前略、ふるさとがもっと好きになるメディアです。

LOCAL LETTER

地域が持続しなければ、クラブも持続しない。34歳の女性会計士がJリーグ理事へ就任、七転八倒の軌跡からみる「リーダー論」

JUL. 23

JAPAN

前略、組織で「リーダー」という役職に就き、奮闘しているアナタヘ

あなたが憧れる「リーダー」には、どんな共通点がありますか?

そもそも、リーダーの役割ってなんなのでしょうか?

きっとこんな質問をしたら、チームの先頭でメンバーを引っ張るのがリーダーだと答える人もいれば、チームの最後尾でメンバーを見守るのがリーダーだと思っている人もいるだろうし、メンバーと同じ目線で伴走するのがリーダーだと思っている人もいるかもしれません。

一言に「リーダー」といっても、その答えはバラバラなのが当たり前。

そんな千差万別なリーダーの中でも、今回は異業種の分野から公益社団法人日本プロサッカーリーグ(通称:Jリーグ)の理事に就任し、かつてJリーグ界には存在しなかった、新たな風を吹き込むリーダーとして脚光を浴びている米田惠美理事を取材。

取材の中から見えてきた米田理事の素顔から、大切にしている「リーダーとしての軸」を3つにまとめました。

米田惠美(Emi Yoneda)1984年、東京生まれ。公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)理事。公認会計士。高校時代から社会デザインに興味をもち、慶應義塾大学在学中に当時最年少で公認会計士の資格を取得。会計事務所勤務を経て、2013年に独立。組織改革や人材育成コンサル会社「知惠屋」の副社長、Jリーグの社外フェローなどを経て、18年3月より現職。社会連携本部を立ち上げ、組織改革に取り組んでいる。
米田惠美(Emi Yoneda)氏 1984年、東京生まれ。公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)理事。公認会計士。高校時代から社会デザインに興味をもち、慶應義塾大学在学中に当時最年少で公認会計士の資格を取得。会計事務所勤務を経て、2013年に独立。組織改革や人材育成コンサル会社「知惠屋」の副社長、Jリーグの社外フェローなどを経て、18年3月より現職。社会連携本部を立ち上げ、組織改革に取り組んでいる。

1, 「数字」と「現場」を見ながら『聴く』

ファーストキャリアは、公認会計士であるという米田氏。大学3年生の時に公認会計士の資格を取得後、すぐに学生と公認会計士という2足のわらじを履き始めた彼女は、今の自分の軸を大きく培ったのは公認会計士時代だったといいます。

「公認会計士の仕事は、物事の本質が何かを数字を通じてみることと、人の話を聴くことの両方が重なってはじめて成り立ちます。監査は、英語で “オーディット” と言われるんですが、これは “聴く” という意味の “オーディオ” が語源。人の話を聴く・数字と現場を見ることから物事の本質が何かを見極めて正しい軸に整えていく、それが監査の軸であり私自身の軸でもあります」(米田氏)

一般的な「監査」のイメージといえば、数字を見て細かい部分に口うるさく言う人だったりもするが、米田氏の考える監査の軸は、全く異なるところにある。

「私は、会計監査用語として使われる “アカウンタビリティ” という語源も大切にしていて、アカウンタビリティを “説明責任” と訳す人が多いんですが、実際の語源から考えると、“本来の役割を果たす” という使命感を表す意味なんです。私は本来の役割を果たす公認会計士という仕事に、誇りと責任を持っています」(米田氏)

今回米田氏が思い出の品として持ってきてくださったのは、監査法人を卒業する時に仲間が作ってくれたというアルバム。「みんなの想いがたくさん詰まっている大切なもの。今でも公認会計士への誇りは持ち続けていて、自分の軸を作ってくれた大切な場所です」(米田氏)
今回米田氏が思い出の品として持ってきてくださったのは、監査法人を卒業する時に仲間が作ってくれたというアルバム。「みんなの想いがたくさん詰まっている大切なもの。今でも公認会計士への誇りは持ち続けていて、自分の軸を作ってくれた大切な場所です」(米田氏)

公認会計士の仕事の中で、仕事をする軸を鍛えられたという米田氏だが、一体どのようにその軸を見つけ出し、培っていったのだろうか。

「自分自身が “この人すごいな” と思う先輩会計士は、一体何を見て仕事しているんだろうと観察をしたことがあったんです。観察していると、監査の判断をする際に、一般的な会計士は会計基準や監査基準を重視している一方で、先輩たちは、それぞれの基準も踏まえながら、起きている事象と自分の軸を照らし合わることを最も重要視していたんです。基準を大切にしながらも、自身が各所から見聞きした情報で、自分の軸をつくり、自分の軸とモノゴトを照らし合わせて判断する。裏を返すと、自分の軸がない人には監査はできない、ということです。ここで、自分なりの軸を持つことの大切さを気づかせてもらいました」(米田氏)

「監査基準」「会計基準」も大事。覚えないと仕事が出来ない。だけど、本質は字面には書かれていない。字面で習っている以上に、自分自身が「この人は本質だな」と思える人から学ぶことを大切にしていたといいます。

2, 誰がやってもできる状態までつくる

米田氏がJリーグに就任したのは、2018年3月。 サッカーとは直接関係のない公認会計士の出身で、なおかつ30代、女性、ということで大きな注目を集めた。

さらに就任直後から1,2ヶ月で米田氏は、組織の仕組みを根本的に改革。現状を把握しながら改革案をつくり、「今すぐこの仕組みでやってください」と計画と実行をほぼ同時進行で進めていたという。

 

「Jリーグの理事は任期が2年なので、その中でPDCAを回そうとすると、Plan(計画)とDo(実行)までは1年目にやって、2年目にCheck(評価)をしながら、Act(改善)を行っていく必要がありました。これまで手がつけられていなかった領域に着手したあげく、完了しませんでしたと中途半端なものを次の経営者に遺すわけにはいきません。もともとチェアマンからも漢方療法より外科的スピードを依頼されて理事になっていますから、現場感からすれば無理をも承知で仕組みを急いで導入していきました。そういった意味では、1年目が一番辛かったですね」(米田氏)

任期が約1年半終了した現在も、やらなきゃいけないことはたくさんある。だが、今はメンバーたちとも課題や、やるべきことが共有出来つつある状態だと言う。

米田氏は2年間の任期が終了する時、一体どんな未来を描いているのだろうか。

「まずは経営の地図が関係者全員に渡っていること。経営課題は重要な論点がいくつもありますが、自分の領域では、25周年を機に立ち上げたJリーグの社会連携活動(通称:シャレン!)を誰でも活用できる状態にまで持っていくこと、新しい時代に合った人事戦略を描き切ることが重要だと思っています。私の伝える力のなさもあって、社内でもこれを経営戦略だと実感できているのは、おそらくまだ少数です。ですが、”私の任期終了とともにシャレン!はなくなります、では困ってしまいます” 。リーダーの1番大事な仕事は、サクセッション・プラン*1 だと思っていますから、後進の人材が成長し続けられる仕組みまで構築して終わりたいです。」(米田氏)

米田氏は、今までJクラブが中心となって行っていたホームタウン活動*2 を、地域の人たちと一緒に取り組む「共創モデル」へと移行するために「Jリーグをつかおう!」という新たなスローガンを打ち出した。自分がいなくなった後も、持続可能な成長を遂げる組織にするまでが責任ある仕事の仕方と考える米田氏だからこそ、人材育成とシャレン!の仕組み化に奮闘しているのだろう。 

3, とにかく信じる、愛する、ハレーションを恐れない

経営改革を自分のミッションだと認識し、Jリーグが良くなるためと信じて突き進んでいる米田氏。「人口減少」や「地域消滅」が叫ばれている中で、地域の持続可能性がなければ、サッカークラブの持続可能性もないと断言し、社会連携の重要性を訴えています。

「サッカーは余暇産業なので、ほとんどの人にとって、生活必需品ではありません。人々の生活の中に、余暇を楽しむ余裕がなければ、サッカーを楽しむ人は減り、クラブ自体が運営できなくなっていきます。だからこそ、Jリーグも地域の持続可能性に関与することが重要だと考えていました。サッカー水準の向上はサッカー団体である以上命題であり、エンタメ性をあげることはサッカー興行を扱う組織として当然大事です。でも、私たちは、人口の1~2%程度しかスタジアムに足を運んでいただけない現実から目を背けてはいけない。どれだけの人に、“自分の生活とクラブが関係ある”と思っていただけるか。そのためには、人々の関心の中にクラブが入っていく必要があります。シャレン!は社会貢献の意味合いだけではなく、経営戦略の1つだと思っています。」(米田氏)

「正直、Jリーグ内だけではなく、クラブとの目線合わせにも時間がかかりました。Jリーグは、Jリーグ百年構想*3 という中長期的な目標を掲げている一方で、クラブは目の前に勝敗という現実があり、息つく暇もなく試合がやってきます。試合に勝つかどうか、試合が運営できるのか、お客さんがくるか、そのために必死に組織を運営しています。そういった組織に、中長期を見据えたビジョンや戦略、計画をつくろう、そのための取り組みを行おうと言っているわけですから、突然どうしちゃったんだと思った方がいても不思議ではありません」(米田氏)

新たな中長期の目標を打ち出すと同時に、予算や目標設定のやり方など、組織の仕組み自体も、今までのJリーグにはないやり方を取り入れ、ドラスティックに変えていった米田氏。

「私の場合の改革は、組織と人の成長のために仕組を入れるので、過去の仕組みや現在の事象を変えようとすることはあっても、誰かを排除することはありません。ですが、新しい仕組みを取り入れれば、排除されるのではという不安心理や、自分の存在が否定された・面倒な仕事が増えたと感じた人もいます。私は、心理学も学んできてますし、沢山の組織改革を見てきましたから、改革の途上で何が起きるかは事前に想定していました」(米田氏)

「人間ですから、数多くの変化がハイスピードで起これば、受け止めきれなかったり、不安になったりすることもあります。私自身ももっとうまいコミュニケーションの取り方があっただろうと反省もしていますが、”ここまで出来るはず” と信じているからこそ、高い要望を出しています。人も組織も絶対に成長できるし、そのポテンシャルがここにはあると信じています。ぶつかるのって労力がかかるし、課題だって見えないフリをして何も言わない方がラクなんですよ。見えてるかどうかは言わなければバレませんからね。それをあえて言うんだから。愛がなくてはぶつかることはできません」(米田氏)

「サイボーグと思われていることもありますが、私も皆と同じ、人間ですからね。陰に日向に批判を受けて心が痛むこともありました。でも、自分の痛みよりも、目の前の相手や組織にとって本当に大事なことから逃げないことの方が大事だと思うんです。誰かが嫌な役割を負わなきゃいけないなら、進んでやります。自己の信念と良心に基づくこと、これも会計士時代に習った職業的倫理観からきています」(米田氏)

米田氏が変革を行い始めて約1年半がたった今、だんだんと新しい仕組みにも慣れはじめ、今までバラバラだった仕事も繋がりや連携が出てきている。メンバー内でもJリーグの未来像を語る機会が増え、議論やプレゼンの中身も確実にブラッシュアップし、人の成長も感じられているんだそう。

米田リーダーはどこにいても、誰が相手でも、常に「本気」だ。

もしかすると彼女は、豪速球のストレートしか投げられない、ある意味不器用な選手かもしれない。しかし、常に相手や仲間、自分の目指す未来を信じ、時には愛を持って本気で相手とぶつかるからこそ、いつの間にか仲間からの信頼が厚いリーダーとして、チームを率いているのだろう。

*1 サクセッション・プラン
重要なポジションの後継者を見極め、育成すること

*2 ホームタウン活動
地域に愛されるクラブとなるために、Jクラブがホームタウンの地域の人々と心を通わせるために行っているさまざまな活動のこと。例)選手の学校への訪問、防災や環境活動など 

*3 Jリーグ百年構想
Jリーグが「スポーツで、もっと、幸せな国へ。」と題し提唱および推進する、地域におけるサッカーを核としたスポーツ文化の確立を目指す計画のこと

Editor's Note

編集後記

2018年5月に25周年の節目を迎えたJリーグ。当日は、米田さんを筆頭に打ち出した新たなビジョン「Jリーグをつかおう!」のもと、約300人の参加者が54のテーブルに分かれて議論を交わすワークショップが開催された。

Jリーグのクラブ関係者や選手をはじめ、地域のNPOや医療従事者、学生や主婦など外部の人も多く参加し、「Jリーグを使って何ができるのか」を話し合った結果、57個のホームタウン活用アイディアが生まれたという。

それだけでも大きなインパクトのある話だが、さらに、ワークショップで出たアイディアのうち、すでに「ウォーキングサッカー」(横浜F・マリノス)や、スタジアムでの「同窓会」(ヴァンフォーレ甲府)などが実現しているというから驚く。

しかし取材中、米田さんは「まだまだやりたいことがある」と、なんともイキイキした表情で楽しそうに話してくださった。

今後のJリーグ、米田さんの活躍にますます目が離せません。

これからもJリーグの応援をよろしくお願いします!

これからもJリーグの応援をよろしくお願いします!

これからもJリーグの応援をよろしくお願いします!

LOCAL LETTER Selection

LOCAL LETTER Selection

ローカルレターがセレクトした記事