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LOCAL LETTER

「地域のためにやらねば」じゃなくていい。足元を描くことからはじめた、新たな地域活性のかたち

MAY. 05

AICHI

拝啓、やってみたいことのベクトルが、多方面に向いているアナタへ。 

「地域活性」がにぎわいを見せて久しい現代。生まれ育った地元や、今住んでいるまちに貢献したいけれども、行動すればするほど「やらねば」という重みに押しつぶされそう――。

これを読んでいるアナタも、そんな狭間で葛藤を抱いたこともあるのではないでしょうか。

「相手のため」であり、「自分のため」。一見相反する双方のベクトルを、両軸で実現している人がいます。

愛知県南知多町で活動している「砂浜絵師ジャッカル」さん(以下:ジャッカルさん)。広大な内海海岸をキャンバスとして、砂浜絵を創作しています。

南知多町は、名古屋から電車を乗り継いで1時間半でアクセスでき、手の届く距離に海を臨むのどかなまち。2020年、ジャッカルさんは、45歳で南知多への移住を決意します。

なぜ、南知多で絵師の活動を始めたのか。想いの源泉には何があるのか。そこには、ジャッカルさんが積み重ねてきた小さな一歩がたくさん詰まっていました。

砂浜絵師ジャッカル / 兵庫県生まれ。国立大学に入学するが、プロボクサーになるために中退し、19歳で上京。ボクシングジムに所属しプロボクサーとして活動。その後、体力的な限界から、名古屋で建設会社に勤務し、住宅リフォームの営業の傍ら、福祉ボランティアをしていたところ、南知多の福祉事業会社の理事長に誘われ南知多への移住を決意。現在は元々趣味で始めた砂浜絵を中心に、(株)松尾組の社員として南知多のために活動中。

砂浜絵のはじまりは清掃活動。熊手で描いた一本の線が、創作の原点になった

 ジャッカルさんが砂絵師としての活動を始めた原点は、海辺で行っている日々の清掃活動にあります。移住前から地域の人とごみ拾いをしていたジャッカルさん。移住後、家のすぐ近くに浜辺があるのを機に、南知多でも清掃活動を始めます。

砂浜で絵を描くようになったきっかけは、波打ち際の流木を除去していたときのことでした。 

「夏になると、海藻や古木が浜辺に流れてくるんです。砂が汚れる原因になるのでそれらを熊手で集めていくと、すーっと軌道に線が入るんです。そこで、近所の子ども達と一緒に、落書き感覚で絵を描いていました。これが、絵師としての活動の原体験です」

最初は遊びの延長線上にすぎなかった絵。けれども、道行く人が写真を撮ってくれたり、「わぁ!」と感動が声を寄せられるようになります。嬉しくなったジャッカルさんは、歓声に応えるように、絵をだんだんと大きくしていきました。

とはいえ、机上の紙に描くのと、広大な砂浜で制作するのでは感覚が異なるのだそう。

「砂浜に描くときは全体像が見えないぶん、まずは目の前のパーツをしっかり描いて、そこからどんどん横へ横へと広げていきます

顔が描けたら胴体へ、そして、腕へ。地道な工程を経て、ジャッカルさんの世界が詰まった壮大な絵が完成します。

絵で得た資金は寄付。「相手のため」でもあり「自分のためでもあった

現在は、趣味の一環として制作する傍ら、依頼を受けて描くことも多いジャッカルさん。記念日のサプライズや地域イベントなど、機会は多岐にわたります。 

依頼で描く絵は有償にしており、資金は寄付に活用。「コンビニエンスストアの募金箱にちょっと入れるような感覚」と謙虚に語ります。

利益を自分のために使うという選択もありながら、なぜ寄付することに決めたのか。そのベクトルは「相手」と「自分」の両方に向いていると言います。

かつて国立大学を中退して、プロボクサーの道へ進んだジャッカルさん。念願だったチャンピオンには叶わなかったものの、「やれることまでやりきった」と29歳で引退しました。

若いときの夢はすべて叶えたから、後の人生は、相手のために尽くしたい。そう語るジャッカルさんの表情には陰りがなく、実にさっぱりとしていました。

もうひとつ、「自分のため」のベクトルの先にあるのは、いい意味での自尊心。「人間誰しも、目の前の相手のために力になれたら、『いいことしたな』と自己肯定感が上がりますよね」とジャッカルさんは微笑みます。

「寄付をしたという事実は、相手のためになれる自分を創り出せる。だから、絵の資金を寄付しているのは他人のためでもあるし自分のためでもあるんです」

共鳴の輪を広げるために、まずは自分が、日々の活動を発信する。

ジャッカルさんのInstagramでは「今朝のゴミ拾い」と題した投稿が上がっています。日々の清掃活動をSNSにアップしているのも、ジャッカルさんにとっての意図があるのだとか。

「私が、Instagramのストーリーズで『今朝のごみ拾い』の投稿をすると、『私もしました!』と、フォロワーの方からコメントが来るんです」

もともとInstagramにアップしているのは、「ごみ拾いをしているぞ」という自身のアピールをしたいからでした。でも、今はそこから派生して、共鳴心を広げる場にもなっています。 

「例えば、友だちが『献血したよ』と話していたら、献血を自分事として考えるようになりますし、『私もしてみようかな』というきっかけにもつながりますよね。

たまたま今はSNSのある時代だけれども、私のもっと上の年代の方は、発信こそはしていないものの、地域のために活動をされている方々って結構いらっしゃるんです。

だから、まずは『ごみ拾いしたよ!』と私が発信する。そして、それを見た地域の人から「ありがとう」と感謝されたり、『私もしたよ!』と言ってもらえたり。さらには『ごみ拾いをするために南知多に行きます』とコメントくださる方もいるんです。

そうやってどんどん共鳴の輪が広がっていく。そのはじまりとして、SNSで日々のごみ拾いの投稿をしていますね」

根底にあるのは、地域への愛。砂浜絵師としての活動は、広大な砂浜のある南知多だからこそ

南知多に移住して早6年。南知多で絵を描き続ける理由をお聞きすると、いちばんは『地域のためになれば』という想いなんですと、穏やかな海を眺めながら答えます。

震災が起こるたびに現地に足を運び、災害ボランティアを経験したジャッカルさん。先方の地域のために行動を起こすことはできても、実際にアクションできることは限られています。

「全国にいろんな地域があって、そこで暮らす人たちが地域のために頑張っている。だったら、自分の足元であるここ(南知多)を元気にすることからはじめるのがいいんじゃないかなって思ったんです」と振り返ります。

ジャッカルさんに「もし南知多以外のところに住んでいたとして、同じように砂絵を描いていますか」と質問したところ、「もしかしたら、描いていないんじゃないかな」と意外な回答が。

「私は、兵庫県の相生出身で、瀬戸内海の近くで育ちました。でも、南知多の砂浜は、地元と比べものにならないくらい広大なんです。南知多の砂は、全国のほかの海岸と比べて白いし、粒子が細かいから描きやすい。砂浜絵師は南知多だからこそできた活動ですね」

最後に、読者の皆様へのメッセージを尋ねると、まずは今いるところからと謙虚に語ります。

「地域貢献というと『おっきなことしなきゃ』と思いがちですよね。でも、まずは自分が住んでいるところの足元を固める」ことから始まるんです。僕も実際そうでした。

全国いろんな人がいろんなところに住んでいますし、それぞれの地域に唯一無二の特長があります。だから、皆さんがそれぞれの地域で良さを起こしていくのがいいのかなと思います」

日々の清掃活動と、砂浜絵師として描くアート。一見重なっていないフィールドのように感じられますが、根幹には、地域を、そして相手を想うあたたかな精神がありました。

ジャッカルさんの壮大な砂浜絵は、まさに「今・ここ・自分」が濃縮された賜物です。

本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。

Editor's Note

編集後記

筆者自身も、いわゆる地方エリアの在住。何か大きいことをしないと地域のためにならないんじゃないかともどかしくなることがあります。ただ、ジャッカルさんのお話を聞いて印象に残ったのは、「まずは目の前のことを。そこからどんどん広げていく」という姿勢。たったひとつのアクションが雪だるま式に重なっていく、まさに模範例が垣間見れました。「まずは足元から」私も頑張っていきたいです。

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