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LOCAL LETTER

未経験から挑む農業のロマン。50人の集落で目指す独立への一歩

JUL. 24

NIIGATA

拝啓、農業を始めてみたいけれど、自分にできるのか悩んでいるアナタへ

「今の仕事は誰かのためになっているのだろうか」
「もっと自然に囲まれながら、生きている実感を持って仕事がしたい」

そう感じる事はありませんか。

毎日、職場と自宅の往復。気づいたら迎える週末。
忙しない日々を送っていると、つい息苦しく感じてしまう時があると思います。

社会の基盤を支える農業は、自然相手で時には重労働。それでも四季の移ろいを肌で感じながら、身体を動かし作物を育てる事は、人間が持つ五感を刺激し、幸せを実感する瞬間が沢山あります。

今回、ご紹介するのは新潟県の糸魚川市地域おこし協力隊として新規就農を目指す加藤琢朗さん。東京のIT企業を退職後、未経験から農業の世界に飛び込みました。現在は「越の丸茄子」というブランド茄子の栽培を1から学び、独立に向けて活動中です。

加藤琢朗(かとうたくろう)氏 糸魚川市地域おこし協力隊 / 2000年生まれ、新潟県糸魚川市出身。2023年に地域おこし協力隊として地元へUターンし、名産品である越の丸茄子の生産者として独立を目指し活動中。糸魚川から世界で戦えるブランドを目指して日々生産活動に励んでいる。昼は農家だが、夜はDJとしての顔も持つ。

なぜ、加藤さんは農業の世界に飛び込んだのか、農業のやりがいとは何なのか、未経験から農業を始めるにはどんな事が必要か。実際に0から農業の世界に飛び込んだからこそわかる、新規就農のリアルについて伺いました。

元々、農業に興味があるわけではなかった。直感で決めた新規就農

新潟県糸魚川市。

富山県との県境に位置し、日本海と北アルプスを一度に望むことができる特徴的な地形を持つまちです。フォッサマグナと呼ばれる大きな断層から生まれる源泉は100度にも達し、ミネラル豊富な温泉は冷え性に聞く温泉としても知られています。

また、縄文時代から伝わるヒスイ(国石)の産地としても有名であり、歴史と文化が深く結びつく土地であることから日本初のジオパークにも認定されました。

そんな自然豊かな環境で生まれ育った加藤さんは、高校生まで糸魚川で過ごしました。その後、県内の大学へ進学し就職を機に一度東京へ出る事に。それでも遅かれ早かれ糸魚川に戻る事を考えながら就職をした」と地元への思いを忘れることなく仕事に励みました。

「東京では新卒でEC(電子商取引)運用の会社に就職をしました。ECの商品は基本的に無形で形があるものではありません。仕事をしていくうちに、形のある商品を扱いたいと思うようになりました」

転職を考え始め「どのような形で地元へ戻るか考えた」という加藤さん。その時に見つけたのが糸魚川市地域おこし協力隊の新規就農に関する募集でした。

『野菜いいじゃん』と直感で思いましたね。元々、農業に関心があったわけではないんです。ただ、形のある物を売りたいと思っていた自分にとってピッタリな募集だと思いました。

糸魚川には『越の丸茄子』という品種があるんですが、割と農産物の中でも生計を立てやすくブランド力もあるので売り先がしっかりとあります栽培方法も確立されていて、地域おこし協力隊の3年間で1人前になれるように指導する募集内容でした」

実家が農家でもなく、元々農業に興味があったわけでもない、まさに正真正銘0からのスタート。それでも、一度惹かれた直感を信じ地域おこし協力隊へ応募。後日正式に採用が決まり、農家としての第一歩を故郷で歩み始めました。

地域一体で独立に向けてサポート。学びと実践の先に得たもの

加藤さんが暮らし始めたのは、糸魚川市内でも山奥に位置する高倉地区です。高倉地区には現在、約50人が暮らしており「越の丸茄子」発祥の地でもあります。約40年ほど前に誕生した品種で、艶と甘みが特徴的です。

艶と甘みが特徴的な越の丸茄子。

「高倉には一度も行ったことがなかった」という加藤さん。初めて訪れた際は「秘境でロマンを感じ、仙人的な生活が出来そうでワクワクした」と語ります。この一言からも分かるように、加藤さんは常に目の前に広がる景色や出来事を楽しんでいるのが伝わってきます。

小さな集落において、20代が農家を目指して移住してくるのは一大ニュース。元々住んでいる地域の方々の反応はどうだったのでしょうか。

「高倉のみなさんは初めからとても歓迎ムードでした。全部で20軒もない集落なので、1時間くらいですべての家に挨拶回りが出来ました」

沢山の人生の先輩に囲まれながら、ついに農家としての人生がスタート。地域おこし協力隊の任期である3年という限られた時間の中で、1年目から師匠のもとでナス農家になるためのノウハウを学んでいきました。

協力隊1年目は、ひたすら師匠にくっついて学んでいました。教えてもらいながら、実践の繰り返しが多かったです。師匠は放任主義な所もあるので、次第に『やってみて』と言われるようになり、作業を任せてもらえる事も増えていきました」

2年目になると、ハウス1棟の栽培を任せてもらえることに1年目に学んだ事を活かして挑戦した初めての丸茄子は「60点だった」と振り返る加藤さん。先輩方の凄さを実感したと言います。

「ベテラン農家さんは病害虫にいち早く気づきます。ダニやカビなど、パッと見て分からない所の対応が遅くなってしまいました。その差がとても大きかったです。今では、毎日気を付けながら見落とさないようにしています。

3年目に入ってからは、師匠のハウスを1棟と引退した方のハウスを譲ってもらうことになり合計4棟を確保することができました」

初めての地域で、初めての仕事、初めての暮らし。何もかもが新しい挑戦の中で、ここまで順調に来れた1つの理由が師匠や地域の方の存在です。

「今、丸茄子を教えてもらっている師匠の1人は元々市役所の職員さんでした。高倉地区に協力隊を取り入れようと、積極的に動いてくれたのも師匠です。師匠を中心に地元の人が、しっかりと『農家として独り立ちをさせようというマインド』を持っていたのはとてもありがたかったですね

どれだけ熱意があったとしても、活動する地域が受け入れに消極的では思うような活動が出来ません。加藤さんのお話からも、周りの人の支えが新規就農に向けて大切な要素なのだと分かります。

新規就農で、必ず立ちはだかるハードル

高倉地区では、主に丸茄子やお米の生産を手掛けていますが中心となる世代は60代です。

地区の中では、私が一番若い農家です。その次に若い方が54歳、50代も1人だけで60代が中心となって農業をしています

加藤さんから見れば全員が親、またはそれ以上の年齢で働き盛りである30代や40代は1人もいない事実が、日本の農業の今を物語っているようです。

では、なぜここまで農業に従事する方の高齢化が進んでいるのでしょうか。その要因を伺うと、新規就農をする上で立ちはだかるハードルが見えてきました。

「何も持っていない状態で就農するのは、とてもお金がかかります。また、お金だけではないハードルもあります。様々ありますが、中でも土地を手に入れるのが難しいです。地域で信頼をされないと土地を預けてもらえません。土地はどうしても、人対人の信頼がないと進まないんです。

私も協力隊として地域に住み、お手伝いをして、いっぱいお酒を飲んで農業資材や土地を譲ってもらえるようになりました」

お金で買うことのできない信頼関係。地域の方々が汗水流し、代々守ってきた土地。一朝一夕に手に入るものではないからこそ、一人前の農家になるまでには根気強さが求められます。

それでも、農家として独立を目指す加藤さんは、農業の魅力についても語ります。

やっぱり、食べ物を作る尊さ、ロマンが農業の良いところだなと感じています。農業は今後も絶対になくならない仕事です。あとは、食べ物を自分で生産できることは生物としても強いですね。何があっても生きていけます」

「こういうことは恥ずかしいから、あまり地元の人には言わない」と少し恥ずかしそうな加藤さん。内に秘めた熱い思いがあるからこそ、それが地域の人に伝わり信頼関係に変化していくのだと感じました。

農業は生活の一部。自分の性格に合わせた「農」との付き合い方

年間休日、福利厚生、安定した収入。

みなさんは何を基準に仕事を選んでいるでしょうか。もしかすると農業で独立する場合、このどれにも当てはまらないかもしれません。農家として3年目の加藤さんも農業はあまり仕事だと思わない方が良いと語ります。

「農業は自然相手なので、安定はしにくいです。土日休みというわけでもなく、残業代が出るわけでもありません。

農業に向いている人は、仕事と生活を切り分けないで出来る人だと思います。例えば家でゆっくりしている時も、雨が降ってきたら『茄子気にかけてやるか』となりますし、太陽が出てきたら『ハウス開けてあげるか』みたいに生活の一部に農業がある感じです。師匠には『もっと気にかけてやれ』と言われます」

あとは「シンプルに虫が苦手ではない人もとても大事ですね」と笑いながら付け加えてくれました。

ハウスの作業からコンバインの運転まで様々な作業をこなす。

農業といっても様々な種類がありますが、自分がどんな作物を育てたいのか分からない方は、どのように選べばよいのでしょうか。加藤さんに伺ってみると少し間をおいて、興味深い答えが返ってきました。

「それは性格によって分かれる気がしますね。黙々と職人チックな仕事をしたい人なのか、派手に機械に乗りたい人なのか。職人チックなら野菜や果樹、大きな機械に乗りたいなら田んぼになります。

でも、圧倒的にコメは初期投資がかかりますし、果樹もすぐに実がなるわけではありません。スモールスタートしたいのなら野菜が一番良いと思います」

ちなみに加藤さんはどちらもいけるタイプで、田んぼで大きな機械に乗る事もあればハウスの中で黙々と作業をすることもあるそうです。

農家になるにはまず、自分がどんな性格でどれくらいの規模でやっていきたいのか。始める前に一度確認しておくとミスマッチが起きにくいかもしれません。

カッコよく稼げる仕事に。これからの在りたい姿


最後に、加藤さんへ農家としてこれから目指していきたい姿について伺いました。

「やっぱり農家を憧れの職業、みんなが目指す職業にしたいと思っています。そのために、まずは儲ける事が大切です。『農家カッコいい』『食べ物を作るってカッコいい』と思ってもらえるように頑張ることが目標です」

新規就農を目指し、約3年。直感で飛び込んだ農業の世界で、独立に向けてステップアップをする加藤さん。日々、自分自身や地域との課題に目を向けながら、それでも楽しく、そして根気強く取り組んだからこそ今があるのだと思います。

私たちは生産活動に励む農家さんがいるからこそ、いつも新鮮なお米や野菜を口にすることができます。日本の各地で目にする美しい田園風景も、日々の手入れがあり代々その土地を守ってきた人たちがいるからです。

今、守られてきた土地や技術が担い手不足によって失われつつあります。まさにこの10年が正念場といえるかもしれません。

農業に少しでも興味があるのなら、自分が始められる範囲からでも良い。まずは、食べ物を作るという尊くロマンのある行動をしてみませんか。一歩踏み出した先に、アナタが描く理想の生き方が待っているはずです。

Editor's Note

編集後記

取材を通して、加藤さんの農業に対する誇りや愛を物凄く感じました。知識を習得するための積極的姿勢や農業に対する視座の高い考え方は、これから農家を目指す人にとって1つの参考になるのではないかと思います。新規就農までいかなくても、まずは若い世代に農業に興味をもってもらいたいです。

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