~と楽しんで取り組んでいました」(表谷さん)

絵や字を書くのが好きだった表谷さんは、独学でのPOP作りに没頭。商品を深く調べて完成させる過程が楽しく、思い通りに仕上がったときには達成感を味わったといいます。さらに、POPを見て喜ぶお客様の姿が何よりの喜びとなり、そこからディスプレイも任されました。

充実した日々のなかでも、表谷さんは「広告業界やデザインの世界」への憧れを抱き続けていました。しかし安定した正社員生活の中で、一歩を踏み出すことに躊躇し、スクールに行きたいけどお金もかかるし…と理由をつけてはその気持ちを抑えていました。

休憩時間に『宣伝会議』や資格・スクールに関する雑誌を読み、広告業界への思いを募らせていた日々。とくに『宣伝会議』は20代からの夢を形にする出発点であり、その後の挑戦にも影響を与えました。

そんな中、5年後の自分を想像した表谷さん。

「安定してるから別にそこにいればいいだけじゃないですか。だけどね、なんかね、急にここに居ても私はこの会社の社長にはなれないし、なんかな~って急に思って。会社がいやとかじゃなくて。やりたいことがあるからやめますって急に。急に言うタイプなんですよ(笑)」

「辞めよう!」と決意した表谷さんは、新たな一歩を踏み出したのです。

色彩検定への挑戦が育んだ自信、口に出すことで現実となった夢

仕事を辞めた表谷さんが挑戦したのは、色彩検定1級の取得でした。人生で初めて本気で勉強に打ち込んだといいます。当初は「1級なんて無理」と考えていたものの、勉強を進めるうちにせっかくなら極めようと思うようになりました。

30代前半までは履歴書に書ける資格は運転免許ぐらいと振り返る表谷さん。

色彩検定1級に合格し、やればできると自信を得たことが挑戦への土台となりました。この経験が「生きているうちにやりたいことをやりたい」という思いにつながり、新しい資格の取得や好きなことへの挑戦を後押ししました。

表谷さんはこう言います。

資格を取っても、全然生かさなくてもいいと思うんですよねよく『せっかく取ったのにもったいない』って言う人がいるんですけど、それはそれでいいんじゃないって思って」(表谷さん)

これが表谷さんの挑戦を支えるゼロからイチの思考です。まずゼロをイチにする。例えば、やりたいから資格にチャレンジする。その後のことは、その時の自分の気持ちに従う。先を考えすぎず思い立ったら行動する。自由で柔軟な挑戦への姿勢が、表谷さんを新たな未来へ導きます。

私たちもここからヒントを得られます。まず自分の「やりたい」気持ちに素直に耳を傾け、ゼロから100を目指さず、ゼロからイチに挑戦してみることそれが行動の第一歩となり、新たな可能性を開くきっかけになります。完璧な準備は必要なく、思い立った瞬間に小さな一歩を踏み出すことが、新しい道を切り拓く最初のステップなのです。

正社員時代に始めたPOP作りは、商品の魅力を伝える楽しさを教えてくれました。この経験をきっかけに、表谷さんはフリーランスのPOPクリエイターとして一歩踏み出し、「やりたいことは口に出す」と決めました。それまで心にしまっていた夢を、思い切って周囲に伝えるようになったのです。この変化がチャンスを引き寄せます。

色彩スクールで「POPとディスプレイの先生を探している」という話が舞い込み、表谷さんは専門学校の非常勤講師として活動を始めます。実は、いつかは先生になりたいという夢も温めていたものの、「でも勉強したくないから大学は行かなくて」と笑う表谷さん。それでもどこかで、「絶対どこかでなれるぞ」と信じていた自分がいたと言います。

そんな思いを、表谷さんは周囲に「先生をやってみたい」と言葉にして伝えていました。この言葉が呼び水となり、ついにその夢が現実のものとなります。

その後、全国で講師として活躍し、POPやディスプレイの技術を伝えました。「全然書けなかった生徒が少し書けるようになると、ゼロからイチになる。それがもう楽しい」と、教える中で成長を感じる喜びを実感したそうです。

そして、「叶わないからってアンテナを立てていないとやっぱり見つけられないので、常にアンテナを立ててれば何か引っ掛かると思います。」とも語ってくれました。

どんな無謀に思える夢でも、口に出し続けることで道が拓ける。表谷さんのエピソードは、それを見事に体現しています。

挑戦のカギは“理由”より“気持ち”。過去の迷いをバネに未来を切り拓く

講師活動が軌道に乗り、自信を深めた表谷さん、もっとやりたいことを追いかけたいという気持ちが膨らみました。

「理由はないけど、毎月東京に行って勉強しようと決めちゃったんです。それからの行動が勢いづいて(笑)」と語ります。格安航空会社であるLCCの普及で移動が楽になり、ついに憧れだった「宣伝会議」のコピーライター養成講座への挑戦を決意しました。

北海道から東京・表参道まで月2回通うハードな日々が始まりました。正直、コピーライターになりたかったわけじゃないんです。でも、プロの先生の話を聞きたかった」と表谷さん。通常なら「広告業界に進むわけじゃないし」「今の仕事に直接役立つわけではないし」と諦めそうな状況ですが、表谷さんは「必要だから」ではなく、「聞いてみたいから」参加を決めました。 

その背景には、過去の行動しなかった経験がありました。講座に興味を持ちながらも、広告業界じゃない私が行っても…と自分で壁を作り、挑戦を先延ばしにしてしまったことがあったのです。 

表谷さんを動かしたのは、本屋での偶然の出会い。手に取ったコピーライターの本が面白く、その著者の名前を見た表谷さん。裏表紙には「年明けからコピーライターの弟子入り講座を開催」と書かれていました。その瞬間、『この人の話を聞きたい!』って衝動的に申し込んでいましたと笑顔で振り返ります。

過去に立ち止まった経験と、本との偶然の出会いによる決断。その対比が、行動することの大切さをより際立たせます。やりたいかやりたくないかを考えてみて、やりたいが1ミリでも上回ったらやってみたらいいと思いますという表谷さんの言葉には、挑戦に必要なのは“理由”ではなく“気持ち”だというメッセージが込められています。

1年間続いた講義では、毎回100本ものコピーを書く課題に取り組み、プロの講師たちから厳しい講評を受ける日々。「広告代理店で働くプロたちに囲まれて、自分には場違いなんじゃないかと思うこともありました」「講座に行く前は、毎回吐きそうなくらい怖かったです。それくらい精神的に大変でした」と語る表谷さん。

それでも、通い続けた理由を尋ねると、もし自分が挑戦しないままで、他の人が挑戦しているのを見たら、悔しくて仕方ないと思うんです。そう思ったら、『やってみよう!』って自然に思えたんですと話します。

さらに、「現場を知るプロの先生たちの生の話を直接聞けるのが、何よりも面白かったんです」と、挑戦を続ける中での喜びも語ってくれました。辛さや不安も確かにあったけれど、それを上回る「やりがい」や「ワクワク」が表谷さんを支えていたのでしょう。 

挑戦する前の「途中でくじけてもいい」という気軽な気持ちと、実際に挑戦を始めてからの「面白さに引き込まれて続けた」という姿勢の対比は、多くの人にとって励みになります。

なぜなら、始める前の不安や迷いを抱えながらも、挑戦してみることで意外な楽しさやワクワク感に出会う可能性があることを示してくれるからです。ハードルを低く、最初の一歩さえ踏み出せば、後はその面白さに引き込まれて自然と続けたくなる。

そんな希望を感じさせてくれるからこそ、多くの人の背中を押してくれるきっかけになるのではないでしょうか。

挑戦を続けるべきか迷う時、表谷さんの言葉が心に響きます。「もし自分がやらずに、他の人がやっているのを見たらどう感じるか?」その瞬間に少しでも「悔しい」「羨ましい」と感じたら、それが挑戦の合図かもしれません。

挑戦が教えてくれた地元の魅力。HUBで築く北海道との新たな関係

挑戦を通じて、北海道以外の人々と出会い、世界が広がった表谷さん。しかし、北海道に貢献したい気持ちも持ち続けていました。

転職を考えていた時、北海道ボールパークFビレッジ内のセレクトショップHUBの求人に出会います。北広島に新しい店舗ができることは知っていましたが、野球には興味がなく、それまで特別な関心はなかったと言います。

しかし、求人を見た瞬間、「ゼロからイチを作る」という立ち上げスタッフとしての役割に魅力を感じ、「ここで働きたい」と強く感じました。その後、店長としての挑戦が始まります。

「HUB」で働き始めた当初、表谷さんは外から来た「よそ者」として不安を感じていたと言います。札幌市から北広島市へ通う表谷さんは、地域のほとんど知らず、観光客が多いエリアで馴染めるか心配でした。

しかし、地元のお客さんたちの温かい歓迎を受け、次第にコミュニティに馴染んでいきました。特に、エスコンフィールドのオープンを心待ちにしていた地元の方々の熱い想いに触れ、表谷さんはその一員として誇りを感じ始めました。

また、表谷さんにとって挑戦は、地元・北海道の中で新たな視点を見つけることに変わったと振り返ります。

実は私、北海道にまだ行ったことのない場所が多かったんですでも去年や今年は、北海道の端から端まで、少しずついろんな場所に足を運んでみるようになって。改めて、やっぱり北海道っていいなと感じるようになったんです(表谷さん)

地域を巡り、表谷さんは北海道の魅力に触れ、地元への愛情が深まったといいます。表谷さんのエピソードは、挑戦を通じて新しい視点を得ること、そして自分が大切にしたいものを見つけることのきっかけを与えてくれます。

表谷さんは今、新たな挑戦に取り組んでいます。きっかけはHUBに設置された日本酒サーバー。

これまでアルコールが全くダメだった表谷さんが、利き酒師の勉強を始めたのです。最初は舐めるところからスタートし、今ではお猪口に30ミリほどは飲めるようになったと言います。

やっぱり何でも興味を持ったらやりたくなっちゃうんですと、少し悪戯っぽく話すその表情は、やはりワクワクとしたエネルギーに満ち溢れていました。

挑戦はもっと自由に、軽やかにやってみたいという気持ちに素直になって、まずはアナタもその思いを口に出すところからはじめてみませんか?

 

さらに挑戦し続ける人たちのストーリーをもっと知りたい方は、LOCAL LETTERのメールマガジン記事をチェック。

Editor's Note

編集後記

インタビュー中、キラキラした目でお話してくれる表谷さんの姿にたくさんの元気を貰いました。

思えば「やってみたい」と言う気持ちは、すごく不思議なものです。
誰に言われるでもなく自然と湧きあがってくるあのワクワクした感情。

私だけの、あなただけの大切なその「やってみたい」気持ち、ここから育ててみませんか?
この記事が何か一歩踏み出すきっかけになれたらとても嬉しいです。

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