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※本レポートは、株式会社WHEREが主催するトークセッション『地域経済サミットSHARE by WHERE in 東海』のSession1「ローカルファイナンスのゆくえ。社会性と経済性の評価論」を記事にしています。
地域経済を融資・投資・事業支援とそれぞれの金融的立場から支援する3名の登壇者と、小西 由樹子氏による今回のトークセッション。
前編では、飛騨信用組合が手がける電子地域通貨「さるぼぼコイン」を通じて、地域でお金が回る仕組みを紹介しました。
後編では、ファンド企業だけでなく個人による新しい資金調達と支援の潮流、さらには地方の事業承継や自治体の支援など、地域経済の未来を拓くさまざまな話題をお届けします。
>前編はこちら<
小西氏(モデレーター、以下敬称略):今回のテーマは社会性と経済性です。最近は経済的なリターンだけでなく、社会的なリターンを求める「インパクト投資」が話題ですから、ぜひお話を伺ってみましょう。
まずは、岡崎ビジネスセンターで数多くの企業の経営相談に乗っている秋元さん、どう思われますか。
秋元氏(以下敬称略): ありがとうございます。ただその前に、この会場でインパクト投資やSROIといったキーワードを知っている方はどのくらいいますか?…少数ですね。では、ちょっと具体的な話から始めましょう。
秋元:普通は投資と言えば「いかに儲かるか」が気になります。しかし私自身、余剰資金で岐阜の古民家再生を購入した経験があるんです。もし「儲け」だけを重視するなら、米国株なんかを買う方が合理的かもしれません。でも自分は、知人がやっている古民家再生のプロジェクトに感動して、応援の気持ちで古民家を買ったんです。
こんな風に、経済性で説明できない「共感・応援」の投資もこれから地方で増えていくんじゃないかと思っています。ふるさと納税なども、近しい仕組みですよね。
ここに関して、VC(ベンチャーキャピタル)で長く経験を積まれた藤田さんは、また違った見解をお持ちかもしれません。どうですか。
藤田氏(以下敬称略): おっしゃる通り、VCとしては投資に対するリターンを追い求めるのが本分です。一方で、地方での投資を考える際は少し違うこともあります。
地域の起業家は、売上や利益よりも地域の課題を解決したいという志を持っている場合も多い。いわゆる「ゼブラ企業」ですが、その想いに共感して、地域に与えた変化の大きさを指標に投資する「インパクト投資」が広がってきています。
小西:なるほど。VCは出資者から資金を募って投資をするという仕組み上、リターンを重視するイメージが強かったですが、出資者にも、利回り以上に起業家の想いを重視する方は増えてきているのでしょうか。
藤田:明らかに増えてきたと感じます。2021年に名古屋で「Central Japan Seed Fund」というシードファンドを立ち上げたんですが、ヒト・モノ・カネ全部足りない、でも熱い想いだけはある、そんな起業家に27社もの出資者や企業からご支援をいただきました。
それも、投資だけでなく成長支援も含めて提供するんです。さながら、みんなで事業を育てる「ファミリー」のような関係性ですね。この名古屋の事例以外にも、こうした動きは全国各所で増えてきたと聞いています。
古里氏(以下敬称略): 少し話はズレますが、最近は「遺贈寄付」なんてものも注目されていますよね。企業ファンドだけでなく、実は個人や法人の寄付・出資も影響力を増しています。
古里:相続で身寄りのない方の財産が国庫に帰属してしまう前に、信託してコミュニティ財団などに寄付する動きが増えています。これには千億円単位の資金が見込まれており、地域課題への投資の新たな資金源となり得ますよね。
小西:共感や応援で、個人からも金融機関からも支援の幅が広がっていると。すごくいい話ではありますが、一方でそうした中でも「ここにはお金を出せない」って領域もあるのではないかと思うんです。
今日は、融資、投資、企業支援それぞれの専門家がいらっしゃいますから、それぞれに目利きのポイントも伺ってみたいと思います。
藤田: 私たちVCが投資するのは、地域の課題は小さくても共通課題であり、他地域にも広げられるスケール性のあるビジネスです。たとえば医療事務の負担を軽減するAI技術。現場1つでは小さな課題でも、全国、そして世界に広がる可能性がありますよね。
一方で、たとえば地域密着型の酒造さんであるとか、事業の性質としてスケール性が見込みづらいものには入りにくいですね。
古里:そこは逆に、地域の金融機関であればカバーできる領域かもしれません。銀行は、きちんと返済が受けられれば良いので、VCほどスケール性には影響を受けません。
とはいえ、銀行も預金者保護の観点から「元本確保」に厳しい。保証や担保といった言葉をよく聞くかと思いますが、そもそも収益事業をやっていない公益法人や事業が未熟で担保のないスタートアップには、残念ながら融資が難しい場合もあります。
ただ最近は、先ほども話に挙がったクラウドファンディングや寄付といった「応援資金」もありますし、個人が想いを乗せて直接お金を届けるというお金の流れが日本でも増えてきてると思うんですよね。
やはり、金融機関では制約上お金が出せない領域もありますから、個人が想いで繋がって、経済的リターンだけじゃない、想いでお金を拠出するっていう。このお金の流れがもっと増えることが、地域にとっては必要なのではないかと僕は思いますね。
秋元:地域で資金を循環させるには、金融だけでなく人のネットワークも鍵だと感じています。
たとえば、後継ぎの問題。M&Aを求めている中小事業者を個人が見つけて事業を買う、あるいは事業に共感をして受け継いでいく、そういった人たちが出つつあります。こうした動きも、ローカルにお金や人が流れる新しい動きとして注目しているのですが、いかがでしょう。
藤田:最近「サーチファンド」という言葉も増えていますが、経営者を目指す人をファンド側でまとめておいて、事業承継できない企業とつなげることができるんですよ。僕の地元の秋田県では事業承継できない企業が7割とも言われますが、お金も人の流れも全部揃うような環境に、地域も変わりつつありますよね。
小西:今、民間での支援のお話があったと思うんですけれども、最近は地方自治体でも創業支援やスタートアップとのマッチングのような事業が増えていますよね。自治体としての関わり方、応援の仕方には、改めてどのようなものがあると思われますか。
藤田:最近「AKISTA」というプラットフォームを秋田県で作って、経済産業省の「Jスタートアップ」という認定制度の地域版のようなことを始めました。「この人がこの地域のスタートアップですよ!」と県が企業にお墨付きをつけるんです。
これがインパクトがかなり大きくて。事業を始めたばかりのスタートアップには信用がない。でも行政が信用を補完することで、企業や大学といったいろいろなサポーターがつくわけです。
藤田:これは統計的にもわかっているのですが、起業家がいるところには起業家が増えやすいんです。たとえば「AKISTA」のサポートを通して、この地域を面白がってくれる人が増える。そして、来てみたら「意外といい場所だな」「この地方で事業をやってみようか」という人も増える。
実際、秋田で活躍している起業家は今4人いますが、そのうち秋田出身者は1人だけです。このようなケースは、きっと他の地域でも増えているんじゃないでしょうか。
秋元:今回のテーマは“ローカルファイナンス”ですが、結局のところ、お金の流れの背後には“人の意思”がある。ファイナンシャルリターンだけではなくて、関係性だったり、幸せの実感や生きがいみたいなことが、意思決定に影響していると思うんですよね。
そういった意味で、東京から飛騨に移り、個人としていろんな選択をされてきた古里さんは共感される部分が多いのではないでしょうか?
古里:本当にそうですね。今日の話を聞きながら、自分も「何を大事にしたいか」を常に問いかけながら、経済的な部分とのバランスをとってきたなと改めて感じました。
最近は、そうやって自分の想いや価値観を起点に「誰を・どのように応援するか」を選ぶ人がすごく増えている。だから今、ローカルファイナンスの主役って「個人の選択」にあるんじゃないかと感じるんです。
だからこそ「想い」と「経済性」を両輪でまわすような取り組みが、これからもっと増えていくんじゃないでしょうか。
小西:ありがとうございます。今日は信用金庫、VC、行政、いろんな立場からの話が出ましたが、こうして見るとローカルファイナンスのかたちが多様になってきていることを実感しますよね。
一見バラバラに見えるけれど、どれも「誰が、どんな想いで、どうお金を動かすか」という点ではつながっている。
このトークセッションが、皆さんの地域での実践のヒントになれば嬉しいです。
Editor's Note
ファイナンスと聞くと、一見、堅くて個人の思いとは遠い話に感じがちです。でもこれからは、個人の意思が経済を動かす時代。人の思いがつながり、応援が投資につながる。そんな「地域経済をともに創る」時代がすぐそこまできている、そんな希望を感じた時間でした。
HONOKA MORI
盛 ほの香