KAMISHIHORO, HOKKAIDO
北海道上士幌町
どこまでも広がる雄大な大地。どこまでも続く青い空と、土が香る畑。
「これぞ北海道!」といわんばかりのイメージがそのまま目の前に広がるのは、十勝平野の北部にある北海道上士幌町。今回は、そんな中でも1,000haを超える特段広大な敷地を所有し、2,600頭を越える牛の搾乳を行い、1日8万リットルもの牛乳を生産する全国でも有数のギガファーム「農業生産法人 有限会社ドリームヒル」を取材。
牛を育てるだけでなく、敷地内にはバイオマス発電所、ビニールハウス、アイス工房があり、少し離れた市街地では、スイーツショップやカフェレストランまで経営しているドリームヒルが目指す、「酪農が持つ可能性」や「酪農の未来」をお伺いしました。
ドリームヒルが誕生したのは2003年、そのきっかけは前年に起こった記録的な豪雪だったという。
周辺の酪農家の牛舎や堆肥舎は、ほとんどが倒壊してしまう中、「家業を途絶えさせるわけにはいかない」と、ドリームヒル代表の小椋 幸男氏を筆頭に、酪農家の経営統合を周辺の個人酪農家4軒と共に行なったのだ。
牛は各農家がそれぞれ飼っていた約100頭を集めて、約400頭からスタート。それが今では9倍の3,600頭以上にまで増え、年間出荷乳量は3,900トンからわずか1年で7,500トンを超え、2年目には北海道ナンバーワンの座を獲得したというから驚く。
さらに4年目には1万トン、12年目に入った2015年には作乳量が年間2万トンを突破。これは国内法人牧場でも5本の指に入る乳量だという。
さらに法人化によって、施設を一箇所に集中させ、施設設備のコストダウンを実現。他にも、大型ロータリーパーラー導入、牛舎とパーラーを最短でつなぐ通路の整備や、治療用牛舎の設置、24時間シフトの勤務体制など、酪農経営の先進化と効率化に総合的に取り組んだドリームヒル。
小椋氏の地元に恩返ししたいという想いから、周辺の離農跡地・遊休農地などの再利用や地元の若者を雇用するなど、上士幌町にも大きく貢献している。
2017年9月上士幌町は、持続可能な開発目標であるSDGsの中でも「7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに」を体現するべく、上士幌町役場を中心に町内4者と北海道ガスが上士幌町におけるバイオマスを核とした資源循環・エネルギー地産地消のまちづくりに向けた連携協定を締結。ドリームヒルはこの町内4者のうち1者として名乗りを上げた。
今回そんなドリームヒルの新たな挑戦について教えてくれたのは、ドリームヒルで環境・食品部 バイオ・ハウス課 課長を務める宗像 勇輔氏。
現在ドリームヒルでは、牛の糞尿を発酵させ、自社単独のバイオガス発電設備で電気を生み出す、環境にもやさしい循環型農業を実施。
「牛1頭は、1日40 ㎏の牛乳を出しますが、糞尿はその倍である80 ㎏出すんです。糞尿だけで1日160tを超えていて、発電設備で処理できるのは100tほどで、処理しきれていないのが現状ですし、これからさらに牛を増やしていく予定なので、そうするとまだまだ発電できるものはたくさんあるんですよ」(宗像氏)
ドリームヒルで発電された電気は協定を結んでいる北海道電力へ売っているが、2019年からは発電の際に出る余剰ガスを利用し、ビニールハウスでブドウやイチゴの栽培も開始している。
「発電で使い切れなかった余剰ガスを使ってボイラーを燃やしお湯を沸かして、ビニールハウス内に温風を回しています。ブドウは3度くらいあれば冬を越せますが、イチゴは最低でも温度が13〜14度はないと育てることができません。冬の気温がマイナス20度にもなる上士幌町で、これらの果物が栽培できるのは、燃料が自社で確保できるからこそだと思っています」(宗像氏)
発電で使い切れなかった余剰ガスを使って育てられた果物は、ドリームヒルが町内で運営する、ジェラート/洋菓子店「ドリームドルチェ」や、自社の黒毛和牛の料理も提供するカフェレストラン「ドリームラッテ」でお客様に提供されており、ドリームヒルのAgriTech(アグリテック)はまさに “エネルギーの地産地消” と “資源循環型農業の実現” が行われてる場所なのだ。
酪農家の域を超えた農業を行なっているドリームヒルに「最初に来る方は皆さん驚かれます。僕も最初は驚きました」と慣れた手つきで楽しそうに案内してくれる宗像氏の姿が印象的だった。
最後にそんな宗像氏へ、そもそもドリームヒルがバイオガス発電を始めたきっかけをお聞きした。
「これはあくまでも一因ですが、代表の小椋さんが、糞尿を普通にまくことを嫌っていたんです。環境はもちろん、臭いもあるので、周りの人たちのことを考えた上で、バイオガス発電を始めました。そもそも1,000頭は飼っていないとこの規模の事業はできませんが、家族経営の酪農家は500頭飼っていたら多い方です。ドリームヒルがこれまで築き上げてきたものと、地域への想いが重なってはじめて実現できたことだと思っています」(宗像氏)
会社の利益追求だけに偏らず、自然と人にやさしい近代酪農を一つひとつ具現化し、地域に愛され続けるドリームヒル。ここには、現状に満足せずに、常に理想を掲げ突き進む代表の想いと、その想いに共感し、その想いを代表と同じように大切にしながら具現化していく社員たちの力強さがあった。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々