EHIME
愛媛
「最大限の安全と最小限の環境負担」を企業理念に掲げ、「赤ちゃんが食べられるタオル」の実現を目指すIKEUCHI ORGANIC。あらゆる“セオリー”を越えてきたそのストーリーと、熱狂的な支持を受けるタオルに込められた秘密について伺ってきました。
まずは、IKEUCHI ORGANICが誕生した経緯や、製品について伺えますでしょうか。
「1953年に愛媛県今治市で創業し今年で70周年を迎える、タオル製造・販売をしている会社です。現在ではオーガニックタオルのメーカーとして認知していただいていますが、そのタオルがつくられたのは1999年のこと。当時今治にしまなみ海道ができまして、そのオープニングとして『今治タオルフェア』というものがはじまったんです。
世界最大のタオル産地の今治から、『新しいタオルの情報を発信しよう』というフェアに合わせて発表したのが、現在も私たちのベーシックなアイテムとして愛されている『オーガニック120』というタオルでした」(池内さん)
「現在では、タオルハンカチからバスローブやルームシューズまで幅広い製品を手掛けていますが、大切にしている方針自体は当初から何も変わっていません」と語る池内さん。IKEUCHI ORGANICが大切にしている「最大限の安全と最小限の環境負荷」という企業理念は、実際の製品や製造工程にどのように反映されているのでしょうか。
「安全性で言いますと、現在私たちがつくっている製品は、繊維製品の安全基準で最も信頼性の高い『エコテックス規格100』のクラス1という基準をクリアしています。これは赤ちゃんが口に含んでも大丈夫というレベルになりますね。
ですが、安全性というのは『どこまで行けばゴール』というものでもないため、私たちは1つの指標として、創業120周年の2073年までに『赤ちゃんが食べても大丈夫』というレベルまでその安全性を高める挑戦をしているところです。『タオルを食品と捉える』という考え方をしていて、既に今治本社工場はISO-22000という食品工場の安全基準を満たしています。
また、環境負荷を下げるというと様々なことが考えられますが、私たちとしてはまず買っていただいた商品が長く使えるというのが1番環境に優しいことだと考えています。そのため商品の耐久性を高めることはもちろん、昨年からはそれに加えてタオルメンテナンスのサービスもはじめました。
2002年には日本企業で初の自社の使用電力を100%風力発電に変えていたりと、エネルギー面でもできることにチャレンジしています」(池内さん)
なるほど、「赤ちゃんが食べられるタオル」という言葉にはそういった意図があったのですね。日本初・世界初となるような数々のチャレンジを続けるIKEUCHI ORGANICですが、その原動力はどこから来ているのでしょうか。
「1つは単純に、『世の中に良いものをつくっていきたい』という“気持ち”ですね。
あとは、自身で経験してきたことも関係していると思います。僕らの世代っていうのはいわゆる高度経済成長の時代で、どんどん環境が悪くなっていくのを目の当たりにしてきたんですよ。どんなものをつくっても環境に負荷をかけていることは分かっていたので、それを少しでも下げていきたいという気持ちが昔からありました。
例えば、50年前くらいの話になりますが、その当時の瀬戸内海は泳ぐイメージがわかないくらいに汚れていたんです。でも今だと瀬戸内海は本当に綺麗になっていますよね。これはこの土地の人たちが意識して行動を続けてきた結果。時間はかかりますが、多くの人が環境負荷に対して意識を持てば、 20〜30年のスパンで自然は綺麗に戻るということを体験しているので、そういった経験が原動力の1つになっていますね」(池内さん)
早い段階からオーガニックコットンタオルに取り組んでいたIKEUCHI ORGANICですが、現在のように愛され、広く普及するまでには様々なチャレンジがあったのだと池内さんは語ります。
「1989年に制定されたエコマーク(*1)を取得した商品をつくろうと思ったのが、私たちのオーガニックコットン製品のはじまりでした。ただ、その当時のオーガニックコットンは本当に“そのまま”で、いわゆる生成りの状態で着色も何もしないというのが常識だったんです。世の中に受け入れられなかったというのもありますが、つくっている自分たちでも何か違うと感じるところがあり、しばらくしてから発売を中止することにしました」(池内さん)
*1 エコマーク
「生産」から「廃棄」にわたるライフサイクル全体を通して環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認められた商品につけられる環境ラベル
そこから10年経ち、IKEUCHI ORGANICは国内初のカラー付きオーガニックタオルを発売。そのきっかけは、2000年からはじめた海外展示会への出店にありました。
「日本のタオルというのはギフトで売ることがほとんどで、基本的には箱に綺麗に詰められた形で販売されていました。ただ、そういったタオルは国外では全く売れなかったんです。
また国内では、一般的なタオルでもカラーバリエーションが3つほどしかなかったなかで、海外では生活に馴染むような様々な色合いのカラータオルというのが主流になっていました。
そうした海外のタオルの考え方に触れたことをきっかけに、モノづくりのあり方を見直すようになり、そこから少しずつ日本や業界の中でセオリーとされてきたことを抜け出すようになりました。
例えば、オーガニックコットンに色を付けるというのもその1つですね。人間にとって色は重要な要素なので、安全性や環境負担を考慮した上で色を付けるということに取り組んでいきました。
2002年にニューヨークのホームテキスタイルショーで、出展した世界32カ国、約1000社のうちの5社だけが選ばれるベスト・ニュープロダクト・アワードを受賞をしたことで国外の知名度が上がり、2010年以降になってやっと国内でも販路が広がっていったんです」(池内さん)
今では数多くのファンに愛されているIKEUCHI ORGANIC。「使ってくれる方たちがいるから、今の私たちがある」と言う池内さんは、そうした想いからファンの方たちとのコミュニケーションも大切にされているのだそう。
「店舗では1か月半に1回くらいの頻度でトークイベントを開催させてもらっています。そこでは、私たちのモノづくりに対する想いから、皆さんのこれからの未来の話についてまで、決してタオルだけの話ではなくて、生き方とか考え方とかそういったところまでお話しをしています。
タオルって日々の中で使う生活道具なので、人々の生活に寄り添っているものなんですよ。だからこそ、リアルな話をすることで色々なところからヒントをもらえる良い機会になっていますね」(池内さん)
実はグリーンエネルギーに関する取り組みも、 あるお客様からいただいた何気ない一言がきっかけだったと言います。「お客様からいただいた課題と1つずつ向き合いながらクリアしていく、 そういう意味では 日々チャレンジの連続と言えるのかもしれないですね」と語る池内さん。その表情はどこか誇らしげで、また楽しそうでもあり、こうしたファンの方たちとの好循環が良い会社・良い製品を生んでいくのだということを実感しました。
「1枚のタオルが出来上がるまでには、綿農家さんからはじまって、糸の形にして織り込む職人たち、 それを製品として形づくり伝える私たち、そして使ってくださるお客様と、本当に多くの人の手を渡っています。だから私たちは、モノづくりはストーリーだと思っているんです」と池内さんは教えてくれます。インタビューの最後に、そんなIKEUCHI ORGANICが描く新たなストーリーについて伺いました。
「僕も高齢なので、そのうち引退をすることになると思いますが、それでも変わらずに『最大限の安全と最小限の環境負担』というのを私たちの最高のテーマとして追求していけるようにしたいですね。
それと同時に、タオルの気持ち良さを感じられる時間を増やしていきたいというのも今挑戦しているところです。タオルというのはどうしても家の中で使うものなので、『IKEUCHI ORGANICのタオルって気持ち良いよね』と言っていただいても、それは1日24時間で考えたときの8時間くらいにしかならない。例えば外でも着れるような軽量のタオルTシャツであったり、そういった製品の開発にも現在は挑戦しています」(池内さん)
綿農家から消費者までのすべてをパートナーとして捉えながら、より良い製品作りに奔走するIKEUCHI ORGANIC。次はどんな挑戦を見せてくれるのか、一ファンとしてとても楽しみにしています。
Editor's Note
今年一番嬉しかったこととして、ファンの方たちから貰ったサプライズの話をしてくださった池内さん。サプライズの内容はなんと、京都市営地下鉄・烏丸線の車両の一部を借りて、池内さんのポスターを掲出するというものだったのだそう!池内さんとIKEUCHI ORGANIC、そしてファンの皆さんの繋がりの強さを感じたエピソードでした。
SHIRAKUMA
シラクマ