KIGURUMI
着ぐるみ
「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 – 人生に刺激を与える対談 – 』。
第11回目のゲストは、宮崎県新富町で「女性の働きやすい職場環境」を目指す「KIGURUMI.BIZ株式会社」で代表取締役を務める加納ひろみさんです。
加納さんは会社経営のほか、宮崎県の女性を応援する活動も積極的にサポート。各企業や団体の職場環境の改善を進めるべく、一人ひとりの声を拾い、女性が活躍できる環境作りに邁進しています。
そんな加納さんが語られたのは、子育て中の女性が働く難しさや、アナログならではの「着ぐるみ」の魅力について。
自分自身の人生を精一杯生き続けているアナタに注ぐ、一匙の刺激をお届けします。
平林:共通の知人である有賀沙樹さんから加納さんをご紹介いただき、ずっとお話したいと思っていました。こうして念願が叶い、大変嬉しいです。
加納:ありがとうございます。改めまして、加納ひろみと申します。宮崎県出身です。宮崎県新富町で「KIGURUMI.BIZ株式会社」の代表取締役を務めています。名前の通り、「着ぐるみ」製作を行う会社です。
熊本の「くまモン」など、各自治体が発案した「ご当地キャラ」と呼ばれるもののほか、テーマパークの着ぐるみも製作しています。最近は、企業プロモーション用の着ぐるみや、タレントやアーティストがコンサートで使う着ぐるみについてのご相談も増えてきていますね。
社内で働いているメンバーは、99%が女性です。そのため、20年以上前から「女性が働きやすい職場」を目指し、職場環境の改善に取り組んでいます。「みやざき女性の活躍推進会議」の共同代表も務めさせていただいており、宮崎の女性を応援する取り組みをサポートしています。
平林:社内だけではなく、幅広いところで活動されているのですね。
加納:九州という土地柄もあり、まだまだ女性の社長さんや管理職の方が少ないんです。だから、私に話が回ってくることが多くて。
外側からはキラキラして活躍しているように見えるみたいなんですけど、実際は全然違います。これはおそらく、「キラキラしている」ように見られている女性みんなが感じているギャップだと思います。
平林:裏側の努力がすごいんでしょうね。
加納:私の場合、自分の性格が「弱虫・泣き虫・怖がり」なので、自信満々な感じとは真反対なんです。
平林:でも加納さんは、めちゃくちゃ挑戦しまくっている印象があります。だって、会社を立ち上げること自体が大きな挑戦じゃないですか。
加納:周りの人にお尻を叩かれながら、やっと、という感じなので、全然そんなことないんですよ。
平林:でも、そうやって周りが声をかけてくるというのは、加納さんのお人柄があればこそですよね。
平林:起業のきっかけはなんだったのでしょうか。
加納:造形美術の会社を営む夫の会社で社員として働いている中で、現在の着ぐるみの仕事に移行していったのがきっかけです。
平林:今でこそキャラクタービジネスという形で注目されていますが、立ち上げから軌道に乗せるまでは大変だったんじゃないですか。
加納:それが、インターネットの力で思ったよりも早く反響があったんです。会社の立ち上げ当時は、Googleがあるかないかの頃で、検索といえば「Yahoo!」一択だった頃。検索エンジンが自動で検索してくれる時代ではなかったので、検索してほしいワードを全て手作業で登録していました。
そもそも当時は、「着ぐるみ」という言葉が浸透していなくて。おもちゃでもない、サービス業でもない、縫製業でも製造業でもない。だから、カテゴリーは「その他」。絶対誰も検索なんかしないだろうと思っていたんですけど、しばらくしたら検索数が一気に伸びて、会社の電話が鳴りっぱなしの状態になりました。
平林:それはどのようなお問合せだったんですか。
加納:「着ぐるみ屋さんですか」って。(笑)
平林:じゃあ、その頃から着ぐるみのニーズがあったんですね。
加納:自社のホームページを持っていたことが大きかったんだと思います。起業当時、宮崎でホームページを持っている会社はまだまだ少なくて、10社もないくらいでした。なので、宮崎の着ぐるみ業界の中で、国内でも一番最初にホームページを制作したのが、おそらくうちの会社だったんです。Yahoo!に登録したこともあり、ネットの拡散スピードのおかげで一気に認知が広まりました。
宮崎で起業する前、Apple社(アップルジャパン株式会社、以下Apple社)で働いていた経験があって。前職でコンピューターやインターネットの知識を学べていたのは、強みでしたね。
平林:大手企業であるApple社を辞められたのは、何か理由があったんでしょうか。
加納:そうですね、まずはApple社に入社した経緯からお話しますね。私は東京で結婚して、一度離婚しているんです。専業主婦だったので、離婚後、どうやって子どもたちを食べさせていけばいいのか悩んで、必死に就職活動をしました。その中で、Apple社にご縁があったんです。
平林:その状況でApple社に入社できるのはすごい!
加納:英語が得意だったので、派遣会社経由で働いている中で正社員のお話をいただいて、入社試験に受かりました。でもApple社が移転することになり、それまで住んでいた場所から通えなくなってしまって。引越しをして仕事を続けるつもりだったのですが、シングルマザーであることが原因で、さまざまな壁にぶつかりました。
まず、シングルマザーはアパートを借りることさえ難しかったんです。紹介してもらえたとしても、間取りが極端に狭いとか、何かしら難ありの物件しかなくて。「どうしてですか」と不動産屋さんに尋ねたら、「あなた母子家庭でしょ。家賃払っていけるの?」と言われて。Apple社から就労証明書を出してもらい、ようやく物件を見つけたのですが、今度は保育所が見つからなくて。
平林:その頃から待機児童問題があったのですね。
加納:当時から、保育所は空きがありませんでした。学校は入れましたけど、学童保育にも空きがなくて。今のApple社にはリモートワークがありますけど、あの頃はそもそもWi-Fi(無線LAN)がない時代でした。
Apple社は大好きな会社だったので、ギリギリまで悩みましたが、仕方なく辞めて新しい仕事を探しました。その中で、福島県の町おこし人材の募集を見つけて。家賃無料で、保育所も学校も近い。仕事、保育所、学校、家、全部揃っている。「行くしかないでしょ」と思いました。
平林:ご出身の宮崎と比べると、福島は豪雪地帯ですよね。
加納:本当に。冬は窓を開けると目の前が真っ白で。朝は30分ほど雪かきをしないと家から出られないんです。でもとてもきれいな景色で、人柄も皆さん温かくて、まあまあ食べていけてたんですけど、その頃に精神的に病んでしまう出来事があって。ストレスで蕁麻疹が出てしまう状態になったので、地元の宮崎に帰ることに決めました。
平林:宮崎に帰る前には、すでにやることが決まっていたんですか。
加納:宮崎の仕事を探している時に、たまたまホームページを通して営業にきた今の夫と出会って。色々話しているうちに、同じ宮崎出身であることがわかり、しかも同じ小学校で、同じブロック内に住んでいることがわかって、親しくなりました。そのご縁で、「僕の会社で働きませんか」と誘ってもらい、すぐに宮崎に帰りました。
平林:僕もヤフー株式会社で働いていた時期があって、当時はテクノロジーだ!インターネットだ!と盛り上がる時代のど真ん中でした。でも「テクノロジーは発展していくけど、それを扱う人たちの生活や働き方はどうなっていくんだろう」と疑問が湧いて、会社を辞めました。
テクノロジーが発展すれば豊かになると思っていたけど、どうやらそうでもなさそうだな、と。たしかに機能的には豊かなんですけど、ちょっと違うなと思った時に、一度立ち止まって考えてみたくて。海外の文化に触れて過ごそうと思い、退職後、カナダに1年間滞在しました。
加納:素晴らしい。そういう時間って大事ですよね。
加納:テクノロジーの開発は今も進んでいますけど、コロナ禍で私たちが学んだのは、リアルでの触れ合いやアナログの魅力だと感じていて。キャラクターの中でも、「着ぐるみ」ってアナログじゃないですか。デジタル化されたキャラクターも、それはそれですごく大事。でも、それだけだとフラストレーションが溜まっていく部分があると思うんです。
コロナ禍では、ご当地キャラに会いに行けなかった。会いたいのに会えない。行きたいところに行けない。そういう制限がかかると、人の想いは増幅します。着ぐるみにも同じ現象が起きていて、SNSでも「キャラクターに会いたい」という声が聞かれるようになりました。
コロナ禍が明けて、いざ解禁になった時、すごいエネルギーで人が動くのを見て、アナログだからこその大切さを感じました。Zoomでも姿は見えるけど、やっぱり匂いや感触は会わないと満たされないので。
平林:僕はこれまで、「ゆるキャラ」がリアルの場でどんな反応をされているか見たことがなかったんです。でもちょうどその現場に出くわした時、芸能人みたいな人気で驚きました。それも熱狂的に押し潰される感じではなく、それぞれの楽しみ方・距離感で笑顔が生まれていて。あのシーンは忘れられないですね。
加納:どのキャラクターも、そういう温かなシーンを作ることができるんですよ。それと着ぐるみは「しゃべらない」ことも実は大事で。喋らないから声を想像することができるんです。余白、テキストで言えば行間ですね。ある人にとっては水色の声かもしれない、他の人にとってはオレンジ色の声かもしれない。自分の好きな色を想像できる余白があることが、着ぐるみの魅力でもあります。
平林:「喋らない」って大事だったんですね。
女性が働きやすい職場を目指して奮闘されている加納さんの後編記事は、生きる上で大切な「好奇心」や、職場環境の改善に踏み切ったきっかけについて迫ります。
Editor's Note
加納さんのお話を伺いながら、女性が子育てをしながら働く難しさをしみじみと感じました。また、そんな逆境においても興味のある分野に果敢に挑んでいく姿勢に、勇気をいただきました。「KIGURUMI.BIZ株式会社」がつくり出している文化や交流は、温かな空気を生む素敵なものであると思います。コロナ禍を通して、リアルの触れ合いやアナログの価値が再認識されている昨今だからこそ、加納さんの言葉が深く心に沁みました。
MINORI YACHIYO
八千代 みのり